「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.141 ★ 【中国はもはや秘密警察国家】保守国家秘密法が14年ぶり改正、習近平独裁を強化する驚愕の中身…市場調査すら無理?

2024年03月03日 | 日記

JBpress (福島香織:ジャーナリスト)

2024年3月2日

14年ぶりに保安国家秘密法が改正され、習近平国家主席の体制がより強化される(写真:新華社/アフロ)

  • 中国が保守国家秘密法(国家秘密保護法)を14年ぶりに改正した。
  • 国家機密に関する情報漏洩を徹底的に取り締まる内容だが、その範囲が極めて広く、通常の市場調査すら「情報漏洩」と指摘されかねないほどの状況だ。
  • 習近平国家主席の独裁体制を強化する狙いがあるとみられるが、中国はもはや「秘密警察国家」となりつつある。

 中国で保守国家秘密法(保密法、国家秘密保護法)が14年ぶりに改正された。2月27日に改正保密法は全人代常務委員会で採決され、5月1日から施行される。

 本来なら昨年の全人代でこの改正保密法が裁決され施行される予定だったらしい。だが、そのころは中国としてはまだ外資の回流を多少とも期待していたので、あえて改正を遅らせたらしい。

 今回、来週から春の大政治イベント、両会(全国人民代表大会=全人代、全国政治協商会議=全国政協)が開幕するタイミングで、改正保密法が可決された。その理由はおそらく、習近平政権として完全に経済の回復期待に見切りをつけ、経済よりも地方官僚、政治家たちが両会の場で、習近平の政策の失敗に言及するのを抑え込むのが狙いではないか。そして、「習近平体制の安全」を確立するのが目的だろう。

 この改正保密法とはどんなものなのか。

 保密法は改革開放政策が打ち出された後の1988年に制定された。当時の目的としては改革開放により中国に流入した外資に対して、情報提供のガイドラインを作るためだった。2010年に初めてこの法律は改正されるわけだが、その時は中国が世界2位の経済規模に成長したタイミングで、国際社会における大国としての役割が期待されていた。

 そのために、当時の中国では外国との情報のやり取りが緊密化しており、この法改正によって情報管理の調整が必要とされたのだった。いずれも中国の対外情報発信量が増えるのに伴う情報管理の調整が目的だった。
だが今回の法改正は、これまでとは若干目的が変わってきているようだ。

習近平の独裁体制を強化

 改正保密法について、新華社を通じた当局者の解説では「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導により、党中央の秘密保護任務の政策決定配置と習近平総書記の重要な指示と精神を深く貫徹し、全面的に習近平の法治思想を貫徹し、総体的国家安全観、包括的な発展と安全を堅持し、国家秘密安全の防衛ラインをしっかり構築するために、より効果的な法治の保障を与えるものだ」としている。

 素直に読めば、習近平独裁を確固とするための法改正と解釈できる。

 特に「内部と外部の脅威」を予防することが目的とされており、習近平が国内の官僚や政治家、人民が、外国に通じることを恐れていることもうかがえる。

 改正保密法で注目されている内容は第46条規定だ。

 国家機密に関与する職員は離職したのちも、国家機密保護規定を遵守しなければならない。機関、組織は職員離職の際には、機密保護教育を展開して、そのことを確認し、国家秘密に対するアクセス手段、機密解除管理の実装から完全に切り離す「脱密期」をもうけ、いかなる方法での国家秘密漏えいもさせないようにする、というものだ。

 秘密情報へのアクセス権を停止し、秘密情報との接触をたつ「脱密期」終了後も、国家秘密保護規定を遵守し、過去に知り得た国家秘密に関しては秘密保護義務が生じる。秘密にかかわる職員は離職後および脱密期に、国家秘密の保護規定に重大に違反した場合、機関、組織は適時、秘密保護行政管理部門に報告し、秘密保護行政管理部門は法に従って措置を講じる。

「脱密期」という一般ではあまり聞かない言葉が強調され、おそらく関連の公務員たちは不安を感じていることだろう。公務員たちは引退後も、厳しく監視管理されるという意味でもあり、彼らが外国人と交友関係を持つことも今以上に厳しく統制されることになるだろう。

あいまいな「工作機密」の定義

 また附則第64条規定では、機関、組織が職務を遂行する上で獲得した国家秘密に属さない情報についても、その漏洩が一定程度の不利な影響をおよぼす場合、工作秘密管理弁法を適用して必要な保護措置を取らねばならない、としている。工作秘密管理弁法はまた別の法規となる。

 外国企業にとっての大きな懸念は、この64条規定の「工作秘密」に関する規定だろう。全人代憲法法律委員会の副主任委員の駱源は「工作秘密は国家秘密ではないが、実際においてはルールでもって管理強化すべきものが大量にあると主張する意見が多い」としている。

 この場合の「工作秘密」が何を指すかは、明確に定義されていない。しかし「国家公務員暫定条例」の解釈によると、「国家秘密のほか、公務活動中に公開拡散してはならない情報、いったん漏洩すると当局機関や組織の仕事に影響を与えたり損害をもたらしたりする情報」と定義されている。

 つまり、どんな情報も、当局が不利益を被ったと判断すれば、公開できない情報になる、と後から言われる可能性がある。

 台湾の国策研究院執行長の王宏仁はボイス・オブ・アメリカに対して、64条こそが今回の法改正のキモであり、「国家機密に関係のない一般行政機関の公務員が持つ一般情報も、国家秘密漏えいに準じた取り締まり対象となり、もしその漏洩したデータなどが、中国政府にとって不利な影響とみなされた場合、おそらく刑事責任と処罰を受けることになる」と指摘。当然、中国の中央、地方公務員たちは、外国企業やメディアと接触することを、今以上に不安がり、萎縮することになるとみられる。

 また、新華社の解説によれば、今回の法改正では、さらにハイテク立国としての中国の安全についての条文の補足が増えたとしている。ビッグデータ、クラウドコンピューティング、人工知能などの新技術の応用によって、ハイテク分野の自立・自強に関する秘密保護をさらに徹底する必要性が出てきた。だから、この改正保密法によって、ハイテク・イノベーション分野における秘密保護とテクノロジー防衛を重視しているという。

情報漏洩に対する監視を一層強化

 ハイテク・イノベーション分野の秘密保護を支持する条文を増やし、明確に国家が最先端の技術研究とその応用に関する秘密保護を奨励、支持し、自主的なイノベーション能力を向上させることを目指しているようだ。秘密保護領域の知財権を法に基づいて保護することで、技術レベルを向上させるための法的支援を提供するのだという。

 秘密情報システムの計画、構築、運用、全体のプロセスの保護は、保密法の規定と基準に合致するよう規定されている。秘密保持施設、設備、秘密情報システムのリスク評価を定期的に実施するよう要請され、コンピューターウイルスに感染した状態での運用などを回避する、としている。

(写真:PantherMedia/イメージマート)

 また、機関や組織が情報システム、設備に対する秘密保持管理を強化し、自前の秘密保護監督管理設備を構築し、適時に秘密保護に対する安全リスクを発見するように要求している。こうした秘密保護技術の設備管理、技術の安全のためには抜き打ち検査、審査システムなどの確立も求められている。

 データ保護、ネットワーク情報の機密性保護と管理の重要性も強調されている。今回の改正で、ネット情報秘密保護管理制度が改善され、ネット情報の制作、コピー、発表、拡散などについて、国家秘密保護規定を遵守するよう求められた。ネット運営者は、国家秘密がネットで漏洩するような問題について、当局と調査処理を協力するように明確に規定された。

 インターネットやその他の公共情報ネットワークが発表する情報で、国家秘密漏えいが疑われる場合、すぐに報告し、削除要求など関連の設備に対する技術的な処理を行うこともこの法律で明確に規定された。

 すでにあるデータセキュリティ法との連携が強化され、秘密データの管理収集についての規定も強化された。秘密情報の範囲については、必要、合理の原則に基づいて、毎年審査・精査して、適宜、秘密の解除も行う。同時に、情報開示と守秘義務審査の条項を追加し、情報公開のセーフティネットを整備して、守るべき秘密は毅然として守り、公開すべき情報は法に従い公開する、としている。

 またこの法改正で「国家秘密任務を守り保護することについて突出して貢献した組織と個人は、国家の関連規定によって表彰、奨励する」という一文が加わっている。行政官のみならず民間の企業家や記者などに対しても、秘密保護のための技術協力や漏えい者の告発を求めるようになった。

中国はすでに「秘密警察国家」

「これは中国国家全体がすでに秘密警察国家になるということを意味し、言論の自由の範囲として、何を話していいかどうかの判断は難しく、最終的に一番安全な方法は何も話さない、ということになる」と王宏仁は語っていた。

 この法改正によって、メディアは中国の情報の事実真相に迫る取材はますますできなくなるし、国内外の学術交流もおおいに阻害されるだろう。

 外国の企業は、海外の市場に進出するとき、さまざまな市場調査を行う。だが、こうした調査自体が、改正保密法に抵触し、企業関係者が刑事拘留されたり、強制退去措置にされたりするリスクが増すことになる。

 新年の中国株暴落のとき、人民日報は経済のムードは楽観的だ、と大きく報じたように、事実と異なるフェイクニュースが拡散されても誰も訂正できない。ウソの情報をもとに投資したりビジネスしたりしても、成功できる可能性は低いので、中国から外資の撤退はさらに加速され、中国の経済回復はさらに遠のくことは間違いない。そして中国の国際社会での孤立化はさらに進むことになる。

 そして習近平独裁体制がますます「唯我独尊」化し、中国の秘密警察国家化が進み、中央・地方を問わずさらに大量の官僚、政治家の粛清が拡大、加速するのではないだろうか。

 習近平にとって「政治安全」が経済安全より優先されることは、これまでの政策から見えていた。だが、第20回党大会では、少しだけ、この方向性が是正されるのではないかという期待もあった。なぜなら習近平はすでに権力闘争に完全勝利し、独裁を確立しているからだ。

 だが、独裁者がその権力掌握に満足することなどありえないのだ。歴史上の独裁者のほとんどがパラノイアではないか。

 米ジョージタウン大学アジア法律センターのトーマス・ケロッグ主任は米ニューヨーク・タイムズ紙上で、「中国はすでに20以上の国家安全関連法を可決、あるいは改正しており、改正保密法は最新のものだが、おそらくこれが最後ではないだろう」と予言している。さて、これが最後でないならば、次にはどんな恐ろしい法律ができるのだろう。

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト。大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

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