遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鑑定本10 佐々木三味『骨董にせもの雑学ノート』(原著『書画・骨董 贋物がたり』)

2024年10月02日 | 故玩館日記

今回の品は、もともとは、戦前に出され、その後絶版となり、幻の名著といわれていた本を、大澤晋之輔が校訂をくわえ、平成7年にダイヤモンド社から発刊された物です。

 佐々木三味『骨董にせもの雑学ノート』ダイヤモンド社、1995年(原著『書画・骨董 贋物がたり』河原書店、昭和12年)。

かつては、骨董入門者必読の書として、骨董業界の若い人たちが回し読みしてきたといわれています。
著者の佐々木三味は、明治26年生れの茶道研究家、雑誌『茶道』を主宰し、茶界の世話人として長く活躍しました。彼は、骨董の売買に直接かかわることがなかったので、骨董界の裏事情を忌憚なく書物に書けたわけです。
この本には、贋物造りのテクニックがこれでもかというくらい出てきます。


内容は、書画の巻と焼きものの巻が全体の半分を占め、さらに、茶道具の巻、蒔絵の巻、金物の巻、古箱の巻、鑑定の巻と続きます。


書画では、まず、偽筆が挙げられます。著名人の作風を非常にうまくとらえ、偽作をつくるのです。有名な所では、良寛や頼山陽、太田蜀山人、貫名海屋、富岡鉄斎などです。頼山陽については、江州長浜の痴龍という人物が書く三陽の書は、玄人でも区別できなかったといいます。なかには、作者公認の偽筆(代筆?)もいたというから驚きです。
それから、変わったテクニックとして、書かれた作品を、2枚に剥ぐ手法があります。一枚の和紙は、案外簡単に2枚になるのだそうです。少し薄いですが、全く同じ物が出来上がります。これは、俗にいうヒコーキですね。飛行機が着陸する時、下に影が出来て、あたかも2台あるかのように見えることになぞらえたのでしょう。
焼きものについては、実にさまざまなテクニックが披露されています。
まず、雨漏りとよばれ賞玩されるシミは、お歯黒や酢を塗って火にあぶる。ただ、この方法では黒みが強く、薄紫色の本物の茶シュミに及びません。明末磁器の縁にできる虫食いは、上釉に用いる日の岡石のなかへ白玉粉を少し入れて焼きます。焼きあがった後、棒でコンコン叩くと、上釉がボロボロとこぼれ落ちて虫食いができるのです。茶碗の高台付近に出る鮫肌のようなブツブツはカイラギとよばれ珍重されますが、人口でカイラギを出すには、脂肪質の物を塗って上釉を掛け、焼成すればいいから簡単です。
漆の塗物で、数百年経った品にみられる断紋を手っ取り早く出すには、生地にモミ紙を張ってから漆を塗る。すると、絞りのある部分がぼこぼこ浮いて、表面に亀裂ができます。
銅器に時代をつけるには、希薄な硝酸を塗って、土に埋めておく。あるいは、汲み取り式便所の近くの土に埋めておく。上手い具合に緑青が吹いて、時代物に変化します。

贋物作りの裏話しは、まだまだ続きますが、著者の意図は贋物作者に知恵をさずけることではありません。贋物作りのあれこれを書くことによって、読者に真作の見方を教えているのです。

本書の序には、著者の意図が良く表されていると思います。

                序
 本書を目して罪悪の書となすか。
        そは贋物の製法を教ゆればなり。
 本書を目して虚構の書となすか。
         そは偽作者が自己弁護の遁辞のみ。
 本書を目して惨酷の書となすか。
         そは不正奸商が最後の悲鳴に外ならず。
                 本書の用は知る人ぞ知る、
                 敢てこれ世に問ふ所なり。
                                 ――著者――

コメント (4)
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