第4回仙台国際音楽コンクール優勝記念演奏会
クララ・ジュミ・カン ヴァイオリンリサイタル
2011年6月1日(水)19:00~ 浜離宮朝日ホール 指定 1階 1列 10番 3,800円
ヴァイオリン: クララ=ジュミ・カン
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品27-3
ショーソン: 詩曲 作品25
チャイコフスキー: ワルツ=スケルツォ 作品34
チャイコフスキー: 感傷的なワルツ 作品51-6
ヴィエニャフスキ: 華麗なポロネーズ 第2番 イ長調 作品21
《アンコール》
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 ホ短調 作品72-2
クライスラー: 中国の太鼓 作品3
マスネ: タイスの瞑想曲
昨年2010年開催された「第4回仙台国際音楽コンクール」のヴァイオリン部門で優勝したクララ=ジュミ・カンさんの記念リサイタルが開かれた。仙台コンクールでは、予選でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲ニ長調 k.218を、セミファイナルでとメンデルスゾーン、ファイナルではベートーヴェンの協奏曲を弾いて、優勝を勝ち取った。メンデルスゾーンとベートーヴェンはコンクール時のライブ録音がすでにCD化され発売されている。コンクールは聴いていないので、ウワサを頼りに、先日(5/7)東京交響楽団の定期演奏会でブルッフのヴァイオリン協奏曲を演奏した際に聴きに行った。CDも聴いている。全体の印象は、ダイナミックで押し出しの強い音楽作り、という感じで、もちろん技巧的にも優れているが、情熱的な演奏をする人だと感じた。今日はリサイタルなので、また違った面が見られるかもしれない。直接聴いてはいなかったものの、以前から注目していたので、最前列、演奏者の正面という席を確保しておいたものである。ビアノ伴奏は、同じ仙台コンクールの優勝者の先輩、津田裕也さん。
時間が来てクララ=ジュミ・カンさんが登場すると、ほのかに香水の香り。ステージが低いホールの最前列にはこんな余録もある。…癒されるひととき。
1曲目のブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番。カンさんはドイツ生まれのドイツ育ちなので、ドイツものはネイティブなのだろう。作品番号78という円熟のブラームスに対して、落ち着いた大人の音楽としてアプローチしていたようだ。他の曲の演奏と比べると、演奏自体の振れ幅や音量のダイナミックレンジがあまり広くなく、少し物足りない印象だった。曲の解釈により、意図的な抑えめの演奏をしていたというよりは、楽譜を見ながらの演奏だったこともあり、まだ曲を完全に自分のものにしていなかったような気がする。
2曲目のイザイのソナタになると、楽器が明らかに違った音を出し始めた。無伴奏で1楽章のみの曲だが、いろいろな楽想が現れ、演奏者の技量や感性の多様性が求められる曲だ。カンさんは低音部のゆったりしたヴィブラートから生まれる独特の豊かな音色と高音部の緊張では色彩感の異なる音色が特徴的。十分な音量と、超絶技巧的なパッセージの正確さも申し分なし。若々しい感性で力のあるイザイであった。
後半はショーソンの詩曲から。この曲は弾く人の年齢や性別によって、イメージが変わる曲だ。カンさんのように、若い女性(1987年生まれというから24歳)が演奏すると瑞々しいロマンティシズムが溢れてくる。豊穣な響きと繊細な弱音との対比が、揺れ動く心情を表しているようで、なかなか素晴らしいものがあった。
続くチャイコフスキーの2曲は曲順を入れ替えて、ワルツ=スケルツォから。哀愁を帯びたロマンティックな旋律、踊るようなリズム感、メリハリの効いたスケルツォも素晴らしい。細やかなニュアンスも細部まで配慮されている。一方、「感傷的なワルツ」の方はサラリとした演奏で、あまり印象に残らなかった。
ヴィエニャフスキの「華麗なポロネーズ」は、躍動的かつロマン的、自由で伸び伸びとした音楽性が感じられ、同時に高度な技巧をすでに完全に手中にしていることも証明してみせた。この若さにしてこの完成度はBrava!と言わざるを得ないだろう。
アンコールは3曲。ドヴォルザークの「スラヴ舞曲 ホ短調」、クライスラーの「中国の太鼓」は、それぞれの民族的な楽想をエキゾチックに表現。とくに後者は目まぐるしい技巧的な曲だけに、集中力のある演奏を聴かせてくれた。最後は「タイスの瞑想曲」でしっとり沈静化。…お休みなさい。
こうして全曲をまったく飽きさせることなく聴かせてくれたが、よくよく考えると、ブラームス(ドイツ)、イザイ(ベルギー)、ショーソン(フランス)、チャイコフスキー(ロシア)、ヴィエニャフスキ(ポーランド)、ドヴォルザーク(チェコ)、クライスラー(オーストリア)、マスネ(フランス)と、名曲オンパレードとはいえ、音楽のバリエーションもなかなか多彩だ。アンコールまで含めて、敢えて異なる国の作曲家を選んだのかもしれない。ご本人の出自から見ても、出身地や民族を超えた「国際人」という気概が感じられるような選曲であった。ブラームスを含めて、どの曲にもネイティブな「それっぽさ」は感じられなかった反面、純音楽として、譜面の中からかなり多くのものを引っ張り出して、若さと力感溢れる見事な演奏だったといえる。基本的には強い音であり、芯がしっかりしているため、音楽がブレない。構造感もリズム感も良い。ダイナミックで押出の強い演奏である。強いて言うなら、高音から低音まで、弱音部分に多少の音のバラつきが見られたようだ。今後の課題というところだろうか。
ピアノ伴奏の津田裕也さんについても一言。同じ仙台コンクールでも2004年の第2回に優勝している松山冴花さんとのデュオでもおなじみだが、松山さんが評していたように実に「優しいピアノ」を弾く。音が透明で美しいだけでなく、尖ったところがない丸い音なのだ。今日も伴奏に徹して、カンさんをしっかりとサポートしていた。もちろん、ご本人が主役の時は、もっと力強い演奏を聴かせてくれる。
終演後は恒例のサイン会。カンさんのCDには前回の東響のコンサートの時にサインをいただいてしまったので、今回は津田さんのCDを購入してサインをいただいた。こちらは2007年の第3回仙台国際音楽コンクールで津田さんが優勝した時のライブ盤。ラヴェルとベートーヴェンの協奏曲第4番が抄録されている。一方、カンさんには特別にお願いして(?)、「第4回 仙台国際音楽コンクール 報告書」、つまり主催者による公式の結果報告書にサインをいただいた。この報告書は、仙台コンクールの主催者がマスコミや関係者などのために用意していたものを、特別に譲っていただいたものだ(500円)。優勝者であるカンさんの紹介ページにいただいたサインは実にダイナミック。彼女のスケール感を見事に表している(画像)。とても素晴らしい記念になった。
余談になるが、会場に聴きにいらしていた青木尚佳さんと色々とお話しする機会に恵まれた。彼女はさらに若く、今年高校を卒業したばかりの18歳。気がついてみると、2010年3月の「第78回 日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」、2010年5月のN響との共演でパガニーニの協奏曲、2010年12月の「Violin Festa Tokyo 2010」と、けっこう聴いているし、ちょうど1ヶ月後の7月1日に、今日と同じ浜離宮朝日ホールでリサイタルがあり、当然行く予定になっている。大好きなリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが聴けるので、こちらも楽しみ。それにしてもヴァイオリン界は若くて素晴らしい女性演奏家たちの百花繚乱である。
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クララ・ジュミ・カン ヴァイオリンリサイタル
2011年6月1日(水)19:00~ 浜離宮朝日ホール 指定 1階 1列 10番 3,800円
ヴァイオリン: クララ=ジュミ・カン
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品27-3
ショーソン: 詩曲 作品25
チャイコフスキー: ワルツ=スケルツォ 作品34
チャイコフスキー: 感傷的なワルツ 作品51-6
ヴィエニャフスキ: 華麗なポロネーズ 第2番 イ長調 作品21
《アンコール》
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 ホ短調 作品72-2
クライスラー: 中国の太鼓 作品3
マスネ: タイスの瞑想曲
昨年2010年開催された「第4回仙台国際音楽コンクール」のヴァイオリン部門で優勝したクララ=ジュミ・カンさんの記念リサイタルが開かれた。仙台コンクールでは、予選でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲ニ長調 k.218を、セミファイナルでとメンデルスゾーン、ファイナルではベートーヴェンの協奏曲を弾いて、優勝を勝ち取った。メンデルスゾーンとベートーヴェンはコンクール時のライブ録音がすでにCD化され発売されている。コンクールは聴いていないので、ウワサを頼りに、先日(5/7)東京交響楽団の定期演奏会でブルッフのヴァイオリン協奏曲を演奏した際に聴きに行った。CDも聴いている。全体の印象は、ダイナミックで押し出しの強い音楽作り、という感じで、もちろん技巧的にも優れているが、情熱的な演奏をする人だと感じた。今日はリサイタルなので、また違った面が見られるかもしれない。直接聴いてはいなかったものの、以前から注目していたので、最前列、演奏者の正面という席を確保しておいたものである。ビアノ伴奏は、同じ仙台コンクールの優勝者の先輩、津田裕也さん。
時間が来てクララ=ジュミ・カンさんが登場すると、ほのかに香水の香り。ステージが低いホールの最前列にはこんな余録もある。…癒されるひととき。
1曲目のブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番。カンさんはドイツ生まれのドイツ育ちなので、ドイツものはネイティブなのだろう。作品番号78という円熟のブラームスに対して、落ち着いた大人の音楽としてアプローチしていたようだ。他の曲の演奏と比べると、演奏自体の振れ幅や音量のダイナミックレンジがあまり広くなく、少し物足りない印象だった。曲の解釈により、意図的な抑えめの演奏をしていたというよりは、楽譜を見ながらの演奏だったこともあり、まだ曲を完全に自分のものにしていなかったような気がする。
2曲目のイザイのソナタになると、楽器が明らかに違った音を出し始めた。無伴奏で1楽章のみの曲だが、いろいろな楽想が現れ、演奏者の技量や感性の多様性が求められる曲だ。カンさんは低音部のゆったりしたヴィブラートから生まれる独特の豊かな音色と高音部の緊張では色彩感の異なる音色が特徴的。十分な音量と、超絶技巧的なパッセージの正確さも申し分なし。若々しい感性で力のあるイザイであった。
後半はショーソンの詩曲から。この曲は弾く人の年齢や性別によって、イメージが変わる曲だ。カンさんのように、若い女性(1987年生まれというから24歳)が演奏すると瑞々しいロマンティシズムが溢れてくる。豊穣な響きと繊細な弱音との対比が、揺れ動く心情を表しているようで、なかなか素晴らしいものがあった。
続くチャイコフスキーの2曲は曲順を入れ替えて、ワルツ=スケルツォから。哀愁を帯びたロマンティックな旋律、踊るようなリズム感、メリハリの効いたスケルツォも素晴らしい。細やかなニュアンスも細部まで配慮されている。一方、「感傷的なワルツ」の方はサラリとした演奏で、あまり印象に残らなかった。
ヴィエニャフスキの「華麗なポロネーズ」は、躍動的かつロマン的、自由で伸び伸びとした音楽性が感じられ、同時に高度な技巧をすでに完全に手中にしていることも証明してみせた。この若さにしてこの完成度はBrava!と言わざるを得ないだろう。
アンコールは3曲。ドヴォルザークの「スラヴ舞曲 ホ短調」、クライスラーの「中国の太鼓」は、それぞれの民族的な楽想をエキゾチックに表現。とくに後者は目まぐるしい技巧的な曲だけに、集中力のある演奏を聴かせてくれた。最後は「タイスの瞑想曲」でしっとり沈静化。…お休みなさい。
こうして全曲をまったく飽きさせることなく聴かせてくれたが、よくよく考えると、ブラームス(ドイツ)、イザイ(ベルギー)、ショーソン(フランス)、チャイコフスキー(ロシア)、ヴィエニャフスキ(ポーランド)、ドヴォルザーク(チェコ)、クライスラー(オーストリア)、マスネ(フランス)と、名曲オンパレードとはいえ、音楽のバリエーションもなかなか多彩だ。アンコールまで含めて、敢えて異なる国の作曲家を選んだのかもしれない。ご本人の出自から見ても、出身地や民族を超えた「国際人」という気概が感じられるような選曲であった。ブラームスを含めて、どの曲にもネイティブな「それっぽさ」は感じられなかった反面、純音楽として、譜面の中からかなり多くのものを引っ張り出して、若さと力感溢れる見事な演奏だったといえる。基本的には強い音であり、芯がしっかりしているため、音楽がブレない。構造感もリズム感も良い。ダイナミックで押出の強い演奏である。強いて言うなら、高音から低音まで、弱音部分に多少の音のバラつきが見られたようだ。今後の課題というところだろうか。
ピアノ伴奏の津田裕也さんについても一言。同じ仙台コンクールでも2004年の第2回に優勝している松山冴花さんとのデュオでもおなじみだが、松山さんが評していたように実に「優しいピアノ」を弾く。音が透明で美しいだけでなく、尖ったところがない丸い音なのだ。今日も伴奏に徹して、カンさんをしっかりとサポートしていた。もちろん、ご本人が主役の時は、もっと力強い演奏を聴かせてくれる。
終演後は恒例のサイン会。カンさんのCDには前回の東響のコンサートの時にサインをいただいてしまったので、今回は津田さんのCDを購入してサインをいただいた。こちらは2007年の第3回仙台国際音楽コンクールで津田さんが優勝した時のライブ盤。ラヴェルとベートーヴェンの協奏曲第4番が抄録されている。一方、カンさんには特別にお願いして(?)、「第4回 仙台国際音楽コンクール 報告書」、つまり主催者による公式の結果報告書にサインをいただいた。この報告書は、仙台コンクールの主催者がマスコミや関係者などのために用意していたものを、特別に譲っていただいたものだ(500円)。優勝者であるカンさんの紹介ページにいただいたサインは実にダイナミック。彼女のスケール感を見事に表している(画像)。とても素晴らしい記念になった。
余談になるが、会場に聴きにいらしていた青木尚佳さんと色々とお話しする機会に恵まれた。彼女はさらに若く、今年高校を卒業したばかりの18歳。気がついてみると、2010年3月の「第78回 日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」、2010年5月のN響との共演でパガニーニの協奏曲、2010年12月の「Violin Festa Tokyo 2010」と、けっこう聴いているし、ちょうど1ヶ月後の7月1日に、今日と同じ浜離宮朝日ホールでリサイタルがあり、当然行く予定になっている。大好きなリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが聴けるので、こちらも楽しみ。それにしてもヴァイオリン界は若くて素晴らしい女性演奏家たちの百花繚乱である。
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いつもありがとうございます。
ヴァイオリン・フェスタの時の青木尚佳さんのテクニックには本当に驚かされましたよね。あの時は恐るべき高校生という感じでした。将来が楽しみな逸材ですね。みんなで応援しましょう!!
神がかり的な驚異のテクニックに釘付け(笑)。
話せる仲とは羨ましい限りです。