嶋田君が「新車はいい」と言うように、やっぱりR34スカイラインの内装や走行フィーリングはいいな、と思った。
嶋田君の右足がアクセルを開けると、大排気量の風量が動く音みたいのがシューンとエンジンルームから聞こえてきてリニアに加速するので、とても気持ちが高ぶる。
外装のしっかり感。内装のしっかり感。加速のしっかり感。
どれをとってもしっかりしている。
これは嶋田君が嫌な思いをしながらも日々働いているからこそ、手に入れることができる代物だと思った。
「どうだ、いいだろ?」
「いいねぇ。」
「新車はいいぞぉ。買えよ。」
「いいと思うけど、僕はハチロクだよ。」
嶋田君は「俺のアールサンヨンは無駄をそぎ落としたグランドツーリングカーだからな。」と言っていた。
岡ちゃんは金山を走らなくなるだろうけど、もし金山をR34と180SXの2台で走ることがあれば嶋田君のR34は岡ちゃんの180SXに肉薄した走りをするかもしれない‥。
嶋田君とは高校1年から同じクラスだったが高校3年の夏から友だちになって、18歳で僕が東京の専門学校に行くまで、毎週のように遊んでいた。
遊びはカラオケやボーリングが多かった。夜通し語り合ったことも数えるほどじゃない。
僕が20歳で群馬に帰ってきてからも頻繁に嶋田君と遊んでいた。
嶋田君と岡ちゃんは群馬の専門学校を卒業している。
僕は東京にいた2年間で負け戦をしてきて今、群馬にいる。
半分死んでいるようなものだ。
僕の見た目は一見普通に見えるだろうが精神的な病気になっているのだから。
だから、東京で遊んできたとは、言われたくない。
何もしなかったけれど、必死に生きてきたんだ。
価値は生み出されなかったけれど、僕はあの2年間を耐え抜いたんだ。
耐え抜いた事実はある。
こうやって友だちと2人で気晴らしに軽井沢に行って、「軽井沢は良かったよ。」と人に言いたかった。
・・・
次の週も岡ちゃん不在でも、土曜日は2人で金山に走りに行っていた。
ハチロクでカルタスを打倒できると思っていたのに、その反撃のチャンスを逃し、今はR34なのでいくらNA車同士といっても車の性能は歴然としている。
嶋田君が軽くアクセルを踏めばR34はグイと加速する。
しかし、しばらくは嶋田君は僕のハチロクの後ろを付いてきて走っているだけだった。
なんでだ。
付いてくる理由を聞いても「別にええやんけ。」と濁す。
金山では走り屋が対向車とすれ違う時は右ウインカーの合図を出す暗黙の了解がある。
後ろの人が対向車に気付かずに突っ込まない為だと思う。
R34とハチロク2台だけで走っている時は対向車が来て前を走っている僕が右ウインカーを出しても、嶋田君は右ウインカーを出さない。
でも、嶋田君の後ろに車が着いている時は、嶋田君は右ウインカー出す。
嫌な感じだな、と思っていた。
それは置いておいたとしても、嶋田君の方が僕より速いのだから僕の前を走るべきだと思っていた。