「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.459 ★ 「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景

2024年07月07日 | 日記

DIAMOND online (王 青:日中福祉プランニング代表)

2024年7月5

中国・蘇州は美しい運河で知られる(写真はイメージです) Photo:PhotoAC

中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われる事件があり、犯人の男に立ち向かった中国人女性が亡くなった。この他にも中国では、外国人を対象にした無差別殺傷事件が起きている。背景にあるのは、中国社会の閉塞感や経済不況、そして今も続く反日教育だ。中国では今も反日ドラマや映画がたくさん放映されているほか、SNSも閉鎖的で海外の情報に触れることが難しい。さらに昨今は「日本人学校はスパイを養成している」といったデマ動画が拡散されSNSで人気を集めている。なぜ反日動画は多くの中国人に支持され、デマを信じる人が減らないのか、その理由と実態を紹介したい。(日中福祉プランニング代表 王 青)

日本人学校のスクールバスが襲われ、中国人女性が亡くなった

 6月24日、中国の江蘇省蘇州市で、痛ましい事件が起きた。日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子2人が刃物を持った中国人男性に襲われ、怪我を負ったのである。バスの案内係で、身を挺して男の犯行を止めようとした中国人女性・胡友平さんは、男に何度も刺されて2日後に命を落とした。この悲劇的なニュースは、日中両国に大きな衝撃を与えた。

 SNSでは胡さんを悼み、たたえる声が溢れた。日本では、「日本の子どもたちを守る勇気と行動に感謝いたします。亡くなられたことは残念でなりません。ご冥福をお祈りします」「日本人をかばい、身を挺して亡くなられた胡さん、あなたの名前は忘れません」といったコメントが殺到した。

 中国でも同様に、胡さんへの哀悼と感謝の意を示す書き込みが多数寄せられた。「私のような男でも、あの場面に遭遇したら、胡さんのように身の危険を顧みず、犯人を制止できるか、自信を持って言えない。胡さんの勇気に敬意を表します」「一人の普通の女性が、自分の命で暴徒と戦い、彼女が救ったのは日本の子どもたちだけではなく、わが国の体面も保ったのだ。我が国にも善良で勇気のある人がいるということを世界に示すことができた」といった声が上がっている。また、最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えたというコメントも多く見られた。

 このように、日中両国において胡さんへの賛美の声が上がり、涙を誘うような雰囲気が広がっている。

日本人学校についてのデマ動画が拡散、その内容は……

 しかし、なぜこのような事件が起きたのか、犯人はどんな心境でどういう目的で犯行に及んだのか、それらを検証しないと、また同じことが繰り返される恐れがある。実際、この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい。

 今回の事件で標的になったのが日本人学校であることは注目に値する。近年、中国のSNSでは日本を貶める過激な書き込みや動画が増加している。特に一部の人々が閲覧数を稼ぎ、フォロワー数を増やし、最終的にはライブ配信での商品販売につなげるため、手段を選ばず、根拠のない情報を動画に盛り込むケースが目立っている。

 約2年前から、日本人学校をめぐって、SNSではさまざまなデマが飛び交うようになっている。それらは主に次のようなものだ。

「日本人学校は実はスパイの養成機関、あるいは軍事基地だ。日本人の学生だけを受け入れ、中国人が入学できないのはなぜだ」
「日本人の学生たちは、中国で測量や地図作成をしている。戦争の準備のためだ」
「日本人学校が制裁対象となった。すべての海外の教育機関が我が国の関連部門によって監督され、学生の愛国心教育を強化することが求められている」

 さらに、昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという。

デマ動画の元になった動画の投稿者に話を聞いた

 今回、このデマ動画の元になった動画の製作者である東京在住の中国人男性インフルエンサー、Aさんに話を聞くことができた。

 Aさんは次のように語った。「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……」

 さらにAさんは、「実は、この動画は別のバージョンにも使われています。いずれも、動画の中の小学生がファシストの敬礼をしているとか、軍国主義思想を植え付けているといった内容です」と付け加え、深くためいきをついた。

 その後、Aさんは自分のSNSアカウントにこの経緯を説明する動画を投稿。すると、「そうだったのか!?騙されたところだった」といったコメントがたくさん書き込まれた。

 Aさんは、「国内のネットユーザーが、このように歪曲された動画に振り回され、憎悪と恐怖の中で生きるように仕向けられ、やがては暴力へと変貌して、罪の無い人々に害を与える。デマの餌食にならないよう、私は真実を伝えていく」と話している。

 このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している。

 周知の通り、中国にある日本人学校は、中国政府の法律規定に従って設立されたものだ。中国に滞在する日系企業駐在員の子どもたちが日本の教育を受けるための場所であり、日本国内の小中高と同等の教育課程が提供されている。

5歳児が「日本に行ったら殺されない?」今も続く反日教育

 日本人学校に対する誤った認識が広がる背景には、大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある。中国国内では「抖音(ドウイン)」や「快手(クアイショウ)」「WeChat動画」などのプラットフォームしか利用できない。

 さらに、中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた。

 中国では反日教育が行われてきたことは日本でも広く知られているが、残念ながらそれは過去の話ではなく、今ももちろん続いている。

 先日、久しぶりに会った友人の話には考えさせられた。彼女はもともと中国の出身だが、日本国籍を取り、今は中国で仕事をしている。彼女には中国で生まれ育った5歳の娘がいるのだが、日々、抗日戦争の物語や抗日映画などにより、「日本が中国を侵略した歴史」を教えられているという。

 今回、彼女は娘を連れて夏休み期間中に日本に一時帰国することにしたのだが、幼稚園のお友だちから「○○ちゃんは、日本に行ったら殺されない?大丈夫?」と心配されたというのだ。彼女はその話を聞いて怖くなってきたと話す。「もう子どもを連れて日本に帰った方がいいかな」と悩んでいた。

外国人をターゲットに無差別殺傷事件を起こせば注目される

 コロナ禍が終息しても、中国経済の回復は思うように進んでおらず、失業率は高止まりしたままである。「以前より生活が苦しくなった」という声をよく耳にする。そうした中で、生活苦に陥った人々が一種の「社会への報復」として無差別殺傷事件を起こすケースが、最近中国各地で発生している。

 攻撃の対象が同じ中国人であれば、ニュースになってもすぐに消されるし、あまり注目もされない。一方で、「外国人をターゲットにすれば、海外メディアに取り上げられて話題になる」という思惑があるという指摘もある。

 蘇州の日本人親子や吉林省の米国人教師への襲撃事件は、中国から外資企業の撤退を加速させてしまう可能性がある。タイミングの悪いことに、蘇州の事件の1週間前、東京のホテルニューオータニでは蘇州市政府による「投資誘致イベント」が開催されたばかりだった。蘇州市副市長が出席し、「多方面にわたる蘇州の優れた投資環境」をアピールしたという。出席した関係者の一人は、「実質的で具体的な内容がほとんどなく、出席した日本企業もそれほど多くなかった。冷めた様子だった」と語っている。

 蘇州だけではなく、昨年から中国各地の地方政府が相次いで日本を訪れ、日本の経済界に「我が省・市へ積極的な投資を」と呼びかけている。しかしその一方で、外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧している。

中国のIT大手各社が、SNSへの反日的な投稿の規制を始めた

 こうした動きを受け、6月末、テンセントやウェイポ、ドウインといった中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている。

 冒頭で紹介したSNSの声が胡友平さんを悼み、たたえるものが多く、犯人を支持したり日本人の子どもたちを貶めるものが少なくなったのは、その影響もあるのかもしれない。

 SNSでは「胡さんは、外資の流出を食い止めてくれた。わが国の雇用に貢献した。ありがとう!」といったコメントも多く見られる。せめて、胡さんの死を無駄にしないよう、日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ。

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