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マイケル・クレア:石油・地政学・来るべきイランとの戦争の関係

2005-06-26 01:57:43 | ニュース@海外
 イランでは「保守強硬派」といわれるテヘラン市長が大統領に当選。イラン国民、アメリカ、世界の明日にどう影響するのでしょうか。以下、4月に出たマイケル・クレア教授の対イラン・アメリカ政策の分析。

Oil, Geopolitics, and the Coming War with Iran

TomDispatch.com

2005年4月11日
マイケル・クレア

 アメリカがイラン攻撃を準備するなか、あることがはっきりしてきた。戦争開始の理由としてブッシュ政権は、石油という言葉は絶対口にしないということだ。イラク同様、アメリカは攻撃を正当化するために、まちがいなく大量破壊兵器を目一杯引き合い出してくる。ブッシュ大統領は、この間頻繁に引用されている2003年の声明で「(イランによる)核兵器の製造は絶対に許さない」と言った。しかし、結局イラクで不法兵器を見つけられなかったことで、侵略最大の理由としての大量破壊兵器の利用価値が下がってしまった今、イラン攻撃の理由として今度も核兵器開発疑惑を引き合いに出せば、かなりの人が疑いの目を向けるであろう。アメリカにとってのイランの戦略的重要性を少しでもまじめに考えるのであれば、目を向けるべきは、世界のエネルギー情勢におけるイランの役割である。

 念のため言っておくが、私は、イランの軍事力を破壊するという岩の決意にブッシュ政権を駆り立てているのが、唯一石油だ、と言っているのではない。政府には、イラン核計画をまじめに懸念している安全保障問題専門家がたくさんいることはまちがいない。イラクの兵器開発能力を真に懸念していた専門家が多くいたのと同じことである。私はこの点を尊重する。戦争開始には常に複数の要因があって、イラク侵略決定でも、石油を含む多くの問題が影響を及ぼしたことは公の記録でも明らかである。ならば、起こりうるイラン攻撃に向け進められている決定プロセスに、ここでも石油を含む多くの要因が影響を及ぼしている、と考えるのは妥当であろう。

 では、今回の意思決定に石油問題がどれだけ影響しているか。これは現時点で絶対的確信を持って量れる問題ではない。しかし、政権トップにいる人物らの経歴や思考において、エネルギー問題が及ぼしてきた影響の大きさを見るなら、イランの膨大な天然資源を見るなら、石油問題を勘定にいれないのは軽はずみである。なのに、対イラン関係が悪化するなかで、国内マスコミの報道や状況分析は、確実に、全体としてこの問題を避けて通るであろう(イラク戦争前夜と同じ)。

 もうひとつ警告しておきたい。アメリカの対イラン戦略思考における石油の重要性を取り上げる時、イランはわが国が今後必要とするエネルギーの潜在的供給源である、という明白な問題にだけ議論を限ってしまわないことが大事だ。イランは、ペルシャ湾の北側という戦略的場所にある。つまり、サウジアラビア・クウェート・イラク・アラブ首長国連邦といった、あわせると、世界で把握されている埋蔵石油量の半分を占める油田を脅かす位置にいる、ということだ。イランはホルムズ海峡にも面している。この狭い航路を日々、世界の石油輸送船の4割が通っている。さらに、イランは、石油と天然ガスを中国・インド・日本に売る一大供給国になっているため、イラン政府には世界情勢を左右する力があるのだ。アメリカに今後供給しうる石油が相当あるだけでなく、こうしたエネルギーの地政学的重みが、ブッシュ政権の戦略を左右していることは間違いない。

 そう言った上で、イランが秘めるエネルギー能力を検討してみよう。Oil and Gas Journal誌の最新データによると、イランの未開発原油量は世界第2位、量にして1258億バレルである。これを超えるのはサウジアラビアだけで、この国の推定埋蔵量は2600億バレルである。3位は推定埋蔵量1150億バレルのイラク。イランは全世界に供給されている推定石油量の1割という膨大な石油を抱えているのであって、ほかに何が起こっても、イランが世界のエネルギー情勢を動かすプレーヤーになるのは確実なのだ。

 しかし、イランの場合、問題なのは量だけではない。今後の生産能力も問題なのだ。埋蔵量にすればサウジアラビアに負ける。が、現在サウジの石油産出力は、持続するのに目一杯のところまで来ている(一日あたり約一千万バレル)。今後20年、(米・中・印の消費量増大に押され)世界の石油需要は50%増すと予測されるなか、サウジには生産力を増強する力はおそらくない。一方、イランには相当の潜在力がある。現在の生産量は一日当たり400万バレルだが、さらに300万バレルぐらいは行けると考えられている。こんな力を秘めている国はそうないことを考えるなら、すでに相当の地位を占めているイランの石油産出国としての重要性は、今後決定的に増してくるのである。

 しかも、豊富なのは石油だけではない。天然ガスもあるのだ。Oil and Gas Journalによれば、イランのガス保有量は推定940兆立方フィートで、世界埋蔵量の約16%にも及ぶ(これを上回るのはロシアだけで、1680兆立方フィート)。エネルギー量でみると、天然ガスのおおよそ6千立方フィートが石油1バレルに値するので、イランのガス埋蔵量は、石油1550億バレルに相当する。つまり、この国の炭化水素資源は、石油のエネルギー量にして2800億バレルとなり、サウジアラビアの炭化水素資源に次ぐ規模である。現在、イランの天然ガス産出量はほんの少しで、年間2兆7000億立方フィートでしかない。逆を言うと、イランが今後これをしのぐ量の天然ガスを供給しうる数少ない国のひとつである、ということを意味している。

 つまるところ、イラクが今後世界のエネルギー情勢に決定的な影響力を及ぼす国になる、ということだ。特に、世界の天然ガス需要が、石油をはじめ他のエネルギー源を凌ぐ早さで伸びていることがその証拠だ。現時点で世界全体のエネルギー資源消費量は、ガスより石油のほうが多い。しかし、そう遠くない将来、石油生産量が限界に達し――おそらく早くも2010年――供給量は縮小・下降すると予測されている。反対に、天然ガス生産がピークに達するまではあと数十年の余裕があると見られ、そうなれば、石油が手薄になったエネルギー市場を大幅に占有してくることが予測される。天然ガスは、特に(地球温暖化の一大要因である)二酸化炭素の排出量が少ないことを始め多くの点で石油より魅力的な燃料である。

 アメリカのエネルギー業界大手は間違いなく、膨大な石油・ガス開発でイランと協力したくてたまらないはずである。しかし、現時点で、米企業は、行政指令(Executive Order)12959によりイランとの商売を禁じられているのだ。この指令は、1995年クリントン大統領が出したもので、2004年3月にブッシュ大統領が更新している。アメリカはまた、(1996年イラン・リビア経済制裁法を盾に)イランと取引をする外国企業にも制裁の脅しをかけている。しかし、こんなもので、イランのエネルギー活用をめざす大企業がひるむはずはないのである。まず、活気づく経済を支えるため、今以上に大量の石油とガスを確実に必要としてくる中国はイランに特別目をつけている。米エネルギー省によれば、2003年イランが中国に供給した石油は、中国の輸入量全体の14%で、今後はさらに増えると見られている。また、中国は、液体天然ガス(LNG)輸入においても、大部分をイランに頼るようになると見られている。2004年10月、イランは、中国エネルギー大手のシノペック(Sinopec)と総額100億ドルの25年契約を結んだ。イランの主要ガス田を共同開発しLNGを中国に運ぶプロジェクトである。完結すれば、この取引は中国最大の海外投資のひとつとなり、両国は重要な戦略関係で結ばれることになる。

 インドもイランの石油とガスを熱望している。1月、Gas Authority of India Ltd.(GAIL)は、イラン国営のNational Iranian Gas Export Corp.と30年契約を交わした。年間750万トンのLNGをインドに輸送する事業である。総額は推定500億ドルのこの取引で、インドはイランガス田の共同開発もする。もっとすごいのは、印パキの政府関係者が、イラン―パキスタン―インドを通る30億ドルの天然ガスパイプライン建設を協議していることだ。長いことにらみ合いを続ける両国にしては驚くべき行動である。この事業が完成すれば、パイプラインを通って、印パキ双方に相当量のガスが届き、パキスタンは通過料として年に2億から5億ドルを手に入れる。パキスタンのショーカット・アジズ首相は1月、「このガスパイプラインは、イラン・インド・パキスタン全員が勝つ計画である」と宣言している。

 パイプラインは明らかに魅力的だし、印パキ和解の動機でもある(この核保有国二カ国は、1947年以来、カシミール地方をめぐり3度戦争をしており、この紛争領土の所属をめぐりいまも拮抗状態にある)。なのに、国務長官コンドリーザ・ライスは3月インド訪問で、同プロジェクトを非難した。3月16日、インドのナトワル・シン外相との会合のあとライス長官は、「インド政府には、イランとインドが協力するパイプラインに関する私どもの懸念を伝えました」と発言。実際、ブッシュ政権は、イラン経済に資するような事業はいっさい支持しないとの意思をはっきりさせている。それでもインドのパイプライン計画は止められていないのである。

 日本もイランとのエネルギー共同では米政府に逆らっている。2003年初め、3会社からなる日本の合弁企業が、ペルシャ湾岸にあるSorouch-Nowruzの油田開発に20%の出資を獲得した。ここの石油埋蔵量は、推定10億バレルである。その一年後、日揮がIranian Offshore Oil Companyと12億6千万ドルの契約を結んだ。これで、Sorouch-Nowruzをはじめとする湾岸地域で天然ガスと天然液体ガスを採収する。

 よって、世界のエネルギー情勢におけるイランの位置を考えるにあたり、ブッシュ政権の頭には、2つ主な戦略目的がある。まずは、イランの石油とガス田を米企業に開放したい。そして、エネルギー市場でアメリカが競合する国々とイランが関係を強めていることへの警戒である。現在の法律のもと、第一の目的を達成するには、大統領が行政指令12959を解除しなくてはならない。これは、反米聖職者勢力がイランの権力を握り、核兵器開発につながりうるウラン濃縮事業の放棄を拒否し続ける限りありえないだろう。同様に、イランのエネルギー事業・輸出への米企業参入が禁止されている限り、イラン政府には、他の消費国との取引を追求するしか道はない。ブッシュ政権から見れば、この嫌な状況を変えるには、道はたったひとつ、直接的なやり方しかない。イランの「政権交代」を誘発し、アメリカの戦略利害にずっと友好的な指導者を政権に据えることである。

 ブッシュ政権がイランの政権交代を助長しようとしていることは疑いがない。2002年の大統領一般教書演説において、イランが、フセインのイラクと金正日の北朝鮮といっしょに「悪の枢軸」メンバーにされたという事実そのものは、その紛れもない徴候であった。2003年6月、テヘランで学生による反政府抗議行動が起こっていたとき、ブッシュはまたも自分の考えを発信した。「これは、国民による、自由なイランにむけた意見表明の始まりだ。前向きなことだと思う」と。この問題で米政府の姿勢をさらに顕著に示しているのは、ムジャヒディーン・エ・ハルク(People’s Mujaheddin of Iran、MEK)を徹底して武装解除できていないことである。これは今ではイラクを本拠地とする反政府の民兵組織で、イランでテロ活動を繰り返し、米国務省がテロ組織と認定している組織である。2003年、ワシントンポスト紙は、一部の米政府高官がMEKをイランの代理勢力として使いたいと考えている、と報道した。アフガニスタンの際、タリバン対抗勢力として北部同盟を雇ったのと同じ方法でだ。

 イラン首脳部は、ブッシュ政権から深刻な脅威を受けていることを十分承知しているし、攻撃を止めるため、間違いなくあらゆる手段を行使している。ここでも、石油が、イラン・米両政府の計算において重要な要因となっている。アメリカの攻撃を抑止するため、イランは、ホルムズ海峡の封鎖をするか、ペルシャ湾地域の石油輸送を妨害すると脅しをかけている。3月1日、イランExpediency Councilのモーセン・レザイ事務局長は、「イランへの攻撃は、サウジアラビア・クウェート、つまり中東の石油全体を危険にさらすのと同じことになる」と述べた。

 米国防総省はこうした脅しをかなり深刻に受け止めている。「我々は、イランが、主に海軍・空軍、そして一部陸軍をつかって、短期間ホルムズ海峡を閉鎖できると判断している」。2月16日、上院情報委員会の場で、国防省諜報庁のローウェル・E・ヤコビー海軍中将はこう証言した。

 このような攻撃に向けた計画は、疑う余地なく、ペンタゴン・トップの一大優先事項である。1月、調査報道の第一人者シーモア・ハーシュがニューヨーカー誌で、国防総省がイランに秘密偵察で侵入をしていると報道した。おそらく、今後の空爆・ミサイル攻撃の対象となりうるイランの秘密核・ミサイル施設を特定するためだというのだ。ハーシュは、軍部高官らはインタビューの時、「次の標的はイランだと繰り返し言っていた」と述べている。ハーシュ記事が出て間もなく、今度はワシントン・ポストが、ペンタゴンが、イランの兵器施設の場所を確かめ、イランの防空力を分析するためにイランへ無人偵察機を飛ばしていることを明らかにした。ポスト紙が言うように、「(この種の)航空偵察は、来る空襲にむけた軍お決まりの準備である。」また、アメリカとイスラエルの政府関係者が、イスラエルによるイラン兵器施設攻撃の可能性について協議しているとの報道もなされている。その場合はおそらく裏でアメリカが支援することになるのであろう。

 実際には、米政府がイランの大量破壊兵器・弾道ミサイル事業に関して抱いている不安の大部分の出所は、サウジアラビア・クウェート・イラクといった湾岸の石油産出国とイスラエルの安全が脅かされることの恐れであって、アメリカへの直接攻撃を恐れているからではない。前出のヤコビー中将は2月証言の際、「イランは、この地域で近隣諸国と湾岸の安全保障を脅かしうる唯一の軍事力を持つ」、「弾道ミサイルが増強されており、これは地域諸国への潜在的脅威を意味する」と述べた。この地域的脅威の撲滅こそが、米政権が何より硬く決意しているものに他ならない。

 何よりもこの意味において、進行中のイラン攻撃計画は根本的に、2003年のイラク侵略同様、自国へのエネルギー供給の利害関係に駆られたものなのである。イラク戦争を始める政府の動機でもっとも的を射ていたのはディック・チェイニーだった(2002年8月、退役軍人クラブ(Veterans for Foreign Wars)での演説。)チェイニーによれば、イラクの脅威とはこうである。「(フセインの大量破壊兵器獲得)野望がすべて実現するようなことになれば、中東とアメリカはとてつもない影響をうける。こうした恐怖の兵器で武装し、世界の埋蔵石油の1割を占めるフセインは全中東の支配をめざし、世界のエネルギー供給の大部分を支配するようになり、そうなれば、この地域のアメリカの友好国が直接脅かされる。」当然、ブッシュの取り巻きたちにとって、そんなことは想像を絶することだった。

 今度は、サダム・フセインを「イランの宗教指導者」に置き換かえれば、ブッシュ政権のイラン戦争開始の言い分の出来上がりである。

 というわけで、国民向けにはイランの大量破壊兵器がどうのと言いながらも、中心人物たちは確実に、世界エネルギー情勢におけるイランの位置について、世界各地への石油の流れを妨害しうるイランの力について、地政学的見地からものを考えている。イラク同様、この脅威を金輪際撲滅するという政府の意志は固い。よって、石油だけがイランと戦争するにあたっての理由ではない。が、戦争の可能性を高める全体的な戦略上の計算においては、本質的な要因なのである。

〔マイケル・T・クレア:ハンプシャー大学:平和・世界安全保障研究教授〕

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