PHP文芸文庫 和田はつ子・宮部みゆき他『なぞとき〈捕物〉時代小説傑作選』細谷正充編を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
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※文中の敬称は省略させていただきます。
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【目次】
五月菓子 和田はつ子
煙に巻く 梶よう子
立花の涼 浮穴みみ
人待ちの冬 澤田瞳子
うき世小町 中島要
鰹千両 宮部みゆき
解説 細谷正充
【あらすじ】
五月菓子 和田はつ子
商家の妾が主夫婦の息子を柏餅で毒殺した疑いをかけられる。料理人の季蔵は独自の捜査を進めると…。
煙に巻く 梶よう子
弥太郎と弥二郎の兄弟は煙草屋吉田屋の看板息子。実はこの兄弟には、本人たちも知らないある秘密があった。
立花の涼 浮穴みみ
茶漬屋夢見鳥のお蝶はきっぷがよくてお節介。またぞろ面倒なことに首をつっこむことになり…。
人待ちの冬 澤田瞳子
幕府直轄の御薬園で働く真葛は、薬種屋から消えた女中の行方を探ってほしいと頼まれるが…。
うき世小町 中島要
一膳飯屋のたつみの看板娘お加代は器量よし。三崎屋の「江戸錦絵小町比べ」に絡んで、幼なじみのお八重、お志乃と思わぬ成りゆきに…。
鰹千両 宮部みゆき
棒手振りの魚屋角次郎に、鰹を千両で買いたいという奇妙な申し出があり…。
【感想】
五月菓子 和田はつ子
お大尽な商家の妻と妾というだけで、もういろいろと想像できてお腹いっぱい。妻のお加代は悋気が強い、妾のおいとは心優しい。
結局、死んだ息子の弥太郎は今でいう、小麦アレルギーのアナフィラキシーショックで亡くなったのだった。一件落着したが、家庭内はこの後どうなるやら…。
煙に巻く 梶よう子
弥太郎と弥二郎の兄弟は実は双子。生まれたときから兄弟として育ててきた。
双子は畜生腹、陰と陽がふたつに分かれたとされ、子の命を絶つことさえあった。人はなんて身勝手な生きものなのだろう…。勝手な理屈をつけて、それに振り回されて。
立花の涼 浮穴みみ
茶漬屋夢見鳥のお蝶は、珍しい朝顔の鉢を持っていた、女の子の格好をした男の子と関わることに。その子は高田屋の寮に住む兎一郎。義母のおつた恋しさに、おつたが喜ぶと思って朝顔を大切に育てている。
兎一郎が薬といって飲まされていたのは、心臓を弱らせる毒薬。拝み屋善治と女中のお松の仕組んだことだった。
兎一郎の健気さに泣ける…。みなそれぞれに、いろいろな事情や人に言えない過去を抱えて生きている。切なく哀しい…。
人待ちの冬 澤田瞳子
元岡真葛は肉親の縁に薄い生い立ち。それでも、健気に御薬園での仕事に励んでいる。薬種屋成田屋の悪い噂を確かめようとするうちに、思わぬ事件に巻き込まれる。
薬種屋成田屋の当代は入婿で、色男だが仕事もいい加減、女癖も悪いし、妻のお香津に手をあげることもある最低の男。なんでこんな男を好きになって婿に迎えるのか…。理性を失う「好き」ほど厄介な感情はないとつくづく思う。
一番哀れだったのは女中のお雪。夫を殺してお店を守りたいお香津に頼まれ、手伝うことになったうえに、無理強いされた末に身ごもらされて…。自分ではどうしようもない、弱い立場のお雪が哀れで仕方がない。
うき世小町 中島要
一膳飯屋のたつみの看板娘お加代は器量よし。増田屋の娘のお八重は不器量、貧しいが器量よしのお志乃。三人は手習い時代からの幼なじみ。
お志乃を殺したのはお八重だった。お志乃の放ったひとことが、お八重のコンプレックスのスイッチを押してしまった…。
三人三様、みな愚かだ。お加代は器量を気にかけないことで、お志乃は器量を鼻にかけることで、お八重を傷つけてきた。みんな仲良し♪幼なじみ♪ そんな無邪気が人を傷つけるのだ。無邪気は邪気がないからいいのではない。無邪気と愚かはイコールでもある。人間関係の難しさ、無情を感じる。
鰹千両 宮部みゆき
棒手振りの魚屋角次郎に持ちかけられたのは、鰹を千両で売ってくれという妙な話。言い出したのは大店の呉服屋伊勢屋の主人。
実は本当に欲しいのは鰹ではなく、角次郎の娘のおはるだった。実はおはるは伊勢屋の双子の娘。「双子は畜生腹」と言い張るきつい母に逆らえず、橋のたもとに捨てた子だった。手元に残した娘が疱瘡で亡くなり、その娘の代わりとばかり、おはるを千両で渡してもらうつもりだった。
実は本当に欲しいのは鰹ではなく、角次郎の娘のおはるだった。実はおはるは伊勢屋の双子の娘。「双子は畜生腹」と言い張るきつい母に逆らえず、橋のたもとに捨てた子だった。手元に残した娘が疱瘡で亡くなり、その娘の代わりとばかり、おはるを千両で渡してもらうつもりだった。
伊勢屋夫婦のあまりの身勝手さに腹がたつ。娘が亡くなったのは気の毒だが、亡くならずにいたらそのまま知らん顔なのだろうか? もっといえば、母親に意見も言えず、自分の妻を守ることもできない、伊勢屋の不甲斐さが元凶だが…。
いろいろと腹がたちつつ、最後はほっとできる話。落語の人情噺のよう。
いろいろと腹がたちつつ、最後はほっとできる話。落語の人情噺のよう。
【余談】
捕物話はそれほど好きなわけではないが、嫌いなわけでもなく。作品にもよるし。
どの作者の作品でも、世間知らずのはねっかえり娘が出てくるのは苦手。事件によって成長していくーというのも苦手。正直、イライラしてしまうので。
実年齢に関係なく、人の世や心がわかっている、十手もちや同心が捜査にあたる捕物話が安心して読んでいられる。
「煙に巻く」と「鰹千両」はどちらも、たまたま双子が生まれたことから起こる悲劇。時代とはいえ憂鬱な気分になる。本当につい先頃まで、人の命は軽かったのだろうな…。
関係ないけど、私の弟も双子。二卵性の。この時代に生まれなくてよかったね…。しみじみと…。
収録作のうち、宮部みゆき『鰹千両』は読了していた作品。新潮文庫『初ものがたり』だった。アンソロジーはよくあるね、読了作品がかぶること。
「あれ~?これ読んだことあるよ?」みたいな。