薫山とユッキーのブログ

本・映画と徒然なる日記です。
キティちゃんのコレクションも始めました。

これからの正義の話をしよう 著者マイケル・サンデル

2011-04-24 19:59:19 | 

ベストセラーになった本で題名に惹かれたので買って読んでみました。
ちょうど日本では、東日本大震災の善後策などで
政府なども錯綜している状況下ではありますが
この本の冒頭で、アメリカで実際に起こったハリケーンカテリーナの
災害後の内容がなかなか考えさせられる展開から始まります。

カテリーナ災害の直後、現地では水不足が発生し
通常価格より値上げした水が流通したり、モーテルも家をなくした人が
宿泊に来ることから宿泊料を値上げした問題が取り扱われていました。
日本の文化から考えると、「なんてひどいことをするのだ」と
憤慨すると思います。
私もそうでしたが、自由経済市場が支配する地域では
値上げを政府が統制するのはよくないとの反対意見もあったそうです。
このように
具体的な事例を基に読者に考えさせて
正しい判断、まさに正義に基づく判断の根拠をどこに持ってくるのか?

なかなか考えさせてくれる面白い本でした。

テーマは、戦争や勲章、入学試験、医療、スポーツ、報酬など
さまざまなものが取り扱われて、ゆっくりとじっくりと理解しながら
読み進めることについて、なんだか自分が一つ大人になったと実感させられる本でした。

怖いのは、フィリップモリス社が海外の国に煙草を売りつける際に
その国で煙草を拡販したほうが、平均余命が短縮して国の社会保障費負担が軽減するような
秘密の計画書なるものがあったりして、恐ろしいトリビアな知識も得られたりします。
(フィリップモリス社は謝罪したとか。。。)

内容の根底はベンサムの最大多数の最大幸福か、それともロールズ、の政治哲学(判断は数ではなく質を優先)
をもとに検証していくスタイルなので、ロールズという方がいかに偉大な方だったのかを
現代に示してくれている一面もあります。
(JSミルの学説も出てきます)

終盤に至りますと、カント、アリストテレスも出てきて、特にカントの意見は難解で有名なので
一般市民にも理解しやすいようにという配慮はわかるのですが、やはり難解でしたw

翻訳は全く違和感のない訳なので、訳者もすごいなと思いました。

悩み事があったり、決断に困ったりすることがよくある方は
この本を読むと問題点のとらえ方や決断の材料探しなどで
発見があるかもしれません。

この本で唯一やきもきさせられたのは、さまざまなテーマを扱い
著者がそのテーマについて判断する際の重要な項目も指摘してくれるのではありますが
著者自身結論を明示せず、読者の判断にゆだねる形の結論が多いので
私個人としては、サンデルさんだったら、こうだと思う、というようなしめくくりが欲しいと
思ったぐらいです。

薫山