さっさとでよう。
そう思った瞬間、全身和柄のおじさんが話しかけてきた。
「風呂ん中でさわぐんじゃない。」ちょっとドスのきいた声。
「あ、すいません」宮田が先に謝った。
「まあ、元気で結構。ところでどこからきたんや?こっちの言葉じゃないな」怒るどころか話好きの方のようだ。
よかったー。
人は見かけによらないものだ。
「広島から・・・」と今朝から明後日までの話を安心した僕が調子にのってはなしたのがいけなかった。
話が終わる頃にはすでに相当くるしかった。
普段の僕ならすでに限界にきている。
なんとか早く話しをきってここを出なければ。
「ほほう。そりゃすごいな。で、どこの大学を目指してるんだ?」
「◎◎大学です」宮田も苦しくなったのか単発の答えを返す。
「そうか、そうか。がんばりな。がはは。」
今がチャンスだ。
宮本と目で合図をする。
「はい、がんばります。じゃあ、そろそろ、私たちは出ますので・・・」
私が話しを切り、その場を去ろうとしたとき、
「なにぃ?おい、ちょっとまて。」
最初のドスのきいた声に戻った。
驚いて振り返ると、おじさんは最初の見たまんまのお兄さんになっていた。
「いや、あのーここ熱くて・・・」
「サウナが苦手でして・・・」
なんとかその場を取り繕うとするタオルで股間を隠した倒れる寸前の私たち。
「自分らの話ばっかりして、わしの話を聞かずに行こうっていうのか?おぅ?」
仏教的な偶像が背中で笑うおじさんは、聞きたがりではなく、話したがりのおじさんだったのだ。
「いいや、けっしてそんなことは・・・」
「ああ、失礼しました」
我々は何とか耐えることにした。
このまま出て、殴り倒されても、ここで倒れても同じだから。
「まあ、ゆっくりしていけ。」
そういって、優に30分以上は自分の息子の自慢話を聞かされた。
愛想笑いとサウナの苦しさは、私にここは本当の地獄なんではないかとさえ思わせた。
大垣の駅の夜風は涼しかったが、お互い何も話す元気がなかった。
生きててよかったなあ。
夜行に乗り込み、深夜一日目のキップが社内改札で回収された。
「ミュージシャン志望なんですか?」
車掌が我々に話しかけてきた。
そう、夜行で上京するギターとベースを持った若者。普通はそう思うだろう。
「いや、そうじゃないです」
だって我々はバンドを組んでまだ一ヶ月。
初心者もいいところ。
「東京にいって一旗上げるぜ!」といって夜行に飛び乗ったわけではない。
実は計画ではこの夜行列車の中で単独ライブ(ほんとは練習)を決行するはずだったのだ。
どうせ乗客もいないだろうし、網棚の上とかのぼってシャウトしてやろうぜぐらいの勢いだった。
予想外にほぼ満席の電車。
予定外の長風呂。
疲れ果てた足を延ばすことも横になることもなく、4人がけの硬い椅子に座る。
それぞれギターとベースを股に挟んだ状態で。
うつらうつらしていた時、列車は駅に止まった
東京駅4時半。
ホームには夜行列車から降りた人しかいない。
まだ明けきらぬ空にはカラスが何羽も飛んでいた。
意外と静かだな。
それが私のファーストインプレッション。
続く。
そう思った瞬間、全身和柄のおじさんが話しかけてきた。
「風呂ん中でさわぐんじゃない。」ちょっとドスのきいた声。
「あ、すいません」宮田が先に謝った。
「まあ、元気で結構。ところでどこからきたんや?こっちの言葉じゃないな」怒るどころか話好きの方のようだ。
よかったー。
人は見かけによらないものだ。
「広島から・・・」と今朝から明後日までの話を安心した僕が調子にのってはなしたのがいけなかった。
話が終わる頃にはすでに相当くるしかった。
普段の僕ならすでに限界にきている。
なんとか早く話しをきってここを出なければ。
「ほほう。そりゃすごいな。で、どこの大学を目指してるんだ?」
「◎◎大学です」宮田も苦しくなったのか単発の答えを返す。
「そうか、そうか。がんばりな。がはは。」
今がチャンスだ。
宮本と目で合図をする。
「はい、がんばります。じゃあ、そろそろ、私たちは出ますので・・・」
私が話しを切り、その場を去ろうとしたとき、
「なにぃ?おい、ちょっとまて。」
最初のドスのきいた声に戻った。
驚いて振り返ると、おじさんは最初の見たまんまのお兄さんになっていた。
「いや、あのーここ熱くて・・・」
「サウナが苦手でして・・・」
なんとかその場を取り繕うとするタオルで股間を隠した倒れる寸前の私たち。
「自分らの話ばっかりして、わしの話を聞かずに行こうっていうのか?おぅ?」
仏教的な偶像が背中で笑うおじさんは、聞きたがりではなく、話したがりのおじさんだったのだ。
「いいや、けっしてそんなことは・・・」
「ああ、失礼しました」
我々は何とか耐えることにした。
このまま出て、殴り倒されても、ここで倒れても同じだから。
「まあ、ゆっくりしていけ。」
そういって、優に30分以上は自分の息子の自慢話を聞かされた。
愛想笑いとサウナの苦しさは、私にここは本当の地獄なんではないかとさえ思わせた。
大垣の駅の夜風は涼しかったが、お互い何も話す元気がなかった。
生きててよかったなあ。
夜行に乗り込み、深夜一日目のキップが社内改札で回収された。
「ミュージシャン志望なんですか?」
車掌が我々に話しかけてきた。
そう、夜行で上京するギターとベースを持った若者。普通はそう思うだろう。
「いや、そうじゃないです」
だって我々はバンドを組んでまだ一ヶ月。
初心者もいいところ。
「東京にいって一旗上げるぜ!」といって夜行に飛び乗ったわけではない。
実は計画ではこの夜行列車の中で単独ライブ(ほんとは練習)を決行するはずだったのだ。
どうせ乗客もいないだろうし、網棚の上とかのぼってシャウトしてやろうぜぐらいの勢いだった。
予想外にほぼ満席の電車。
予定外の長風呂。
疲れ果てた足を延ばすことも横になることもなく、4人がけの硬い椅子に座る。
それぞれギターとベースを股に挟んだ状態で。
うつらうつらしていた時、列車は駅に止まった
東京駅4時半。
ホームには夜行列車から降りた人しかいない。
まだ明けきらぬ空にはカラスが何羽も飛んでいた。
意外と静かだな。
それが私のファーストインプレッション。
続く。