CAFE PACIS

ユルゲンが「カフェで政治が行なわれているんだ」って言う。じゃあ、カフェで平和やるか。

イラク・コンフィデンシャル その2

2005-11-05 15:56:36 | ニュース@海外
ハーシュ:
 この問題全体にはもうひとつ別の要素があって、スコットが本で書いていますが、査察団内部でスコットが知らなかった動きがあった。CIAによる作戦です。アメリカはフセインを挑発して、大統領宮殿への立ち入りを強く要求していたのですが、この動き真の目的は、本当の意味は、驚くなかれ、フセインの暗殺であったということです。

リッター:
 そうですね、まさにそれが実際に起こったことです。いいですか、アメリカの政策は政権交代でした。最初彼らは消極的にやりたくて、フセインを経済制裁で封じ込めるつもりでした。半年もすれば自分から崩壊するよ、と。しかし思ったとおりにはならなかった。それなら、今度は、イラクに圧力をかけて、何人かのスンニ派将軍の支持を取り付け、一発たった75セントの9ミリ経口弾をサダムの頭にぶち込まさせて、そのあとその将軍たちを政権につければいい、と考えた。アメリカの政権交代の本質的な汚さを理解したければ、目標が政権交代ではなかったことを理解する必要があります。1990年代初めに、バース党を無くすだとか、イラクを近代的民主主義国家に変える、とかいうことではなかった。アメリカの目標はただ一人の人間サダム・フセインを葬り去ることで、フセインの後にスンニ派の将軍がフセインとまったく同じやり方でイラクを統治しても全然かまわない、ということだった。ここに、アメリカがやったすべてが、徹底して偽善的であったことが示されています。

 しかし、CIAはそう簡単にフセインには近づけなかったんですね。フセインには非常に優れた保安機構がありましたから。1995年の時点で、フセインが生存し続けていることは、ビル・クリントンの政治生命を脅かす問題になっていました。96年の再選選挙を控えていたクリントンは、CIAに対し、96年夏までフセインを始末するよう命令しました。あの男は消す必要がある、と。命令を受けたCIAはイギリスの諜報部と協力して、アヤド・アラウィという名の人物を連れて来た。どこかで聞いたことがある名前ですが、アメリカの占領の後、一時、イラクの暫定首相をしていた人です。いずれにせよ、彼はイギリス諜報部とCIAの雇われ工作員だったのであって、英米の諜報機関とクーデターを組織していた。そのためには、イラク国内で人をリクルートしてフセイン打倒を準備する必要があった。しかし、クーデターのきっかけが必要だった。そのきっかけが、私が組織に参加した国連査察団だったわけです。

 私たち査察メンバーは、自分たちはイラクの兵器隠蔽機構を暴いている、と思っていました。が実は、CIAが、私たちがフセインの保安部隊がいる施設に立ち入るよう仕組んでいたことが判明したのです。CIAは、そうなれば、イラクは査察団の立ち入りを阻止し、査察チームが撤退すれば、フセインの保安部隊の首をはねる軍事攻撃ができる、と見込んでいたわけです。

 査察チームが立ち入りたかった場所のひとつに、立ち入り許可がされなかった第3大隊がありました。そのとき、CIAは、「心配するな、俺たちあそこの部隊の人間を知っているけど、悪いやつらじゃないよ」、と私たちに言ってきました。でも、イラク諜報機関は非常に優秀で、このクーデター計画に潜入していました。彼らは首謀者たちを処理し、結果、フセインを殺るという点では何も起こらなかった。ただ、イラク側は、UNSCOMに潜入し、UNSCOMを道具に使う上でCIAが果たしている役割はしっかり掴んでいました。この事件の決定的な悲劇は、この事件以降、国連査察官がイラクに行くたび、青いキャップをかぶった人間が行くたび、イラク側はそれが武装解除を目的とした人間と見なくなったことです。イラク側は、国連査察官を自分たちの大統領を殺そうとしている人間だ、と見ていました。そして、彼らは正しかった。

ハーシュ:
 そのことは、いつ知りましたか。

リッター:
 政権交代のことはずっと知っていました。つまり、最初にチームに入ったとき、査察団は政権交代のことを知っていました。潜入について言えば、ご存知の通り、私がModazと呼ぶ人物と、CIAの秘密工作員である特別活動スタッフを団に持ち込んだのは私だから、私の責任だという人がいます。査察団は、こうした工作員を1992年に使い、1993年にも使いました。イラクでの査察活動は手ごわいからです。相手が入れたくない場所に入ろうとするとき、相手に必ずしも友好的に振舞ってもらえるわけはなく、そんな時、弱々しいオタク科学者たちがぞろぞろ行っても仕事にはなりません。必要なのは、首も腕も太い屈強なヤツらで、CIAには、厳しい状況下で、後方支援ができ、計画を立てられ、通信もできる、そんな人材がそろっていました。だから、こういう人たちを6月に使いました。

 問題は、後追い査察を始めた後に起こりました。まず、イラク側が私のところに来て、「リッターさん、一体何をしているのですか。いいですか、あなたは査察官のはずなのに、悪いことをしていますね。私たちはCIAの未遂クーデター計画を掴んでいますよ。6月に何が起こったかも」と。

 「6月? 6月に何が起こったかだって?急にあちこちで査察を始めた時だ。」そこで、文書に目を通しているうちに、ピンと来た。「何てこった!CIAが査察団に入って欲しくなかった部隊は、未遂クーデターの後フセインが始末した部隊じゃないか。フセイン暗殺をしようとしていた部隊だじゃないか。馬鹿だよ。電気が消えて、目に毛布を被せられていた。利用されていたんだ。俺たちはアメリカに利用されていた。アメリカは、査察メンバーがその下で働いた、安保理の最強メンバーじゃないか―――。」

 こんな状況のなか、上司に「ちょっと、あんた俺たちのこと利用してたわけ?そんなこと許さないよ」なんて言えません。そんな状態では、つらい仕事を続けて、その時点ですでに悲劇的にも末期状態まで腐っていた査察プロセスの信頼性を維持するために一層努力するしかない。

ハーシュ:
 問題は、クリントンでもそう良くなかったとしたら、いまのアメリカはどんな状態にあるのでしょう。

リッター:
 そうですね、まず、クリントンのどこがあまり良くなかったのかを話したいと思います。いま、民主党が多数を占める司法委員会では、ブッシュ政権の犯罪、議会にウソをついたことなどを追及しようという議論が盛んにおこなわれています。弾劾には大賛成です。ですが、ブッシュ政権で止めてはダメです。真に党派を超えた訴追をしたいのなら、マドレーン・オルブライト、サンディ・バーガー、今のブッシュ政権とまったく同じ犯罪をおかしたクリントン政権の関係者全員を訴追しなければならない。公務に就いている間ウソをつくこと。これは重犯罪、最高の犯罪です。これは憲法に明記されている文言で、弾劾といった特定の事件の引き金になる行為です。ですから、これを単なるブッシュ叩きに終わらせてはならない。これはブッシュ政権だけでなく、アメリカ合衆国全体の過ちであって、我々は自分自身を鏡に映して、「どうやらブッシュ政権がやったことっていうのは、米国全体の体系的過ちを利用したということに過ぎないようだ。行政府だけじゃなく、立法府の議会も関係した過ちである」と認めなくてはならないのです。

 議会は、憲法上の責務を放棄しています。ここ数年ずっと。それからマスコミ。当然これをマスコミ叩きのイベントにしてしまうこともできますよ。でも、いいですか?マスコミは、国民が飲み込む気がある毒を提供しているに過ぎないんです。我々、アメリカ合衆国の国民は、30秒以下の発言抜粋をいれた3分以内のニュースしか聞きたくない。それ以上だと複雑なので聞かない。ですから、我々がやったことは、90年代に、フセイン政権についての悪い報道なら、疑いをはさむことなく額面どおり受け入れる風潮が事前に準備されることを許してしまった、ということです。この下準備が整っていたから、ブッシュ政権はあれほど簡単にウソに基づくイラク戦争を国民に売り込むことが出来たんです。

ハーシュ:
 ここで、やり方がどんなにまずかったとしても、極悪独裁者を倒したんだからいい面もあるじゃないか、という主張が常にされます。こうした意見にはどう応えますか?

リッター:
 そういった主張は、目的のためなら手段を選ばず、という考えです。こうした意見は要するに、ウソなんてどうでもいいじゃん、WMDのこと気にしてるヤツなんていないぜ、ということです。悪党をやっつけた。目的が達成されれば手段はなんでもいい――ということ。率直に言いますが、自分をアメリカ合衆国の国民だと名乗りながら、目的のためには手段を選ばずという考えを支持する人は、パスポートを破棄して、この国からさっさと出て行くべきです。なぜなら、この国は、合衆国憲法に明記されているように法の支配の下に建てられた国で、国民に仕える者は憲法に忠誠を誓い、政府とすべての政府関係者は憲法に忠誠を誓う。これは、正当な法の手続き(ドゥー・プロセス)の問題なんです。民主主義は醜いですよ。思うようにはうまく進まないことがある。なのに、問題がフセインになると、目的のためには手段はなんでもいい、と言うなら、一体どこで線を引くのか。どこで線を引くんですか?

 しかも、これが今回の件だけで終わるなんて言えますか。これは法の支配の問題、憲法の問題です。フセインを退治したかったなら、そうしたい本当の理由について議論、討論、対話をすべきだったのであって、わけの分からん大量破壊兵器をでっちあげるなんて事はすべきではなかった。

ハーシュ:
 それでも、軍のことをかなり知っている人として、あなたに聞きたいのですが、軍が発言できていない、という問題はどうでしょう。

リッター:
 私は、軍の人間が発言すべきでないとは言っていません。イラクから戻った兵士たちがこの戦争は勝てないだけじゃなく、道徳的に受け入れられない戦争だ、この紛争にこれ以上加担することはできない、と発言したらどんなに素晴らしいと思います。しかし、平均的アメリカ人がしないことを一兵士に求めるのは非常に酷ですね。

 つまり、どうして、声を上げる責任を兵士たちに課すのか?もっと力をつけ、起こっていることに関与していくようにする責任をどうしてアメリカ国民に課さないのか?2006年には選挙があります。兵士たちが軍を辞めるのを待っているより、その前に、この戦争に賛成した議員全員を辞めさせる票を投ずればいい。

ハーシュ:
 今の時点で展望はありますか?

リッター:
 ないです。あったらよかったんですがね。

 悲しい事実として、戦争に反対した理由のひとつは、ウソに基づいているというだけでなく、これは我々が1991年に認識していた現実の反映だからです。フセインを降ろせばその後に何が来るかまったく見当がついていない。そんなことをすれば混乱と無政府状態になる――。世の中では、イラクで何か優雅な解決法があるか、などという議論が続いていますけど、それが問題なんですよ。問題を全部解決しなくちゃいけないから撤退できない、と言うようなことを言っている。

 ご列席のみなさん。イラクについて優雅な解決法などはありません。この問題を解決する魔法の手などありません。撤退しても、3万人のイラク人が犠牲になります。このことを理解しましょうよ。イラクは流血の惨事になるんです。彼らは殺し合うでしょうし、我々がそれを止めることはできないのです。

 しかし、このままイラクに居続ければ、その3万人の犠牲が6万、9万に増えてしまうかもしれない。要するに、我々は、イラクで悪夢のシナリオを作ってしまった。成しうる最善のことはこの過ちを少しでも緩和することです。このことを私は主張しているのですが、残念ながら、これは政治的に容認できない答えなんですよ。世の中、それはダメ。勝たなきゃダメ。最後までやりぬかなきゃ。勝利しないとダメなんだよ―――と言っている。勝利などしません。

ハーシュ:
 戦争が拡大する可能性はどうでしょう。シリア、そしてイランにさえ戦争を広げる可能性は?

リッター:
 悲しい事に今、ブッシュ政権は戦争が何のことか分かっていない人たちで固められている。彼らは軍にいたことがない人間で、戦闘に参加したこともないし、息子が死んだり、友達が死んだり、兄弟や同志を失うことの意味を知らない。

 だから、コンドリーザ・ライスのような、国民の前で、戦争だけが平和と安全保障をもたらすなどと言える神経をもった人が国務長官になっている。今日彼女は議会で証言をしましたけれど、イラクは10年間におよぶ投資事業、血流、国民の国家的財産になるだけでなく、シリアとイランもブッシュ政権の次の標的になる可能性は高い、と発言しました。この政権は何にも学習していません、が、これ以上に恐ろしいのは議会が何も学んでいないことです。

 コンドリーザ・ライスに誰も手ごわい質問をしなかった。そうなると次はアメリカの国民です。我々はどんな教訓を得ているのか?次はどんな行動をとるのか?

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