横浜地裁で、裁判員制度のもとで、審理された殺人事件において、初めて、死刑判決が言い渡されました。
検察官が、論告という意見陳述の場面において、「この被告に死刑を言い渡さないで、この国で、誰を死刑にするというのか」とまで、言わせたくらいに、残忍な殺人事件でした。
それだけに、裁判員の方々も、大変な役割を背負わされたものと、お察し申し上げます。
ただ、私には、裁判長の判決言渡しにあたり、気になることがあります。
マスコミ報道によると、判決言渡し後、裁判長が、「被告に控訴を勧めた」、というのです。
もちろん、刑事裁判では、有罪判決言渡しの後、被告に対し、「この判決は、有罪判決なので、14日以内に控訴できる」ことを、必ず伝えています。
しかし、裁判所は、十分に審理した結果、これが間違いのない正しい結論だという前提のもとに判決を言い渡すのです。
ただ、三審制をとる日本の裁判制度を前提に、異議申立の機会を被告に伝えているに過ぎません。
ところが、今回のように、裁判長が、被告に控訴を勧めた、というのは、もってのほかです。
他の刑事事件でみても、どこの裁判長が、自分の言い渡した判決に対し、控訴を勧めてくれますか。
聞いたことがありません。
裁判長は、当該刑事事件で、十分に審理を尽くして、死刑判決が、間違いのないものとして、言い渡しをしたのではなかったのですか。
自分の判断が間違っているなら、もともと、死刑判決を読み上げるべきではありません。
仮に、裁判長の発言に、「裁判員の意見が、死刑の方向に多く流れているから、やむを得ず死刑判決にしたので、控訴しなさいよ」、という趣旨が含まれるならば、その裁判官は、裁判員制度そのものを軽視したことになります。
裁判員制度のもとでの判決内容は、当該事件では、それがすべてなのです。
もともと、裁判員制度は、民意を、裁判に生かす、という趣旨であったはずです。
民主主義の国家では、民意を最大限に尊重すべきことが、大切なことです。
もちろん、いまの裁判員制度でも、6人の裁判員が、死刑を求め、3人の裁判官が死刑以外の量刑、たとえば無期懲役を選んだ場合には、死刑判決を下すことはできません。
【参考】
評決にあたっては、構成裁判官及び裁判員の双方を含む過半数の賛成を必要とする。
裁判員法67条1項
少なくとも一人の裁判官が、死刑への評決に加わる必要が明記されています。
このことを考慮しても、裁判長の、控訴勧誘発言は、納得できません。
マスコミでは、裁判員の究極の心労を察し、裁判員に逃げ道を与えたかのような報道があります。
しかし、それは、違います。
裁判長発言は、裁判員制度の否定につながるのです。
裁判員が、心労の上、決断した結論を軽視するばかりか、司法制度を否定することになるのです。
被告に対する中途半端な説明は、覚悟を決めた被告自身にも、悪影響を与えます。
弁護士法人 川原総合法律事務所
弁護士 川 原 俊 明
ホームページ http://www.e-bengo.com
検察官が、論告という意見陳述の場面において、「この被告に死刑を言い渡さないで、この国で、誰を死刑にするというのか」とまで、言わせたくらいに、残忍な殺人事件でした。
それだけに、裁判員の方々も、大変な役割を背負わされたものと、お察し申し上げます。
ただ、私には、裁判長の判決言渡しにあたり、気になることがあります。
マスコミ報道によると、判決言渡し後、裁判長が、「被告に控訴を勧めた」、というのです。
もちろん、刑事裁判では、有罪判決言渡しの後、被告に対し、「この判決は、有罪判決なので、14日以内に控訴できる」ことを、必ず伝えています。
しかし、裁判所は、十分に審理した結果、これが間違いのない正しい結論だという前提のもとに判決を言い渡すのです。
ただ、三審制をとる日本の裁判制度を前提に、異議申立の機会を被告に伝えているに過ぎません。
ところが、今回のように、裁判長が、被告に控訴を勧めた、というのは、もってのほかです。
他の刑事事件でみても、どこの裁判長が、自分の言い渡した判決に対し、控訴を勧めてくれますか。
聞いたことがありません。
裁判長は、当該刑事事件で、十分に審理を尽くして、死刑判決が、間違いのないものとして、言い渡しをしたのではなかったのですか。
自分の判断が間違っているなら、もともと、死刑判決を読み上げるべきではありません。
仮に、裁判長の発言に、「裁判員の意見が、死刑の方向に多く流れているから、やむを得ず死刑判決にしたので、控訴しなさいよ」、という趣旨が含まれるならば、その裁判官は、裁判員制度そのものを軽視したことになります。
裁判員制度のもとでの判決内容は、当該事件では、それがすべてなのです。
もともと、裁判員制度は、民意を、裁判に生かす、という趣旨であったはずです。
民主主義の国家では、民意を最大限に尊重すべきことが、大切なことです。
もちろん、いまの裁判員制度でも、6人の裁判員が、死刑を求め、3人の裁判官が死刑以外の量刑、たとえば無期懲役を選んだ場合には、死刑判決を下すことはできません。
【参考】
評決にあたっては、構成裁判官及び裁判員の双方を含む過半数の賛成を必要とする。
裁判員法67条1項
少なくとも一人の裁判官が、死刑への評決に加わる必要が明記されています。
このことを考慮しても、裁判長の、控訴勧誘発言は、納得できません。
マスコミでは、裁判員の究極の心労を察し、裁判員に逃げ道を与えたかのような報道があります。
しかし、それは、違います。
裁判長発言は、裁判員制度の否定につながるのです。
裁判員が、心労の上、決断した結論を軽視するばかりか、司法制度を否定することになるのです。
被告に対する中途半端な説明は、覚悟を決めた被告自身にも、悪影響を与えます。
弁護士法人 川原総合法律事務所
弁護士 川 原 俊 明
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