「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.531 ★ 日本製鉄、中国大手と「合弁解消」が示す関係変化 「生産能力7割減」  脱中国鮮明化で米印へ集中

2024年08月01日 | 日記

東洋経済オンライン (吉野 月華 : 東洋経済 記者)

2024年7月31日

2003年7月に新日本製鐵は宝山鋼鉄と自動車用鋼板を製造・販売する合弁会社設立で基本合意を締結した。左から三村明夫社長と千速晃会長(いずれも当時)。同年の12月にはアルセロールも交えて合弁契約を締結した(写真:時事)

日本製鉄が”脱中国”に向けて動き出した。7月23日、日鉄は中国・宝山鋼鉄(以下、宝鋼)との合弁会社である宝鋼日鉄自動車鋼板(以下、BNA)の合弁契約を解消すると発表した。

2004年に宝鋼と新日本製鐵(現日本製鉄)、ヨーロッパのアルセロール(現アルセロール・ミタル)の出資により設立されたBNA。2011年にはアルセロール・ミタルの持分を日鉄が買い取り、宝鋼と折半出資で運営してきた。

合弁契約がこの8月下旬に20年間の満期を迎えるが、日本製鉄は契約を更新しないことを決めた。日鉄は保有するBNA株を17.58億元(約370億円)で宝鋼に譲渡し、合弁から撤退する。

宝鋼と同じグループに属する武漢鋼鉄との合弁・武鋼日鉄(武漢)ブリキが残るものの、日鉄の中国での鋼材生産能力の7割を手放すことになる。

関係は師弟からライバルへ

日鉄と宝鋼の関係は、1977年に新日鉄の稲山嘉寛会長を代表とする日中長期貿易協議委員会が訪中した際、中国政府から上海での大型一貫製鉄所建設への協力を要請されたことにさかのぼる。山崎豊子氏の小説『大地の子』のモデルともなったこのプロジェクトを全面的に支援したのが日鉄だった。その後、両社は長らく”師弟”関係にあった。

BNAもそうした両社の関係から生まれた。2001年のWTO(世界貿易機関)加盟を契機に中国経済は急成長を開始。中国政府は自動車生産の拡大に踏み出すが、当時の中国には自動車用の高級鋼板を生産できる鉄鋼メーカーがなかった。日鉄の技術で自動車用鋼板の供給を目指したのがBNAだった。

だが、20年の歳月で状況は変わった。

中国は世界の粗鋼生産の半分以上を担う鉄鋼大国となり、宝鋼を傘下に持つ宝武鋼鉄集団は世界最大の鉄鋼メーカーとなった。その粗鋼生産能力は1億3077万トン(2023年)で、世界4位の日鉄の3倍に達する。

宝鋼を筆頭に自動車向けの高級鋼を手がける中国メーカーも増え、当初BNAが担った役割は失われつつあった。日鉄は合弁解消の理由を、BNA設立時の目的が達成されたためと説明する。

2021年には無方向性電磁鋼板で特許を侵害されたとして日鉄が宝鋼を訴える事件も起きた。日鉄は、今回の合弁解消は訴訟とは無関係とするが、両社の関係が師弟からライバルへと変わったことは否定できない。

業績への影響は軽微

中国の自動車市場では、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)といった新エネルギー車へのシフトが急速に進展。この動きに対応できない日系自動車メーカーは販売台数とシェアを落としている。BNAは日鉄にとっては日系自動車メーカーの需要に応えることを主目的とした合弁設立だったが、その役割も薄れつつある。

そもそも鉄鋼事業という視点からも中国市場の魅力はなくなっている。中国経済の減速で鉄鋼需要が低迷しているにもかかわらず、生産抑制は進まない。供給過剰で現地メーカーの業績は急速に悪化している。

日鉄の2023年度の海外事業の事業利益は1318億円。その半分弱を稼ぐのはインドだ。次いで利益貢献が大きいのは北中米で、東南アジア、南米、中国と続く。

日鉄の中国事業の中核はBNAだが、その2023年の純利益は4.1億元(約85億円)。日鉄が持ち分法利益で取り込めるのはおおむねその半分。合弁を解消しても業績への影響は軽微にとどまる。

日本国内の鉄鋼需要が右肩下がりの中、日鉄は国内でリストラを進めてきた。鉄鉱石から鉄を造る高炉は2020年初の15基から11基まで削減。2025年3月末までにもう1基停止する。高炉15基時代に5000万トンあった国内の粗鋼生産能力を4000万トンまで減らす。

一方、成長も諦めていない。「グローバル粗鋼生産能力1億トン、実力ベース連結事業利益1億円」を目標に、海外で積極的に投資を続ける。中でも重点地域と位置付けるのがインドとアメリカだ。

2019年にはインド5位の鉄鋼メーカー(現AMNSインディア)を、アルセロール・ミタルと共同で約7700億円で買収した(日鉄が40%出資)。2022年にはAMNSインディアが約1兆円の追加投資を決めた。港湾設備を買収したほか、高炉2基を含む各種生産設備を増強する。

アメリカでは日鉄単独で約2兆円を投じるUSスチールの買収を進めている。アメリカ以外の各国政府の承認は得ており、おひざ元となるアメリカ政府の承認待ち。だが、業界労働組合が買収に反対を表明、大統領選挙を前に政治問題化しており先が見通せない。

USスチール買収をめぐっては、アメリカの調査機関が日鉄の中国事業拠点が中国新彊ウイグル自治区に存在するとの虚偽情報を流し、それを受けた政治家から批判されたことがある。日鉄はUSスチール買収と今回の中国合弁の解消は関係ないとするが、結果的に米中対立の余波を受けにくくなる効果はありそうだ。

「中国が攻めてこない市場で戦う」

新興国のインドと先進国のアメリカーー日鉄が力を入れる地域には2つの共通点がある。

第1に市場自体の成長力。インドは中国を抜いて人口世界一となったが、1人当たりの鋼材消費量は中国の6分の1以下の水準で、今後の大幅な成長が期待できる。アメリカは先進国ではほぼ唯一の人口増加国かつ、今後のEVシフトなどで電磁鋼板といった高級鋼の需要増が見込める。

第2が中国の影響を受けにくいこと。中国の過剰生産能力が消えてなくならない以上、この先も近隣国の鋼材市況は乱高下を余儀なくされる。そうした中、政策として中国鋼材をほぼシャットアウトしているのがインドとアメリカだ。

日鉄の橋本英二会長は過去に「中国が攻めることができない市場で戦う」と語っていた。今回の合弁解消は、中国に投じていた経営資源をシフトし、中国とデカップリングした新たなグローバル体制の構築の第一歩となるのかもしれない。

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No.530 ★ そっくり商品も出現「ユニクロ」中国で不振の異変 国内に次いで大きな市場、この1年で何起きた?

2024年08月01日 | 日記

東洋経済オンライン (浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)

2024年7月31日

ユニクロ中国の店舗(写真:ロイター/アフロ)

円安下のインバウンド需要を追い風に絶好調のユニクロが、利益の4分の1を稼ぐ中国市場で不振に陥っている。日本ではバブル崩壊後に価格破壊を起こし、デフレ消費の勝ち組として成長したが、当時の日本と同じような不況にある中国では逆に消費者離れを招いている。

ユニクロやジーユーを運営するファーストリテイリングは7月11日、2024年8月期第3四半期決算(国際会計基準)を発表、通期予想を上方修正した。売上収益は前年比11%増の3兆700億円、純利益は3650億円と過去最高を見込む。

前年は過去最高だったものの…

国内ユニクロ事業はインバウンド需要の強い追い風を受け大きく伸びた。値引きを減らしたことが奏功し、粗利益率も向上している。海外ユニクロ事業も直近の2024年3~5月は北米、欧州、東南アジアが大幅な増収増益だった。

一方、ファーストリテイリングの稼ぎ頭だった中国のユニクロ事業は3~5月、大幅な減収減益となった。

2023年8月期通期は香港、台湾を含むグレーターチャイナの売上収益、営業利益ともに過去最高を更新し、同9月~11月も大幅な増収増益だったが、同12月~2024年2月は営業利益が横ばいとなり、成長が止まった。つまりこの1年で急失速している。

2023年8月期の営業利益で、グレーターチャイナのユニクロ事業は全体の27.4%を占め、国内ユニクロ事業(30.9%)に次いで大きい。

ユニクロのグレーターチャイナの店舗数は1031店舗(2023年8月末)。うち中国本土が9割超の925店舗で、国内の800店舗を上回る。

今は全体の好調の陰に隠れて目立たないが、中国の不振が業績に与える影響は大きい。

不動産不況が長引き、雇用の悪化と中国経済の減速が鮮明となった1年前から、ファーストリテイリングは決算会見でユニクロ中国事業の見通しをたびたび聞かれてきた。

柳井正会長兼社長は昨年10月、「ショートタームでは景気後退はあるかもしれない」としながらも、長期的な消費の成長に自信を示し、中国の特殊性を強調するのは欧米流の考え方だと反論した。

中国ユニクロの店舗(写真:筆者提供)

しかし2024年3~5月のグレーターチャイナ事業は予想より下振れし、ユニクログレーターチャイナCEOを務める潘寧氏は7月11日の決算会見で中国事業の変調を認めた。

ユニクロ風味で安い「平替」が出現

潘氏はユニクロ中国事業の不振の原因を、コロナ禍収束によるリベンジ消費で前年同期の業績がよかったことの反動、消費意欲の低下や天候不順、ショッピングモールの集客力低下、さらにマーケティング活動の不足や、ニーズにあった商品構成が不十分だったことなどと説明した。

天候要因は別として、「景気低迷で財布のひもが固くなった消費者に逃げられた」と総括できる。

潘氏は中国の消費者の新たな価値観として「平替(ピンティ)」というキーワードを紹介したが、そのことは中国でも話題になった。

「平替」とは「より安価な代替品」という意味で、例えるなら無印良品の商品とどこか似ている、100円均一の収納ケースといったところだ。

潘氏は中国の消費トレンドとしてさらっと紹介したが、ユニクロは中国でまさに「平替」に売り上げを吸われている。

中国のECプラットフォーム「タオバオ(淘宝)」や「ピンドゥドゥ(拼多多)」で「優衣庫(ユニクロ)平替」を検索すると、「ユニクロと同デザイン」「商品タグを切ったユニクロ」「ユニクロ差押え品」と称したユニクロもどきの商品が多数ヒットする。価格は本家より2~5割安い。

中国のアパレル工場は、越境ECのSHEINのようなファストファッションにトレンドを反映した新商品を猛スピードで供給している。そこで経験を蓄積し、品質やデザインを向上させ、自らECを通じて消費者に直接商品を販売するD2Cブランドが台頭している。

ユニクロは1998年に1900円のフリースが大ヒットしたことで全国区のブランドに成長し、アパレル業界に価格破壊を起こしてデフレ時代を勝ち抜いた。

機能的でコストパフォーマンスに優れるというブランドイメージは日本市場で完全に定着しており、学校の制服にも採用されるようになった。この1、2年で主力製品を値上げしたが価格競争力は揺るがない。

中国の消費者がユニクロに抱くイメージは、日本とは異なる。ユニクロは2002年に同市場に進出したが、知名度が高まり店舗数が急激に増えたのは中国法人が設立された2012年ごろからで、消費力が急速に向上する中国人消費者に対し、コスパの高さや機能性ではなく「日本のおしゃれなアパレルブランド」を打ち出した。

為替レートによって日本円換算額は変動するものの、同じ商品なら日本で購入したほうが安く、2010年代に中国に住んでいた筆者は、日本に一時帰国した際にセールで値下げされたウルトラライトダウンジャケットを購入し、お土産に配ってとても喜ばれた。

ユニクロが2019年にニューヨークの著名アーティスト「KAWS(カウズ)」とコラボしたTシャツを中国で発売した際には、転売目的で入手しようとした客が店舗に詰めかけ、大混乱を引き起こした。日本で発売されたときも都内の店舗は中国人だらけだった。

圧倒的に安いとも思われていない

カウズの例からもわかるように、ユニクロは中国で「定番」というよりも「おしゃれ」「ホワイトカラーの若者向け」「トレンド」というイメージを持たれている。

潘氏は「現在、中国大陸は不景気で、価格の安さを重視するお客様は特に若い方を中心に多くなっています。ただし、ユニクロの価格を高いと思っているお客様はそれほどいないと思います」と説明したが、「高い」とは思われていなくても、圧倒的に安いとも思われていない。

だから中国の消費が低迷し節約志向が高まったとき、「以前より値引きが少ない」と感じて不満を抱いた消費者もいたようで、ユニクロ風味の「平替」に顧客を奪われた。

日本の不況を追い風に既存アパレル企業から顧客を奪ったユニクロは、中国では逆の立場になったと言える。

潘氏は「集客できていない店舗が150ほどある」と述べ、ユニクロ中国事業の不振の理由として店舗間の集客力の差も挙げた。これも景気が関係している。

コロナ禍が収束し街に人が戻った2023年以降、ショッピングモール不況も顕在化している。2010年代後半に大型商業施設が次々に建設され、1つの駅に複数の施設がひしめき合っていることも珍しくない。過当競争で集客力の格差が広がり、平日の昼間はがらがらのモールも増えている。

負け組の商業施設に入居しているユニクロ店舗の売り上げは当然芳しくない。7月下旬の平日午後、大連市内の商業施設に入っているユニクロを訪れた日本人客は「10分滞在していたが、ほかの客は2、3人しかいなかった」と話した。

柳井会長兼社長は昨年10月、グレーターチャイナの今後の戦略として、より収益性の高い立地を厳選し年間80店舗ペースで新規出店すると同時に、収益性や集客力が低い店舗を中心に年間50店舗をスクラップアンドビルドしていくと説明した。潘氏も成長が見込める都市に旗艦店を出店しつつ、不採算店の閉鎖を進める方針を示した。

距離感に戸惑う消費者も

ポルシェやグッチなど欧州の高級ブランドはドル箱だった中国市場が大不振に陥り、責任者の交代や株価低迷を招いている。

中国経済が好調で消費意欲が旺盛だった時期はブランドの力で成長を続けられたが、景気が変調し消費者が選別を強めたことで買い控えが起きたり、「平替」されるのは(ポルシェは中国メーカーの高級EVにシェアを奪われている)、ユニクロも含めて共通している。

ファーストリテイリングは2025年8月期に中国市場を再び成長させるため、地域や店舗ごとのニーズにきめ細かく対応する「個店経営」を強化していくという。

ただ、SNSでは早速「ユニクロは店員に絡まれずゆっくり見て回れるところがよかったのに、最近はすれ違うたびに挨拶されて居心地が悪い」など、距離感の変化に戸惑う声も出ている。

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No.529 ★ 米で中国系移民が急増、頼りはチャイナタウン 最下層の仕事に   追いやられるケースも

2024年08月01日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

2024年7月31日

ニューヨーク市フラッシングのチャイナタウンにある「ファミリーホテル」に滞在する中国人の父親と息子 BING GUAN FOR WSJ

【フラッシング(米ニューヨーク市)】アウディ・リンさんの旅は、中国南東部の海岸から始まった。中南米でカミアリに刺されたが、約1カ月後にはメキシコから米国に入国できた。拘留センターから解放された後、ニューヨーク市へと向かった。

 リンさんの故郷である福建省出身の遠い親戚がラガーディア空港まで車で迎えに来て、フラッシングにあるチャイナタウンに連れて行ってくれた。ここは米国で最大級のチャイナタウンだ。道中、親戚はリンさんに、中国系移民に好意的な宿泊施設に関する情報や求人を掲載した中国語のウェブサイトやアプリを教えてくれた。中国系移民の多くは、リンさんのように米国境警備隊に拘束されてから亡命を申請し、移民裁判所による審査を待つ間、米国に滞在することが許される。

チャイナタウンに着く頃には、その夜どこに泊まるのかが分かっていた。1カ月もたたないうちに、ハーレムにある福建省出身者が経営するテイクアウトの店で接客アシスタントをする仕事も見つかった。

「中国人はシェルターには行かない」とリンさんは言う。

アウディ・リンさん(フラッシングのチャイナタウンにあるタピオカミルクティーの店で撮影)
PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

 過酷な旅に耐え、米南部国境にたどり着くことが増えている中国からの移民の経験は、多くの点で中南米諸国からの移民のそれとよく似ている。だが、ひとたび米国に足を踏み入れると、彼らは違う道を歩み始める。

 多くの中国系移民は、友人や親戚の広大なネットワークを利用できるため、中南米からの移民よりも簡単に仕事や住居を見つけることが可能だ。そうした友人や親戚も、元々は移民であることが多い。



 だからといって、米国での新生活は決して楽ではない。新しくやって来た移民は搾取されやすい。給料の良い仕事はなかなか見つからず、雇用主が食事や住居を提供することもあるが、長時間労働を強いられることも多い。リンさんには2万ドル(約300万円)の借金がある。

 移民の数は膨れ上がっているものの、賃金が上昇し、企業の採用活動が続く米国経済の底堅さにより、新生活のスタートを順調に切れる移民もいる。合法・違法に関係なく就労移民の数を集計している米労働統計局によると、その数は2月以降3000万人以上を維持している。

 中国から中南米を経由した入国者の数も増加している。米政府の会計年度の開始月に当たる昨年10月から6月までに南部国境で当局に拘束された中国人は3万3508人で、前年度同期の2万4314人から増えている。さらにその前年の同時期は2176人だった。

米メキシコ国境付近で撮影した動画を見せる中国系移民 PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

 新しくやって来た移民は、ニューヨークやカリフォルニアのチャイナタウンに向かうことが多く、その後、全米各地の中国系の店などで働くようになる。中華料理店や個人宅の世話係として働くほか、大麻が合法化された州に出現した、中国人が運営する大麻農場で働く者さえいる。

フラッシングのクイーンズ公共図書館の前は中国系移民のたまり場となっている PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

 フラッシングにあるようなチャイナタウンでは、新生活を支援する新しいサービスが生まれている。クイーンズ公共図書館の前では、中国語で「ファミリーホテル」と呼ばれる個人経営の宿泊施設が、共同炊事場付きで月290ドルという低料金を宣伝している。

 就職あっせん業者の多くは現在オンラインでサービスを提供しているが、20年以上前に渡米したレッド・アップル・エンプロイメント・エージェンシーのオーナー、ジェニー・ゲンさんは対面で助言する。  ゲンさんは仕事探しを容易にするために労働許可証を取得するようアドバイスし、仕事を紹介するごとに80~100ドルを請求する。健康保険やトラック運転免許の申請支援なども行っている。

レッド・アップル・エンプロイメント・エージェンシーには職を探している中国系移民がよく立ち寄る PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

レッド・アップル・エンプロイメント・エージェンシーのオーナー、ジェニー・ゲンさんは20年以上前に米国にやって来た PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

 移民にとって入り口となるフラッシングのようなチャイナタウンは、必ずしも長期的な雇用やキャリアの成功を約束するわけではない。社会福祉団体「チャイニーズ・アメリカン・プランニング・カウンシル」のミシェル・ウー氏はそう警鐘を鳴らす。多くの場合、新しい移民は抜け出すのが困難な最下層の仕事に追いやられてしまうという。

 合法的な選択肢がほとんどない移民女性の中には、性労働を強いられることになった人もいる。フラッシングの大通りから外れた界隈(かいわい)では通行人を勧誘する中国系女性の数が増えている、と近くの事業者は話す。

 前出のリンさんは、ハーレムでのレストランの仕事が米国で新しい生活を始めるのに役立ったと言う。もっと給料の良い仕事を見つけて、いつか起業することを夢見ている。

 最近は、中国本土での不動産売買の仲介をいくつか手掛け、そこから収入を得ている。やりとりはすべて中国のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」経由だ。このほか、中国人の友人・知人間の少額送金も手伝っている。

 食費やタバコ代は切り詰めている。移民弁護士からは1万2000ドルを請求されており、渡米時の借金もある。「まだ10分の1も返済していない」と言う。「でも、何か新しいことをしたくて米国に来た」

フラッシングのチャイナタウン PHOTO: BING GUAN FOR WSJ

(The Wall Street Journal/Chao Deng)

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