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十七歳の春

2021年11月05日 11時26分28秒 | ちゅうたしげる詩集
                                        ”
三月、春。
山の端が赤く染まる頃、
突然訪れた。
神の予調、天啓。
ある調べをともなって、
心を打ち抜いた。

突然口が聞けなくなって、
一息一息 呼吸を整えるだけ。

(あれは岩の間を流れる清水の調べだったのか。)

繰り返すリフレーン。

陽は西に傾き、
夕焼けの色はしだいに濃くなる。
足もとの影はゆっくりと長くなり、
時をはかる。

陽の名残を惜しむ私の耳のそばで、
誰かがささやいた。
口は聞けない、
一心に耳をそばだてた。

誰かが歌っている。
誰の声だか聞きとろうと
ふりむく。
かろうじて聞こえてくる歌。

調べは若い肉体に染み入り、
夕陽が若者の横顔を映しだす。

(山が歌っているのだ。
新芽をはらんだ木立が、
風に合わせて歌っているのだ。)

音楽は高鳴り、
夕陽の最後のかけらが、
暗い山に沈んでいく。

空だけが赤い。

夕闇のなかに星が瞬く。
谷を下ると、
流れに耐える岩がある。
永遠に耐える岩。

息は静まっていく。
闇に身を深くしずめたまま、
いつまでも旋律の記憶をたどっていた。







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