日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

法と正義  5

2011年12月18日 | 日記

日本の「調査捕鯨」について

12月12日に書きました「調査捕鯨」の事実認識について誤りがありました。
誤りは、「日本政府は今年(2011年)2月18日、シーセパードの妨害を理由に、3月まで予定していた南極海での実施を取りやめると発表しました」と書き、
「取りやめ」の事実と効力は、2月18日以降も継続しているかのように私自身が思っていた所にあります。
しかしそうではありませんでした。

日本政府は「調査捕鯨」を中止したのではなく、既に今年の12月6日に、捕鯨船団が下関港を出港していました。

この「調査捕鯨」を考えて見たいと思います。

12月6日のWebニュース ”YOMIURI ONLINE”によれば、クジラの捕獲数は例年通りだとミンククジラ・ナガスクジラの合計約900頭で、
今回は水産庁が第3次補正予算に安全対策費として23億円を計上し、民間の護衛船を同行させていると云います。

A. ということは、

a. 「調査捕鯨」を行っている(財)日本鯨類研究所は、純然たる民間研究所ではなく、水産庁が金を出す水産庁の外郭団体だということになります。

b. 同時に、この研究所は財団法人ですから、自分が行っている研究に対する成果(お金)を得なければなりません。お金は寄付金・助成金・研究委託先からの委託料などがあり、更にこの研究所の特徴として、「調査副産物」の販売があります。つまり、クジラ肉・骨・歯・ヒゲ等の販売です。販売はクジラの捕獲数が多ければ、それだけ入ってくるお金も大きくなります。これは捕獲数を増加させたいという大きなインセンティブをこの研究所に与えます。一回の調査捕鯨の目標捕獲数が900頭と大きいのは、この理由によるものと思われます。
換言すれば、現在行われている「調査捕鯨」は商業捕鯨と同じインセンティブを持っていることを意味します。

B. 次に、「調査捕鯨」は公海上で行われます。

a. 現在の日本人はクジラ肉のタンパク源を必要とするほど困窮しているのでしょうか?

b. また、「調査捕鯨」は法(公法)と正義に適(かな)っているのでしょうか?

c. 何れも否です。
1. 現在日本では、クジラ肉は珍味の領域に属します。
2. 法の観点からも、世界のトレンド(趨勢・すうせい)は生物を含めた地球環境の保護をその目的とする所となっています。
3. 商業捕鯨は既に禁止されています。
4. にもかかわらず、日本の省庁の外郭団体が「調査」と称して船団を組んだ捕鯨(参:日本捕鯨協会 ”日本の調査捕鯨における捕獲頭数と資源量との比較” )を続行するということは、この「調査捕鯨」にぶら下がっている人々の独善の論理を世界に罷(まか)り通すことでしかありません。
d. ここに世界の世論と日本の農林水産省の外郭団体の独善との間に軋轢が生じ、世界の大局から見れば小益を得て大益を逃がすことの方が多くなることが懸念(けねん)されます。
e. 「調査捕鯨」にぶら下がっている人々は、クジラの保護と生態調査の両立さえ考えられない人々なのでしょうか?

C.結論
a. 「調査捕鯨」は、南洋に向かっている船団を日本に引き上げさせ、即刻中止すべきです。

b. 日本鯨類研究所がそれを出来ないのなら、水産庁がやるべきです。水産庁が出来ないのなら、本年2月のように、農林水産省の鹿野大臣にそれをやっていただかなければなりません。

c. 現在、日本は、東北の復興・福島原発事故の処理・放射能汚染・在沖アメリカ軍基地移設をめぐるアメリカと沖縄双方からの信頼失墜・国と地方を含めGDPの約2倍にも上る債務残高(参:財務省 ”国及び地方の長期債務残高”)・円高・TPPへの参加と、国難の時期にあり、新しい社会を作っていかなければならない時にあります。

d. この時にこそ日本は国際社会から信を得なければなりません。

e. 外郭団体の独善を通して国が信を失うという、かって日本が経験した道は何としても避けなければなりません。


補記:
1. ワシントン州連邦地裁への提訴も、「調査捕鯨」を中止してこそ、意味を持ち効果があります。

2. 私達が「調査捕鯨」というものを知るのは、マスコミがシーセパードの妨害を報道することによってのことが多く、これをシーセパード効果と呼ぶならば、この効果が世界の人々に及ぼしている影響は相当なものであろうと思えます。シーセパードがふりまく船団に対する激しい抗議行動と反捕鯨の感情は、容易(たやす)く世界の人々に嫌日・厭日(えんにち)・反日の感情を植えつけます。

3.事実、12月14日、アメリカ、オーストラリア、オランダ、ニュージーランドが、日本の船団とシーセパードに対して、双方が人命の安全を最優先にすることと、日本が「調査捕鯨」を行うことへの失望の念の表明を行ったことを、MSN・産経ニュースが伝えています。

3. 経済学の用語に非営利組織のソーシャル・マーケティングという言葉があります。昨今の民間企業はコンプライアンスやCSR(企業の社会的責任)をうるさく言います。政府組織もその外郭団体まで含めて、自分たちは国際世論に配慮し、公法を遵守すること、自分たちの行動に対して国際的な責任を取る存在であることをアッピールし、それを実行する必要があるように思います。

 

 

 

 

 

 


                        

                               朝日の当たる家並み(12月)

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