廣島パイレーツ・チャンネル

広島の名も無き”田舎侍”が地元プロスポーツを中心に色々と書いて行く過激なスポーツコラムや、広島の市政や街づくりについても

ハードボイルド時代劇 『筆殺仕立人』 第壱話:序

2008-03-12 22:22:22 | Weblog
面白き事も無き世を面白く

格差、格差の野球界

熱き戦い仕立て上げ

闇の世界の仕立人

今宵も広島を駆ける...

                 

 春も近付く2月末のある日、広島の街に出た私こと”駿河守”は広島城へとやって来た。 このお城のすぐ近くに広島カープの本拠地・市民球場がある。 今年は開場50周年記念のシーズンであり、同時に来年から広島駅前の新しい野球場に移転してしまうので最終シーズンになると言う切なさもある。 私は天守閣の入口で入場料を支払う。 360円か...前は320円だったのに。 私一人では団体割引も利用出来ない。 どうせなら”武家出身者割引”があれば良いのだが... ここはお城なんだし。 料金を払うと、係員が「今、内部でローカル番組の収録をやっています。 ちょっとうるさいかも知れませんがすみません。」と言っていた。 こんな所で撮影とは...市の広報番組とか?

 広島城の最上階、展望室にやって来ると異様な人込みが発生している。 見るとその中にお城の警備員がいた。 私は場内の企画展示が変わる度にここに来ているので警備員のおっさんとも顔馴染みになっていた。 警備員のおっさんによると、収録しているのはローカルの情報番組らしい。 そこにゲストでやって来ていたプロレスラーの人がお城が好きだと言う事で広島城でも撮影する事になったのだとか。 私はプロレスに詳しくないのだが、プロレスファンだと言う警備員のおっさんによると”炎の飛龍”と異名をとるベテランのプロレスラーさんなのだとか。 私もしっかりサインをしてもらってしまった。 色紙が無くて広島城のパンフレットだったのだが、快くサインをしてくれてありがたかった。

                  

 ロケの一行が去った後、私はお城の展望室で天守閣から外を眺めていた。 私はこの天守閣から故郷・広島の街を眺めながら戦略を練るのが好きで、それで年に何度もお城に来ている。 広島人でもこれだけ度々広島城に来ているのは私くらいのものでしょう。 外を眺めていると、若い女性と母親らしい二人連れがお城から東側を眺めている。 お城から見て東側には見るべきものは無いはず。 実を言うと広島駅はあるのだが、ビルの陰に隠れて地元の人以外は分からないはず。 お節介な私はつい二人にガイドしたくなってしまい、話し掛けた。

「この方角だと広島駅があそこに見える小山の麓にあるんですよ。」

「......」

「あの小山は広島城から見て鬼門の方角に当たり、一帯には広島東照宮など神社仏閣が集中しているんですよ。」

「......あっそう。 お兄さん、その話はもういいからお好み焼きのお店を教えてくれない。 地元の人でしょ?」

「お好み焼き...ってもちろん広島風ですよね。 いくつか知っていますけど街中なので口で説明するのは難しいですよ。 何だったら私がご案内します。」


 案内すると気安く言ってしまったものの、私は”安い店”なら知っているけど”旨い店”は知らないのだった。 わざわざ観光で来たのだから値段にはこだわっていないのだろうし。 仕方が無いので以前知人から旨いと薦められたお店にしてみるか... そのお店は広島城からはかなり歩いたところにある繁華街の中のお店だ。

「随分と遠いね... あっ、見えた。 あの『お好み村』ってところでしょう? 私も名前くらいなら聞いた事があるよ。」

「いえ違います、あそこじゃ無くてこっち側の普通のお店です。」

 そのお店は某大型電気店の前にある小さなお店だ。 平日だが店は結構込んでいる。 結構有名らしいからな。 店の壁にはサイン色紙がいくつも飾られている。 聞いた話では”どこかの球団”の選手や首脳陣がご贔屓にしているらしい。

「へぇ、サインが一杯あるね。 これは誰のサインなの?」

「何でも”どこかの球団”の選手がよく来ているらしいですよ。」

「”どこかの球団”ってどこの球団か知っているんでしょ?」

「記憶にありません。」

「記憶にありませんってあんた、何を言っているの。 政治家じゃあるまいし。」

                   

 ...どうもちゃんとした説明をした方が良さそうだ。 私は彼女にFAによる有力選手引き抜きに苦しめられている地元カープ球団の事や、球団間の戦力(資金)格差の広がりによってその魅力を失いかけているプロ野球の現状についてお好み焼きを食べながら詳しく説明した。 説明をしながら私はふと思った。 おかしいと思った事は素直におかしいと言って来る彼女なら私の”元締め役”をやってくれるのではないかと。 私は頭を下げて彼女に頼んだ。

「あの...突然で厚かましいお願いですが、広島の為に私の”元締め役”になってもらえないでしょうか?」

「カープはFAでエースと四番を失い、サンフィレッチェはJ2陥落と危機的状況になっています。 この格差と戦う為にあなたのお力が必要なのです。」

「...うーーーん、そこまで頼まれると断れないな。(今は仕事も余裕があるし...) 困っている人を見ると放っておけないよね。」

「じゃあ、いいよ。 その”元締め役”、引き受けてあげる。」

「ありがとうございます。 そう言えばまだお名前を聞いていなかったですね。」

「え、名前!? ...そうだねぇ、”エリカ”とでも呼んでくれる。」

「そんな...呼び捨てになんて出来ませんよ。 せめて尊称を付けて”エリカ様”と言う事で。」

「...ちょっと、何で呼び捨ての次がいきなり”様”付けなの! ......もういいよ、それで。」

「そうだった、あんたの名前こそ聞いていないよ。」

「私は名乗るほどの者では...”駿河守”とでも呼んで下さい。」

「”駿河守”...ってあんた何時代の人よ! はぁ...もういいよ。 あんたと話しているとおかしくなりそうだし。」

「じゃあ決まりと言う事で。 来月の半ば頃に横川駅まで来て下さい。」

 私は”エリカ様”親子をタクシー乗り場まで見送ってその場は別れた。 冷静に考えると広島城からここまでタクシーで来れば良かった。 貧乏人なのでタクシーに乗ると言う発想が浮かばなかった...



 3月半ば、私はJR横川駅に”エリカ様”を迎え、川べりにある静かな『横川胡子神社』に案内する...

「ねえ、一体どこに行くつもり? 駅から離れると急に人が少なくなったよ。」

「大丈夫ですよ、この辺にホテルはありませんから。」

「...ば、馬鹿じゃないの、あんたは!」


「着きました、ここです。」

 『横川胡子神社』に着いた。 相変わらず境内には誰も居ない...

「ここって普通の町の神社じゃない? 何か特別な事があるとか。」

「いいえ、本当に普通の神社です。 人が少ないので都合が良いもので。」

「じゃあ、この紙に書いている通りにやればいいんだね。」

 そう言って”エリカ様”はチケットとお金を取り出して神社の縁石に置いた。


「これが頼み料です。」

「今回の頼み人はJ1復帰を願うサポーターと広島の人達。」

「やる相手はJ2愛媛、監督の望月、FWの田中、三木、MFの宮原、金、DFの金守、星野。」

「じゃあ、頼むよ。」

「はいっ! ”エリカ様”。」

                

 私は横川胡子神社を出てビッグアーチに向かう。 3月16日のサンフィレッチェ地元開幕戦である愛媛との試合、何としても勝ってJ1復帰へ向けてスタートダッシュを飾りたいものです。


 ...異常です。 日曜日の”第壱回:本”へと続きます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする