歴程日誌 ー創造的無と統合的経験ー

Process Diary
Creative Nothingness & Integrative Experience

日本最初の受難劇ー「細川ガラシア」(ヘルマンホイベルス作・ヴィンセント・チマッティ作曲)

2019-02-10 |  文学 Literature

 

昨日、調布のチマッティ資料館で、館長のコンプリ神父から2016年10月15日に調布市で上演された楽曲「細川ガラシア」のDVDを頂いた。フルオーケストラのオペラはこれまで何度も上演されてきたが、この録音版は、チマッティ神父のオリジナルな構想にもとづき、ピアノとフルートだけの伴奏、簡素な舞台で、最小限の所作と抑制された感情表現が日本人にとっては自然な印象を与える。
 アリアの歌詞は原作者(ホイベルス神父)の戯曲から選び抜かれたもので、典雅な日本語で唄われ、希臘悲劇のコロスの役割を果たす合唱は、グレゴリオ聖歌のアレルヤ、アベマリアをラテン語で歌うが、その旋律には随所で日本のなじみの歌謡を交えている。ホイベルス神父の原作の戯曲は歌舞伎座で故中村歌右衛門主演で上演されたこともあるが、チマッティ神父の楽曲は、「序破急」の能楽のごとき三幕の構成になっている。
第一幕 「蓮の花」(序)
第二幕 「桜の花」(破)
第三幕 「天の花」(急)...
この作品は、ガラシアの辞世
「散りぬべき時知りてこそ世の中は花も花なれ人も人なれ」
に焦点を合わせ、キリスト教の洗礼をうけたガラシア(恩寵)の受難を主題とする楽劇。世阿弥の「花の美学」に即しながらも、それをキリスト教的に摂取しつつ、独自の作品世界を切り開こうとしている点に惹かれた。
 それは濁世から解脱できず輪廻転生する怨霊の物語る夢幻能とも、運命の必然を受容する英雄的死を主題とする希臘悲劇のカタルシスとも一線を画する楽曲である。
 1940年に初演された「日本語の最初のオペラ」であるが、私は、それと同時に、この作品は日本文化の土壌に根ざした最初の「キリスト教的受難劇」と呼びたい。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする