21世紀 脱原発 市民ウォーク in 滋賀

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能登半島地震により 原子力防災計画の欠陥と 志賀原発(北陸電力)のリスクが露呈

2024-04-09 21:23:19 | 記事
《第120回 脱原発 市民ウォーク in 滋賀のご案内》

2月と3月は県内で原発問題に関する大きな集会などがあったため
脱原発市民ウォークは休止させていたがきましたが、
次回の脱原発市民ウォークを4月13日(土)に行います
(13時半JR膳所駅前広場)。

どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
都合のつく方はぜひ足をお運びください。


能登半島地震により原子力防災計画の欠陥と志賀原発(北陸電力)のリスクが露呈
確かな実効性を有する原子力防災計画を伴っていない原発は稼働させてはならない


朝日新聞が毎年行っている世論調査によれば、東電福島第一原発の事故後から2022年までは原発の再稼働に反対する市民の方が賛成する市民よりも多かったのですが、昨2023年、ついに賛成する市民が反対する市民を上回ってしまいました。このような状況は2021年10月に発足した岸田政権が原発への依存度を最小限に留めるとする福島原発事故後の原発政策を大きく転換したこと、特に昨年、原発関連法規を一挙に改正し原発推進の方針を鮮明にしたことの影響によるものではないかと考えられます。


朝日新聞2024年2月20日

しかしながら、今年の1月1日に起きた能登半島北部に位置する玖珠市を震源とした能登半島地震は、このような原発容認・推進の動きに冷水を浴びせるものとなりました。すなわち、震源地からおよそ60キロ離れた能登半島の南部に位置している志賀(しか)町に志賀原発が立地されていますが、この地震により能登半島一円の道路が寸断され、集落が孤立したり、広範囲に家屋やビルなどが倒壊したりしたため、住民が短時間のうちに避難できなかったり退避する場所がないなどの状態が続出しました。幸い震源地となった玖珠市には原発が立地されていないため(かつて立地計画がありましたが住民の強い反対により計画は放棄されました)原発事故という大事に至りませんでしたが、大きな地震が起きた際しれこのような能登地震によりもたらされたの同様の事態が原発が立地されている地域やその近辺の地域で生じたならば、住民が短時間のうちに安全に避難することも頑丈な建物内に退避することもできないという極めて危険な状態に陥りかねないということが明らかになりました。このことは国(原子力規制委員会)が「原子力災害対策指針」において、原発事故により外部に放射性物質が拡散される状態に至った場合は迅速に「避難」あるいは「屋内退避」を行うと決めているにもかかわらず、大きな地震が起きたならば実際には避難も屋内退避もできない事態が生じかねないこと、すなわち国の現行の原子力災害対策指針は極めて実効性に欠けるものであり原発で大事故が起きても住民の安全を守り得ないものであることを意味しているということができます。

一方、志賀原発は震源(能登半島の北端にある玖珠市)から約60キロ離れた地点に位置しており、大事には至らなかったとはいえ、原発の施設は様々な無視することができない深刻なトラブルに見舞われ、自然災害に起因した原発のリスクが露呈するに至り、あらためて原発そのものの安全対策が脆弱で不完全なものであることが明らかになりました。
上記のように、このたびの能登半島地震により、原発施設そのものの安全性だけではなく、住民の生命に直接関わる国の原子力防災対策に大きな問題点、致命的な欠陥が存在することが極めて鮮明になりました。このため、原発の安全性という原発問題との関連において、このたびの能登半島地震が意味している事柄を考えるために、以下に能登半島地震による被害がどのようなものであったか、その全容の概要を説明し、次いで能登半島に立地されている志賀(しか)原発において地震により生じた様々なトラブルの実態、原子力防災の法的背景、能登半島地震により明らかになった国の原子力災害対策(注:この用語は「原子力防災計画」と同義です)の欠陥、原発が立地されている自治体により策定される原発力災害対策の問題点、能登半島地震を踏まえての原子力災害対策に関する国・原子力規制委員会の姿勢・方針とその問題点などについて、わかる範囲で以下に説明いたします。

【能登半島地震の被災の全容について】

地震の発生は1月1日午後4時10分ごろでした。震源は石川県能登地方の玖珠(くす)市内、震源の深さは16キロ、地震の規模を示すマグニチュード(=地下における地震の規模)は7.6でした。阪神・淡路大震災を起こした地震や熊本地震のマグニチュードは7.3でしたから、それよりも大きな規模の地震であり、半島北部を中心に最大震度(地震動=地震に際しての地面の揺れの大きさ)が7の激しい揺れと津波、さらに地面が隆起するなどの地殻変動により、大災害が生じました。地震波形の分析の結果、木造家屋に大きなダメージを与える周期1~2秒の揺れが強かったことがわかっており、専門家は「阪神・淡路大震災を引き起こした地震に匹敵する」としています。これまで、2007年にマグニチュード6.8の新潟県中越沖地震が柏崎苅羽原発に大きな被害をもたらしており、また2011年3月には東日本大震災に際して東電福島第一原発の大事故をもたらした東北地方太平洋岸大地震(マグニチュード9.0)が起きていますが、これらの三つの一連の大地震は大自然による段階的警告であるというべきかもしれません。

能登半島地震による被災の状況の概要は以下のようなものです。

火事による家屋の焼失:最大震度7の揺れで多くの建物に倒壊するなどの被害が出ました。ビルも倒壊したほか、津波の危険がある中で断水するという事態が生じたために消火が遅れ、輪島市などでは大規模な火災も発生しており、専門家の調査では、火災の発生率は東日本大震災を上回っていたことが分かっています。輪島市と玖珠市の中心部では少なくとも3割の建物が全壊したとされています。

孤立状態に置かれた住民:道路が寸断されたために孤立状態に置かれた住民は1月8日の時点では3300人あまりに達していました。その後、孤立状態は解消されたものの、道路の状態などが不安定だとして引き続き支援が必要な「要支援集落」が数多く存在しています。

死者:1月19日の時点であわせて232人の死亡が確認されています(3月半ばの時点では244人。半島北部の輪島市が98人、玖珠市が99人で最大)。また、重軽傷者は1月19日の時点で、あわせて1061人が確認されています。
住宅の被害:全壊、半壊、一部損壊の被害を受けた住宅の数は、1月19日の時点で、石川県内では少なくとも2万9885棟が確認されおり、七尾市(原発が立地されている志賀町の東部)が7949棟と最も多くなっています。3月末の時点で全壊被害は8420棟に達しています。また、石川県によると2月5日現在、5万2000棟あまりの住宅が損壊しているとされています。


「能登半島地震 被害の全体像は 復旧は いまわかっていること 人的被害 住宅被害 避難 断水 停電【19日】 NHK 令和6年能登半島地震」より引用


避難者数:1月1日~10日ごろまでは最大で約3万4000人に達していましたが、1月19日現在、石川県内の市や町が設ける避難所では、あわせて1万3934人が避難生活を余儀なくされおり、3月末の時点でまだ8100人が避難しています。災害関連死を防ぐとともに、当面の落ち着いた生活環境を確保するため、ホテルや旅館などに移ってもらう「2次避難」は1月10日以降増え続けていますが、1月19日の時点で、県が確保した3万人分に対して2075人にとどまっています。

断水状態:厳しい状況が続いています。1月19日の時点で、合わせておよそ4万9990戸で断水が続いています。七尾市、輪島市、志賀町、能登町、珠洲市、穴水町では火災以降、ほぼ全域で断水が続いていました。3月末の時点では、玖珠市ではまだほぼ全域でまだ断水が続いています。

停電状態:1月19日の時点でおよそ7500戸が停電となっています。全体として減少傾向となっていますが、輪島市ではピーク時の約半数で停電が続くなど、依然、各地で厳しい状況が続いています。

道路の寸断:1月8日付け日経デジタル版によれば《国土交通省や石川県などによると、発生7日目の1月7日時点で「能登半島の大動脈」とされる国道249号は少なくとも25カ所で土砂崩れや道路陥没など、35路線83カ所が復旧されていません。不通となった道路には緊急道路も多く含まれていた》とされています。

この他に津波による被害(津波の高さは3メートル程度であったとされており、津波による浸水の被害が生じています)や海中の地盤が大きく隆起したために(最大でおよそ4メートル)漁港が使えなくなるなどの被害が生じています。また、通信インフラが被害を受け、非常時に携帯電話(スマホ)で通信ができないなどの障害が発生していたとされています。
(以上の各種の被害に関する数値は主に1月19日付けの上記のNHKのレポートにおけるものです)


【能登半島地震により生じた志賀原発のトラブルについて】

能登半島地震の震源地となった能登半島の先端に位置する玖珠市にはかつて「玖珠原発」の建設が計画されたことがありますが住民運動により計画は放棄されました。しかし、前述のように玖珠市から約60キロ隔てた地点に北陸電力の志賀原発が立地されており、緊急時に住民の避難あるいは屋内退避が必要とされる半径30㎞圏内にはおよそ6万世帯、約15万人が住んでいます。能登半島地震が起きた時には、1号機も2号機も運転を休止していました。しかし、地震の直撃は免れたものの、発電施設に様々なトラブルが発生していました。このため原子力規制委員会は1月10日に、再稼働に向けて現在審査中の2号機に関して、このたびの地震の知見を収集するように規制員会の事務局である原子力規制庁に指示しています。

能登半島地震による志賀原発への主な影響(トラブル)の内容

能登半島地震が起きた際、志賀原発の1号機も2号機も運転停止中でしたが、地震の影響・地震によるトラブルは北陸電力と原子力規制庁の資料によると以下のようなものとされています。

・1号機も2号機も、福島原発事故以前の旧原子力安全・保安院時代の揺れに関する想定をわずかに上回っていた(3月4日付の原子力資料情報室のレポートによれば、地表で震度5弱、1号炉の原子炉建屋最下階の床面で最大加速度399.3ガル(注参照)
(注:「ガル」は最大加速度のことで、地震の揺れの強さを表すのに用いる加速度の単位。「加速度」とは単位時間あたりの速度の変化率のこと)

・1号機の使用済み燃料プールの冷却ポンプが地震後に約40分間停止。672体ある使用済み核燃料を冷やすことができない状態になったが、プールの水温の上昇はなかった。

・1号機も2号機も、外部電源を受ける位置の変圧器が故障。別系統の外部電源からの受電に切り替ええた。2万リットル以上の油が漏れた。

・原発敷地前の海面で油膜の存在が確認された。2号機の変圧器から漏れ出た油が側溝を経て海へ流出した可能性が大きい。

・1号機で約95リットル、2号機で約326リットルの水が燃料プールからこぼれた。放射能の総量は約1万7000ベクレルと4600ベクレルであったが、外部への影響はなかったとされている。

・海側に設置されている波高計などから、高さ4メートルの津波が確認された。原発の敷地は標高11メートルであり、影響はなかったとされている。

・津波対策として、海水を引き込んでいる水槽の周囲に設けた高さ4メートルの防潮壁の一部が数センチ傾いた。

・1号機の原子炉建屋近くで道路の段差が生じていた。

・モニタリングポストのトラブル:これらのトラブルの外に、地震後、原発敷地外の周囲の区域に設置されていた放射線量を測定するモニタリングポスト116カ所のうち、主に北側15キロ以遠の18カ所で測定できない状態になっていたことが明らかになっています。
なお、北陸電力は3月25日に、志賀原発の敷地内を調査した結果、地震前と比べ平均4センチの地盤沈下を確認したと発表しましたが、記者会見で「変動は小さく(安全確保に)影響はない」としていました。

 震源から約60キロほど離れた地点において、震度5弱程度の揺れでこのような様々な影響やトラブルが生じていたのですから、このたびの地震が志賀原発により近接した地点を震源としていたならば、より重大な深刻なトラブルが生じ、ひいては大事故に至っていた可能性があるのではないかと考えられます。
(上記の志賀原発における各種のトラブルに関しては、原子力資料情報室の4月3日付のレポート「能登半島地震で志賀原発では何が起きているのか | 原子力資料情報室(CNIC)」がより詳細にその内容と問題点を報じています)。

【原子力防災問題:原子力防災計画の法的背景と懸念されるその実効性について】

このたびの能登半島地震による被害の概要と能登半島の志賀町に立地されている北陸電力志賀原発における地震に起因していたと考えられるトラブルの概要は以上のとおりですが、この地震に際して、被害の大きさとともに大きく問題として浮上したのは、原子力防災のあり方であると言わなければなりません。すなわち、原発の敷地外に放射性物質が大量に拡散するような重大な事故が起きた場合、果たして原発周辺の住ちが、避難や退避などを行うことにより、確実に無事に難を逃れることができるのかという問題が浮上しました。各地の原発に関して、原発が立地されている自治体がそれぞれ「原子力災害対策」と称される原子力防災計画を策定しています。しかし、これまでもその実効性については疑問が持たれていたのですが、このたびの能登半島地震により半島全域で道路が寸断されたり大規模に家屋・ビルなどが倒壊したなどの事実は、原子力災害から住民を守るための最も重要な手段であり、いわゆる「多重防護」(注:5段階のレベルから成る原発敷地内と敷地外における防災対策)の最後の段階における防護手段であるところの原発敷地外における原子力防災計画の中心的な内容である「迅速な避難あるいは屋内退避」に関する計画は実効性に著しく欠けているのではないかという疑念を抱かせるものであると言わざるを得ません。たとえば、このたびの地震では志賀原発は震源である玖珠市から約60キロ離れていたため、かろうじて地震の直撃を免れた形になりましたが、震源がもっと近くであり、そのために志賀原発で放射能漏れなどの重大事故が起きていたならば、志賀原発付近の避難路の多くが寸断されていたため、避難や退避の計画を実行することができず、志賀原発周辺の住民は避難ができない状態という非常に危険な状態に陥っていたのではないか、また多くの家屋が倒壊していたために自宅などで「屋内退避」を行うことができない状態に置かれたのではないかと考えられます。

原発への賛否に関係なく、現実に原発が存在している限りは、確実な実効性を有する原子力防災計画を欠かすことができないことは自明です。この意味から、能登半島地震による被害の実態を念頭において、現行の原子力防災計画の法的枠組み、その内容と問題点、原子力防災計画に関して責任を負うべき政府の機関すなわち原子力規制委員会の方針・姿勢などについて、以下に説明を記します。

1:原子力防災計画、その法的な枠組と主な内容

《原子力災害対策特別措置法》

原発に起因した原子力災害を防ぐための基本となる法制度として、「原子力災害対策特別措置法」が制定されています。この法律は1999年9月30日に東海村のJCO(ウラン関連施設を有する企業)で臨界事故が起き、強い中性子線を浴びために日本国内で初めて事故被曝による死亡者(2名)が出たことを契機に、1999年12月27日に制定されました。この法律では、主に原子力防災に関する電力事業者の義務、非常事態が生じた場合の政府が採るべき対応、すなわち原子力緊急事態宣言の発令(注参照)、原子力災害対策本部の設置などに関する事柄が規定されていますが、原発が立地されている自治体の原子力防災計画に関する具体的な事柄は主な対象とはされていません。
(注:2011年3月に起きた東電福島第一原発事故に際して初めて原子力緊急事態宣言が発令されましたが、この宣言は事故から13年経ているものの未だに解除されていません)

《原子力災害対策指針》

 現在、原発が立地されている自治体ならびにこれらの自治体に隣接している自治体(道府県)では原子力災害対策が策定されています。これらの自治体による対策は、上記の原子力災害対策特別措置法の下で原子力規制員会が定めた「原子力災害対策指針」に基づいて策定されており、この指針において、緊急事態における原発周辺の住民に対する放射能の影響を最小限に抑えるための防護措置などが示されています。また、各地域における原子力災害対策()原子力防災計画は「災害対策基本法」により定められた地域防災対策の一部という形で、すなわち「地域防災計画原子力災害編」として、地域の事情を把握している当該の自治体により策定されることになっており、そのため国は地域防災計画原子力災害編のひな型として、原子力災害対策マニュアルを当該の自治体に提供しています。2022年4月1日現在で対象となる37道府県、140市町のすべての地域で計画は策定済みとなっているとされています。

・原子力災害対策重点区域(PAZとUPZ)
 原子力災害対策指針における最も重要な内容は、「原子力災害対策重点地域」に関する事柄です。すなわち、原発で重大なトラブルが起きてその影響が及ぶ可能性がある区域には、重点的に原子力災害に特有の対策を講じておく必要があるため、「原子力災害対策重点地域」が定められています。原子力災害対策指針では、原発からの距離に応じて以下の示す2種類の区域が定められています。

「予防的防護措置を準備する地域」(略称PAZ):原発から半径おおむね5キロの地域:原子力災害対策指針によれば、原発に異変が生じた場合、原則5キロ圏の住民は避難するとされています。

「緊急防護措置を準備する地域」(略称UPZ):原発から半径おおむね5~30kmの地域:指針によれば、この地域では住民は屋内退避でしのぎ、空間線量が一定水準に達したら避難に移行します。

国際原子力機関(IAEA:国連の保護下にある自治機関)では、PAZの範囲は3~5km、特に5kmを推奨しており、UPZに関しては5~30kmを推奨しています。これらの範囲は、放射線による影響をはじめ1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故の事例や屋内退避や避難を速やかに行うことができるかどうかなど、対策の実行可能性を踏まえて提案されたものとされています。日本の原子力災害対策指針においては、これらのIAEAによる基準を踏まえ、さらには福島第一原発の事故で実際に影響が及んだ範囲なども考慮に入れて、原子力災害対策重点地域の範囲が設定されているとされています。

PAZは事故が急速に進展する場合に、何よりも住民の放射能による影響を回避することを優先することを念頭に置いたものとされており、住民の避難、安定ヨウ素剤の服用などの予防措置を準備する区域とされています。UPZは緊急事態の時に、放射線被曝によるリスクを最小限に抑えるために、屋内退避、安定ヨウ素剤の服用などの防護措置を準備するとされています。すなわち、原発で大事故が起き放射能が原発の敷地外に拡散することが懸念される場合には、事故直後に、PAZ内の住民は避難、UPZ内の住民には屋内退避を迫られることになります。

2 原子力災害対策の実効性が明らかに疑われる具体的な事例

以上に国が規定している原子力災害対策の主な内容の説明を記しましたが、次に原子力災害対策指針に基づいて策定された防災計画の実効性が明らかに疑われる具体的な例を示します。

《能登半島地震における具体的な例》

能登半島地震では志賀原発は震源から約60キロ離れていたにもかかわらず志賀原発周辺、半径30kmの範囲内の道路は以下の図から分かるように、志賀原発付近のほとんどの道路で実際に寸断箇所が存在していたことが明らかにされました(東京新聞デジタル2024年3月11日による下記の地図を参照)。


また、2024年3月8日付の朝日新聞によれば、11の避難ルートのうち7ルートが寸断されたと報じられています。このような能登半島地震に際しての志賀原発付近の道路に関する実態を考えるならば、志賀原発で重大な事故が発生したならば、少なくとも事故発生から短時間のうちに4市4町が位置している半径30kmの地域より以遠に住民が避難することが極めて困難であることは誰の目にも明らかです。また、能登半島地震に際して震源地であった玖珠市だけでなくこれらの志賀町を含むこれら4市4町の地域においても多数の家屋・ビルなどが倒壊していたことが明らかになっており(3ページに示した地図を参照)、このため志賀原発で事故が起きて屋内退避が必要になっても、退避する場所がほとんど存在していないことになります。すなわち屋内退避は事実上、不可能に近いと言えます。

また、石川県は志賀原発で重大な事故が起きた場合に備えて、高齢者らが一時避難するための施設である「放射線防護施設」(気圧を調整して放射性物質が入り込まないようにするなどの対策が講じられている学校や体育館、病院などがこの施設に指定されている)を21カ所に設けていましたが、能登半島地震によりそのうちの6施設において損傷や異常が生じていたことが2月21日に判明していました。このため、2施設は使用に耐えないため閉鎖され、患者らは病院など別の施設に移されました。さらに、断水状態が21のすべての施設で起きていました。また、閉鎖された1施設は被曝を防ぐ機能を維持することができず、残りの5施設も地震後長期間、機能の確認ができませんでした。これらの事実は緊急時に支援を必要とする住民を守ることができない恐れがあることを意味しています。内閣府によると、全国の原発周辺には計約300の防護施設があるものとされていますが、能登半島地震による上記のような被害の大きさを考えると、各地における防護施設による避難・退避計画の実効性に疑問を持たざるを得ません(以上の放射線防護施設に関する内容は主に2024年2月21日の共同通信の記事、同3月7日の朝日デジタル版記事による)。また、前述のように、志賀原発の敷地外に設置されているモニタリングポストが一部ではあるものの地震により機能しなくなっていたことが明らかになっています。

《原発が立地されている全国の市町に共通した原発災害対策の実効性が疑われる具体的な事例》


 建設中を含む国内19における原発の30キロ圏の地域を有する自治体のうち、18道府県の計109の市町村において、地震などの災害時の緊急輸送道路が土砂崩れなどにより寸断される恐れがあることが3月8日に明らかにされています(2024年3月8日の共同通信による)。これは国交省が公開している地理情報データに基づき、道路が土砂災害警戒区域を横断しているかを共同通信が分析した結果の数字です。この値は30キロ圏に含まれる21道府県の計138の市町村の79%に当たります。土砂災害警戒区域に指定されていることが必ず土砂災害が起きることを意味しているわけではありませんが、これらの数値は、原発が立地されている市町村の大半において、原発で重大な事故が起きた際に住民の避難に大きな支障が出る恐れが多分にあることを意味しています。避難道路を事前に定める必要がある原発30キロ圏に関する調査の結果、国道や県道など109市町村で延べ500本の緊急輸送道路が警戒区域を通っていたとされています。このような状態は、多くの原発が人口密度の低い地形が険しい不便な地域に近接して立地されていることが影響しているものと考えられます。すなわち、原発のこのような立地手法そのものが実効性を有する原子力災害対策を立案することを困難にしていると言えます。

【原子力防災に関する国の姿勢:原子力防災計画の実効性が疑わるにもかかわらず、原子力災害対策指針の抜本的な見直しを行おうとしない原子力規制委員会】

以上に記したように、原発事故が起きた際に原発周辺の道路が寸断され住民が避難できない事態に陥る懸念が存在していることなど、現行の原子力災害対策指針に従って原発が立地されている自治体が策定している原子力防災計画はその実効性に大きな疑問を抱かせるものであると言わざるを得ません。このため、最近、能登原発地震を受けて原子力災害対策に疑問を呈する声があちこちで挙がっています。   

たとえば、東電は3月28日に柏崎苅羽原発(新潟県)の7号機について、4月に原子炉内に核燃料を装填することを申請することを全体に再稼働の準備を進めていますが、能登半島地震を受け、原発の事故時の防災対策をめぐって県民の不安は高まっており、このため新潟県議会は3月22日の本会議で、国に原子力災害対策指針の見直しを求める決議を、自民党も含めて、全会一致で採択しています。能登半島地震により新潟県でも液状化(注:地下水位の高い砂地盤が振動により液体状になる現象)による家屋損壊や道路の陥没が起きたことを踏まえ、意見書は「現状の原子力災害対策指針では、住民を安全に避難させることはできない」と厳しく批判しています(以上は2024年3月28日の東京新聞デジタル版による)。また、自治体からも、今回の地震後から、住民の避難や退避に関して原子力災害対策指針の見直しが必要とする声が出始めており、たとえば志賀原発が立地されている志賀町の稲岡健太郎町長は、県などによる避難訓練に言及して「海にも空にも逃げらない」と述べています(以上は2024年2月6日東京新聞デジタル版による)。一方、運転開始から40年を超える老朽化原発である関電の美浜原発3号機と高浜原発1~4号機に関する住民による運転差し止めの仮処分申請に関して、3月29日に福井地裁が却下の決定を下しましたが、住民側は能登半島地震で道路寸断や建物の倒壊が生じていた事実に基づき「地震による原発事故が起きたら、屋内退避も避難もできない」と訴える書面を提出していました。福井地裁による判決は、避難計画の実効性の判断には踏み込みませんでしたが、弁護団は「機能しない避難計画しかなくても稼働を認めるとする決定は、救命ボートを備えていない船舶に航行することを認めて住民を見捨てるものだ」と批判しています(以上は3月30日付け朝日新聞による)。

しかしながら、原子力規制員会が策定した原子力災害対策指針の実効性に関して上記のような疑問が呈されているものの、原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月17日の会見で「能登半島地震の状況を踏まえると、現在の原子力災害対策指針で不十分であったかというと、そうではない」としており、また1月31日の会見では「自然災害に対する防災に関しては、見直しが必要な部分があるだろうと思うが、自然災害への対策は、原発災害対策指針そのものの話ではない。原子力災害対そのものを見直さないといけないとは考えていない」と述べ、指針の本格的見直しではなく指針の微修正に留める考えであることを示していました。

その後2月14日の定例会合で、指針の見直しについて、原発の事故時に被ばくを避けるための住民の退避の手法(屋内退避を続ける日数や退避解除の判断基準など、現行の指針に明記されていない詳細な条件)に限定して議論するという方針を、5人の委員の全員一致で決めています。すなわち、能登半島地震に際して家屋の倒壊や道路の寸断が多発し屋内退避や避難が困難であることが判明したにもかかわらず、それらの課題を対象にせず、指針の細部に関する検討を行うことに決定しました。同日の会見で山中委員長は「家屋の倒壊や避難ルートの寸断などの問題は原発が立地されている自治体側の検討課題である」と強調し、「自然災害への対応は我々の範疇外」と繰り返し述べ、「(原発の事故時に)屋内退避ができるという前提で今後議論するのか」という質問に対して「そのような考え方で結構」と答えています。

このような避難や退避の可能性の有無やその程度に関しては議論しないという山中委員長の態度は、原発が立地されている自治体が策定するオフサイト(原発敷地外)における避難計画などの対策は規制委員会による審査の対象外であり、規制委員会は自治体による原発災害対策に関しては、その策定に際して助言を行うなど限定的な役割しか担っていないという考え方に由来したものではないかと考えられます。また、このような考え方の背景には、本格的に原子力災害対策指針の見直しを行ったならば、すなわち住民の避難や退避の可能性という問題も視野に入れて検討を行ったならば、原発が立地されている各自治体は実現可能な防災計画を作り上げることができず、その結果として原発を動かすことができなくなる事態に至ることを懸念しているという事情が存在しているのではないかとも推測されます。

 指針を微修正していくら避難や退避に関する細かな条件を定めても、退避や避難の実現可能性が改善されることにならないことはだれの目にも明らかです。今必要とされているのは指針の微修正ではありません。規制員会は、自然災害に対する原子力防災対策は検討の対象外とするご都合主義の方針を改め、避難や退避の対策に関する実効性を高めるために指針の本格的見直しに着手すべきです。

【原子力防災問題に関する結論】

国・原子力規制委員会は原発が立地されている地域における実効性を有する原子力災害対策を策定し実行することに責任を負わなければなりません。原子力災害対策が実効性に欠けるものである場合は原発の稼働を許してはならなりません。

 上記のように今後規制委員会が原子力災害対策指針の見直しを行うに際して、重大な原発事故が起きたならば住民が避難や退避を行うことができない状態に陥りかねないという原子力防災上最も重要な問題を視野に入れずに検討を行うことに終始するならば、実効性を有する原子力災害対策の策定を期待することができないことは、一目瞭然です。原発推進を国策としている限りは、国は、規制委員会は、確実な実効性を有する原子力災害対策の策定に関して責任を負わなければなりません。実効性を有する災害対策を策定することの責任は、少なくともその最終的な責任は、原発が立地されている自治体にあるのではありません。その責任は国と原子力発電の事業を行っている電力事業者にあるのです。

現在、運転期間が40年を超えており最長20年間の延長が認められている東海第二原発(日本原電、茨城県東海村)の再稼働に関して、再稼働させないよう求めてい茨城県内など9都・県の住民による訴訟の控訴審が東京高裁で進行中ですが、この訴訟の一審において水戸地裁は、2021年3月に、住民の避難計画に不備がある(注:半径30キロ以内に全国最多の94万人が住んでいます)として、運転を認めない判決を下しています。この判決は原子力災害対策が住民の避難や退避に関して実効性に欠けている場合は原発の運転を行ってはならないことを意味しており、これまでにない極めて重要な判決と言わねばなりません。原発の運転よりも住民の安全の方が大切という意味で、当然の判決であると言えます。国と原子力規制員会は司法によるこの判断を真摯に受け止め、このたびの能登半島地震における住民の被災の状況を直視し、確実な実効性を備えて原子力災害対策の策定に責任を負わなければなりません。

経産省の平成27年5月の資料「各国における原子力災害対策]によれば、日本では「(平時には)原子力災害対策を含む地域防災計画は自治体が策定し(国への提出義務はない)、国は策定に際して自治体への助言・勧告する」とされています。すなわち、原子力災害対策指針を策定している国の機関である原子力規制員会は、原発立地自治体による原子力災害対策に責任を負うのではなく、単に自治体に助言 や勧告を行うことに留まっています。一方、米国の場合は、日本と同様に「国は事業者及び地方自治体による緊急計画策定時の指針を作成する」とされていますが、それだけではなく「オフサイト(原発の敷地外)緊急計画の評価と審議を行う」ということも規定されており、評価や審議の結果その結果自治体が策定した対策が妥当なものとされれば、米国原子力規制員会が許可を与えるとされています(注:米国ではアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)による審査を経たうえで、規制委員会による審査が行われるとされています)。すなわち、米国の場合は、国(おそらく米国原子力規制員会NRCとFEMA)が、地元により策定された原子力災害対策が妥当なものであるか否かの判断を下すことにより、自治体による原子力災害対策に責任を負っていることを意味しています。すなわち評価と審議を行うことにより、国が原発災害対策の計画内容に責任を負っていると言えます。

原子力防災対策をより実効性を備えたものにするためには、ベストの方法であるか否かは明確ではありませんが、たとえば米国の例を見習って、国の機関すなわち原子力規制委員会が単に助言や勧告にとどまらず、原発立地自治体が策定した防災計画の実効性に関して審議・評価を行い、内容が妥当なものであれば自治体に許可を与えるという法的枠組みにしたほうが、国が責任を負うという意味において理にかなっていることは明らかです。さらには、上述の東海第二原発に関する水戸地裁の判決を念頭に置いて、規制委員会による評価・審議に際して自治体が策定した原子力防災対策が住民の安全な避難・退避に関して実効性が不十分であるとされた場合は、当該の原発の稼働を禁止することを法的に明確に規定しなければなりません。このような法整備を行わなければ、原子力規制委員会が原子力防災計画を審議し、その可否を判断することの意義は存在しません。

《終わりに》

地震の科学は地震学者らの研究により常に進歩しつつありますが、まだまだ未知の事柄が数多く存在しています。このため地震を正確に予知することは極めて困難です。このような状況の中で大地震に起因した原子力災害に完全に備えることは不可能に近いと言わざるを得ません。能登半島地震による惨状に鑑み、過酷な自然災害に加えて原子力災害という「人災」を二度と繰り返さないために、私たち市民は原発推進を国策としている国の方針に強く反対します。しかし、原発が現実に存在している限りは、自然災害に起因した原子力災害が起きる危険性は常に存在しています。この意味において、今後私たち市民は、能登半島地震を教訓に、できる限り高い実効性を備えた原子力防災対策を早急に実現するよう、政府・原子力規制委員会・電力業界に強く求めていかなければなりません。
 

2024年4月8日

《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進

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