CAFE PACIS

ユルゲンが「カフェで政治が行なわれているんだ」って言う。じゃあ、カフェで平和やるか。

マイケル・クレア:石油・地政学・来るべきイランとの戦争の関係

2005-06-26 01:57:43 | ニュース@海外
 イランでは「保守強硬派」といわれるテヘラン市長が大統領に当選。イラン国民、アメリカ、世界の明日にどう影響するのでしょうか。以下、4月に出たマイケル・クレア教授の対イラン・アメリカ政策の分析。

Oil, Geopolitics, and the Coming War with Iran

TomDispatch.com

2005年4月11日
マイケル・クレア

 アメリカがイラン攻撃を準備するなか、あることがはっきりしてきた。戦争開始の理由としてブッシュ政権は、石油という言葉は絶対口にしないということだ。イラク同様、アメリカは攻撃を正当化するために、まちがいなく大量破壊兵器を目一杯引き合い出してくる。ブッシュ大統領は、この間頻繁に引用されている2003年の声明で「(イランによる)核兵器の製造は絶対に許さない」と言った。しかし、結局イラクで不法兵器を見つけられなかったことで、侵略最大の理由としての大量破壊兵器の利用価値が下がってしまった今、イラン攻撃の理由として今度も核兵器開発疑惑を引き合いに出せば、かなりの人が疑いの目を向けるであろう。アメリカにとってのイランの戦略的重要性を少しでもまじめに考えるのであれば、目を向けるべきは、世界のエネルギー情勢におけるイランの役割である。

 念のため言っておくが、私は、イランの軍事力を破壊するという岩の決意にブッシュ政権を駆り立てているのが、唯一石油だ、と言っているのではない。政府には、イラン核計画をまじめに懸念している安全保障問題専門家がたくさんいることはまちがいない。イラクの兵器開発能力を真に懸念していた専門家が多くいたのと同じことである。私はこの点を尊重する。戦争開始には常に複数の要因があって、イラク侵略決定でも、石油を含む多くの問題が影響を及ぼしたことは公の記録でも明らかである。ならば、起こりうるイラン攻撃に向け進められている決定プロセスに、ここでも石油を含む多くの要因が影響を及ぼしている、と考えるのは妥当であろう。

 では、今回の意思決定に石油問題がどれだけ影響しているか。これは現時点で絶対的確信を持って量れる問題ではない。しかし、政権トップにいる人物らの経歴や思考において、エネルギー問題が及ぼしてきた影響の大きさを見るなら、イランの膨大な天然資源を見るなら、石油問題を勘定にいれないのは軽はずみである。なのに、対イラン関係が悪化するなかで、国内マスコミの報道や状況分析は、確実に、全体としてこの問題を避けて通るであろう(イラク戦争前夜と同じ)。

 もうひとつ警告しておきたい。アメリカの対イラン戦略思考における石油の重要性を取り上げる時、イランはわが国が今後必要とするエネルギーの潜在的供給源である、という明白な問題にだけ議論を限ってしまわないことが大事だ。イランは、ペルシャ湾の北側という戦略的場所にある。つまり、サウジアラビア・クウェート・イラク・アラブ首長国連邦といった、あわせると、世界で把握されている埋蔵石油量の半分を占める油田を脅かす位置にいる、ということだ。イランはホルムズ海峡にも面している。この狭い航路を日々、世界の石油輸送船の4割が通っている。さらに、イランは、石油と天然ガスを中国・インド・日本に売る一大供給国になっているため、イラン政府には世界情勢を左右する力があるのだ。アメリカに今後供給しうる石油が相当あるだけでなく、こうしたエネルギーの地政学的重みが、ブッシュ政権の戦略を左右していることは間違いない。

 そう言った上で、イランが秘めるエネルギー能力を検討してみよう。Oil and Gas Journal誌の最新データによると、イランの未開発原油量は世界第2位、量にして1258億バレルである。これを超えるのはサウジアラビアだけで、この国の推定埋蔵量は2600億バレルである。3位は推定埋蔵量1150億バレルのイラク。イランは全世界に供給されている推定石油量の1割という膨大な石油を抱えているのであって、ほかに何が起こっても、イランが世界のエネルギー情勢を動かすプレーヤーになるのは確実なのだ。

 しかし、イランの場合、問題なのは量だけではない。今後の生産能力も問題なのだ。埋蔵量にすればサウジアラビアに負ける。が、現在サウジの石油産出力は、持続するのに目一杯のところまで来ている(一日あたり約一千万バレル)。今後20年、(米・中・印の消費量増大に押され)世界の石油需要は50%増すと予測されるなか、サウジには生産力を増強する力はおそらくない。一方、イランには相当の潜在力がある。現在の生産量は一日当たり400万バレルだが、さらに300万バレルぐらいは行けると考えられている。こんな力を秘めている国はそうないことを考えるなら、すでに相当の地位を占めているイランの石油産出国としての重要性は、今後決定的に増してくるのである。

 しかも、豊富なのは石油だけではない。天然ガスもあるのだ。Oil and Gas Journalによれば、イランのガス保有量は推定940兆立方フィートで、世界埋蔵量の約16%にも及ぶ(これを上回るのはロシアだけで、1680兆立方フィート)。エネルギー量でみると、天然ガスのおおよそ6千立方フィートが石油1バレルに値するので、イランのガス埋蔵量は、石油1550億バレルに相当する。つまり、この国の炭化水素資源は、石油のエネルギー量にして2800億バレルとなり、サウジアラビアの炭化水素資源に次ぐ規模である。現在、イランの天然ガス産出量はほんの少しで、年間2兆7000億立方フィートでしかない。逆を言うと、イランが今後これをしのぐ量の天然ガスを供給しうる数少ない国のひとつである、ということを意味している。

 つまるところ、イラクが今後世界のエネルギー情勢に決定的な影響力を及ぼす国になる、ということだ。特に、世界の天然ガス需要が、石油をはじめ他のエネルギー源を凌ぐ早さで伸びていることがその証拠だ。現時点で世界全体のエネルギー資源消費量は、ガスより石油のほうが多い。しかし、そう遠くない将来、石油生産量が限界に達し――おそらく早くも2010年――供給量は縮小・下降すると予測されている。反対に、天然ガス生産がピークに達するまではあと数十年の余裕があると見られ、そうなれば、石油が手薄になったエネルギー市場を大幅に占有してくることが予測される。天然ガスは、特に(地球温暖化の一大要因である)二酸化炭素の排出量が少ないことを始め多くの点で石油より魅力的な燃料である。

 アメリカのエネルギー業界大手は間違いなく、膨大な石油・ガス開発でイランと協力したくてたまらないはずである。しかし、現時点で、米企業は、行政指令(Executive Order)12959によりイランとの商売を禁じられているのだ。この指令は、1995年クリントン大統領が出したもので、2004年3月にブッシュ大統領が更新している。アメリカはまた、(1996年イラン・リビア経済制裁法を盾に)イランと取引をする外国企業にも制裁の脅しをかけている。しかし、こんなもので、イランのエネルギー活用をめざす大企業がひるむはずはないのである。まず、活気づく経済を支えるため、今以上に大量の石油とガスを確実に必要としてくる中国はイランに特別目をつけている。米エネルギー省によれば、2003年イランが中国に供給した石油は、中国の輸入量全体の14%で、今後はさらに増えると見られている。また、中国は、液体天然ガス(LNG)輸入においても、大部分をイランに頼るようになると見られている。2004年10月、イランは、中国エネルギー大手のシノペック(Sinopec)と総額100億ドルの25年契約を結んだ。イランの主要ガス田を共同開発しLNGを中国に運ぶプロジェクトである。完結すれば、この取引は中国最大の海外投資のひとつとなり、両国は重要な戦略関係で結ばれることになる。

 インドもイランの石油とガスを熱望している。1月、Gas Authority of India Ltd.(GAIL)は、イラン国営のNational Iranian Gas Export Corp.と30年契約を交わした。年間750万トンのLNGをインドに輸送する事業である。総額は推定500億ドルのこの取引で、インドはイランガス田の共同開発もする。もっとすごいのは、印パキの政府関係者が、イラン―パキスタン―インドを通る30億ドルの天然ガスパイプライン建設を協議していることだ。長いことにらみ合いを続ける両国にしては驚くべき行動である。この事業が完成すれば、パイプラインを通って、印パキ双方に相当量のガスが届き、パキスタンは通過料として年に2億から5億ドルを手に入れる。パキスタンのショーカット・アジズ首相は1月、「このガスパイプラインは、イラン・インド・パキスタン全員が勝つ計画である」と宣言している。

 パイプラインは明らかに魅力的だし、印パキ和解の動機でもある(この核保有国二カ国は、1947年以来、カシミール地方をめぐり3度戦争をしており、この紛争領土の所属をめぐりいまも拮抗状態にある)。なのに、国務長官コンドリーザ・ライスは3月インド訪問で、同プロジェクトを非難した。3月16日、インドのナトワル・シン外相との会合のあとライス長官は、「インド政府には、イランとインドが協力するパイプラインに関する私どもの懸念を伝えました」と発言。実際、ブッシュ政権は、イラン経済に資するような事業はいっさい支持しないとの意思をはっきりさせている。それでもインドのパイプライン計画は止められていないのである。

 日本もイランとのエネルギー共同では米政府に逆らっている。2003年初め、3会社からなる日本の合弁企業が、ペルシャ湾岸にあるSorouch-Nowruzの油田開発に20%の出資を獲得した。ここの石油埋蔵量は、推定10億バレルである。その一年後、日揮がIranian Offshore Oil Companyと12億6千万ドルの契約を結んだ。これで、Sorouch-Nowruzをはじめとする湾岸地域で天然ガスと天然液体ガスを採収する。

 よって、世界のエネルギー情勢におけるイランの位置を考えるにあたり、ブッシュ政権の頭には、2つ主な戦略目的がある。まずは、イランの石油とガス田を米企業に開放したい。そして、エネルギー市場でアメリカが競合する国々とイランが関係を強めていることへの警戒である。現在の法律のもと、第一の目的を達成するには、大統領が行政指令12959を解除しなくてはならない。これは、反米聖職者勢力がイランの権力を握り、核兵器開発につながりうるウラン濃縮事業の放棄を拒否し続ける限りありえないだろう。同様に、イランのエネルギー事業・輸出への米企業参入が禁止されている限り、イラン政府には、他の消費国との取引を追求するしか道はない。ブッシュ政権から見れば、この嫌な状況を変えるには、道はたったひとつ、直接的なやり方しかない。イランの「政権交代」を誘発し、アメリカの戦略利害にずっと友好的な指導者を政権に据えることである。

 ブッシュ政権がイランの政権交代を助長しようとしていることは疑いがない。2002年の大統領一般教書演説において、イランが、フセインのイラクと金正日の北朝鮮といっしょに「悪の枢軸」メンバーにされたという事実そのものは、その紛れもない徴候であった。2003年6月、テヘランで学生による反政府抗議行動が起こっていたとき、ブッシュはまたも自分の考えを発信した。「これは、国民による、自由なイランにむけた意見表明の始まりだ。前向きなことだと思う」と。この問題で米政府の姿勢をさらに顕著に示しているのは、ムジャヒディーン・エ・ハルク(People’s Mujaheddin of Iran、MEK)を徹底して武装解除できていないことである。これは今ではイラクを本拠地とする反政府の民兵組織で、イランでテロ活動を繰り返し、米国務省がテロ組織と認定している組織である。2003年、ワシントンポスト紙は、一部の米政府高官がMEKをイランの代理勢力として使いたいと考えている、と報道した。アフガニスタンの際、タリバン対抗勢力として北部同盟を雇ったのと同じ方法でだ。

 イラン首脳部は、ブッシュ政権から深刻な脅威を受けていることを十分承知しているし、攻撃を止めるため、間違いなくあらゆる手段を行使している。ここでも、石油が、イラン・米両政府の計算において重要な要因となっている。アメリカの攻撃を抑止するため、イランは、ホルムズ海峡の封鎖をするか、ペルシャ湾地域の石油輸送を妨害すると脅しをかけている。3月1日、イランExpediency Councilのモーセン・レザイ事務局長は、「イランへの攻撃は、サウジアラビア・クウェート、つまり中東の石油全体を危険にさらすのと同じことになる」と述べた。

 米国防総省はこうした脅しをかなり深刻に受け止めている。「我々は、イランが、主に海軍・空軍、そして一部陸軍をつかって、短期間ホルムズ海峡を閉鎖できると判断している」。2月16日、上院情報委員会の場で、国防省諜報庁のローウェル・E・ヤコビー海軍中将はこう証言した。

 このような攻撃に向けた計画は、疑う余地なく、ペンタゴン・トップの一大優先事項である。1月、調査報道の第一人者シーモア・ハーシュがニューヨーカー誌で、国防総省がイランに秘密偵察で侵入をしていると報道した。おそらく、今後の空爆・ミサイル攻撃の対象となりうるイランの秘密核・ミサイル施設を特定するためだというのだ。ハーシュは、軍部高官らはインタビューの時、「次の標的はイランだと繰り返し言っていた」と述べている。ハーシュ記事が出て間もなく、今度はワシントン・ポストが、ペンタゴンが、イランの兵器施設の場所を確かめ、イランの防空力を分析するためにイランへ無人偵察機を飛ばしていることを明らかにした。ポスト紙が言うように、「(この種の)航空偵察は、来る空襲にむけた軍お決まりの準備である。」また、アメリカとイスラエルの政府関係者が、イスラエルによるイラン兵器施設攻撃の可能性について協議しているとの報道もなされている。その場合はおそらく裏でアメリカが支援することになるのであろう。

 実際には、米政府がイランの大量破壊兵器・弾道ミサイル事業に関して抱いている不安の大部分の出所は、サウジアラビア・クウェート・イラクといった湾岸の石油産出国とイスラエルの安全が脅かされることの恐れであって、アメリカへの直接攻撃を恐れているからではない。前出のヤコビー中将は2月証言の際、「イランは、この地域で近隣諸国と湾岸の安全保障を脅かしうる唯一の軍事力を持つ」、「弾道ミサイルが増強されており、これは地域諸国への潜在的脅威を意味する」と述べた。この地域的脅威の撲滅こそが、米政権が何より硬く決意しているものに他ならない。

 何よりもこの意味において、進行中のイラン攻撃計画は根本的に、2003年のイラク侵略同様、自国へのエネルギー供給の利害関係に駆られたものなのである。イラク戦争を始める政府の動機でもっとも的を射ていたのはディック・チェイニーだった(2002年8月、退役軍人クラブ(Veterans for Foreign Wars)での演説。)チェイニーによれば、イラクの脅威とはこうである。「(フセインの大量破壊兵器獲得)野望がすべて実現するようなことになれば、中東とアメリカはとてつもない影響をうける。こうした恐怖の兵器で武装し、世界の埋蔵石油の1割を占めるフセインは全中東の支配をめざし、世界のエネルギー供給の大部分を支配するようになり、そうなれば、この地域のアメリカの友好国が直接脅かされる。」当然、ブッシュの取り巻きたちにとって、そんなことは想像を絶することだった。

 今度は、サダム・フセインを「イランの宗教指導者」に置き換かえれば、ブッシュ政権のイラン戦争開始の言い分の出来上がりである。

 というわけで、国民向けにはイランの大量破壊兵器がどうのと言いながらも、中心人物たちは確実に、世界エネルギー情勢におけるイランの位置について、世界各地への石油の流れを妨害しうるイランの力について、地政学的見地からものを考えている。イラク同様、この脅威を金輪際撲滅するという政府の意志は固い。よって、石油だけがイランと戦争するにあたっての理由ではない。が、戦争の可能性を高める全体的な戦略上の計算においては、本質的な要因なのである。

〔マイケル・T・クレア:ハンプシャー大学:平和・世界安全保障研究教授〕

民間戦士:イラクにおける軍事請負人

2005-06-23 12:15:17 | ニュース@海外
Democracy Now! 2005年6月21日報道より。

 「イラク侵略の開始以来2年半がたつ。この間、軍はここ数ヶ月、新兵の獲得目標を達成できていない。同時に軍は、業務をますます外部に委託するようになっている。後方支援産業の大手であるハリバートンから数多の軍事セキュリティー会社にいたるまで、今やイラクでは、軍事請負産業、連合軍をはるかに上回る第二の勢力となっている。

 この度報道される”Private Warriors(民間戦士)”は、イラクで活動する企業――ハリバートン子会社のケロッグ・ブラウン&ルート社や南アフリカの民間セキュリティー会社エリニーズ社(Erinys)など――の裏側に、テレビ番組としてはじめて迫ったものである。こうした企業の説明義務や民間への依頼度を高めるペンタゴンに疑問を投げかけている。

以下、"Private Warriors"のプロデューサー、マーチン・スミスと軍事活動民間委託についての著作(Corporate Warriors)があるブルッキングス研究所のピーター・シンガーに聞いた。

エイミー・グッドマン:なぜ民間軍事産業に注目したのですか?

マーチン・スミス:これは一種、口に出せない話だったので。3回イラクに足を運びましたが、その間、民間に委託される業務が増えていく様子を目にして来ました。供給ラインの運営から、基地の建設・管理、延いては米軍の防衛にいたるまでの業務です。ですから、これは明らかに報道すべき問題でした。それに、ピーター・シンガー氏の本以外でも、テレビでもほとんど報道されていません。なのに、イラクにいる記者なら全員こうした基地に滞在します。こうした民間のセキュリティー会社を目にしているのです。記者たちはこうした会社の人間を雇うのですから。ですから、私たちにとってはあまりにも明らかなニュースでした。それで、PBSの「フロントライン」でこれを取り上げるべきだ、と提起しました。

グッドマン:ピーター・シンガーさんに聞きますが、こうした民間請負会社を調査なさってきましたが、イラクにおいて、こうした民間会社が軍とどう違い、どこが同じなのでしょう?

ピーター・シンガー:つまるところ、これは、兵士ではなく従業員の話しであることに留意する必要があります。こうした人たちは、軍事活動はしているのに、指揮系統下にないということです。就任の宣誓もしませんから、まったく別の体系に属しているわけです。もうひとつは、彼らが属する組織は軍とは違う動機で動いているということです。例えば、海兵隊の部隊に利益を上げる必要はありません。いつ、どこに配備されるか自由裁量もない。一方、民間企業は、「そうなると、こちらが有効になる。つまり、海兵隊ができない仕事をこちらがやれるということだ」と主張する。ある意味正しい指摘ですが、裏を返すなら、こうした会社がもっとも公共といえる役割を負うということです。なのに、彼らは通常の統制体系下に置かれていない。これは、問題にすべきことです。現在、事実上無法地帯となっているイラクのような場所を議論しているなら特にそうです。

グッドマン:スミスさん。誰が銃を携帯しているのですか?

スミス:イラクにいる民間セキュリティー会社の護衛は6千から2万人までかなり幅があって、陸軍技術部隊のジェネラル・ボスティックから、イラク軍訓練の責任者であるパトリアス将軍、アメリカの大使や国務省関係者にいたるまでの人物の護衛にあたっています。こうした人たちが銃を携帯しています。おそらく60ぐらいの会社ですが、多くが以前からあった会社です。が、イラク戦争が始まったときに立ち上がった会社もたくさんあります。バグダッド・バブルとでもいえるような状況が生まれて、多くの会社が我先にと参入しました。金はたくさん用意されていましたから。武装して護衛を始めたわけです。

グッドマン:シンガーさん、彼らはいつ戦闘に関わるのですか?こうした民間請負人にはどのような戦闘規則が適用されるのでしょう?

シンガー:その前に一歩さがって、戦闘活動の範囲を超えた彼らの全体像を見ることが大事だと思います。軍でいえば実際に戦闘にたずさわる兵士がほんの一部であるのと同じで、民間軍事産業もこれよりずっと規模が大きい。ハリバートンのように軍事支援から供給まですべてを請け負う会社もありますし、実際に訓練を提供する会社もあります。米軍だけでなく新規のイラク軍にもです。そして、戦術戦闘の役割を負う会社があります。彼らの仕事は、トップの大使や指導者といったVIPの護衛から、いま明らかにイラクで最高に危険な任務のひとつである護送まで及びます。そして、政府施設、建設現場、イラクの米軍基地といった主要な施設の護衛があります。

 ですから、今起こっているのは、こうした会社が、やめてしまえば戦争の作戦が崩れてしまうような仕事をやっているということです。それほど重要な役割を負っている、つまり、今回の戦争でもっとも問題の分野に関わっている、ということです。ハリバートンの過剰請求にせよ、アブ・グレイブでの拷問疑惑にせよです。実際に請負人が活動しているわけで、今後イラク戦争の歴史を書くのであれば、民間の軍事産業のことを書かなければ成立しません。戦争というものが完全に様変わりしています。

グッドマン:軍事請負会社とアブ・グレイブでの拷問についてはどうですか?

シンガー:アブ・グレイブでの事件で特に驚いたことのひとつは、民間会社の人間が大量にいたことです。米軍によると、拷問がおこなわれていた期間、通訳は全員、尋問者は半分が民間企業の人間でした。通訳は、タイタン(Titan)という会社、尋問者はカーキ(Khaki)という会社。また米陸軍の報告によれば、拷問のケースの36%で、民間会社の尋問者が関与していました。これがなぜ問題かというと、二つのレベルがあるからです。まず、陸軍調査の結果、尋問をした請負人の3分の1もが、尋問者としての適切な軍の訓練を受けていませんでした。

 それに加えて、軍は拷問に関与した人間を具体的に6人確認していますが、このうち誰一人として、求刑や刑罰はもちろんのこと、告訴さえされていません。ですから、拷問に関与したため当然軍事裁判にかけられた軍の人間とは明らかに対応が違っている。法律の穴があって、この法の空白地帯に民間請負人がいるということです。この点について軍の弁護士が興味深い点を指摘していました。問題は現在請負人たちが、グアンタナモの抑留者がいるのと同じ法の空白地帯、同じ法の地獄にいるということだ、と。本質的に、イラクでは、請負人の法的身分を規定する法がない、法の下どのように扱うべきかというものがありません。

グッドマン:スミスさん、エリューニエス(Erinys)のような会社の実態は?どこで雇われているのですか?

スミス:非常に大きな問題のひとつは、戦争を民営化すると、公共部門の範疇から外れてしまい、透明性がなくなります。誰がどんな業務をしているのか時に分からなくなる。次から次へと下請けされて、多くの層ができる。去年ファルージャでは、ブラックウォーター社の4人が通りを引きずりまわされ、うち2人が橋から吊り下げられるという事件がありました。エリューニエス社の場合、南アフリカの会社ということで知られ、報道されてきています。が、番組放送前の最終チェックをした際、会社側は、自分たちは南アの会社ではないと強調しました。同社の共同創設者と報道されている人に、アパルトヘイト時代の政府関係者であったショーン・クラーリーという人物がいます。会社側は彼は顧問だと言っていましたが。現にこの会社は、英国領バージン諸島の法人です。関係者はほとんど南アの人たちですが、運営を担当する役員は特別部隊、イギリスの特別部隊SAS(英国陸軍特殊空挺部隊)の人間です。ですから、私たちは、同社をイギリスの会社として報道します。とはいえ、非常につかみ所がなくて、これがこの問題のひとつです。非常にあいまいな分野です。

グッドマン:ブラックウォーター社の件ですが、このドキュメンタリーでは、犠牲者の遺族が起こしている裁判も取り上げていますね。

スミス:この裁判を取り上げたのは、民間請負人の存在が、去年の3月31日にファルージャで起こった事件で、一般人の視野に真の意味で入ってきたケースだったからです。まず、この事件一本を掘り下げて、彼らの雇用主を探しました。請負、下請けとどんどん続いていますので。彼ら4人は、クウェートの会社であるブラックウォーターに雇われていました。そして、この会社は別のクウェートの会社と契約を結んでいました。このクウェートの会社は今度はESSというキプロスの会社に雇われていました。ESSは自分たちの雇用主を教えるのは拒否しました。彼らの契約書をみると、かなり怪しい形でケロッグ・ブラウン&ルート社(KBR)の名前が出てきます。最終的には、ESSの契約先を突き止めることはできませんでした。この4人が物資供給をするはずだった第82空挺部隊は、KBRとは契約を結んでいないと言っていますし、KBRの方も関与していない、といっています。ここでもまた透明性の欠如、説明義務の欠如、法的責任の欠如にぶち当たります。ですから遺族は、自分たちの息子があの日誰に雇われていたかさえ知らない状態に置かれています。

グッドマン:遺族は何を主張していますか? 裁判で何を要求していますか?

スミス:不法行為による死亡でブラックウォーターを告訴しています。契約書にははっきりと具体
的な安全保障要件が書いてあったのに、遺族によればそれらが守られなかった、という裁判です。ですから、ブラックウォーター社が、知っていながら、故意に、従業員を適切な防衛対策なしで危険地域に送り込んだとして告訴しています。

グッドマン:2003年10月、下院のワクスマン議員とディングル議員が、占領イラクでのガソリン輸送でKBR社が高値を請求していることについての調査を要求しました。この会社は、クウェートでガソリンを1ガロン2.20ドルで買っていたのですが、同じとき他の会社はトルコで1.18ドルで購入していました。それでKBR社は政府にガロンあたり2.27ドルを請求しました。国防総省の会計監査は、このガソリン過剰請求額は6100万ドルにもなるとしています。ハリバートンは理由として、イラクの危険地域を通らなくて済むようにクウェートで買わなければならなかったと主張しています。お金の問題はどうなんでしょう?

スミス:この6100万ドルは1億800万ドルに訂正されていると思います。ハリバートンつまり子会社のKBRはこの契約を切られましたから、KBRの働きが平均以下で過剰請求をしたという合意が双方であったと言っていいと思います。

グッドマン:それでもハリバートンは報酬を得ていますよね。最新のニュースではハリバートンが300万ドルの契約を交わしています。あの問題のグアンタナモ海軍拘留所に新しく常設の刑務所を建てるという事業です。

スミス:そもそもグアンタナモの最初の刑務所もKBRがつくっています。KBRは、軍の要求と軍が必要としているものに圧倒されていると思います。例えばバルカンの時は、だいたいのところ、かなりうまく事業をこなしました。しかし、イラクの場合、これほど長期にわたって、銃弾が飛び交うなかで、補給ラインを管理したり、これほど大規模の基地をつくるようになるとは誰も予測しませんでした。KBR側のごまかしもありますが、それ以上に、事業の大きさに圧倒されていると言えます。お金の流れを把握できる会計士が足りないのです。自分たちの手に負えないほどになっているということです。

グッドマン:このあいだ飛行機に乗ったとき、隣に兵士が座ったのですが、イラクから帰郷するところでした。彼の話では、こうした請負会社と隣り合わせで仕事をすることや、契約会社が兵士の週給にして3倍もの稼ぎをあげていることに兵士たちが憤慨している、ということでした。シンガーさんこの点はどうでしょう?もうひとつ、請負会社の従業員は銃を携帯しても良いことになっていますが、イラクでの死傷者としては数えられていませんね。
シンガー:これはとても大事な質問です。2,3週間前にこんなことがありました。ザパタ(Zapata)というノースカロライナ州のシャーロッテに本社がある会社の従業員が、爆発物の解体作業をしていました。彼らは、ファルージャの方に移動している護送車をつけていたのですが、海兵隊員によると、この護衛が民間人と米兵の両方にむけて銃撃をしていたと、言うのです。それで米兵はその民間護衛車を停止して、乗員を拘留しました。ここで、護衛車の人間は、「違う護衛だ。俺じゃない」と主張しました。この拘留のあいだ何が起こったかというと、海兵隊員たちは、基本的にこの民間人たちに罵声を浴びせ、怒鳴りつけ、「ざまあみろ」といったようなことを言っていた。金をめぐって緊張が表面化している象徴的な例です。

 一番の教訓は、いろいろな部隊の統合は大変難しい、ということです。海兵隊と陸軍を一緒にさせるのは骨が折れる。アメリカ人とイタリア人とイギリス人が一緒にやる多国籍軍も大変です。なのに、今度は、民間が入ってきたことで軋轢が強まっている。しかも一社だけでなく、ばらばらの会社が60も来ていて、兵士よりたくさん稼いでいる、ということになれば、当然緊張が生まれます。そうでなくても大変な統合任務が、まずい管理の下で、ますます大変になっている。

 もうひとつ問題なのは、単純に会計報告がないということです。説明義務(accountability)だけでなく会計(accounting)もされていない。ですから、例えば、どれぐらいの請負会社がいるかすら正確に分からない。簡単に言いますと、現在ペンタゴンには、状況を把握する能力はありません。これは、何人が殺され負傷しているかも分からない、ということを意味します。こうした会社が就いているのは公共任務ではないからです。この点を追及してみたところ、少なくとも報道から分かる範囲では、イラクか出身地のどちらかで死んだこうした請負人の数は200人以上で、800人以上が負傷しています。この数値を全体像に照らしてみると、死傷者という点では、一米陸軍師団の死傷者より多い。ですから、こうした民間企業の人間は貢献しているが、その規模は公有(public domain)の外にあって、国民は実態を把握していません。

グッドマン:スミスさん、ドキュメンタリーは今夜放映されますが、イラクに4回行かれて調査するなかで何に一番驚きましたか?

スミス:KBR社がイラクでつくっている基地の規模ですね。私たちは、バグダッドの北40マイルにあるキャンプ・アナコンダに行きました。一部でKBR要塞と呼ばれているところです。呆然としました。ブレマーの壁と呼ばれている15フィートの防爆壁があって、その向こうには見渡す限りトレーラーが続いている。巨大な食堂、プール、娯楽室がいくつもあって、テコンドーの教室もある。状況は以前とははるかに違っていて、まったくもって呆然とします。KRB社に、こうした施設の費用を聞こうとしたのですが、「そういう種類の費用は記録しない。分からない」という応えでした。そこで今度は軍に聞いたら、費用はしっかり把握していて、KBR側と毎週討議している、という応えが返ってきました。ここでも、説明義務、透明性の欠如で、イラク戦争の全期間にわたるアメリカの疫病になっています。ここが核心だと思うのですが、戦争を民営化して、彼らが言うところの恒久の大規模基地をつくるなら、民営化の世界で実際何が起こっているかは国民にはわからなくなるという事実と向き合わなくてはならない、ということです。

グッドマン:最後にシンガーさんに聞きますが、特にディック・チェイニーとハリバートンとの関係、そして戦争の民営化が推し進められていることの全体についてはどうですか?

シンガー:ハリバートンがイラク関連事業で得ている収入のことでしたら、これは130億ドル分の質問ですね。私自身は、ハリバートンの利益のためにこの戦争が始められたという陰謀説は支持していません。この会社はすでに順調にやっていましたから。この傾向は、最初のブッシュ政権で始まっていて、クリントンに引き継がれ、息子のブッシュで、特に9・11とイラクでさらに広がったという点を念頭に置く必要があります。この点でスミスさんと同じ意見なのですが、端的に言って、この産業が存在しているのに、我々は賢い顧客でもなければ、支払いに見合った仕事もされていない。しかしまた、政府の役割という点でも賢く規制をかけていない。つまり、新しい産業ができたとき、誰がそこでの事業を許されるのか、こうした会社が誰のためへの業務を許されるのか、過ちが起こったときどうすればいいのか、といった法体系を作るということです。両方の面で賢明にならなくてはなりません。今のところ私たちはそういうことに抵抗しています。それではだめです。賢明な策とはいえません。」


米、イラクでの「ナパーム」不使用のウソ

2005-06-20 14:48:06 | ニュース@海外
 イギリスのアダム・イングラム国防担当相は、ブッシュ政権がイラクにおけるナパーム型焼夷弾の使用についてイギリスの関係者にウソをついていたことを認めた。

 ロンドンのインデペンデント紙が独自入手した私信のなかで、イングラム氏は、当初米国は彼に、アメリカはイラクでいわゆるMK77は一切使っていないと伝えた。が、同氏は、「残念ながら、それ以来、そうではないことが分かり、私は立場を訂正しなくてはならない」と書いている。MK77爆弾は、ベトナムと朝鮮で使われたナパーム弾の改良版。灯油から作られるジェット機燃料とポリスチレンが入っているため、ゼリー状の物質が建物や人にくっつくようにできている。尾翼がないことから、爆弾の標的命中精密度は非常に低い。イングラム氏によれば、2003年3月31日から4月2日のあいだ、第1海兵隊遠征軍はイラクで30のMK77を使用したという。インデペンデント紙は、この事実発覚により、昨年のファルージャ攻撃の際アメリカがナパームのような爆弾を使用したとの疑惑に、新たな疑問が持ち上がっている、と述べている。この疑惑をアメリカは否定している。

原文:Democracy Now(2005年6月17日報道)

参照記事:「イラク攻撃に使われた非通常兵器」

ダウニング・ストリート・メモのその後:ブッシュとブレアの運命

2005-06-07 14:22:26 | ニュース@海外
 先月ロンドンのサンデー・タイムズが報道した「ダウニング・ストリート・メモ」以来、さらに新しい情報がでてきています。

 おさらいをすると、「ダウニング・ストリート・メモ」は、イラク戦争開始の8ヶ月前の2002年7月にトニー・ブレア首相と側近たちがもった極秘会議の議事録。この会議で英諜報機関(MI6)のディアラブ長官は「米はすでにイラク攻撃を計画している」、さらに、「いま諜報と事実がこの政策に沿って作られているところ」と発言しています。

 さて本題は、このメモ発覚以降さらに新たな情報がでているということでしたが、それは戦争開始(と議会承認以前)のずっと前から、米英が戦争の口実を作るためにフセインを挑発すべく空爆を強化していた、つまり「戦争」を開始していたという事実。

 以下、この点に関するThe Nationの記事です。ご一読下さい。

 が、要点を言ってしまうと、ブッシュは戦争開始にあたり連邦議会と国民を欺き、米国憲法違反をした、ということ。で、これの意味するところは、いま議会での調査を要求する運動が広がっているが、実際に調査がなされ憲法違反行為が確認されれば、ブッシュは弾劾される、ということです。

 もうひとつ。ダウニング・ストリート・メモの今後の影響。

 メモに記録されているように2002年7月の時点で英法務長官はブレアにこの戦争の法的根拠を見つけるのは難しいだろうと伝えています。そして、法務長官は、最後までブレアに明確な法的根拠を提示しませんでした。つまり、国際法違反の戦争と認めていることの裏返しであり、ブレアは国際刑事裁判所で戦争犯罪に問われる可能性が、メモ発覚で高まったということです。

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もうひとつの爆撃 The Other Bombing

ザ・ネーション
ジェレミー・スケイヒル
2005年6月1日

 大規模空爆であった。米英の爆撃機100機がほどクウェートを飛び立ちイラクの空域に侵入。この一大作戦には、米のF15爆撃機イーグル・英空軍の空爆機トルネードを含め、少なくとも7種類の航空機が参加。イラク西部の防空施設に精密誘導爆撃を投下することで、ヨルダンで待機する特別部隊ヘリのために道を切り開いた。これ以前の攻撃は、イラクの指揮統制センターやレーダー探知システム・フセインの革命防衛部隊・通信センター・移動防空システムなどを対象にしてきた。しかし、今回のペンタゴンの目的は明白であった。イラクの抵抗力の粉砕。つまり戦争だったのである。

 しかし、落とし穴があった。戦争は少なくとも正式には開始されていなかったのである。なぜならこれは2002年9月の事であって、米議会がイラク侵略に利用される権限をブッシュ大統領に与える決議を行う1ヶ月前、国連がこの問題を決議にむけ議題にのせた2ヶ月前、「衝撃と畏怖」作戦が正式に開始される6ヶ月前のことだったからである。

 この時、ブッシュ政権は国民に対し空爆の規模を小さく見せていた。アメリカは、いわゆる飛行禁止地域を防衛しているだけだ、と主張していた。しかし、ダウニング・ストリート・メモへの反応から出てきた新情報からは、この時すでに戦争は既定の結論となっていたこと、攻撃はまさに宣言なしのイラク侵略の開始であったことが明らかになっている。

 このたび、(ロンドンの)サンデー・タイムズ紙は次の点を裏付ける新しい証拠を報道した。つまり、「2002年、英米の航空機は空爆の規模を2倍に強化したが、その目的は、連合国が戦争の口実を作れるよう、サダム・フセインを挑発することにあった」。同紙は、英国防省が新たに発表した統計を引用している。「連合軍が2002年の前半にイラクに落とした爆弾の数は、2001年全体の2倍」であり、侵略の正式開始のゆうに数ヶ月以前から「全面的空爆」が準備されていたのである。

 この新情報がアメリカの議員に与える影響はすさまじい。当時、米政府と世界の外交界において、飛行禁止区域での米空爆の本当の目的が、シーア派やクルド人の防衛などでないことは周知の事実であった。しかし、この新情報のすごいところは、ブッシュへの戦争権限付与をめぐり米議会が議論している最中に、ハンス・ブリックス率いる国連兵器査察団がイラクで活動している最中に、世界の外交官たちが最後の和平交渉を仲裁すべく奔走している最中に、ブッシュ政権がすでに全面戦闘体制に入っていた、ということを明らかにしている点である。ダウニング・ストリート・メモが示したような諜報書類一式の改ざんにとどまるものではない。まさに戦争そのものを始めることで行動を開始していた、ということである。サンデー・タイムズ紙によれば、ブッシュ政権は、フセインが攻撃に対し、ブッシュ政権が必死に売ろうとしている戦争の口実として使えるような反応して欲しい、とさえ願っていたのである。

 正式の開戦が差し迫っていた2003年3月8日、ブッシュはラジオ国家演説でこう述べた。「私たちは、イラクでの戦争を回避するために万事を尽くしています。しかし、サダム・フセインが平和的に武装解除をしなければ、フセインは武力により武装解除をすることになるでしょう」。ブッシュのこの発言は、体系的で侵攻的な空爆の一年もあとのものである。この間イラクは、来る侵略準備に向け、すでに武力により武装解除させられていた。ペンタゴン自身が、2002年だけでもイラクに対し78回の攻撃空爆をおこなったことを認めている。

 「まるで、一方のボクサーには動くなといって、他方にはパンチしてよしとするボクシングです。パンチを繰り出している方が、対戦相手がもう動けないところまで弱っていると確信した時初めて攻撃をやめる。しかも、実際の対戦が始まる前にです。」1998年から2000年まで国連のイラク担当トップを勤め30年のキャリアをもつ外交官である、元国連事務次長ハンス・フォン・スポネック氏の評である。クリントン、ブッシュどちらの政権においても米政府は、これらの攻撃が国連決議688に基づくものだ、と一貫してかつ誤った主張をしてきた。湾岸戦争後に採択されたこの決議は、クルド人地域の北部とシーア派地域の南部におけるイラク政府の抑圧停止を要求したものである。フォン・スポネック氏は、両政権の主張を決議の「まったくの誤称」だと一蹴している。ザ・ネーション誌でのインタビューで同氏は、この新情報は自身の長年の主張を「遅まきながら追認する」ものだ、と述べた。「飛行禁止区域は、民族・宗教グループをフセインの圧制から守ることなどとはほとんど関係がなく」、「米英二国の利益のために、、、不法に設置されたもの」だったというのが事の真相である。

 これらの攻撃はほとんど報道されず、フォン・スポネック氏によると、遡ること1999年の時点で、アメリカとイギリスは国連に対し、攻撃に注意を払わないようにと圧力をかけていた。イラク担当を務めていた間、同氏は空爆ごとの記録をつくりはじめ、「民間施設への定期的攻撃には、食糧倉庫、住居、モスク、道路、国民がふくまれている」ことを示した。同氏によれば、これらの報告を、事務総長コフィ・アナン氏は歓迎したが、「米英の政府は強硬に反対した」。また、記録活動をやめるようにとの圧力を受けたが、そのときイギリスの上級外交官が言った言葉がこうである。「あなたの行為は、イラクのプロパガンダに国連の承認印を押しているだけだ」。しかし、フォン・スポネック氏は、被害を記録し続け、攻撃された多くの地域に足を運んだ。1999年だけでも、同氏は、この米英爆撃による民間人144人の死亡と400人以上の負傷者を確認した。

 9・11が起こると、ブッシュ政権内部で、この攻撃に対する態度に重大な変化が起こった。もはやシーア派やクルド人を守るといった口実は投げ捨てられ、外部からの攻撃を迎え撃つイラクの能力を体系的に削ぐ、つまり、イラクの防空・攻撃指令施設を爆撃し、通信・レーダーインフラを破壊する計画になったのである。2002年11月APは、「これらの高価で、修復困難な施設は、イラクの防空に必要不可欠なものである」と報道している。統合参謀本部で地球規模作戦の次長を務めたデイビッド・ゴブ海軍少将は、2002年11月20日、米英のパイロットは「本質的に戦闘作戦をしている」と述べている。2002年10月3日、ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカのパイロットがイラク南部を使って「練習直線飛行、模擬の攻撃、実際の攻撃」をしていると報道。

しかし、この対イラク政策の根本的変化の真の重要性が明らかになったのは、つい先月、ダウニング・ストリート・メモが世の中に出てのことである。このメモは、イギリスの国防相ジェフ・フーンが、2002年、アメリカの政府関係者と会った後にこう言ったと記録。「アメリカは政権に圧力をかけるためすでに『活動の急速な強化』を始めている」。これは、空爆強化に言及したものだ。いまや、サンデー・タイムズ紙により、この急速強化が「全面的空軍攻撃となった」、換言すれば戦争、となったことが明らかになっている。

 ミシガン州選出のジョン・コンヤーズ下院議員は、こうした攻撃に関する新事実を「決定的証拠の拳銃に決定的な弾丸まで入っている”the smoking bullet in the smoking gun”」と呼んでいる。ブッシュ大統領が、イラク決議に望む議会を欺いたことの反駁できない証拠、というわけである。議会にイラクでの武力行使承認を求めたとき、ブッシュは、武力は、すべての手段が尽くされたあとの最終手段としてのみ使うとも述べた。しかし、ダウニング・ストリート・メモにより、ブッシュ政権がすでに武力によりフセインを倒す決定をしていたこと、この決定を正当化するよう諜報操作をおこなっていたことが暴露した。この情報は、戦争開始の一年前からおこなわれた正当な理由を欠く空爆の強化に、あらたな光をあてている。ブッシュ政権は、証拠の有無に関わらず、イラクに戦争を始める決意であっただけでなく、議会の承認決議にかけられる数ヶ月前から戦争を開始していたのである。

 大統領弾劾手続き開始は議員一人で足り、コンヤーズ議員は手続き開始を検討していると述べている。弾劾プロセスが始まれば必ず実態がさらけ出される。議会はラムズフェルド国防相、リチャード・メイヤーズ将軍、トミー・フランクス将軍はじめ、1990年後半に遡る飛行禁止地区爆撃に関わったすべての軍司令官・パイロットを召喚できる。彼らは何を命令し、命令されたのか。それらの答えのなかに、弾劾の論拠が眠っているかもしれない。

 しかし問題がある。特に戦争承認に票を投じたのに今となって欺かれたと言っている民主党議員だ。なぜ、正当な理由もなく承認もされていない空爆が実際に進行している時に、ブッシュ政権の戦争準備に実のある一打を食らわすことができたかもしれなかった時に、この空爆が調査されなかったのか? おそらく、ブッシュ弾劾のためにダウニング・ストリート・メモを使おうという広がる草の根運動の声が連邦議会の耳に届かないのは、このためだろう。事実は、ブッシュは、前任のクリントン同様、国際の委任も国内の委任もない主権国に対するベトナム以来最長継続爆撃キャンペーンを監督していた、ということである。決定的証拠の拳銃は、両政党にとって触るには熱すぎるのであろう。

「盗聴大好き」:イラク戦争反対の顔、ドビルパン新首相の別の顔

2005-06-01 16:12:05 | ニュース@海外
Doug Irelandのブログより。
 http://direland.typepad.com/direland/2005/05/villepin_the_wi.html

「ドミニク・マリ・フランソワ・レネ・ガルゾー・ドビルパン――これがフランスの新首相の名前。人生のほとんどを外交畑ですごしてきた貴族政治主義者(外務省アフリカ局の前局長、在インド・フランス大使館で3年、在ワシントンのフランス大使館で5年間一等書記ののち広報担当官)であるドビルパンは、面目を失った元首相アラン・ジュペが外相だった時代の子分(ジュペは、シラクの最大の政治盟友で、シラクの党の元党首。今年はじめ国会議員選挙に落選し、選挙をめぐる財政スキャンダルへの関与が理由でボルドー市の市長の権限を失う判決を受けた。)ドビルパンは、シラク政権で大統領府の事務総長を務めた。つまりシラクの参謀本部長だったということ。大西洋のこちら側では、イラク戦争の際の仏外相として、国連で国民の戦争反対の声を代弁した人物として最も知られている。これは、ドビルパンが反帝国主義者ということではない。イラク侵略は、フランスでは、右も左も、政治家でも有権者のあいだでも国民にほとんど支持されていなかった。世論調査では8割が反対していたほどで、どんなときでも日和見主義者であるシラクは、ブッシュの戦争に強い反対の立場をとることで、フランスで人気が取れると知っていたのである。しかし、右派左派にかかわらずフランス政府は、以前のアフリカ植民地地域に、力で影響力を行使し、特権を維持してきた。で、ドビルパンは、外務省のミスター・アフリカであったときまさにそのような行動を手助けしてきた人物である。外相としては、アフリカにおけるフランスの権益と好戦的な役割を維持するという非常に伝統的な擁護者であった。フランスはアフリカの旧植民地国に頻繁に軍事部隊を送り込んでいる。彼は、反帝国主義者ではない。

 シラクがドビルパンを選んだのは、この70歳の保守的仏大統領が、日曜の国民投票でEU憲法が否決されたことからなにも学ばなかったということだと言えよう。EU憲法否決は、なにもナショナリスティックなものではなく、経済が理由である。つまり、欧州が、多国籍企業の儲けの場とされることの拒否であり、失業率が10%というフランスの深刻な経済危機を反映したものだ。ドビルパンは国内政策の経験がほとんどないだけでなく、選挙で選ばれたこともなければ、フランス人が日々の生活で直面している最優先問題にたいする感覚も薄い。よって、ドビルパンは、EU憲法反対という日曜の政治的反乱をまねいた社会経済苦悩に対する適切な対応だと考えには、彼は程遠い人物である。

 さらに、彼は、選挙戦の駆け引きにおいてはまったくの音痴。1997年、国会を解散して早期選挙を実施するというシラクの決定を実際に決めていたのはドビルパンであった。その選挙で、右派は惨敗。保守政権は、以降5年間、リオネル・ジョスパンを首相とする社会主義者にとって代わられた。散々な解散の「生みの親」として、ドビルパンは、シラクの国民運動連合(UMP)党の国家議員の圧倒的多数から嫌悪されている(昨日、シラクがドビルパンを首相任命する前のこと、フィガロ紙朝刊は、あるUMP国会議員のリーダーの発言を引用。曰く「与党で、ドビルパンという選択を支持する議員は一人もいない」。)

 ドビルパンをめぐる最高に面白い話のひとつが、4月、週刊誌L’Expressが暴いた話、「新首相は、万人を盗聴し、秘密警察ファイルを作るのが大好き」だということ。その対象は、ジャーナリストから政治家におよび、その手腕は政府で内閣官房長官として働いたときに培ったものである。L’Expressによると、外務省のスタッフは、ドビルパンが大臣だったとき、自分たちの電話が彼の指示のもと盗聴されている、と信じていた。さらに、彼は、首相になる前の仕事として内相、つまりフランスの「第一警察」(計画通り、首相にする前に少し国内経験をさせておこうとシラクが彼に与えた職)になったとき、スタッフにこう言っている。「オレは、ジャーナリストが言っていることを全部知りたい。」同誌によれば、ドビルパンは、RG(国家警察総合情報局)から毎日出される機密報告を何時間もかけて読んでいたという。このフランス国家警察は、ありとあらゆる政治家、ジャーナリスト、著名人を監視下におき頻繁に盗聴し、対象者の個人的な生活やフランス国家の政治生命を把握する機関。あらゆる人間の秘密を知り(それを政治的に使い)たい、というこのJ・エドガー・フーバー的ともいえる〔注:米FBIの長官1924~75年〕傾向が、ドビルパンが自分の党の党員からも嫌悪されているもうひとつの理由である。

 日曜の投票の結果、右からも左からも、フランスの政治指導者は、経済・社会政策を根本的に変えるべきだという要求が出されている。シラクの党の議長で大統領職を熱望しているニコラ・サルコジでさえ、否決が明らかになってたったの1時間のうちに、シラク政策との「決裂」を呼びかけた。が、ドビルパンは、提供できるほど革新的な政策はもってないし、彼は、しょせんシラクの忠実な僕である。右派にはこれ以上経済問題で有権者に訴えられるものは残っていないし、ドビルパンはそんなことをできる器ではない。

 ということで、日曜の政治的反乱に対するシラクの対応としては、ドビルパンというのは変わったチョイスである。

追伸、
 ニコラ・サルコジは、ドビルパン政権でナンバー・ツーに任命される人で、ドビルパンに代わって内相に就く。今朝のFrance Infoラジオによれば、これは(シラクのUMP党で選挙で選ばれた議長で、人気が高い)サルコジが以前就いていた職で、法と秩序に沿った厳重な取り締まりの強硬派達人として名と人気を揚げたの職である。ドビルパンとサルコジは犬猿の仲。舞台裏では、2007年大統領選に向け(つまり右派候補になるべく)、次期首相の座をめぐり争い反目してきた。たとえば、サルコジは、今年はじめの政治スキャンダルで、自分に汚名を着せるために、と彼が感じたのだが、ドビルパンが盗聴・機密情報を流したと非難。ドビルパンはもちろん否定したが、政府のインサイダーたちは、部下に対する無慈悲さと敵に対する無情な復讐心で名高いドビルパンを完全に黒と見ている。巧妙でメディアに精通した政治家であるサルコジが、あらゆる機会にドビルパンより優位に出ようとするのはまちがいない。よって、サルコジとドビルパンがチームを組む政府とは、大いに変てこな政府である。」