ミュージカルな日々

ミュージカル好きの私が、観劇・映画・ドラマ・音楽・本の感想を書きつづるブログ、になる予定。

「カエサル」 感想

2010-10-27 | お芝居観劇記
松本幸四郎さんが好きっという友人と一緒に、
昨日(26日)の夜、日生劇場で公演中(今日が千秋楽)の「カエサル」に行ってきました

席はE列7・8番。

塩野七生さんの「ローマ人の物語」が原作ですが、私は1冊目で挫折したダメな子なので
予習ゼロで行きました

でも、世界史のおぼろげな記憶と、台詞を頑張って聞く集中力があれば、十分話は理解できましたし、
塩野さんが心酔している「カエサル」という人間の魅力も伝わってきて、とても楽しく充実した観劇ができました

舞台は、カエサルが暗殺された直後のシーンから始まり、
その後、過去に戻って、ガリアで戦うカエサルの陣中に場面が移り、

今度は、そこから回想として、さらに過去に戻って、
三頭政治(カエサル・クラッスス・ポンペイウス)の始まりともいえる、
カエサルの私邸での3人の密会の場面に移って、ここから実質的にカエサルの生涯を描き始めます

クラッスス・ポンペイウスの協力により執政官になったカエサル、
任期が終わると、法の規定によりガリアへ出て、軍の指揮を取り、戦線を拡大して広大な大地を平定していきます。

圧倒的な人気を誇るカエサルに反発する元老院派の人々は、クラッススが戦死したのを好機ととらえ、
ポンペイウスを促して、ついにはカエサルの行動を反逆とみなし、
カエサルにローマへ帰還するよう最終勧告を出すのです。

これに対して、カエサルは軍を率いて渡ってはならないと法で定められたルビコン川を、
大軍を率いて渡りローマへと進軍するのです。

その後、あわてたポンペイウスが逃げるのを、カエサルが追う、という形で内戦が始まり、
ローマ人同士が殺戮を繰り返した揚句、ポンペイウスは自分の庇護するエジプトに逃れたものの、
そこでエジプト王の裏切りにあって殺され、その首はカエサルに届けられるのです。

…と、何とここまでが前半。
1時間ちょっとでこれだけの内容を、スピーディに要領よく見せていきます

大河ドラマの総集編みたい、という感想もあったようですが、
私はよくぞここまでエピソードを絞って、テンポよく見せたなぁと脚本の上手さに感服しました

そして、これだけの展開を見せながら、「カエサル」という人間を魅力的に見せていく、幸四郎さんの素晴らしさにびっくりしました

冒頭の、ガリアの陣中で、兵士の指揮を高めるために行った演説も素晴らしいですし、
一幕最後のポンペイウスの首を抱えて慟哭するシーンの迫力には、幕が降りた後も茫然としていました

一方で、「人間カエサル」の魅力も軽やかに表現してみせて、
これなら「女ったらしで、しかもどの女からも憎まれなかった」というのも納得だなぁという素敵さでした

ガリアの住民に対して、「共和政は理想だ」と語るシーンでは、動きがなくて静かなシーンですが、その台詞の一つ一つが胸に染みいるようで、
「カエサル」という矛盾に満ちた理解しがたい「巨象」に、しかし今は少しは近づけたんじゃないか、と思える、そんな印象深いシーンでした

二幕では、まず冒頭に、エジプトでのクレオパトラとのシーンがあり、ここも印象的でした

過去の血で血を洗う抗争と復讐の連鎖の記憶を語るうちに、クラッススとポンペイウスの亡霊があらわれ、
カエサルが動揺・混乱する、というシーンで、
ここは演出の栗山民也さんの「情熱大陸」でもクローズアップされていたシーン。

シェイクスピア劇を見るような、亡霊との対話とその後のカエサルの混乱の演技には、やはり圧倒されるばかりでした

その後は、カエサルが次第次第に権力を増して行く過程を、
彼をとりまく人々、特にキケロとブルータスの口から語らせる、群像劇の雰囲気が強くなっていきます

独裁へと走るカエサルに、危機感を募らせていくブルータスに対し、
その母でカエサルの愛人のセルヴィーリアは、彼は本当に独裁者になりたかったのか、と問いかけます。
彼は共和政こそを愛していたのだと。

この辺はすごく考えさせられました
もっと考えてみたいと思って、原作のカエサルパートだけでも読もうかな、と思うくらい。

確かに共和政は理想だけれど、実際ローマの共和政は寡頭政治となって行き詰まっていたのは事実。
よりよい政治を行うために、自ら独裁者・カエサルを作り出していったカエサルは本当はどんな気持だったんだろう、と。

そこまで、考えさせられながら芝居を見ていたので、最後のルビコン川のシーンは涙がにじんできました
ここの迫力と説得力も、幸四郎さんならでは。

一緒に行った友人も、「生のお芝居って、本当に迫力があってすごいね」と感動しきりでしたが、
「生の芝居だから、というよりも、幸四郎さんだからこその迫力だよ」と二人で感激
大満足の観劇でした

一つ、難点を申せば、ブルータスとキケロ。

特に、ブルータスは共和政という理想を捨て去ることはできない、その気持ちからカエサルを殺すに至る、
その純粋さをもっと前面に出して、彼に感情移入できるような演技を見せて欲しかったなぁと思ったり。

カエサルを殺したにもかかわらず、その後は、法の規定を超えることができず、結局議会の招集をすることを決意できなかった、
いわば「ルビコン川」を超えることができなかったブルータスにこそ、普通の人は共感できるはずなのだから。

ま、こざかしいことを書きましたが、すごく充実した観劇だったことは確かです
時々はこういう、メッセージ性の強い、頭で考える芝居もいいなぁと改めて思いました


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