chuo1976

心のたねを言の葉として

相模原事件の弁護団

2021-04-27 16:04:33 | 死刑

相模原事件の弁護団

 

『相模原に現れた世界の憂鬱な断面』 森達也 2020年 講談社現代新書




弁護団によるサボタージュ

 

 措置入院の解釈や精神鑑定だけではなく、相模原事件の法廷にはもうひとつの特異点がある。弁護人の顔が見えないのだ。名前もわからない。普通なら判決後には弁護団が記者会見を開くが、今回はそれもなかった。だから「弁護団について教えてください」と僕は*篠田に言った。「全部で何人いるんですか」

「正式な人数はわからないです。今回の弁護団はマスコミの取材にまったく応じないし、名前や人数も公表していない。植松に訊いたら、それぞれの弁護団メンバーは面会に1回は来たらしいけれど、中心的な2人以外は植松自身もほとんど知らないし、公判前整理手続の内容などもまったく聞いていないと言っていました」

「わからないと同時に、熱量が足りない弁護団という印象があります」

「うーん」と唸ってから、「これは推測だけど」と篠田は言う。「いくら弁護士として着任したとはいえ、植松の犯行に心情的な同調は絶対にできないから、責任能力で争うことを方針にして、それ以外については距離を置くこと考えたのかな、という気はしますね」

「植松は弁護団を解任しようとしましたね」

「裁判が始まってからね。そもそも裁判が始まるまで弁護団と植松の関係は希薄だったから、裁判が始まって初めて、自分に責任能力がないことをあれほど強く主張されて驚き、初公判後に私が面会したとき、弁護団の解任を強い口調で訴えていました。それを私にだけでなく、面会に訪れたマスコミすべてに話していた」

「TBSが報道していました」

「ただ、公判が始まってからの解任は簡単じゃない」

「特に裁判員裁判だと、三者で協議した公判前整理手続がぜんぶひっくり返ります」

「だから面会のときに言いました。今から解任は難しいって。裁判所も認めないかもしれない。どうしても譲れないのなら、自分は弁護士の方針と違うということを被告人質問の際に表明すればいいのでは、とアドバイスして、それで決着がついたわけです」

「とにかく公判前に、植松とほとんどコミュニケーションができていなかった。それは弁護士団のサボタージュですよね」

「サボタージュっていうかネグレクトっていうか。ただね、植松が面会でマスコミにみんなしゃべっちゃうから、ということも理由だったのかもしれない」

「なるほど」

「ただまあ、判決のときも弁護団の会見はなかったし、記者クラブが申し入れはしたのだけど、メディアに対してはいっさい拒否なんです」



*篠田~篠田博之(しのだひろゆき)月刊「創」編集長。専門はメディア批評だが、植松聖死刑囚以外にも、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも20年以上にわたり接触。その他、多くの事件当事者の手記を「創」に掲載してきた。



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