僕たちは日光江戸村を後にして、いろは坂へ向かった。
岡ちゃん 「さっきまで晴れてたけど入道雲が山の方に見えるね。」
坂本 「そうだね。降るのかな。」
いろは坂は土砂降りだった。
岡ちゃん 「ちょっと周回してみようかなー‥。」
岡ちゃんはサイドを引く走りをしている。
坂本 「滑らすねー。」
岡ちゃん 「根利で鍛えてるからねー。」
夜にはなっていなかった。
岡ちゃん 「夜になる前にラーメンでも食べない?」
坂本 「全然OKだよ。さっきの上り切った所にお土産通りみたいのがあったね。」
岡ちゃん 「あそこ、ラーメンの看板あるよ。どう?」
坂本 「あぁ、いいんじゃない?」
180SXと停めてお店の中に2人で入っていった。
しーん。
あれ?
店内は白けたような雰囲気だった。
おばちゃん 「いらっしゃいませ。」
岡ちゃん 「味噌ラーメンの大盛りにしようかな。」
坂本 「僕も同じのにするよ。」
岡ちゃん 「味噌ラーメン大盛り2つお願いします。」
おばちゃん 「はい。」
・・・
・・・
岡ちゃん 「‥‥‥。」
坂本 「‥‥‥。」
・・・
岡ちゃん 「ラーメン出てくるの遅くない?」
坂本 「あぁ‥、そういえば、そうかな。」
確かに言われてみるとオーダーから時間が経っていた。
・・・
岡ちゃん 「‥‥、言って来ようかな?」
坂本 「まだ、いいんじゃない。」
・・・
岡ちゃん 「遅いよ、やっぱり。」
坂本 「確かに、遅いね。他のお客さん頼んで無さそうなのにね。」
岡ちゃん 「うん。」
そう話しているとおばちゃんがラーメンも2つ持ってきた。
おばちゃん 「お待ちどうさまー。」
ガンッ!!
ガンッ!!
おばちゃんは去って行った。
岡ちゃん 「怒ってるっぽいよ。」
坂本 「そうだね。何だろう‥。」
ラーメンは‥美味しい。
坂本 「走り屋でここの人たちは困ってる所に爆音の180SXは入ってきたからじゃない?」
岡ちゃん 「あり得るね‥。」
2人は飲食店を後にした。
岡ちゃん 「今夜は攻めますよ。ムシャクシャしてるから。」
坂本 「存分にどうぞ。」
辺りは真っ暗になっていた。
ピカッ ゴロゴロ‥
雨も土砂降りで雷も鳴っていた。
下りから岡ちゃんはドリフトで攻めていた。
コースはうねったヘアピンばかりで、恐怖感がある。
岡ちゃんは凄いなぁ、と思った。
そんなにここを走っていないはずなのに、ここまで攻めるとは‥。
坂本 「かなり攻めるね。」
岡ちゃん 「‥まぁね。」
ピカッピカッ ゴロゴロ!
さっきから雷が気になる。
雨も尋常じゃない降り方だ。
こうして横に乗っていると、やっぱり岡ちゃんはドリフトが好きなんだと思う。
上りは広くて2車線で緩いコーナーが多いので、滑っている時間が長い。
コースの特性が上りと下りで違う峠は日本ではここくらいではないだろうか。
一方通行で対向車が来ないから危険は少ないと思う。
日光江戸村とそんなに距離は無いのにさっきの晴れた空がウソのようだった。
ここは山だから天候が急変するのだろうか?
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
ザー!!
土砂降りというか嵐じゃん。
下りのヘアピンをいくつか越えた辺り、ちょっと怖いなと思いながら岡ちゃんの走りを楽しんでいた。
毎回変わらずストレートからのヘアピン、ブレーキングからのサイドドリフト‥。
ストレートからの右ヘアピンに合わせたブレーキング、そして‥、ズシャー。
‥!!
フロントが滑った!
岡ちゃん 「‥ん。」
向きが変わらない!
そのまま左側のガードレールに、向かっている‥。
ツーー‥、ガシャン‥。
はぁ はぁ はぁ‥。
え‥。
岡ちゃん‥。
岡ちゃん 「やっちゃった‥。」
坂本 「うん‥。」
左フロントからリトラクタブルヘッドライト側をぶつけて、ガードレールにくっついている。
岡ちゃん 「あぁ‥‥‥、やっちゃった‥‥。」
坂本 「‥‥‥。」
社内はしーんとしている。
エンジンは止まっている。
ワイパーだけが勢いよく左右に動いていた‥。
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
岡ちゃん 「ちょっと‥、見てくるよ‥。」
坂本 「手伝うから言ってね。」
岡ちゃん 「うん。それにしても外に出たら秒でずぶ濡れじゃん。」
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
坂本 「降り方が凄いね‥。」
180SXを外から確認するだけでもプールにそのまま入ったようにずぶ濡れになりそうだ。
岡ちゃんは左フロント部を外から確認してすぐ入ってきた。
岡ちゃん 「バンパー取れちゃったよ。」
坂本 「え!?」
岡ちゃん 「まぁ、タイラップで止めてただけだからいいんだけど。」
坂本 「そっか。」
岡ちゃん 「エンジン掛けてみよう。」
ブルルル、キュルキュルキュルキュルキュルキュルッ‥。
岡ちゃん 「掛かんない‥。」
坂本 「え‥‥。」
岡ちゃん 「‥もう一回見てくるよ。」
どうやらさっきのクラッシュで社外のインタークーラーに穴が開いたようだった。
岡ちゃんはガムテープでインタークーラーをぐるぐる巻きにする、と言ってまた外に。
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
嵐の中、僕だけ快適な車内にいるのは気が引けて外に出た。
僕がいても戦力にはならないが‥。
左フェンダーもダメージを受けていた。
ぶつかっているガードレールが上下2段になっていることに気付いた。
ここはどのくらい高い場所に位置しているのだろうか?
ガードレールに近寄り、下の方を見たが真っ暗で見えなかった‥。
ピカッピカッ!
その時、雷で山全体が照らされた。
ちょうど、下を見た瞬間だったので、下の方がよく確認できた。
ここからもし落ちた車がいたら、下に落ち切るまでに1分くらい転がっていきそうなくらいの高台のコーナーだったのだ。
マジかよ‥。
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
一所懸命に復旧作業をしている岡ちゃんには話掛けられなかった。
いつもクラッシュする前は誰でもイケイケなんだと思う。
クラッシュした瞬間、その夢から覚めるのだ。きっと。
できるだけ180SXの車内を汚さないように僕は車内で待つことにした。
ザー!!
ピカッピカッ ゴゴゴッ!
岡ちゃんはインタークーラーの穴をガムテープで塞いで戻ってきた。
セルを回すと、エンジンは掛かった。
まずは、よかった‥。
岡ちゃんはバンパーも応急処置をしてなんとか自走で帰れる状態にした。
180SXはゆっくりといろは坂を下りながら、岡ちゃんと無言でいた。
岡ちゃん 「もう‥辞めるよ、走り屋。」
坂本 「‥‥わかったよ。」