弁護士川原俊明のブログ

川原総合法律事務所の弁護士活動日記

交通事故とPTSDについて

2012-11-05 17:36:23 | 交通事故
 交通事故の被害者が、その後の後遺症に悩まされるケースとして、PTSDというものがあります。
最近では聞き慣れない言葉でもなくなりましたが、原則として、外傷体験があって、6ヶ月以内に発症するということが基準となっています。
もっとも、PTSDは、「心の傷」であり、被害者のパーソナリティの影響を大きく受けるものです。
 そのため、被害者の方それぞれの性格によっても異なるでしょうから、画一的に判断することが難しいといえます。被害者の方の状況をしっかりと踏まえ、その症状をしっかりと反映した形で後遺症として認定してもらう必要があります。
 また、PTSDを心因性減額の対象とすべきか、素因減額の問題もあります。
素因減額とは、被害者側に損害が拡大する要因が認められる場合、損害の公平な負担という見地から、損害賠償額の減額が認められるというものです。
素因減額を肯定する見解もありますが、交通事故によって初めて発症するものであり、被害者本人の持つ既往症などとは一線を画すべきとして、素因減額につき、否定的な立場を取る考えもあります。
 この点は、今後の判例の蓄積を待つとともに、わたしたちもPTSDの研究等、今後の立証活動に尽力する必要がありますね。


弁護士法人 川原総合法律事務所   
弁護士 川 原 俊 明 
ホームページ http://www.e-bengo.com

PTSDの認定要件

2012-07-31 11:21:50 | 交通事故
 PTSDとは、心的外傷後ストレス障害と訳され、非現実的な現実(生命・身体に対する予想外の危険をもたらす事故等)に遭遇したことによって、心に衝撃的な傷を負い、これがもとで後に様々な障害を生じるものです。
一般的に言われる要件は、以下のようなものがあります。


1 自己又は他人が死ぬ又は重傷を負うような出来事を体験・目撃した。
2 その出来事が反復的に想起される(フラッシュバック、悪夢など)。
3 回避(その出来事と関連したことを避ける)。
4 以前には見られなかった以下の症状が現れる。
 ア 重要な活動への関心の低下
 イ 感情の範囲の縮小(愛情を持つことができないなど)
 ウ 未来が短縮した感覚(早死にしそうな気がする等)
 エ 覚醒亢進・易刺激性(リラックスしない)
 オ 集中困難
 カ 過度の警戒心
 キ 過度の驚愕反応
5 2~4が、1から、1か月後~6か月以内に生じていること。


 同じ体験・目撃をした場合でも、PTSDになるか否かは、個人によって、差があります。また、上記の症状も、代表的なものにすぎないので、1のような体験をして、「事故前と比べて何か変わった、変だ。」と感じたら、専門医の診断を受けることが重要です。
 さらに、自分で気づくことは難しい場合もあるので、家族等周りの人が注意することも重要です。



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自賠責保険の適用範囲

2012-05-15 17:00:05 | 交通事故

 自賠責保険は、運行の用に供する自動車について、加入が強制されている保険です。
 交通事故が多発する昨今、事故の相手方が任意保険に加入していない場合や加入していても保険の適用のない場合があります。
 その場合に、事故の被害者に最低限の損害を填補するためのものが自賠責保険です。
 自賠責保険では、自動車損害賠償保障法施行令によって定められている金額の支払いがなされ、その請求は、被害者自身も出来ますし、加害者の保険会社を通じて他の賠償金と併せて行うことも出来ます。
 保険金のうち、傷害による損害に対する保険金として上限が120万円と決まっているために、損害額がそれ以上になる場合には、加害者に直接請求する必要があります(但し、後遺症に関する損害などは別途規定に基づき支払われます)。
 但し、物損のみの事故には自賠責保険の適用はないので、注意が必要です。
 なお、タクシーに乗っていて衝突事故になった場合には、タクシーの運転者と衝突した加害車両と両方の自賠責保険を使って請求が出来ますので、傷害による損害に対する保険金の上限が240万円となり、ちょっと安心です(加害車両が2台であっても同じです)。
以上 


自由診療か保険診療か

2012-04-10 16:14:15 | 交通事故
 健康保険を使用して治療を受けることを「保険診療」、使用しないで治療を受けることを「自由診療」といいます。
 診療報酬については、一般的に、保険診療の場合は医療点数単価が1点10円で計算されるのに対して、自由診療の場合は単価の設定が自由なので、1点20円で計算されることもあります。
 被害者としては、治療について自由診療によるか、健康保険を使うかはまったく自由です。
 病院によっては、交通事故での受傷の治療の場合、健康保険の使用を拒否するところもありますが、これは正当な理由のないものです。
 保険診療のメリットとしては、相手方が任意保険に加入していなくて、自賠責保険のみに加入している場合は、健康保険を利用すれば一般的に治療費が安くなり、自賠責保険の傷害部分の上限額である120万円を使いきることなく、他の損害をカバーすることができます。
 また、相手方が任意保険に加入している場合でも、こちら側にも過失がある場合は、過失相殺により治療費について過失割合相当分の負担が生じますが、その金額が低額になり、保険診療の方が有利です。
 保険診療のデメリットとしては、所轄の社会保険事務所宛に第三者行為による傷病届を提出する義務があるほか、示談を勝手にしないという念書等の提出も求められるため、煩雑であることが挙げられます。
 以上を前提に、自由診療か保険診療かという問いに回答するならば、原則として保険診療の方が有利ではありますが、①自分に過失がないこと、②120万円の範囲ですべての損害がカバーできることの条件が整えば、自由診療の方が手続きが簡明である分、有利であるということになるでしょう。


交通事故とむち打ち症について

2012-03-14 10:07:43 | 交通事故
交通事故の被害者が、その後の後遺症に悩まされるケースとして、むち打ち症というものがあります。むち打ち症は、頚椎捻挫、頚部挫傷、頚部外傷、外傷性頚部症候群など様々な傷病名で呼ばれ、いくつかの分類があります。
そして、交通事故との関係では、症状固定時期や後遺障害の有無・等級をめぐって問題になることがあります。
被害者の方が交通事故後、むち打ち症に苦しんでいても、他覚所見がない場合、受傷後6か月を過ぎると、保険会社は症状固定になったとして、治療費の打ち切りを告げてくることがあります。また、等級認定にあたって後遺症として評価されない可能性があります。
しかし、被害者の方にとっては、むち打ち症で苦しんでいる場合、少しでも不安を解消して欲しい、慰謝して欲しいと思うはずです。
私たちとしては、被害者の方には、レントゲンやCT、MRIなどの画像診断やスパークリングテスト、ジャクソンテストなどを行っているか確認し、自覚症状だけでなく客観的側面から、その損害算定の資料収集に努めるとともに、少しでも被害者の不安や苦労が慰謝されるよう、努力することが大切だと思います。