douce vie

現代アートを中心に、色々と考えた事とかを日々綴っています。主に関西の展覧会の感想なども書いております。

堕落の果てに

2004-10-11 | 
痴人の愛  谷崎潤一郎著 新潮社

小学生の頃、国語で細雪の作者は谷崎潤一郎と習った。
塾の先生が、「まだ谷崎潤一郎は読まない方が良い」と言った。
天の邪鬼な私にしてはめずらしくその言葉を守った。
守って良かったと思った。

このタイトルの痴人とは誰の事なんだろうか。
ナオミという恐ろしい悪女にのめり込み生活もまともできなくなってしまう譲治のこと?
それとも言いなりになる譲治を良い事に知性や道徳のかけらもなく本能的に生きているナオミのこと?
どちらでも良い事だけど。

堕ちれば堕ちる程ナオミは輝き西洋化していく。
西洋的なものにいじけた感情と憧れを抱き、盲目的に西洋的なものにひれ伏してしまう譲治の姿は今の日本でもめずらしくないと思う。

フェティシズム、マゾヒズム、サディズム、あらゆる形で煮詰まったエロティシズムを身に纏い、どこまでも堕ち続ける空虚な物語だった。

耽美

2004-10-11 | 
魔女の死んだ家  篠田真由実著 講談社

子供向けのシリーズっぽくみせかけてこんな作品を持ってくるとは。素敵。
西洋館。桜。黒いドレスを着た美しい女。
そして女主人に憧れ集まる崇拝者。
レトロで耽美。桜井京介も出てくるし、文句なし。

ミステリとしてもすごく上質。
真珠夫人をミステリ仕立てにしたような感じかも。
女性の不自由さを嘆いているようなところも、真珠夫人と共通している。

恐れ入りました。

2004-10-11 | 映画
8人の女たち  フランソワ・オゾン監督  フランス 2002年

雪で閉ざされた館に男性の死体が1つ。女性が8人。
犯人探しの結果、次々と女たちの秘密が暴露されていく。
ミュージカル仕立てでテンポよく進み、わりとライトな作品と思いきや、
見終わったら、疲労感を覚えた。
生々しい。つまり生命力。

妻に先立たれた夫はすぐに死ぬが、夫に先立たれた妻は長生きする。
この言葉に集約されているような気がする。

虚構の世界

2004-10-11 | 映画
下弦の月 ラスト・クォーター  二階健監督  日本  2004年

HYDEさんの「THE CAPE OF STORMS」のPVをTVで見て、
この映像だったら映画館で見ても良いかな、と思った。
想像通り、映像のクオリティは高かった。幻想的で綺麗。
そしてHYDEさんは全てにおいて期待を裏切りませんでした。

でも映画としてはやっぱりこれはちょっとどうかなあ。
Sound Trackの時も思ったけれど、これだったら映像だけで良い。
長いPVを見せられているような気がして、映画としてはなんか違う。
多分映像に情報を詰め込み過ぎているのだと思う。

そしてやっぱり語感が悪い。
原作を読んでいないので脚本のせいなのかはわからないが、
なんかこう言葉にリズムがないというか、言葉のセンスが悪いというか。
違う人が脚本書けば良いのに。

<ネタばれ警報>
途中まで幼稚なストーリーだな、と思っていた。
しかし、最後で全てが妄想なのだと理解。
うすうす気付いていたけど、最後で世界を反転させたのはなかなかすごい。
もちろん違った解釈もあるとは思う。
でもこれは現実を逃げ出したかった女の子の虚構の世界のお話だと思う。

発掘

2004-10-03 | 美術
3年前に行った美術館の遠足の感想がパソコンから見つかった。
3年前の私はかなり楽しんでいる。

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美術館の遠足 5/10 西宮大谷記念美術館

現代アーティスト藤本由紀夫による1年に1日だけの展覧会。
サウンド・オブジェ、サウンド・インスタレーション、レクチャー等で構成されています。
今年は5回目です。
藤本由紀夫の事は良く知らなかったのですが、ゲストが作家の嶽本野ばらがゲストという事で出かけたのでした。(藤本由紀夫はイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレに出展していたので、作品は見た事があるはずなのですが、日本館にある作品の内、どれが藤本由紀夫のなのかを私は良くわかっていなかったのでした。)

館内の様々な空間に配置された藤本由紀夫の作品を探して体験(探検?)するという趣向で、どこに何が置いてあるのかがわかりません。
作品自体は繊細で綺麗なモノが多くて、試験管に鉱石や角砂糖が入っているものや、トルソーにオルゴールを仕込んであるものなどがありました。
展示室だけでなく、庭とかロッカーとか廊下のちょっとしたスペースにも作品があったりして、楽しかったです。
音がしているのにどこから入るのかわからない部屋とかありました。
さらに何の告知もなく、一室で藤本由紀夫本人がパフォーマンスを行っていたり、来館者も気が抜けない感じでした。
多分、いくつかの作品は見逃したんじゃないかという気がします。

13:00~21:00の間、出入りは自由で自由に楽しむ事ができるのですが、私たちの目的はナマ野ばらを見る事で、いつ野ばらさんの講演が始まるかわからないので、会場から出ることができないのでした。
野ばらさんは普通に正面玄関から16時頃に到着し、まず館内を学芸の人と見学していました。
やはり黒の服(コムデギャルソンかな?)で靴はロッキンホースバレリーナでした。
藤本由紀夫との対談が始まったのが18時だったかなあ。
私も友人も一通り展示を見終った後、かなり待ち疲れをしました。
対談の内容は、まず嶽本野ばらの人となりから始まって、現在東京で開かれているMOMA展に関係してマルセル・デュシャンの話がほとんどでした。
それなりにおもしろかったけれど、あまりデュシャンを知らないので、よく理解できないところ多かったのでした。

展覧会自体が楽しくて、来年も来ようかなあ、という気になりました。(2001.11.23)

遠足の楽しみ方

2004-10-03 | 美術
美術館の遠足 8/10  西宮市大谷記念美術館

この「美術館の遠足」はサウンドアーティスト藤本由紀夫と西宮市大谷記念美術館によって10年間毎年1回、1日だけ開催される展覧会。
今回は8回目。
私は5/10に行った事があり今回が2度目。

美術館全体が展示場で作品の説明は一切なくて、自ら触ったり、聴いたりして楽しめるアート。
オルゴールや角砂糖を使った作品がロマンティックで素敵。
前回、嶽本野ばら目当てに行ったわりに、すごく楽しかったのを覚えていたので、久しぶりに行こうと思いたった。
会場に着いてびっくり。まず人が多い。
前回来た時はこんなに多かったっけ。
しかもなんか知り合い同士だらけで、まるで文化祭か同窓会みたい。
並ばなきゃいけない作品も多かった。
並ぶの嫌いだから初めはスルーしていたのだけど、
そうするとほとんどをスルーしなければいけないので、しぶしぶ並んだり。
 
1人で行ったのがまずかった。
友人と一緒なら並ぶのもそれ程苦にならなかっただろうし、なんだかわからない作品とかもこれなんだろうね?どうするんだろうね?とか話すのも楽しかったはずなのだ。
人々の喧噪の中で鳴らすオルゴールも1人だと虚しいだけ。
どうしていいやら、わからず⋯
美術館でこんなにも途方に暮れたのは初めてだった。
遠足なんだもの。友人達と行かなければ。
前回は友人と行ったから楽しかったんだー。
今さらながらそんなことに気付いてももう遅い。
疲労感だけが残ってしまった。

ブランドであるということ

2004-10-03 | 美術
ルイ・ヴィトン 時空を超える意匠の旅  兵庫県立美術館

誰もが知っているモンスターブランド、ルイ・ヴィトン。
それをどのような構成・切り口で展示するのか、に興味があった。

会場にはルイ・ヴィトンのバックを積み上げて作られたエッフェル塔。
今でこそパリのシンボルとも言えるエッフェル塔だけど、建設当時は賛否両論だったと言う。
それになぞられえているのか。それともただ形が面白いから作ってみただけ?

旅行の形態とともに進化してきたルイ・ヴィトンの旅行鞄の歴史が展示されている。
開けたらデスクやワードローブになるトランクや軽さを追求したスーツケースまで、様々。
モノグラムがあまり好きではないのだけど、古めかしい使い込まれたトランクには非常にしっくりと合っていた。
かっちりとしたトランクのデザインとしてはモノグラムは素晴らしい意匠なんだろう。
というより、モノグラムは本当に100年間色褪せていないのだろうか?
発表当時こそシンプルで斬新で美しい意匠だったけれど、現代においてこの意匠はどうなんだろう。
鞄が最近のデザインになるほど、モノグラムが古臭く見えてしまう。

そしてそのあまりに有名なモノグラムの意匠のルーツの推測。
このモノグラムの意匠の誕生に関する詳しい資料が残されていないらしい。
ということで、アールヌーヴォーやジャポニスム、中世のゴシック装飾との類似性を説明。
意図はわからなくないけれど、アールヌーヴォーはガレの作品をいくつかとデスクと椅子のみ。ジャポニスムといっても日本の文様をボードで説明、中世のゴシック装飾にいたってはすべて写真やボードによる説明といった簡易さだった。

最後に村上隆ら現代美術家とのコラボレーションやヴィヴィアン・ウエストウッドといった他のデザイナにより誕生した新しいルイ・ヴィトンの鞄の展示。
ルイ・ヴィトンのこれから、といった内容。
これも、ヴィトンの店頭に行けば見られただろうな、ぐらい。

全体としてこれだけの内容で1200円もするというのは高すぎる。
初日ということもあってかそこそこ観客はいたけれど。
だから何?という印象が拭えない。

展示内容とは関係ないけれど、ルイ・ヴィトンとマクドナルドは似てるな、と思った。
万人がその商標と価値とを知っているという点で。
ルイ・ヴィトンのバックを買うのもビッグマックを買うのも出来上がった安心を買っているに過ぎない気がした。


意味と記号

2004-10-03 | 美術
シルクロードの装い 〜パリ・コレに花開いた遊牧の民の美〜  兵庫県立美術館

ジョン・ガリアーノやドリス・ヴァン・ノッテンといったデザイナのパリ・コレの最新のファッションと
そのイメージソースとなった中央アジア、シルクロード地域の民族衣装や装飾具の展示。

伝統的な染織品は具象文様を用いてはならないという宗教上の理由から抽象文様になっている。
ただの模様にしか見えなくても、クルミやポットやチューリップなどがモチーフになっていてその一つ一つに意味があるという。
また魔よけ用とか婚礼用とか礼拝用とかそれぞれ目的もあるという。
それを現代に組み込むと、そこから意味や目的はまったく失われ、記号として美しさだけが残る。
「着たいものを好きに着る」現代的なファッションの在り方。

それにしても服は着るものであって飾るものではないな。
ボディに着せている服は美しさが半減する。
デザイナはもちろん人の動きも計算してデザインしているのだろうし。
写真であってもモデルが着ている方が美しく見える。
絶対に叶わないのだろうけれど、モデルが着ているところを見たいと思った。

収集・保存・展示

2004-10-03 | 美術
コレクション展Ⅱ  兵庫県立美術館

日本の美術館の多くは外部の企画モノの巡回展ばかりやっていて、宣伝費もそちらにかけているために、独自のコレクションが何なのかはあまり知られていない事が多いように思う。
残念なことだ。
土曜日だと言うのに観客が非常に少なく、監視員の方が明らかに多かった。

<特集展示:横尾忠則の絵画1966-1996>
30年間にわたる横尾忠則の作品40点の展示。
横尾忠則がこんなに絵画を描いていた事自体を知らなかった。
ポスターのデザイナのイメージしかなかったので。
80年から90年にかけて描かれた絵画が迫力があってよかった。
色彩はポップなのにその裏にどろどろとした精神世界が潜んでいる感じ。
技術的には上手いのに、表現に何か人を不安にさせる禍々しさを感じる。
「貝と壼」のうねりは眩暈を起こさせる。
「滝の中の男」の力強さは卑屈にさせる。
「脈絡」のゴシックさには心惹かれる(趣味)。
赤い絵シリーズの「星の子」や「二つの叫び」の暴力的な赤には狂いそうになる。

<アメリカの戦後版画>
ここではジョナス・メカスという人の作品に惹かれた。
ソフトフォーカスで8ミリ映画のワンシーンみたい。
自分の部屋に置きたいと思った。
他にアンディ・ウォーホルやナム・ジュン・パイクなど有名なアーティストの作品もあった。

<日本の戦後美術>
大きな抽象画が多かった。
あまり抽象画は好きではない。
はっきり言ってわからないし、さらにタイトルが「作品」とか「絵画」とかだったら、どうして良いかわからない。
ここの展示の半分以上は個人コレクションを譲り受けたものとの事。
コレクションの基準は「アブストラクトと人間くさい前衛のはざま」らしいのだが、あいにく理解できず。

<近・現代の彫刻>
ここでは新宮晋の「雲」という作品が面白かった。
天井から不織布で作られた大きなモビールみたいなものを吊るしている。
わずかな空気の動きでゆらゆら揺れて回転する。
私には感じられないわずかな風も見逃さない。
まさしく風で形を変えていく雲のようで、魅入ってしまう。

<小企画展 美術の中のかたち「村岡三郎・鼓動する物質」>
受付で荷物を預け、指輪や時計をはずし、ウェットティッシュで手を拭くと作品に触れる。
熱で焼き切った鉄、塩の巨大な塊。
触れる事で何か感じる事があるかと思ったが、正直わからなかった。

<日本の近代美術(洋画、日本画)>
ここには心惹かれる作品はなかった。
近代の日本の洋画なんて、ああ、頑張ったのね、ぐらいにしか思えないので。
金山平三と小磯良平のコレクションも同じような理由で特に心は惹かれなかった。
唯一小磯良平の「斉唱」という9人の少女が合唱の練習をしている風景を描いたものが、高校時代のノスタルジックな気持ちにさせてくれたので、印象に残った。

これだけの作品を500円でほとんど一人でゆっくり観られるなんて、とても贅沢。

混沌

2004-10-03 | 映画
陰陽師2  日本

神や鬼を人間の心が生み出し具象化してしまう。
それほど闇はおそろしく、自然は脅威だった。
そんな時代の話。
闇は電気にとって変わられ、自然も破壊するまでに成長したつもり。
でも異端を許せない人間の愚かしさは今も変わらない。

前作よりストーリーがわかりやすくなっていた。
人間に愛想づかししているくせに一部の大切な人の為に命を賭けてしまう清明がなんとも愛おしかった。