社会には格差がある
A.社会には格差がある
1.社会には格差があります。ここでいう社会とは、現代世界において、国家を形成す
る能力を持っている集団を考えます。集団は、歴史の過程で、家族⇒一族⇒一門(一
党)を形成し、更に、この一門(一党)が幾つも集まった集団が、自分たちの集団が成
り立ち、続いて行くための決まりを作ります。しかし、この辺(あた)りに属する人間
の意識は、おそらくまだ社会という意識を持っていません。例えば、私がいて、私が考
える集団の単位は、私の属する家であり、一族であり、一門一党であり、村であり、藩
であり、次に、これ以外の諸家であり、一族一党であり、他村であり、他藩です。そし
てやっと幕府となります。
2.今でこそ、私たちは、古代社会における人々の生活様式とか、中世の封建社会と言
うように、時代を区切って時代時代の人々が物を作ったり、それを交換したり、消費す
る様子や、集団がどのような決まりや仕組みでその集団を成り立たせていたのかという
ことを考えて、時代を区分し、社会というものを当たり前のように考えることができま
す。私の考えでは、人間が、これができるようになったのは近代以降です。日本でいえ
ば、徳川幕府を倒して明治国家を形成し、人々の意識が、武士、領民という意識から国
民という意識に変わった時です。幕末の先達と明治の先達たちがやり遂げられたこの偉
業に、今改めてこれを書きながら、深い感謝の念を覚えます。日本人にはその能力があ
りました。
3.ここでは、社会に存在する格差を理解するために、最初に社会という考え方を述べ
ています。しかし、ここで書こうとしていることは、社会には格差がある、社会には格
差があったということが本旨ではありません。そうではなく、日本人が形成してきた社
会は非常に能力本位の社会であり、人の能力を認める社会であったということです。例
えば、誰もが知っている豊臣秀吉は尾張の中村の百姓から天下人になりました。美濃の
斉藤道三は油売りです。播磨の黒田官兵衛で有名な黒田氏は薬屋でした。幕末で言え
ば、旗本で遇された新撰(選)組の近藤勇は現在の東京都多摩の百姓でした。西郷隆盛
が江戸開城を談判した幕府の軍事総裁の勝海舟は貧乏御家人です。近くで言えば、第6
4代、第65代内閣総理大臣の田中角栄氏は専門学校の卒業です。(注:ここで使用し
ている「百姓」という文字には、何の偏見も含んでいません。日本で農兵が分離するま
で、彼らは、武士であると同時に農耕し開墾を行いました。古代より、日本では「おお
みたから」と呼ばれ、大切な存在でした)。
4.今、これを読んでくれている君の境遇は様々です。私たちは自分の親を選べないの
ですから、これは認めなければなりません。しかし、私たちは、自分の国籍が何であ
れ、日本で生まれ、或いは、日本にやって来て、今、日本に住んでいることに感謝しな
ければなりません。先ほど述べたように、日本の社会は、能力があり、努力を行い、人
が認めれば、自分が望むポジションは得られる社会だということです。昨日(日本時
間:6月16日)、アメリカ大リーグ、マイアミ・マーリンズの鈴木一朗選手の日本で
打ったヒットとアメリカで打ったヒットの合計が4257本となり、アメリカ大リーグ
の最多安打記録を持つピート・ローズ選手の4256本を越えたというニュースがあり
ました。イチロー選手は、インタビューで、「アメリカで首位打者になると言ったら笑
われたけれど、そのタイトルを2度獲得することができた」と述べられています。この
お話は、君たちが目指す志(こころざし)に不可能なものはないということを、身をも
って教えられているものだと思います。
5.しかし、それでも社会には格差が存在します。そのうえで、社会の理念ということ
を考えて見ましょう。日本では、これを、福沢諭吉が、『学問のすすめ』という本の中
で、「天は人の上に人を造(つく)らず、人の下に人を造らずと云(い)えり」と、表
現されています。これは社会の理念です。そして私たちが作る社会は、この理念がバッ
クボーンとして折れることなく何本も通ったものでなければなりません。社会は、成功
者として地位と財産を得た人は自分の幸運に感謝して謙虚であり、不遇に甘んじている
人はこの理念を支えに矜持を持って生きて行け、再び成功への道を歩み始めることがで
きる、そういう社会であるべきです。そして、今ここに書いている考え方が常識として
全員で共有されている社会こそが、私たちの社会であるべきです。
6.そこで翻(ひるがえ)って、日本とアメリカの富の集中と所得分布を見てみましょ
う。
ここに、日本の内閣府がWebに公開している「日本の格差に関する現状」という、レポ
ートがあります。2015年8月28日付のみずほ総合研究所の高田創 氏のレポートで
す。
それによりますと、「所得が上位1%の家計に集中する割合」(日本とアメリカの各々
の総所得の中で、それぞれの国の上から1%の人たちが持つ所得の合計が、総所得の
何%を占めるか計算した数字)は、日本が9.5%(2010年)、アメリカが17.
5%(2013年)です。ちなみに、イギリスが12.7%(2012年)、フランス
が8.1%(2009年)、スウェーデンが7.1%(2012年)です。
7.資産の集中は、アメリカでは、アメリカの総資産に占めるアメリカの上位10%の
所得を持つ人たちの資産の割合が、76%です(出所:上記「日本の格差に関する現
状」)。
日本は48.5%です(2014年、クレディ・スイス発表、出所:ウィキペディ
ア)。中国(中華人民共和国)は64%です(同)。(注:アメリカの総資産に占める
所得上位10%の人々の資産の割合:76%の算出基準年について補足しますと、資料
注記では、「2012年、もしくは、統計が入手可能な最新年、OECD資料より」
と、なっています)。
8.世界の富の集中に関して、2016年1月18日のNewsweek(ニューズウ
ィーク)のルーシー・ウェストコットさんの記事が、NGOのオックスファムという団
体が発表した報告書の数字を載せています。それによると、世界の富豪の上位62人が
所有している資産の合計(1兆7600億ドル)は、世界の最貧層35億人分の資産に
相当します。
そして、同記事はこの他に、今パナマ文書として話題になっている租税回避地に隠され
た推定資産、7兆6000億ドルを載せ、オックスファムの政策責任者、ウェイン・ク
リプケ氏の次の言葉を紹介しています。「経済のどこかが決定的にくるっている。ルー
ルに則って一生懸命働けば報われる、という社会契約説が破たんしている」。世界の人
たちは、強い危機意識を持っているのです。
9.次に、日本の所得分布について記します。先ほどのレポート・「日本の格差に関す
る現状」の41ページを見ると、2012年の日本の所得分布は、100万円以上20
0万円未満の所得の人たちと、200万円以上300万円未満の所得の人たちと、30
0万円以上400万円未満の所得の人たちの割合がほぼ同水準で並び、グラフを読むと
それぞれの値は、約13.2%です。そして100万円未満の所得の人が6%です。こ
れは、400万円未満の所得の人たちが日本の所得において占める割合が、45.6%
だと言うことを意味します。更に、同レポートの17ページから、フルタイム非正社員
の所得分布をみると、249万円(税込み)以下の所得の人たちの割合が、全フルタイ
ム非正社員の中で72.5%を占めます。これでは、この人たちに子供がいたら、その
子に高等教育はやってあげられないでしょう。今、安倍首相が教育の機会を均等に得ら
れない子供たちがいてはならないと、非常に強調されています。その通りだと思いま
す。子供の教育への投資は、日本の将来を担う人々への投資であり、国の形を決めま
す。
10.アメリカの所得分布は、日本の独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「国別
労働トピック:2015年2月」の統計、『賃金の支払い状況別、年収階層における労
働者シェア』を使います。ア.$(ドル)60000以上の人たちの割合:22%。
イ.$50000~$59999の人たちの割合:8%。ウ.$40000~$499
99の人たちの割合:12%。エ.$25000~$39999の人たちの割合:2
5%。オ.$22500未満の人たちの割合:33%。ここから、アメリカでは所得
$39999以下の人たちがアメリカの全勤労所得者の中に占める割合は58%だと分
かります。日本のフルタイム非正社員に該当する人たちのデーターがアメリカでは見つ
かりませんので、時間給労働者の割合を載せておきます。アメリカの時間給労働者の割
合は、全勤労所得者の51%です。そしてそのうちの77%が$39999以下の所得
で占めています。言葉を換えれば、アメリカの時間給労働者の80%は低所得者層にあ
るということです。日本では45.6%(約46%)です。
B.中学生、高校生の皆さん!
1.今回は、社会の中にある格差と理念について書きました。後半では統計値を書きこ
んだ部分があります。一回で頭に入らなかったら繰り返し読んでください。そして考え
てください。お金は有効に使わなくてはいけません。新しい社会のシステムや人間に役
に立つもの生み出すために使われなければならないのです。これらのことを、発明・発
見と言い、開発と言い、投資と言います。お金が集中することは必ずしも悪いことでは
ありません。集中したお金が開発途上国の人たちの暮らしを豊かにするために使われて
いるか、私たちの社会を豊かにし、格差を是正し、社会が成長し発展するために有益に
使われているかが問題なのです。
2.所得の再配分は行わなければなりません。同時に、経済は成長しなければなりませ
ん。経済が成長しない社会は、社会が固定されてしまうのです。租税回避地にプールさ
れたお金に課税することで、所得格差を是正するためのお金にそれを使うことができま
す。社会の所得の再配分の方法を考え、それを行い、経済を成長させて行くのが自由主
義の社会なのです。
(続く)
<お願い>
このブログを読んで、「参考になった」と思ってくれる中学・高校生は、友人や知人に
この記事を拡散してください。そして自由と自由主義について考えてください。
桜
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます