lunas rotas

いつまでも、完成しないことばを紡いでいこう

識字教育と映画「プレシャス」

2011-04-28 08:27:27 | Weblog
  DVDで「プレシャス」を見た。話題になっているときは見る暇がなかったから「今さら」感があったし、虐待もので抵抗もあったが、マライア・キャリーのすっぴんや大好きなレニー様の演技を見てみようという低俗な理由でお気楽にDVDを再生。
  ところが、本当に驚いた。識字教育に力を入れたブラジルのパウロ・フレイレの思想にも通ずる内容で、文字を獲得していくことが社会を変革していくことにつながることを訴えかける映画だった。考えることを無意識のうちに剥奪され、将来像を表現することは封印されている、そんな貧困者はフレイレの言う「沈黙の文化」の中にいる。この「沈黙の文化」が権力や暴力や抑圧を生んでいるが、そのことに貧困者は気付いていない。そして多くの権力者や抑圧者もそれに気付いていない。しかしそこから解放する過程を識字教育が担うのだ。字を覚えるということは、単に本や新聞が読めるようになったり友達に手紙が書けるようになるということではない。自分の住む世界を根こそぎ変える力なのだ。
  昔の話、以前の話ではなく、今を生きる強烈な物語だった。そして主人公の母親役のモニークの演技に大きな拍手を送りたい。

日本留学試験の応募者数

2011-04-27 10:00:50 | Weblog
  日本留学試験は毎年6月と11月に実施されるが、次回の6月の応募者数が減っているJASSOのホームページの数字を見ると、平成17年度から応募者数、受験者数はずっと増加していたものの、今年度6月については去年同月の試験より約9割の応募者。出願期間を見ると震災の影響はあまりなかったのではないか。ということは震災の前から日本の大学進学への魅力は既に薄れていたということになる。そして東日本大震災の影響で更に応募者に対して受験者数は例年より減ることになろう。受験者数は2万人を割る可能性が大きい。日本は様々な面で脆弱化していくようで、国のあり方や目指してきたものが問われているように感じる。

語感の辞典

2011-04-26 08:31:56 | Weblog
  中村明著の「語感の辞典」。発売されてから気になっていたが、ようやく昨日購入。中を見て、もっと早く買えばよかったと思った。
  たとえば「すなお」引用→“「素直な息子」は自然であるが、「素直な祖父」という例になると、「正直な祖父」にはないような違和感が少し出る。しかし、母親が息子の忠告を受け入れて喫煙の習慣を立ちきるような場合には「素直にタバコをやめた」と言える”というように例が書いてあり、その違和感や違いの理由も分析して書かれてある。“会話でも文章でも幅広く使える日常の和語”といった文体に関する説明もありがたい。
  これまで語感については自分の感覚をまず意識化し、周りの人に確認する。最近ではブログ検索などをして語彙の生きた使われ方を見たりもしていた。(類語辞典を参考にすることもあるけど、)しかし授業準備や教材作成で必要となる単語をいちいち全部周りの人やブログで確認していたら時間がいくらあっても足りない。そんなとき、これを使えば、自分の感覚を信じるかどうか参考になる。こういう辞典もどんどん電子辞書に搭載してほしい。
  それにしても、これだけの辞典を一人で書いたことにひたすら脱帽。
  

介護能力の評価と日本語

2011-04-25 02:17:31 | Weblog
  政府の緊急雇用対策本部のひとつに実践キャリア・アップ戦略というのがあって、その専門タスク・フォースに「介護人材ワーキング・グループ」というのがある。キャリア・ブレインニュースによれば、そのワーキンググループがこのほど介護人材の能力7段階の評価案を策定。今後実施体制を整えていくことになる。
  7段階の評価では各段階で「求められる能力」という項目がある。たとえばレベル2には「基本的な技術・知識を活用し、決められた基準等に従って、基本的な介護を実践。例:施設等において夜勤に従事することができる」とある。
  この「求められる能力」を参照して評価段階別に、外国人介護職員に求められる日本語領域をある程度区分することが可能なのではないだろうか。
  日本語力なら日本語能力試験の級を基準に判断するというのは、介護分野においてはもうやめなければならない。今後外国人の介護職員は増加するに違いないのだから、介護分野に特化した日本語力測定の基準作りに本腰を入れなくてはいけないと考える。関係分野の方々の見解を聞いた上でそれを作るのは日本語教育会の務め、そしてそれを日本語教育が専門でない方々に普及させ啓蒙していくのも日本語教育会の務めだ。これは個別でやるより、関係者が手を携えて取り組むことが肝要だ。

帰化

2011-04-22 08:51:12 | Weblog
  日本語教育能力検定試験を受けるときには、幾つかの教授法の名前や特徴を覚えたものだ。その中のひとつ、アーミーメソッド。このメソッドで日本語習得をした人の例として、よくドナルド・キーン氏の名前が挙げられるが、このほど日本への帰化を申請したとのことだ。コロンビア大学での教鞭を終えたのを機に日本に永住し帰化するという。88歳である。「私は自分の感謝のしるしとして、日本の国籍をいただきたいと思う」とコメント。夏ぐらいに国籍が取得できる予定。いろいろな形での“移民”がある。

語彙・読解力検定

2011-04-21 08:36:27 | Weblog
  朝日新聞とベネッセが共同開発する「語彙・読解力検定」が今年から始まる。第1回は6月で、昨日から申し込み受け付けが始まった。漢字検定というのがあるが、次に語彙に焦点が当てられて検定試験が作られるのは、流れとして自然なことかも。辞書語彙、新聞語彙、読解の3領域が測られる。主催者公式テキストをちらりと覗いたが、新聞語彙として社会、科学技術、医療・生活、文化など幅広い分野から出題されるようで、特にカタカナ語(マラカイトグリーンだのニュートリノだの)やアルファベット表記(DELPだのIRBMだのSSLだの)が大変そう。でもちょっと注目の試験。

井上ひさし「日本語教室」

2011-04-20 08:38:45 | Weblog
  井上ひさしさんが講演で語った「日本語教室」、新潮新書。こんなタイトルだと仕事柄、読まないわけにはいかない。内容は日本語の特徴や歴史、音韻などの入門書といったところ。語り口調だから読みやすい。戯曲家ならではの視点やエピソードがところどころ挟み込まれている。それほどお勧めの本ということでもないけれど。

東日本大震災前後の外国人出入国者数について

2011-04-19 00:05:00 | Weblog
  標題について法務省が先週金曜日に発表した。法務省のHPを見ると、

• 東日本大震災直前の1週間の外国人出国者数は14万人であったところ,震災直後の1週間は約24万4千人(うち再入国許可を有する者は約12万1千人)に急増したが,その後減少し,直近の1週間では約5万9千人(うち再入国許可を有する者は約2万7千人)にまで減少している。
• 一方,外国人入国者数については,震災直前の1週間が約15万7千人であったところ,震災直後の1週間は約5万8千人に急減したが,直近の1週間では約10万6千人にまで回復している。

とある。
  国別や在留資格別などの詳しい数字はこちら。資料から外交官や家族滞在ビザの方々の行動が早いのが読み取れる。それにしても一週間で24万人もの出国とは、数字を見ると改めてその多さに驚くが、4月に入ってやはり再入国許可を持っている人が戻りつつあるのが分かる。私の勤務先の大学は授業が5月からになったので実態はまだ分からないが、新学期の授業が始まったら、さて学生はいるか。

EPA看護師・介護福祉士の辞退者

2011-04-18 00:35:11 | Weblog
  今年度のEPAインドネシアとフィリピンの看護師・介護福祉士候補者に合計で43人もの辞退者が出ているという記事。理由は震災と原発。JICWELSへの取材で分かったようだ。今はそれぞれの国で日本語事前研修を受けているが、来日の段階になったら更に辞退者は増えるのではないだろうか。
  フィリピンの候補者の日本での日本語研修実施機関が経済産業省から先週の月曜日に発表されているが、来日するまでは(飛行機に乗るまでは)候補者人数が定まらなく、実施機関側も準備に苦労するのだろう。

防災時に役立つやさしい日本語

2011-04-15 16:19:57 | Weblog
  地震などの災害時に日本語が不慣れな外国人にも避難指示や情報が伝わるように防災マニュアルを平易な日本語で作ったり、看板などを分かりやすい日本語で表記する動きがある。「やさしい日本語」の研究活動もその一つ。弘前や仙台でも取り組まれているので、3.11の地震の際、この活動がどんなふうに役立ったのか是非検証してほしい。
  京都府国際センターの作った防災ガイドブック「やさしい日本語版」は、3.11後に注文が殺到しているらしい。
 どんな取り組みや活動が有益なのか、今後のためにも調査しておきたいものだ。

あまりに一方的な解雇

2011-04-14 09:54:50 | Weblog
  相撲界で蒼国来が八百長問題で引退勧告を受けたが、引退届は出さなかったため、今日解雇処分が決定する見通し。蒼国来は中国・内モンゴル自治区から来日した人で、私の勤務先大学の日本語教育研究センター主催の餅つき大会で毎年お餅をついてくれる力士の一人。直接面識はないものの、八百長問題で最初に蒼国来の名前がニュースに出てきたときはうっかり気付かなかったが、知人のメールでそうだったと思い出した。
  蒼国来は八百長への関与は否定していて、法廷で争うとしている。知人は蒼国来を応援するとのこと。私も事の成行きを見守りたい。
 
http://www.arashio.net/
http://twitter.com/arashiobeya
  

「動機と結果 どちらが大切?」

2011-04-13 10:00:37 | Weblog
  以前このブログでも触れたが、マイケル・サンデル教授のハーバード白熱教室が面白い。DVDで見ている。標題をテーマにした第6回の講義ではカントの哲学を紹介。カントは道徳性をもたらず動機が結果よりも大切であることを説いている。道徳的観念からは動機が重要であるということだ。
  言語学習において、動機は人さまざまであるようで、実はそうでもなかったりする。教室の中にいると、留学生は言語学習に対する動機が希薄だと嘆きたくなることが私はかつてあった。それならば学習すること自体が動機になるよう務めなければならないと頭を切り替えた。
  ハーバード白熱教室のサンデル教授の講義を聞きながら、言語学習における動機も関連を持たせて考えることができると思った。道徳的動機があるということは人間は、カントの言うところの「自律的」であり、それが人間が「自由」であるということになる。
  今週の土曜日は「マイケル・サンデル 究極の選択 大震災特別講義」が放送されるらしい。

♪「帰ってこいよ~」

2011-04-12 00:20:22 | Weblog
 東日本大地震のあと日本を出国した外国人も4月になって戻ってきていると聞いた。特に駐在員などビジネス関係の方々は戻りつつあると。留学生も新学期に合わせて再入国している人も多いはず。
 しかし、昨日夕刊の朝日新聞には「留学生『脱出』ラッシュ」と題した記事。アジア学生文化協会の留学生寮はガラガラ状態、幾つかの大学では留学生のうち8割が一時帰国中、交換留学生のキャンセルも相次いでいるというのが記事の内容。少子化のために留学生頼みの大学も少なくない。彼らが帰ってこないのは経営上でも大きな打撃になる。
 さまざまな機関から情報が出ていて、それが却ってどの情報を信用していいか分からなくさせ、結果として“どれも信用できない”という状況に陥っているように思う。日本不信。少なくとも今年1年ぐらいは日本留学に二の足を踏む学生や保護者が多いのではないか。留学生数は5年前(H.18)から毎年増加を続けているが、今年は一時的に減少もありうるかもしれない。

日本語教育と「市民」

2011-04-11 00:25:08 | Weblog
  早稲田大学大学院の日本語教育研究科が発行した論文誌『早稲田日本語教育学』第9号が、とってもおもしろい。「日本語教育が育成する日本語能力とは何か」をテーマにした今回の論文誌は、諸先生方がそれぞれの視点から「日本語能力」について書かれている。その視点の多様さに今の日本語教育のさまざまな問題が読み取れる。日本語教育もやらなきゃならない使命がたくさんあることに再び気付かされ、闘志が湧いたり重いと感じたり。いずれにしろ高い関心を持って読むことができる。
  それぞれの先生方の立場で書かれているが、その中で幾つかの論文に「市民」ということばが出てくる。前回の私のブログタイトルは「まずはアジア市民」だったが、日本語教育を論じる際に「市民」ということばが出てくるようになったのは最近のことだろう。論文によって「市民」ということばにどのような意味を持たせているかは、もちろん同じではない。しかし教室の中でのことや社会との対峙といった括りではなく、「市民」として生きる者が、ことばを獲得していったり共生社会を築いていったりという文脈の中で言語教育をとらえる視点がそこに入っているのだろうと思う。日本語教育(or言語教育)と「市民」の関わりについて考えてみるのも面白いかもしれない。
  

まずは「アジア市民」

2011-04-08 10:26:37 | Weblog
  韓国で日本文化が開放されて、若者世代を中心にまたたく間に日本の映画や音楽、出版物やゲームが広がり、同じく日本にもK-popやドラマなどがものすごい勢いで普及した。今や私たちの日常に入り込んでいるし、若い世代では音楽などでは日本・韓国の垣根なく、好きなアイドル情報を交換&共有し、話題に事欠かない。彼らがその話題から持つ共有意識は「日本文化」とか「韓国文化」といった線引きする意識はないだろう。こういった開放は目覚ましいほどのスピードで浸透してきた。ある種、感動的でさえあった。
  人の移動という意味でもこういった開放は可能なはずだ。どこの国でも福祉医療分野での助けや知識シェアを求めているから、その分野での人の移動の開放をアジア全体で考えるべきときが来ていると思う。すでに看護人材を世界に送り出すフィリピンなどはもちろん、観光がてら人間ドッグを受けにくる中国人、日本の介護を学ぶ流れを作ろうとする台湾や韓国など様々な試みがある。シンガポール・香港も介護の担い手が必要だ。インドネシア、ベトナム、ミャンマーでも家事や介護労働市場に参入。内需・外需ではなく、アジアという単位で「アジア市民」としての共生する力が形成されたい。しっかり地に足をつけた平和な未来を作るためにも、まずは隣近所の国・人々と共に生きていくことが大切なのだ。