Cabin Pressure(脚本:ジョン・フィネモア 出演:ベネディクト・カンバーバッチ他)

イギリスBBCのラジオ・コメディ CABIN PRESSURE について語ります。

S3-5 ロッテルダム(前)

2013-05-26 06:26:51 | 日記
早いものでキャビン・プレッシャー シリーズ3も残すところあと2話。
今回は、第5話 ロッテルダムです。

 ↓

毎回のお願いですが、先に番組を聞いてから、ご覧ください。

 ↓

では、どうぞ!

 ↓


(テーマ曲)
  今週は 「ロッテルダム」


ダグラス:オーケイ、マーティン。きみの番だ。
マーティン:よし。僕が税関審査で申告したのは、えっと、ニューデリーからゼリー、ミューニック(=ミュンヘン)からチュニック、カラカスからマラカス、そして、シアトルからキャトル(=牛)。
ダグラス:牛?
マーティン:うん。いけないかい?
ダグラス:いいだろう。大きい飛行機だからな。オーケイ。私が税関審査で申告したのは、
(無線の音)
ダグラス:おかしいな。我々はここにいるし、キャロリンとアーサーはキャビンにいる。他にこの番号を知っている人は?
マーティン:誰もいない。
ダグラス:もしもし。MJN航空です。そちらは神様ですか?
ハーク:いや、まだそこまではいかない。
ダグラス:ああ、こんにちは。ハーキュリーズ。
ハーク:やあ、ダグラス。ハークと呼んでくれ。
ダグラス:なにか御用ですかな、ハァク?
ハーク:うん。実はそうなんだ。その辺にキャロリンはいるかい?
ダグラス:通常、彼女はキャビンにいるんじゃないかな。仕事するためにね。我々も同様に操縦室で仕事をしている。
ハーク:申し訳ない。言葉遊びで盛り上がっているところを邪魔したかね?
マーティン:ぼ、僕が呼んでくるよ。
ハーク:いや、いいんだ。伝言を頼むよ。オペラだが、土曜日より金曜日のほうが良いので、1時に迎えにいくと伝えてくれないか?
ダグラス:ええ。もちろんです、サー。他になにかお役に立てますか?エドナ伯母さんにお誕生日おめでとうと伝えましょうか? ジェントルマン・ジョーの単勝・複勝に5ポンドはるよう、賭け屋に言いますか?なぜなら我々の仕事はもちろん、本来、航空秘書サービス業なのでね。
マーティン:伝えるよ、ハーク。お安い御用だ。
ハーク:ありがとう、マーティン。
(無線オフ)
ダグラス:あいつにごますりしても無意味だぞ。きみにカル・エアーの仕事を世話できるわけじゃないんだ。
マーティン:ごますりじゃないよ。彼が好きなんだ。どうしてきみは嫌うの?
ダグラス:私はずっと前から彼を知っている。
マーティン:そして?
ダグラス:そして、あいつは自分の出現が、虹以来、空に起こった最上の出来事だと考える、口のうまいおしゃべり屋だからさ。
マーティン:それでは彼を好きになれるはずがないね。
ダグラス:その通り。
マーティン:彼はきみを真似てるんだ。


ダグラス:オーケイ、キャロリン。まずはカメラなしでやってみよう。準備はいいかい?
キャロリン:ええ。
ダグラス:よし。始め。
キャロリン:ハロー、みなさんをお迎えできて光栄です、
アーサー:アクション!
ダグラス:ありがとう、アーサー。だがそれは普通、役者が話す前に叫ぶ言葉だ。
アーサー:そうか、ごめん。きみが「始め」って言ったから混乱しちゃったんだ。でもとにかく言うほうがいいと思って。念のために。
ダグラス:もう一度やってみよう。アーサー、「アクション」と言う準備はいいかい?
アーサー:うん。
ダグラス:キャロリン、始める準備はいいかい?
キャロリン:さっさとやりましょう。
ダグラス:アーサー。始め。
アーサー:アクション!
ダグラス:キャロリン。始め。
キャロリン:ハロー、みなさんを当機にお迎えできて光栄です。MJN航空にようこそ。
ダグラス:そこで止めていいかな?思い出してくれ。きみはこれから乗客を機内に迎える、航空会社の社長なんだ。国民に向かって演説する君主じゃない。
キャロリン:違いがよくわからないけど。
ダグラス:それでも、だ。「留守電メッセージを吹きこむヴィクトリア女王」風は控えめにして、できれば、微笑んでみてはどうだろう? ふむ。もう少し、サメっぽさをなくせるかい?
キャロリン:たくさんの航空会社のなかから私たちMJNをお選びいただき、嬉しく思います。
ダグラス:同時に当惑している。
キャロリン:皆様の本日の安全は、私たちの至上の関心事です。
アーサー:至上ってなに?
ダグラス:最大。
アーサー:了解。
キャロリン:ですので、これから上映するセーフティビデオにどうかご注目ください。頻繁に飛行機を利用なさるお客様も、機体が異なることがありますので。
ダグラス:この機は特に。フライト毎に違う場合がある。
アーサー:そして僕がセーフティ・デモンストレーションをやるんだね。
キャロリン:まだよ。MJN航空の社長として、
(ドアが開く音)
マーティン:やあ。
キャロリン:MJN航空の社長として、私の最優先事項は、皆様に快適なフライトをお楽しみいただくことです。
マーティン:本当に?そんな話初めて聞いたよ。なにやってるの?
キャロリン:アリヤーキンさんが、MJNにも離陸前のビデオが必要だという指令を別荘から出してきたの。そのほうが本物の航空会社っぽく見えるからですって。それがどういう意味なのかは、気づかないふりをしておいたわ。それで、アーサーがセーフティ・デモンストレーションをするの。
アーサー:ビデオでね。映画みたいに。
キャロリン:そして私は搭乗を歓迎する挨拶を担当します。
マーティン:アーサーがセーフティ・デモを?
アーサー:うん!
キャロリン:ええ、そうよ。なにか問題でも?
ダグラス:アーサーには芸術に対する自由な発想があるようだ。
アーサー:ねえ、パニック映画みたいにしようか?
ダグラス:これもその一例。
マーティン:きみがやるほうがいいと思うよ、キャロリン。
キャロリン:いえ。私はダメ。
ダグラス:当初はその予定だったんだ。実際、今朝試し撮りしたものを再生したら、キャロリンは自分が滑稽に見えるんじゃないかと心配してね。
マーティン:そんなことないよね?
ダグラス:いや。思い切り滑稽だった。心配することが間違っているとは言ってない。
キャロリン:ありがとう、ダグラス。
ダグラス:中でも特に印象的だったのは、彼女がパンパンにふくらませた黄色い救命胴衣を着て、笛の使い方を説明したシーンだ。
キャロリン:ありがとう、ダグラス。
ダグラス:ミュージカルにでてくるグレープフルーツみたいだった。
キャロリン:もう充分よ!
マーティン:キャロリン、歓迎のメッセージは僕がやるべきだと思う。なんといっても、僕が機長なんだよ。みんな機長からの挨拶を聞きたがる。そのほうが安心できるんだ。
キャロリン:マーティン、いままで誰か1人でもあなたで安心したことがある?
マーティン:それは公平じゃないよ。
キャロリン:申し訳ないけど、このビデオに求められるのは、冷静でリラックス、かつ威厳があること。あいにくあなたはどの資質でも有名ではないわ。
ダグラス:いずれもきみからは発掘しにくい長所ばかりだ。
マーティン:僕は冷静だよ!すごく、すごく冷静だ。しかも威厳があるし、それから、えっと、あとひとつ。あとひとつはなんだっけ?どんなものでも、僕、出来るよ。
ダグラス:リラックス?
マーティン:そうだ!僕はとてもリラックスしている!
キャロリン:いいでしょう。やってみなさい。
マーティン:え?今?
キャロリン:練習あるのみ、よ。マーティン・クリーフ機長が操縦しているところにズームアップ。彼はカメラに向かって魅力たっぷりに視線を送り、そして言います、
マーティン:準備できてない!
キャロリン:そして照明が消える。
マーティン:違うよ、
キャロリン:ありがとう、マーティン。結果は後日お知らせするわ。
マーティン:いや、ちょっと待って。オーケイ。準備できた。
キャロリン:では、始め。
マーティン:ハロー。MJN航空へようこそ。私の名前はマーティン・クリーフ機長。でも、それは関係ないですね、ここではカジュアルにいきましょう。マーティンと呼んでください。でも、このビデオの場合だけですよ。実際に僕を見かけたら、クリーフ機長と呼ぶほうがいいでしょう。あるいは機長と。儀礼上の問題でして。でも、僕が決めてもいいのなら、マーティって呼んでも。いや、ダメです。ダメ。公私混同はやめましょう。絶対にマーティとは呼ばないように。えっと、つまり、要するに、ハロー。私はマーティン・キャプテン機長。じゃない、クリーフ、クリーフ機長! もう一度やってもいい?
ダグラス:きみは完璧主義者だな。
アーサー:すごく良かったと思うよ。
キャロリン:あなたはなんでも良かったと思うのよ。
ダグラス:公平にいって、キャロリン、きみと同じくらいの出来だった。
キャロリン:分かっています。では、これだけは避けたかったけど仕方ないわね。ダグラス、あなたがやりなさい。
マーティン:そんな、キャロリン、ダメだよ。
キャロリン:私も嫌だけど、マーティン、でもここにスティーブン・フライのお気に入りの伯父さんみたいな話し方をするパイロットがいる以上、使うしかないでしょう。どうぞ、ダグラス、あなたの得意技を見せて。
ダグラス:いや、遠慮する。
キャロリン:なんですって?
ダグラス:気が進まないんだ。
キャロリン:気が進まないですって?でもこれは、あなたの2つの情熱の組み合わせでしょう?マーティンをへこませて、しかも自慢の声も披露できるのよ。
ダグラス:私のことをよくご存知ないようだな。私の内なる悲しみは、キャロリン、自分に自信が持てないことだ。
キャロリン:あら、そうなの?
ダグラス:全然ダメ。これが私の呪いなんだ。
マーティン:じゃあ決まりだね。僕がやるよ。
キャロリン:いけません。つまり、私は出来ないし、マーティンはすべきでないし、ダグラスはやりたくないのね。素敵だわ。
アーサー:僕がやってもいい?
みんな:ダメ!


アーサー:ちょっと待って、ダグラス。 また落っことしちゃった。
ダグラス:だから私がビデオカメラを持っていて、きみは救命胴衣を持っている。
アーサー:うん。そのほうがいいよね。ねえ、ダグラス、本当に歓迎の挨拶をやらないつもり?
ダグラス:そのようだな。
アーサー:きみは自分に厳しすぎるんじゃないかな。やってみればいいのに。きっと上手に出来ると思うよ。
ダグラス:バカなことを言うんじゃない。アーサー。
アーサー:ううん。本当にきみなら、、
ダグラス:もちろん私がやるべきだ。私にかなう者はいない。「MJN航空へようこそ。エキサイティングな空の旅を再び。ときには興奮しすぎるほどに」
アーサー:すごいよ、本当にやってる人みたいだ。最高。母さんに話しに行こう。
ダグラス:そんなに急ぐな、坊や。このことをマーティンが知ったら、抵抗を示すだろう。抵抗しても私が勝つのはむろんだが、事を荒立てたくない。それに、もし私が懇願されてこの仕事を引き受けたら、見返りを期待できる。
アーサー:見返りってどういう意味?
ダグラス:代わりにもらえるもの。
アーサー:了解。例えばなに?
ダグラス:まだ決めていない。さて、機内に入ろうか、グレタ・ガルボくん。きみのアップを撮るぞ。


マーティン:ハロー、私はマーティン・クリーフ機長です。ハロー、私の名前はマーティン・クリーフ機長です。
(ドアの開く音)
マーティン:こちらはマーティン・クリーフ機長。僕の名前はマーティン・クリーフ機長。
ダグラス:ハロー。マーティン・クリーフ機長を探しているんだが、彼を見かけたかい?
マーティン:どうやったら威厳ある言い方ができるんだろう。
アーサー:やあ、スキップ!これから僕のシーンを撮るんだよ。ロケ地で。
マーティン:私はマーティン・クリーフ機長。きっと僕の名前が問題なんだ。
アーサー:つまり本物がある本当の場所だよ。
ダグラス:キャロリン用にデモテープを録っているんだな。
アーサー:今回は飛行機が舞台だから、飛行機の中で撮影するんだ。
マーティン:うん。マーティン。マーティン。これって機長の名前じゃないよ。マーティンなんて。
アーサー:セットを組むんじゃなくてね。そんなお金もないし。
ダグラス:じゃあ機長の名前ってなんだい?
マーティン:例えば、きみのさ。驚きだろう?「こちらはダグラス・リチャードソン機長」。ほら、このほうがずっと良く聞こえる。
ダグラス:確かにいい響きだ。
マーティン:ダダダァ~ダダ機長。これが必要なんだ。ダダダフッ機長じゃなくてね。


キャロリン:スタジオのみんな、準備はいい?カメラと照明も大丈夫?
ダグラス:私は彼にカメラを向けていて、照明もついている。うん。準備よし。
キャロリン:準備はいい、アーサー?あら、帽子もかぶってるのね。
アーサー:この帽子は至上なんだ。
ダグラス:確かに大きいな。よし、アーサー、好きなタイミングで始めてくれ。
アーサー:誰が「アクション」って言うの?
ダグラス:きみが「アクション」って言ってもいいよ。
アーサー:アクション! 
(沈黙)
ダグラス:そして、始め。
アーサー:こんばんは、みなさん。これを見るのがもし朝だったら、おはようございます。それとも、ハロー。これならいつ見ても大丈夫だから、ハロー。僕はアーサー。本日キャビンクルーとしてみなさんをお迎えできて嬉しいです。でももし母さんが今日のキャビンクルーだったら、お迎えできて嬉しいのは母さんで、僕じゃなくて残念です。でもこのビデオには僕がいるから、僕も少し参加できて嬉しいです。
ダグラス:上出来だ、アーサー。素晴らしいスタートだった。でも今は、脚本通りにやってくれるかい?
アーサー:うん、オーケイ。えっと、なんだっけ?
ダグラス:「ハロー」
アーサー:了解。えっと、ちょっと待って。練習するから。ハロー。ハロー。ハロー!
ダグラス:キャロリン、本当にきみはやらないのか?
キャロリン:ええ。
アーサー:ハロー!
ダグラス:いいだろう。それが賢明な決断なんだな。
キャロリン:あの救命胴衣を着た私の姿がヘンだと言ったのはあなたよ。
ダグラス:その通り。特に笛を吹くときがね。どうしてあんなことをやってみせなきゃいけないのか、私には謎だよ。正直言って、笛吹きの実技を必要とするようなヤツは溺れて当然だ。 ともかく、きみはとても滑稽だった。だがこの代案は、
アーサー:ハロォー!
キャロリン:代案はうまくいくわよ。練習が必要なだけ。
ダグラス:きみがそう言うなら。オーケイ、アーサー。次の場面を撮ろう。
アーサー:オーケイ。
ダグラス:アクション、そして、始め。
アーサー:了解。シートベルトはこのように締めて、長さを調整し、このように外します。(バックルの音)待って、あれ、ごめんなさい。自分で締めるときと違うね。えっと、本当だったらこの金属の部分をこっちの金属の箱に差し込んで、カチャって音がすると締まるんだけど。違うな。これじゃクシャって音だ。えっと、そうじゃなくて、ダメだ。これじゃ、まるでイルカだ。シートベルトがイルカみたいな音を出したら、僕、どうなってるのか分からないよ。では次。あなたの座席から一番近い非常口は、後方にある可能性もありますので、キャビンクルーの指示する方向を確認してください。クルーはたぶん僕。あ、そうじゃなくて、もう1人の、本当の僕。本当の僕を見てください。それでは僕の僕を見て。つまりこの僕。今しゃべっている僕。もしもう1人の僕もしゃべっていたら、僕、黙れ!これは僕の番だぞ。
キャロリン:結構!分かったわ。私がやります。
ダグラス:それが良案だろうね。では、きみはセーフティ・デモと歓迎の挨拶も担当するんだね?どちらか一方は仮装する?それとも一卵性双生児という設定にするかい?
キャロリン:当然あなたが歓迎の挨拶をするのよ。
ダグラス: さっきも言ったように、私は衰弱性内気症でね。ところで、話は唐突かつ完全に変わるが、我々の次のフライトではどこに行くんだい?
キャロリン:えっと、ロッテルダムよ。
ダグラス:ふむ。ロッテルダムか。素敵な所だ。スパにとても近い。
キャロリン:どこですって?
ダグラス:スパさ。ベルギーの魅力ある町。200マイルほど離れたところにある。その名前は、その、スパの語源さ。当然ながらね。そして今週末は確か、そこでベルギーF1グランプリが行われる。 そうだ、キャロリン、今思いついたんだが、ロッテルダムにいる間に、ちょっと見に行ってもいいかな?
キャロリン:お好きにどうぞ。でも200マイルの距離を、「ちょっと」往復するのは難しいんじゃないかしら?
ダグラス:そうだね。そのためには、どうだろう、空飛ぶ乗り物が必要かもな。
キャロリン:なんですって?とんでもない。絶対ダメです。ガーティを借りてグランプリを見に行くなんて。
ダグラス:それは残念。もしかしたらグランプリの興奮が私の心に火をつけて、カメラに対する恐怖心を克服する手助けになるかと思ったんだがね。
キャロリン:なるほど。分かったわ。あなたがやりたくないことの見返りじゃなくて、あなたの得意なことの見返りを要求する気ね。
ダグラス:何のことだか分からないが。
キャロリン:いずれにしてもあなたがやることなのに、賄賂まで渡すなんてとんでもないわ。
ダグラス:そうか。
キャロリン:そうよ。


 (続く)




コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。