… 霊的

BlogTop↑ 生命力において、太い根っこを生やしてほしい。

祈り

2021年11月05日 11時26分50秒 | ちゅうたしげる詩集
     一

夜のとばりがおりるころ
私の瞳は静かに閉じられ
悲しい音色が聞こえてくる

暗闇の世界にこだまする
魂の叫び
私の心は開いていく

暗黒の世界こそなつかしい
私の故郷のにおいがしてくる
平和な世界

人はそれぞれに暗闇を背負い
黙して語らず
歩いていく方向に注意する

私に聞かせてくれ
あなたの魂を
そっとささやくように

そして私は理解するだろう
この世の不安と安楽の秘密を
一人たたずんで


     二

朝焼けの空
朝日に照り映える川面
まぶしく輝く横顔

新しい音楽にさそわれて
光の舞が立ちあがる
心躍る瞬間

みずみずしい新緑におおわれて
起き上がる獣たちの影
誕生の季節

やさしい男女が一組
はじめて結ばれた
朝の気配


     三

争うのではない
傷つけあうのでもない
たくましく伸びた手足を
踊らせるのだ

私一人が犠牲となって
踊り出すのだ
誰も笑いはしない
誰も驚きはしない

私の裸体は恥ずかしげもなく
人々の前にさらされ
たくましく伸びた手足が
踊り出すのだ

誰も不思議と黙して語らず
じっと目を見すえている
そして隠されたほんとうのリズムに
あわせてふるえだすのだ


     四

どうだ聞こえてくるか
あの遠い光の影からやってくる
一人の小さな少年の声

歌ではないのだ
小さな少年の独り言なのだ
わからずにはいない

理解できるのだ大人達にも
誰にでも呼びかける声
誰にもささやかれる声

一生忘れられない
その細やかな声の音
寂しげな眼差し

誰でもないそれは私のことなのだ
私の声 私の眼差し
誰にでも呼びかける

一度聞いたら忘れはしないだろう
少年の日のすがしさ
天にも昇る心


     五

もちろん誰も助けはしない
神さえもいない
ひとり歩くことができるのみだ

だが一人の歩みは万人の歩みと重なり
太い道をつくる
誰もが歩いていける道を

誰のものでもない
歩くもののためにある道
ひとり歩くもののためにある道


     六

やっとわかったのだ
朝は誰にも明けていくものだと
光は万遍に照らすものだと

万人を助けるのは政治家ではない
清らかな一滴の水なのだ
それは遠い空から落ちてくる

そして人は一人で歩むことを知る
暗闇を背負った人々は
黙って通りすぎる

またしても帰ってくるのだ
暗黒の世界へ
そして一条の光が行く先を照らす


     七

傷ついたのはおまえではない
血を流したのは私達なのだ
のどもと深く流しこんだ熱湯は
おまえを苦しめたのではなく
私を苦しめたのだ

苦しみうごめく虫けらのように
うつぶせたのは私だ
そして苦悩から解放される約束を
私に与えたのはあの人だ

ああその約束を待ちわびて
長い苦悩の中にいた
長い年月
私が得たのはうつろな約束ではない

そうだ空虚な約束事ではなかったはずだ
だが約束は約束にすぎない
またしてもさまよう日々がやってきて
暗黒の世界へと導くのだ


     八

十分ではないか
やっと食うための術を得たのだ
それが十分ではなくても
やっと食えるだけのものであっても


     九

そうだその日一日の感謝を表そう
満ち足りていようがそうでなかろうが
一日の日を平穏に無事に過ごしたということが
精神の奥底で清らかなめぐみとなる

今日のあなたはどうだったのか
今日の私も奇跡のように
いつもの私だった
そうだ奇跡だ

そして祈りが始まると
静かに手を合わせる人々がいる
私は黙って歩みを進ませ
喜びにあふれるのだ


     十

一輪の花がある
それを私は胸にさす
それはあなたが私に贈ってくれたもの
花は大きな花びらを開いたまま

春がやってきて 野原一面に花を咲かす
それを手折って花輪をつくる
誰に贈るものかはわからない
誰のものでもない喜び

清らかな雪解けの流れだ
私の心を流れている水は
誰が手に汲んで飲むのかわからない
誰のものでもないうるおい

静かに手を合わすと
聞こえてくる静かな音色
それは少年の日の歌でもない
それは遠い日の子守歌






コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 十七歳の春 | トップ | 紙飛行機 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ちゅうたしげる詩集」カテゴリの最新記事