日時:2006年3月19日 11:00~13:30
会場:東京農業大学 世田谷キャンパス 森林総合科学実験室
講師:酒匂徹(さかわとおる)さん 自然農園ウレシパシモリ
主催:エコヴィレッジ鶴川建設組合
協賛:NPO全国コープ住宅推進協議会
開会挨拶 アンビエックス 相根さん
酒匂さん講義
【今日のテーマ】
・こんにちは。東京は暖かいですね。すっかり春ですね。岩手は暖かくなってきましたがまだ氷点下があります。電車の窓から菜花も見えるようになりました。菜花が咲き始めるとミツバチには良い季節になります。今日はミツバチから身近な家畜、ミミズとニワトリの関係などお話しします。
・我が家ではニワトリは100羽飼っています。20羽に1羽ぐらいが雄鶏なので卵は有精卵です。卵は、半分はオス、半分はメスが産まれます。皆さん、オンドリとメンドリの違い分かりますか?養鶏業界では判別士がいて産まれたばかりのヒヨコをオス、メスに分けます。オスは残念ながらほとんど廃棄物になります。テキヤのお兄さんはそれを無料でもらってきて100円で売るのです。我が家ではなるべく自然に近い形でニワトリにストレスをかけないように育てる努力をしていますが、それでもやはり半分のオスを犠牲にして成り立っています。
・家畜を飼うと考えた場合、ある意味人間の都合で動物をお世話するということになりますが、それが現代はかなり進んで本当に人間の都合で生産させるシステムになってしまっています。家畜産業はいろんな動物達の命を犠牲にして成り立っています。ヨーロッパでは動物福祉という考え方があります。ただ安全というだけでなく動物達の権利を最大限尊重されている必要があるという考え方です。ぜひ、家畜達の命の大切さを日々の食卓の中でも考えることが出来たら良いと思います。
・日本では1960年代以前から比べると動物性のタンパク質を約10倍摂っています。そんな量が本当に必要か、動物の命を食べ物として頂く時に、安い高いという価値観だけでなく、命に立ち返って考えているかということを一緒に考えてもらいたいと思います。その上でどのように動物達と関わっていくかということになると思います。私も卵、豚肉を売っているので偉そうなことは言える立場ではありませませんが、本当は2週間に1回、質の良いお肉を食べ後は素食にするのが健康にも良いのです。お客さんが来た時に食べるぐらいが丁度良い。今日は自給を目的にした動物の飼い方がテーマになるますが、なるべく家畜と共存して自給に貢献してくれ、しかも動物がなるべく快適に過ごせるにはどうしたら良いかということを考えていきたいと思います。
【ニワトリについて】
・パーマカルチャーは、対象となるものについて個性を調べてからデザインするというのが基本的な考え方です。ニワトリを飼うためになにが必要でしょうか?土地、エサ、水、日光、小屋、空気、敷料etc(※詳しくは配布資料「ニワトリとミミズの循環」参照)
・自分でニワトリを飼う場合に何が必要か、どんなものが得られるか考えていきます。小屋の中で飼うのであれば敷料をします。ニワトリはダニが体に付きやすいので体を砂でこすります。歯がないので小さな砂粒が必要です。胃の中の小石ですり合わせてエサを消化します。もともと消化能力が弱いのでその分、鶏糞を堆肥にした時に肥料成分が高いのです。
・ニワトリは1羽だと寂しがります。自分の実感で一番良いと思うのは50羽ぐらいです。自然有機でやっている仲間では100羽ぐらいが多いですが、ケンカを良くする。本当は50羽以下が良いです。オスが1羽に対してメスが15~16羽ぐらいなので、50羽だとオスが3羽になります。それぐらいだとオスの序列が決まるのでケンカも少ない。これは年代が同じ場合ですが、150羽以上で違う年代を混ぜても安定します。品種が違う場合でも雛から一緒に飼っていれば問題ないです。
・野生の鳥は春しか卵を産みません。ニワトリもそうでしたが、これまでの歴史の中で1年中産むニワトリを人間の都合で選別してきました。雛から半年してから産み出してそれから1年ぐらいで産業廃棄物になってしまいます。私達の養鶏では2年~3年が寿命です。本当は10年ぐらい生きます。3~4年経つと春しか産まなくなり本来の姿になります。実はアヒルのほうが採卵の歴史が古いのでアヒルはニワトリよりも母性本能が退化しています。母性本能が強いと卵を温めてしまいその間卵を産まないので生産するほうから見ると都合が悪いのです。ニワトリも母性本能の強いものは養鶏所では肉にされてしまう。時間をかけて人間の都合の良い形に作りかえられています。卵を1年中欲しい場合は、春と同じ状態を作り続けます。日の長さで卵を産むので日が段々短くなると卵を産まなくなる。電気を点灯することによって調整します。もし冬休んでもらうのであれば点灯しなくても良いです。
・ニワトリは外が好きです。我が家は最初は2年ぐらいたった卵を産まなくなったものを人からもらって飼い始めましたが、外に離したら卵を産みました。ただ外敵もいる場合はフェンスも必要になります。
・あと得られるものは、ニワトリは、肉、卵以外に毛も取れます。体温が高いので熱がある。鶏糞からメタンガスも出ます。呼吸の結果の炭酸ガスも出ます。土地を引っ掻く特徴もあります。他に、エサをあさる、飛ぶ、ケンカする。品種によってもそれぞれ特徴があります。こういった要素を書き出してから私達とニワトリの関係をどうしたら良いかデザインします。例えば、土地を引っ掻く特徴を利用したチキントラクターというものがあります。移動可能な鶏舎に入れておくと5cmぐらいの深さまでは土を掘り返して雑草や虫をついばんできれいにしてくれます。本当に狭い場所でも簡単に導入することができます。
・自給のために飼う場合で、1日1~2個卵が必要な場合、メスが5~6羽いれば1日1個は卵を産んでくれます。有精卵が欲しい場合はオスを飼いますが、オスはエサを良く食べるし、朝鳴くので街中の場合はあきらめたほうが良いかもしれません。オスを飼っているとほとんどは有精卵になります。有精卵と無精卵では味や栄養価は変わりません。1つ変わるとすれば生命力は違います。私は生命力というものを重視はしていますが、目に見える違いはありません。無精卵は卵子、有精卵は受精卵なので無精卵に生命力がないわけではないです。
・平台で坪あたり10羽がストレスを感じない最低限の条件です。タタミ1畳分に5羽が目安(最低限)です。1箇所ちょっと暗くして高くしておくとそこに卵を産んでくれます。タタミ1畳に5羽いると1週間もするときれいに草取りをしてくれます。そこに種をまくことができる。金網がなくても安心して休める止まり木がある安心感があるようなところであれば、1~2時間遊ばせたら勝手に巣に戻ります。
・もう少し大きい鶏舎で10~20羽を飼う場合。我が家では止まり木の下に金網をしてその下にミミズを入れた箱を置いています。そうするとニワトリの糞をミミズが食べます。増えたミミズがニワトリのエサになります。なるべくその場所で循環できるようにする。しかも内蓋に使う紙ゴミもミミズが食べる。丁度ミミズが必要な条件が鶏舎と共通します。温度、湿度や暗さetc。汚れたニワトリの飲み水はミミズ箱の湿度を保つために使うこともできます。ニワトリとミミズが共存することでお互いにメリットが出ます。このようにつながりを付ける事がデザインの基本的な考え方になります。
【質問】
(受講者)ニワトリを飼ったら家を留守にできますか?
(回答)5羽であれば、エサなどを工夫しておけば3~4日程度あけられます。
【スライド】
■ミツバチの飼育例
・街の中は意外と蜜源が多い。ミツバチは半径3kmからエサを集めてくれる。ミツバチは農薬に弱いということもあるので、ミツバチを飼うと3km四方の街の環境を意識するということにもなる。街路樹の桜や花壇も貴重な蜜源になる。
■ニワトリの飼育例
・果樹園の例・・・果樹の一角でネットで囲って飼っています。有機質で乾いたフカフカの状況を作ればほとんど匂いません。オスでなければクゥクゥ鳴く程度です。果樹園の草取りをしてくれるし、果樹に付く害虫も食べてくれます。なるべく飼料を与えないでも飼える工夫をしています。
・農場のカフェ&傾斜地の例・・・カフェの残飯をエサに利用しています。ニワトリの平地にしたがる習性を利用して堆肥を作っています。下のほうが傾斜になっているとニワトリは高いほうの敷量をどんどん下のほうに積んでいきます。それに糞と残飯が混ざっているので自然と堆肥が積み上がります。
・エサの例・・・基本的には配合飼料でアメリカのトウモロコシですが、絶対に遺伝子組替えでないトウモロコシを手に入れることが今は難しくなっています。そのためなるべく地域の資源を生かすことが良い方法です。岩手は牡蠣の名産なので廃棄物となった牡蠣ガラがエサに利用できます。他にオカラや米ぬか、クズ麦、カボチャなどをエサに利用できます。それに菜っ葉類を半分ぐらい混ぜれば充分です。
・ミミズとの共存例・・・ミミズの箱としては、排水溝から余分な水分が落ちるので古い浴槽が手に入れば一番良いです。それを受けるとミミズのおしっこが取れ素晴らしい肥料になる。底には炭をしいて通気性を高める。赤いしまミミズが養殖に適する。ニワトリにミミズを与えるとミミズの糞もきれいに食べる。よく知られていますがミミズは生ゴミを分解してくれます。ニュージーランドではキャノンアームというミミズ養殖用の商品が街中でも手軽にできるものとして売られています。日本では4~5万する。通気性と保温とを上手にデザインしている商品です。
・他の共存例・・・ニワトリと温室を隣にしている。温度、二酸化炭素をニワトリから得られるメリットがある。
■そのほかの動物の飼育例
・カモも良いがうるさい。池がなくてもカモは生きられる。ニュージーランドでは果樹園で放し飼いにしている。害虫を食べてくれる。口はまるいので木も痛めない。果樹もつつかない。
・ガチョウは番犬がわりにもなる。イネ科の草が大好き。イチゴ、ブドウ畑に放すと雑草だけ食べてくれる。
・犬もちゃんと躾をすれば、ニワトリ、ブタ、カモなどと共存できる。
・ホロホロチョウ。番犬がわりにもなる。天敵の鷹を見つけて騒ぐ能力は犬よりもすぐれている。虫を良く食べて草をあまり食べないので野菜畑に放しても問題ない。肉は高級。
・ウサギ。草だけで肉が得られる可能性は一番高い。輸入品のソーセージやハンバーグに入っていることがある。ウサギは掘るので下のネットも必要。
・ブタ。30年ぐらい前までは庭先で飼っているところもあった。本来きれい好きで広いところだとトイレも決めてできる。泥遊びが大好き。上手にやれば街中でも飼える可能性がある。
・ヤギ。大きい4つ足の動物でで街中で飼える可能性が一番あるのはヤギかもしれない。エサが多様性がある。庭木の剪定枝も食べる。落ち葉も食べる。濡れたエサは嫌いで乾燥を好む。ヤギを飼う一番の目的はたぶん乳。味は評判は良くないが成分は母乳に近いということで注目はされている。実は冬に干草を食べたヤギの乳は臭みがなく美味しい。ヨーグルトも割といける。エサは2㎏ぐらいの干草でOK。乳は1日2~4L出る。1家族が自給用に飼うには丁度良い量。牛は20L出るので自給用というレベルではない。
・ヒツジは狭いところではなかなか飼えない。衣類を自給したい人、羊毛が主な目的。
・ウシは広い牧場でなくても育つ。果樹園に離すと草を食べてくれる。アボガドの果樹園の例では、4時間ぐらいは下の草だけ食べていたが4時間すぎると果樹も食べた。そのことが観察していると分かったので4時間まで果樹園にウシを放した。このように動物の個性を見極めることが大切。
・ニュージーランドでパーマカルチャーをやっている人は自給用に向く品種を復旧させる努力をしている。例えば小さいウシのデキスター、クニクニというブタなど。
【質問】
(受講者)ヤギは子供が産まれたらどうしていますか?また寿命になったら?
(回答)我が家はまだ子供なので産みません。ヤギは30年前は全国に60万頭いましたが、今は2万頭ぐらいです。激減しています。身のまわりで種付けをすることも難しくなっています。役目を果たしたら命を頂く覚悟ではいます。動物を飼うということはそのような覚悟するということでもあります。でも、良いか悪いかは別にして、現代では自分で殺さなくても出荷するという方法もあります。
(受講者)ヤギのお肉はどうか?
(回答)流通しているお肉はとても柔らかくて私たちはそれに慣れているので素直に美味しいと思えるかどうか分からない。でも煮込みで食べる分には充分食べられます。
【ミミズ堆肥について】
(※詳しくは、配布資料の「ミミズ堆肥の作る方」参照。)
・キャノアームというりっぱな巣箱を購入しても良いが、手作りでも充分可能です。家庭の毎日の平均の生ゴミ量の500gを処理するには90×60×30cm程度の大きさで良いです。通気孔を空けます。底にも穴を空けたほうが良いですが、置く場所にもよります。アメリカなどではシステムキッチンやベンチでミミズを飼っている人もいます。できれば段差をつけたほうが通気には良いです。底には古新聞を裂いて濡らしてしきつめる。新聞紙8kgぐらい敷き詰める。75%ぐらいの湿度にします。新聞紙はカラーは毒なので出来れば白黒だけのほうが良い。もちろん可能であれば落ち葉やオガクズを入れてもらっても良いです。あと一握りの砂とか土を敷く。
・生ゴミを500g処理するのであればミミズは1kg必要ですが、最初から1kgは大変なので500g程度から始めても良いです。ミミズは買うことも可能ですが、できれば堆肥を作っている農家などからもらってきたほうがもらったほうが良い。もらえるならもらったほうが良いです。
・飼えるのは赤ミミズです。土ミミズはダメです。ミミズは4000種類もいます。出来ればいろいろ混ざっているほがおもしろい。あまり元気がないことが多いのですが釣り道具屋のミミズを一部入れてもおもしろいと思います。
・箱の下から2~3cmつめものをして、その上にミミズ、その上につめもの、その上に内蓋(麻布など)をします。湿度は75%ぐらいが丁度良いです。生ゴミは80~90%の湿度があるのであまりにも湿っている時は新聞紙に包んでから入れます。生ゴミの上にまた蓋をします。順調にいくと2ヶ月半で堆肥になります。堆肥を取り出したい時は、半分明るくして半分暗くすると5分ぐらいするとミミズは暗いほうへ逃げます。
・生ゴミは必ずしも毎日あげる必要はない。ミミズが一番きらいなのは柑橘類の皮です。柑橘類の皮を有効に利用できるのは、乾しておいてネギ定植時に一緒に植えるとネギの赤錆病を防ぐ。動物性タンパク質はなるべく入れないほうが良いです。ミミズのためにも素食にしたほうが良いということです。寿命は1年で半年で200倍に増えます。温度は15度~25度に保つことが必要です。冬は屋外だと寒い。4度以下だと冬眠してしまいます。夏は場所によっては断熱が必要です。25度以上になると動かないし死ぬこともあります。直射日光が夏あたるようなところは良くないです。箱はできれば木が良い。余った焼き杉の板でもできます。
【質問】
(受講者)風呂の桶でも穴を空けたほうが良いですか?
(回答)できればあけたほうが良いですが、空けない場合は通気を高めるためのもの(ダンボールなど)を壁の内側に入れます。
(受講者)箱を使わずに庭の隅でもできますか?
(回答)庭の隅ならモグラやネズミが入らないように気をつける必要があります。
(受講者)畑にミミズがいると作物の根もモグラに食べられてしまうことになりますか?
(回答)モグラは作物は食べないが穴からネズミが入ることもある。害がひどければ風車をまわして下に振動をいくようにして退治する手もある。
(受講者)しまミミズを畑に放す方法もあるか?
(回答)残念ながらしまミミズは日本の生態系だと畑に放しても育ちません。
【日本ミツバチについて】
・西洋ミツバチのほうが生産性が高いが、日本ミツバチのほうが味も良く、病気にも強く、スズメ蜂にも抵抗力があります。日本に対する気候も適している。定住しないということが問題点として言われていますが、ちゃんと環境を整えてあげれば大丈夫です。エサが多様なのも良い点で、果樹のエキスでも集めてきます。寒さにも強いです。伐採した木にも巣を作る可能性がありますし、電柱に巣を作ることもあります。キンリョウヘンというラン科の花の匂いに寄ってくるので、そのランを使って巣別れの時に箱の中に捕獲するという技術があります。主要蜜源であるエゴノキやクロガネモチなどはEV鶴川の敷地にもありました。街の中でも生かせる蜜源がたくさんあります。3km先からエサを集めてくるので自分の身のまわりの環境に気を配るきっかけにもなります。自分達だけでやることは難しくても毎年業者から譲ってもらうことも可能です。またミツバチの蜜源は、ヤギが食べたい枝に共通することが多いです。鶴川でも大きな可能性があると思います。