散歩路地《サンポロジー》      毎日が発見! 身近な自然が見えてくる!


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その14 恋人たちの昼下がり

2013-07-09 | フィールドノート(多摩丘陵)
東京は梅雨が明け、猛暑日が二日続いた。その翌日。7月9日。無謀にも、多摩丘陵へと向かった。
そして、今日もやはり・・・。猛暑日となった。

猛暑の多摩丘陵は静かだった。
時々ガビチョウがうるさく鳴く程度。あまり音は聞こえない。陽炎の上がる、谷戸の景色の中に、動く物の姿も少ない。
元気でいるのは、オオシオカラトンボと、ヒメウラナミジャノメくらい。あとは、ひっそりと、姿を隠しているようだ。
谷戸の奥のクリ畑では、ニイニイゼミの抜け殻が沢山見つかった。ついでに羽化したばかりの成虫も1頭。クリの幹に、ジャコウアゲハのメスが止まっていた。後翅にしわが多く、羽化したてで、翅が伸び切っていないものと思われる。

暑さのせいか、脚が重く感じた。いつもよりゆっくりと坂道を上り、尾根道脇に見付けてあるクヌギの樹液を目指した。なんといっても、今日の一番の目当ては、樹液を吸う国蝶オオムラサキだ。その姿を思い浮かべ、何とか尾根道に出た。
最初に目に入ったのは道脇のヤマユリ。白く大きな花がが咲き誇っていた。その中で、先端に2輪の花を付けた、見事なシンメトリーな株が目を引いた。僕は、そのヤマユリに引き寄せられ、いつの間にかシャッターを切っていた。――この花何かある!


ヤマユリ 見事なシンメトリーだ 2013-07-09 多摩丘陵

残念ながら、樹液には、ほとんど虫が来ていなかった。オオムラサキどころか、カナブンもいない。見られたのは、シロシタバというガくらい。残念。しかし、これは、僕が到着する前に、誰か下来て、追い払っていったのではないかと考え、他の樹液を探しまわった。
結果は…。もう続きを書きたくない。

諦めて、谷戸へ下った。いつもの涼しい木陰で、早めの昼食を取る。
口には出さないが、「さすがにこの暑さでは、虫たちも動きたくないのだろう…。」と思った。この段階で、オオムラサキはほとんど明らめていた。

それでも、食後は、何か面白いやつはいないかと、いくつかの谷戸を歩き回った。しかし、めぼしいものは見つからない。あまり多くはないが、水の張られた田んぼは涼しそうには見えるのだが、とにかく炎天下、暑いことこの上ない。
涼しそうな田んぼの水に指先を付けた。が、すぐに手を引いた。心の準備ができない僕の脳に、指先が「熱い」と言ったのだ。意に反した感覚に、僕の脳は混乱した。


田んぼの水は、風呂並みだった。 2013-07-09 多摩丘陵

気を取り直して、再び手を入れる。
やはり熱い。これはどう控えめに言っても、「熱い風呂」だ。間違えなく40度は越えている。
すぐ脇の素掘りの水路に手を入れる。こちらは流水だし、そんなに熱いはずはない。・・・と思った。
温い風呂だった。僕の感覚では、38度くらい! こんな中で、オタマジャクシや、トンボのヤゴは生きていけるのだろうか…。
携帯電話に温度計が付いていることを思い出した。気温を見てみる。なんと38.5度を示した。日向であるとはいえ、何という温度だ。

さしたる成果もないまま、谷戸の奥の大エノキの木陰で休息した。先週アナグマと遭遇した場所だ。もちろん今日は出てこなかった。――そんな甘いものじゃない。
温度計を、そのまま放置しておく、数値は下がってゆくが、33.4度下降は止まった。涼しいと感じる木陰でも、この温度だ。

ほとんど、諦めて、いつもより早目に帰るることにした。途中に、樹液があるのだが、もう期待はしていない。
この暑さだから、仕方がない。自分に言い聞かせ、尾根道へと向かった。体はさらに重くなっていた。

尾根道を帰り始めると、それは突然飛び込んできた。
道脇のコナラの幹に、蝶ネクタイのように浮かび上がるものがあるのだ。一瞬の空白があった。そして、その直後、僕はカメラの電源スイッチを入れた。目の前の蝶ネクタイはオオムラサキなのだ。国蝶のオオムラサキなのである!
しかも、雄雌が頭を突き合わせ、何か語り合っているような姿だ。


昼下がりの恋人たち(オオムラサキの求愛行動) 2013-07-09 多摩丘陵

3日続きの猛暑は、最後にとんでもないプレゼントを用意してくれていた。これまでの疲れは一気に消え去った。
帰りがけにある最後の樹液にも、さしたる成果はなかった。しかし、落胆はない。「熱いし、仕方ないね」と余裕で見送れた。恋人たちの昼下がりを見守っれたのだから…。