十四行詩 11番

2016年10月20日 | 十四行詩






十四行詩     十一番




Esperanza
消えた?
ロンドンで消えた
どこへ消えた?

Esperanza
インドであなたと恋に落ちたHはいま
こころの病に倒れてゐるよ あなたを
探さなければならない 地球から

Esperanza 気づかい 理解 忍耐
すぐれた知性には善意のあることが 
あなたを見ているとよくわかる

Esperanza
それはスペイン語で
希望を意味する






ソネット 10番

2016年10月17日 | 十四行詩






ソネット 10番




テーブルクロスの
わたしのところを拭くと
いつもフキンが
黄色くなる と妻が怒る

思いあたる節はない いや どの節だったかが
思いあたらない
卵だったか 芥子だったか
はたまた きのうの南瓜スープだったか

金木犀の風は北窓から入り
南へ抜けてゆく
その日の加減で

南から入ることもある
ひかりの香る風は
テーブルクロスを草原のように吹き抜けてゆく







Sonnet 9

2016年10月17日 | 十四行詩






Sonnet 9




There are many things
Unable to write with words.
Nevertheless it
Certainly was.

Turning words over,
They would be
Surely
Simply white.

I’ve written it
With a turned-over word in an invisible dairy.
In this far moment

I feel called it by someone.
Who killed me; I remember mysteriously
A feeling of his hands.







ソネット 9番

2016年10月13日 | 十四行詩






ソネット 9番




文字
には   できないことがある
できないけれど    それは
たしかに存在してゐた

文字を裏返して
使うと
きっと
あっけないくらい まっしろだろう

見えない日記に
裏返した文字で それ と書いてみる
遠い 遠い いま

だれかに その名で呼ばれた気がする 
だれに殺されたのか 不思議に 手の
感触を憶えてゐる







ソネット 8番

2016年10月09日 | 十四行詩






ソネット 8番




手、手、 と家内が言う ア、そうか、
夕日ヶ浦の海に落日が金色の道をつけた、
九月二十三日、午後六時前
そういうもんなのか そういうもんなのだろう

数年ぶりに手をつないで大きな夕日を見た
大海の落日を前にすると 
不思議にそれが あたりまえの気がした
ひとのいろいろは ひと色のいのち なのかもしれない

二人で旅行するのは三回目
放射能別居が解消されてから、はじめて、
丹後は 海から秋が来る

手、手、
四千年の、落日、わたしの感触、家内の感触、
消える、消える、   波の音







Sonnet 7

2016年10月09日 | 十四行詩






sonnet 7




autumn rain, hurricane lilies―
sounds
sometime
vanish, sometime come.

life comes in sounds
leaves outside sounds.
i heard red sounds,
red sounds outside sounds

from no ears
from no breast
from no tongue.

autumn rain
floating in the air
between the heaven and the earth.







ソネット 7番

2016年10月05日 | 十四行詩






ソネット 7番




秋の雨 曼珠沙華
音 
ときに
消え ときに 現れる

いのちは 音の中に生まれ
音の外へ去る
紅い音がする
紅い音が 音の外で

ない 耳の中から
ない 胸の奥から
ない 舌のあたりから 

秋雨は
天地のあはひを
烟ってゐる






ソネット 6番

2016年10月05日 | 十四行詩






ソネット 6番




死んだ人は存在する
駿河台記念館の教壇に
俳句文学館のパイプ椅子に
失禁したベッドの中に

石塚先生も
清水さんも
京子叔母さんも そこで待ってゐる
俺がくっきりと人になるのを

元荒川は
きのうの颱風で
溢れそうだ

溢れそうだよ
俺の心も 
死んだ人を思うと






ソネット 5番

2016年10月05日 | 十四行詩






ソネット 5番




位牌の人の言葉が
稲妻のようにわかる夜がある
父や叔父や祖母や叔母さんの
聲また聲

みんな
若くて 顔に張りがある
表情の翳りも いまはよくわかる
子どものわたしは笑ってゐる


おわった ひとつの家族が
おわった
ひとつの痛苦が

わかった(気がする) どこから来たのか
わかった(気がする) どこへ行くのか 
父と叔父が九月の道に出てゐる






ソネット 4番

2016年10月05日 | 十四行詩






ソネット 4番





忘れられないのは
   怠惰だから
忘れてしまうのは
   希望だから

ファミマの前の
舗道で
中年男が 胃液を
吐いてゐる

あさが
ここから
はじまる

うたわれない
うたが
はじまる






ソネット 3番

2016年09月19日 | 十四行詩






ソネット 3番




みだりに みどり
鴉 鴉 
高砂の
本    能オオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーー

The real problem is
That capitalism has become associated with high finance, rather
than the heroic entrepreneurship of
Thomas Edison, whose inventions still surround us.

―――ォォォォオオオオオ めでたい
腰の
くびれ 黒き 小尻

電信柱の
繊細さ
ローンの広告はふかみどり








ソネット 2番

2016年09月19日 | 十四行詩






ソネット 2番



いなくなる いなくなる
いなくなる ひと
ひとりで はじまり
ひとりで おわり


こどもたち 踏切の音
夕日の街 
い なくなる

なくなる 
いつか
秋の木の上
きのうの そら

椋鳥の集まっては
散ってゆく
大鉄塔の陽気な聲







ソネット 1番

2016年09月19日 | 十四行詩






ソネット 1番



あさ
目玉焼きか
ゆで卵か
妻が聞く

きょうは
目玉焼きの気分
胡椒を
ふりたい気分

そらは
秋の雲
しづかすぎる

古代文字の
月の中には 
一つの点があった そうな








SHILOH A Requiem(1862)

2016年07月03日 | Herman Merville






SHILOH
A Requiem
(April 1862) HERMAN MELVILLE



Skimming lightly, wheeling still,
The swallows fly low
Over the field in clouded days,
The forest-field of Shiloh―
Over the field where April rain
Solaced the parched one stretched in pain
Through the pause of night
That followed the Sunday fight
Around the church of Shiloh―
The church so lone, the log-built one,
That echoed to many a parting groan
And natural prayer
Of dying foemen mingled there―
Foemen at morn, but friends at eve―
Fame or country least their care:
(What like a bullet can undeceive!)
But now they lie low,
While over them the swallows skim
And all is hushed at Shiloh.



シロー
レクイエム(1862年4月)

ハーマン・メルヴィル(1819-1891)




ツバメが低く飛ぶ
かろやかに地をかすめ 音もなく空を旋回する
曇った平原を
シローの森の平原を

春の雨が
喉をからからにして
痛みに呻く者を潤した
シローの教会の
日曜の戦闘が止んだあとの
夜の休戦

教会のまわりには何もない 丸太の教会
そちこちで
死に際のうめき声
おのずから祈りのことば
そこには、死にかかった敵もまじっている
朝には敵 夕べには友

名声も国家も何の役にも立たない
(銃弾ほど迷妄を覚ますものがあろうか!)
いまや 人々は倒れている
その上をツバメがかすめ
すべては静まり返っている シローで






Selected Poems (Melville, Herman) (Penguin Classics)
クリエーター情報なし
Penguin Classics
















kein ort aber krähengelächter(4)

2016年07月03日 | Romie Lie






vogelschrift
angetrieben von erdkraft

landschaften
der luftspiele

eingezeichnet darin
fährten zu den orten
ohne gewicht

„kein ort aber krähengelächter“ von romie lie (2015)





鳥文字が
大地のちからで流れてゆく

大気の遊びで
風景ができあがる

そこに描かれたのは
その場所へ向かう軌跡
重さのないその場所へ

ロミー・リー『どこでもない場所 だが鴉が笑う』