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宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』あらすじと感想

2020-06-23 11:16:58 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
第一話 片葉の芦
第二話 送り提灯
第三話 置いてけ堀
第四話 落葉なしの椎
第五話 馬鹿囃子
第六話 屋敷
第七話 消えずの行灯
解説 池上冬樹


【あらすじ】
深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編の短編集。
本所一帯を預かっている岡っ引き、回向院の茂七が関わった事件の数々。

*第一話 片葉の芦
握り寿司屋の近江屋藤兵衛が殺された。下手人は折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが…。幼い頃、お美津に受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けたそば屋の彦次がことの真相を探る。

*第二話 送り提灯
煙草問屋の大野屋の奉公人おりん。お嬢さんから恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられ、怪異に遭遇する。

*第三話 置いてけ堀
おしずは亭主の庄太を亡くし、ひとつになったばかりの角太郎を抱え、昼は麦飯屋、夜は仕立物の内職をして暮らしをたてていた。寂しさと不安から死を考えることもある。そんなとき妙なことが起こった…。

*第四話 落葉なしの椎
松浦豊後守の上屋敷には、枝を大きく張り出した椎の木があり、この木が秋の落葉の頃になっても、一枚の葉を落とさないという言い伝えがある。これとは別口に雑穀問屋の小原屋でも妙な話が持ち上がっていた。

*第五話 馬鹿囃子
おとしは伯父夫婦を訪ねた折り、若い娘の先客がいた。名はお吉、辛い出来事から心を病んでいて、爆発しそうになるとここへ来ては心の闇を吐き出しては帰っていく。お吉は「馬鹿囃子」が聞こえてうるさくて仕方がないという…。

*第六話 屋敷
料理屋の大野屋の娘おみよは若く美しい義母、父の後妻お静が大好きだ。ところが、実はこのお静は悪党の一味だった。

*第七話 消えずの行灯
飯屋の桜屋に奉公しているおゆうは、世の中にも男にもつまらない幻想を抱いていない冷めた女だ。あるとき、小平次という男が訪ねてきて、足袋屋市毛屋に行方不明のお鈴という娘がいる。おゆうがその娘に似ているから、替え玉として市毛屋に行って欲しいという。


【感想】
いつも宮部みゆきの江戸時代物を読むと胸がきゅっ…と苦しくなることがままある。人が生きていくことの苦しさ、悲しさ、切なさがそこここに散りばめられているからだ。それでも読んでしまうのは、人の普遍的な感情や生きることの大変さと尊厳をみてとれるからだと思う。
江戸時代が舞台ではあるけれど、現代に置き換えてもそうそう変わるものではないのが人の世。生まれてくるところは選べないし、親や先生、上司など立場が上の者からの圧力や理不尽はやはりあるわけで…。
そういうところに何かしら共感したり、思うところがあって読み続けているのかもしれない。もちろん、作者の筆致が優れているのは言うまでもないけど。

*第一話 片葉の芦
「恵む」と「助ける」の違いについて考えさせられる話。恵むことで人をだめにすることがある。恵んだほうは気持ちがいい、恵んでもらったほうは最初は感謝しつつ、あてにして性根が腐っていく。
共依存の関係に似ている。いや、そのものかもしれない。
お美津とかわした約束を彦次は大人になっても決して忘れなかったが、お美津はすっかり忘れていた。その約束を彦次は生きるよすがにしていたのだが…。
片葉の芦は片側にだけ葉をつける不思議な芦。二人いても、一人にしか心に残らなかったお美津と彦次に似ている。切なく悲しい…。

*第二話 送り提灯
大野屋のお嬢さんが信じているのは恋愛成就のおまじない。丑三つ時に回向院の境内まで行き、小石をひとつ拾ってきて、これを百晩続けると恋が成就するという話だ。現代でも占いやスピリチュアル好きが嵌りそうな話だ。
お嬢さんのわがままに苛立ってしまう。自分の立場をよくわかっていて、奉公人であるおりんが断れないのを見越して頼み事をしているところにも、嫌らしい計算を感じてしまう。悪意はないのが余計にたちが悪い。
奉公人の清助はお嬢さんのことが好きなのだが、お嬢さんは清助が生理的に嫌いだ。結局、清助は押し込みの悪人からお嬢さんを庇って怪我までしたのに、お店を出されることになる。
人の好悪は理屈じゃなくいい悪いでもない。どうしようもないことだと思う。
真夜中に回向院まで歩くおりんの後を、ずっと守るようにつけていた者は一体誰だったのだろう? 最後までわからずじまいだった。
「ーおりんちゃんのことを好きな誰か。うんと好きな誰か。」最後の一文が心に引っかかる。

*第三話 置いてけ堀
回向院の茂七親分が置いてけ堀に岸涯小僧が出たと、おしずの働く麦飯屋で言い出す。かわうその化けたものだのなんだのと、みんなやいのやいのと勝手なことを言う。おしずは漁師や魚屋の成れの果てが岸涯小僧だと聞き、殺されて亡くなった亭主の庄太が岸涯小僧なのではと思い出す。
庄太に会いたさに置いてけ堀に出かけたおしず。実はこの話を麦飯屋でしたのも茂七の考えだった。小間物問屋の川越屋夫婦が下手人だとふんでいて、この夫婦をあぶり出すために仲間たちと一芝居うったのだ。
殺人事件はあったものの、後味のよい最後はほっとするお話。

*第四話 落葉なしの椎
雑穀問屋の小原屋の奉公人お袖は、もうじき息子の千太郎の嫁になることが決まっている。小原屋の裏手で殺しがあり、その下手人があがらないのが庭の椎の木から落ちる落葉が原因だと言い出し、丑三つ時だというのに掃除を始める。それは自分を捨てた最低の父親が現れ、落葉で名前を残したから。
かつては最低だった父親と娘のそれぞれの気持ちが切ない…。

*第五話 馬鹿囃子
湯屋の娘お吉は少し頭がおかしい。人殺しをしたと思いこみ、岡っ引きの茂七のところへ来ては延々と自分が殺した者のことを話していく。お吉の頭の中では彼らは本当に殺されているのだ。
「男なんてみんな馬鹿囃子なんだ」
器量の悪い家つきの末娘お吉は、縁談が壊れたことで自分も壊れてしまった。ただでさえ器量よしの姉たちと比べられ、男の裏切りにあい、とてつもなく傷ついた心をどうすることもできなかったのだろう。それを思うと胸が痛む。
「馬鹿囃子」とは、夜中に目を覚ますとどこからともなくお囃子が聞こえてくるという本所七不思議のひとつ。

*第六話 屋敷
大野屋の娘おみよは父の後妻お静が大好き。若く美しく、そして優しい。その優しさはおそらく演技だ。お静は悪党の一味で目をつけたお店にもぐり込み、仲間を引き込む役目の「引き込み」だった。
ひどい性悪女だが、板橋宿で育った頃の辛さが忘れられず、時折、悪夢として蘇ってくるのだ。客の汚い足を「洗え!洗え!洗え!」と脅すような声と天井を破って降りてくる足。
だからといって、悪事に加担してよいことにもならないし、人を傷つけていいことにもならないが、ほんの少しだけ哀れな気がした。

*第七話 消えずの行灯
足袋屋の市毛屋には行方不明のまま消息がわからない娘がいる。永代橋が落ちたとき橋の上にいたのだ。川からは遺体があがらなかった…。諦めきれない市毛屋夫婦。
やがて母親のお松は心を病み、娘は生きていると思いこむ。父親の喜兵衛は娘の替え玉を見繕ってくる。もう何人も。
おゆうは奉公先の桜屋を出なければならなくなり、仕方なしに市毛屋に替え玉になりに行く。そこで、本当はお松は正気で亭主を憎み続けていること、喜兵衛は他所に女をこしらえていることを知る。
この夫婦は亡くした娘を二人で悼むのではなく、お互いを傷つけあって生きてきたのだろう。悲しいけれど、ありがちなことだと思う。人の心は現実を受け入れ、相手を受け入れ、尊重し、慈しむことは簡単にはできないものだから。
「消えずの行灯」は憎しみの油を吸って、今までもこれからも燃え続けるのだろう。怖いような…哀しいような…。




【余談】
この作品は92年に吉川英治文学新人賞を受賞しているとのこと。
あと、作中の表記で「きびす」ではなく、「くびす」というのは初めて知った。本当に知らないことは多い。勉強になるな~。

文庫本の中に入っていた冊子。2017.9とある。
*ワープロ導入で拓けた作家への道
*人間はなぜ物語を必要とするのか
*人とは意思が通わない「呪物」 → 『荒神』
などなど。作者の執筆の動機とかなかなか興味深い。




次は同じく宮部みゆきの『あかんべえ(上)』を読むよ♪











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