Tsukuba Scientific, Bridge Seminar

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ブリッジのエスプリ(62)  ルール・オブ・セブンの一般化

2020年01月20日 | Weblog

 


 【口絵の言葉】 ロシア正教の聖日に水に浸かる人は百万人台に及ぶそうな。(今朝のネット配信記事より) 

 

本稿は、『ブリッジ用語99 ル「ール・オブ・セブン』(以下『用語』と記す。)に対するNISHIDA様からの貴重かつ重大なご指摘に触発されて記すものです。但し、第一回の今回は「下らない」と思われる方も、多いかもしれません。

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前口上

何事によらず知識の一般化や抽象化は人類の知的好奇心をそそります。それが一番やり易く、また学問の正統な方法として確立しているのは数学の世界ですが、それゆえ、数学的と目されている理工系の有名学者に、「純粋数学的な」一般化や抽象化を毛嫌いする人や蔑視する人も稀に見られないわけでは有りません。確かに数学のように爛熟した学問では、一般化は論文を大量生産するーーーそれによって大学のポジションを得るーーーためのつまらないものになってしまうことがあります。それが世界的現象として起こってしまった事例は、私の専門のAI基礎の周辺でもいろいろ有ったものです。

今回の話は、「お父さんの数学」よりは易しめですが、一般化の「正体」を解き明かすのには、なかなか有用なものに見えます。(実の所、以下の議論は、普通の「お父さんの数学」よりも、むしろ高度な方法に基づいています。というのはこれまでの高校~大学受験数学には無い視点だから。)

ブリッジには「ルール・オブ・N」(N=自然数)と言う名の法則が一杯有りますが、実際的意味を持つ一般化(拡張や拡大とも呼ばれる。)は、概ね不可能です。それは、ブリッジの対象が、4種×13枚と、単に有限である(見方にもよるが無限の方が数学的に扱いやすい一面がある。)だけでなく、この特定の数、つまりサイズに、限定されているからです。これが一般のゲーム(分析)理論だったら、数学者が寄ってたかってM種×N枚の議論をして、論文にするところですが、流石にブリッジの構造が固定されている上に極めて深いゲームなので、これまでの所そういう研究は知られていません。

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閑話休題。

 コントラクトの台による一般化

まずルール・オブ・N+4を取り上げます。

『用語』でご紹介したように、NをNTコントラクトの台とすると、3NTの場合のルール・オブ・セブンの7=3+4に対して、2NTなら6=2+4、1NTなら5=1+4がルールの値(パラメーターと呼ぶ人も居るでしょう。)になるわけです。

つまりこれは、コントラクトの台についての一般化です。これが正しい一般化の一つであることは、次の様に証明できます。『用語』の図1を少しだけ一般化して再掲します。(x...)  は枚数未知で、ここでは絵札ではあるが10を含む。

図2.

     ♠984
     KJ75
     
♠KQ1065      ♠J7
(x...)                 A(x...)

     ♠A32
     Q92

このハンドのポイントは、

  1. リードされたスーツである♠は、Aceで1回しか止められない。
  2. 3NTを作るためには、をエスタブリッシュして、少なくとも1トリック取ることが必要である。
  3.   〃   〃  、それ以外のスーツ、この場合は♣と、の(トップ)ウィンナーが足りている。

    例えば、で2トリック必要ならば、マイナースーツで6トリック取れるというように、実は極端に「理想化」されたハンドを議論しているわけです。

    これらの条件の下では、
  4. ディフェンスに♠を3トリックまでしかとらせない。⇔ 3NTがメイクする。

    ということになっています。⇔ は高校数学で言う「必要十分条件」とか大学数学で言う「同値」を表します。別の言い方をすれば、
  5. デクレアラーの関心事は、♠に4トリック、Aと合わせて5トリック取られないということだけである。

この一般化の一つは、2NT、1NTでは、それぞれ、♠に5トリック、6トリック取らせないこと。一般式では、N台のNTでは、♠で13-(N+6)トリック取らせないことになります。

図2でコントラクトが2NTの場合、ダックせずに直ぐAceを取っても、♠は4トリックしか取られないから、ルールは成り立っています。6-1または7-0ブレークだったらもともとダック不要。この事実を一般のNについて、式を立てて証明することは、数学を愛好される読者の頭の体操に委ねます。

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納め口上

以上の論証を「下らない」と思われた読者も多いことでしょう。そんな程度のことだったのなら、今更言われるまでも無く当たり前だとか、ブリッジの実戦でのダックはそんな皮相的問題ではなくてもっと深いものだとか。

それについて否定する気は全く有りません。ただ、元のルール・オブ・セブンは、上で示したモデルとそれが満たす条件1~5という一見極めて稀なハンドでしか成り立たないこと、その英文ウィキペディアでの一般化は、上のような前提では、評価はともかくとして、数学的には正しいということが伝われば、本稿としては十分です。

実戦のダックは、この理想化されたモデル・ハンドとは異なる状況で、概ね瞬時の判断で行われるものだから、これらのルール群は、参考に止まります。

一言だけ弁護すると、どんなに「自明な事実」でも、一般化して考えることで、事の本質が浮き彫りにされて、理解しやすくなるという効用があるし、理想のケースからのズレで、応用上の判断の正確度が増します。

(続く)

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 これは筆者の表現で、英文ウィキペディアでは、このN+4を小文字のnで表している。


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