「雪原の駱駝」 政石蒙
「駱駝だ!」誰かが叫んだ。雪に閉ざされた山の斜面に五、六頭の駱駝が打連れ、長い首を垂らし雪のおもてに鼻面を押しあてていた。近づく自動車のエンジンの音をききとめた駱駝たちは一斉に頭をもたげた。
「駱駝だ、駱駝だ」
わけのわからない感動だった。孫悟空が現実に現れたような奇妙な服装をした蒙古人を見、お伽の国に連れ込まれた気持から抜けきれないでいた私だった。ふーっとため息をつくほど異境を感じた。
外蒙古はアジアの秘境だ。かつて彼の地に足を踏み入れて生きて還り得たものはいない、などと聞いている外蒙古に俘虜として労役に従うため、ソビエト領を過ぎソ蒙国境を越えて間もない地点だった。
雪の上に駱駝がいようなどと想像もしなかった無智な私にはおどろきだった。熱砂の畳々と起伏する砂漠をキャラバンと共に旅をする駱駝の甘いイメージしか持合わせていなかった私は、零下二十度の厳冬の野面に佇んでいる駱駝の姿に、感動すると共に薄気味わるくなっていた。
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