弁護士川原俊明のブログ

川原総合法律事務所の弁護士活動日記

法律上の父親と血縁上の父親

2017-08-07 12:39:21 | 相続
民法772条1項では「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と規定され、
婚姻中に妊娠した子について、その父親は夫であると法的な推定がはたらくことになります。
一方で、過去の判例によると、妻の懐胎期間が、事実上の離婚や夫が遠隔地にいる場合
(夫の収監や海外赴任等)など夫婦間の性交渉がおよそあり得ない場合には、
法律上の推定がはたらかないと考えられています。

夫の子であると法律上推定される場合、父子間の親子関係を否定するためには、
夫が子の出生を知ったときから1年以内に家庭裁判所に「嫡出否認の訴え」を提起しなければなりません。
一方で、法律上の推定がはたらかない場合には、父子間の親子関係を否定するためには、
「親子関係不存在の訴え」を提起する必要がありますが、これは基本的には誰からでもいつでも提起することができます。

今回ご紹介する事例においては、妻が婚姻期間中に夫以外の男性の子を妊娠してしまったけれど、
夫婦間で性交渉はおよそあり得ないとはいえない場合で、かつ、夫も自分の子ではないことを認識して、
1年以上がたってしまいました。
その後、夫婦は離婚し、その後子から夫(父)に対して「親子関係不存在の訴え」が提起されました。
このとき、DNA鑑定によると、この夫以外の男性が子の生物学上父親である確率は、99.99……%でした。

しかし、最高裁は、この事案において、「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが
科学的証拠により明らかであり、……という事情があっても、
子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、
……親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない」としています。
つまり、仮にDNA鑑定で99%父子関係はないとしても、法律上の父子関係が推定される場合には、
父親が子の出生を知ったときから1年以内に「嫡出否認の訴え」を提起するしか、
親子関係を否定する方法はないというのである。

確かに、DNA鑑定が法律に優先するとしたら、
いたるところで親子関係を確認するためにDNA鑑定が行われる等の事態となってしまうかもしれません。
しかし、自分の父親が誰であるかという重要な事実を確定させるために、
DNA鑑定を行っても法的な推定を破れないとするのは、子どもにとっては重大なことです。

法的な安定、生物学的な根拠、みなさんはどちらを優先すべきだと思いますか。


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相続前サポート

2016-07-07 17:31:46 | 相続
相続は被相続人が亡くなってから。
そう思っていませんか?

結論としまして、
それでは遅いと言わざるを得ません。
この場合、遺産分割で揉めてしまうことが
非常に多いといえるでしょう。
(相続は「争続」とよく揶揄されます。)

相続前にできる相続サポートをすることにより、
紛争の未然防止に役立つことになります。

具体的にはどのようなことをしておくべきでしょうか。

①相続人調査
亡くなってから行うことが多いですが、
事前に行っておくことも有用です。
問題を提起してきそうな人物を抽出したり、
未然に合意書を交わすことなど、
相続人調査を行うことで可能となります。

②相続財産調査
資産の管理については、
わかっている部分につきましては、
ある程度まとめておいた方が良いでしょう。
どの不動産や動産(物)に価値があって、
実際に揉める可能性があるのかなど、
ある程度、把握しておけば問題の未然防止になります。

③公正証書の作成
これを一番オススメする理由は、
問題を未然に防止することが目的です。
後々の問題を「法的に」予防することが
可能です。
揉めそうな動産・不動産について
被相続人を含め、
相続人間で決めておけば、
紛争の防止に役立ちます。

以上①、②、③は
弁護士でなければなかなか出来ることではありません。

相続前にでも、
弁護士が入るメリットが多いという点を
ご理解いただければ幸いです。



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自筆証書遺言の要件

2012-09-21 14:22:16 | 相続
 民法第968条第1項には、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」とあります。最近は、多くの人がパソコンを使う時代ですが、遺言は厳格な自書性を要求しています。
人生最後の意思は、きちんと自分で書いて残すべき、そして偽造を防ぐ必要性が大きいこともその理由の一つです。
 しかし、たとえば、脳卒中の後遺症を抱えており、手がひどく震え、加えて視力も大きく減退しているため、字がひどくねじれたり、震えたり、次の字と重なったりする状況にある人の場合、どうでしょうか。
 きちんと字が書けないと遺言ができないというのは、あまりに酷です。
 そこで、一定の場合には、他人が添え手により補助したとしても、自書の要件を欠かないと考えられています。すなわち、裁判例では、「添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、『自書』の要件を充たすもの」と考えられています。
 もちろん総合判断にはなりますが、遺言者のこれまでの意思、遺言者と受遺者の関係、遺言者と添え手をした者の関係など、遺言書に書かれた筆跡から、他人の意思が介入していないかを慎重に判断する必要がありますね。



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遺産分割の疑問点

2012-07-25 09:43:12 | 相続
 人が亡くなると、亡くなった人(=被相続人)の財産は、遺産となります。相続人が複数いて、遺産が共有となっている場合には、相続人間で遺産を分配し、各相続人の単独財産にする手続が行われます。これが、遺産分割です。
 ところで、人は、財産だけでなく、同時に借金を抱えていることがままあります。このような借金(=債務)は、遺産分割の対象となるのでしょうか。
この点、遺産分割は、積極財産(プラスの財産)について、分割を行うものです。したがって、債務は、遺産分割の対象にはなりません。
とすると、被相続人に対し、債権をもっていた債権者は、誰にも請求できなくなってしまうのでしょうか。
 いいえ、そんなことはありません。債務は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継します。したがって、債権者は、各相続人に請求していけばよいのです。
・・・とは言っても、実際には、相続人が全国各地に散らばっていたり、相続人に大した資力がなかったりして、回収は容易ではないかもしれませんね・・・。

被相続人死亡後の果実は、遺産か?

2012-06-05 13:15:16 | 相続
 例えば、被相続人が、生前、所有する建物を第三者に貸していた場合、被相続人死亡後も月々賃料収入があるわけですが、被相続人が死亡し、いざ遺産分割する際に、当該賃料は遺産分割の対象となるでしょうか?
 この点、判例は「遺産は、…相続開始時に被相続人に帰属していた財産のみに限られるのは当然であり、遺産の果実である家賃収入が遺産に属しないことは、いうをまたない」と述べています(東京高決S56.5.18)。
 すなわち、当該賃料は厳密には遺産ではないことになります。したがって、理論上は、同賃料を回収した特定の相続人に対し、その他の相続人が別訴不当利得返還請求等を提起しなければならなくなります。
しかし、相続人全員が、賃料を遺産と同様に扱ってよいと同意すれば、遺産分割協議で分けることは構いません。
また、遺産分割とは別に民事訴訟をすれば、時間と労力がかかり、紛争の一回的解決にも反しますので、実務では、銀行預金についた利息などは例外なく分割の対象として扱っています。
 結論としては、当該果実が遺産分割の対象となるかは、当該果実の種類等によりケースバイケースということになります。
 ただ、法定果実が必ずしも遺産分割の対象となるとは限らないことは覚えておいて下さい。