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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/4(火・祝)「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010」~ショパンの宇宙~第3日

2010年05月05日 23時59分00秒 | クラシックコンサート
5月4日(火・祝)「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010」~ショパンの宇宙~東京フォーラム

 「ラ・フォル・ジュルネ」の2日目は行かなかったので、3日目の今日は早朝より深夜まで、合わせて8ワクのコンサートを聴くという超ハード・スケジュールである。

【公演番号:331(9:30~10:15)/ホールB5】指定 2列 27番 2,000円
竹澤恭子 [ヴァイオリン]
江口玲 [ピアノ]
メンデルスゾーン:ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調
ショパン(サラサーテ編曲):ノクターン 変ホ長調 op.9-2
ショパン(ミルシテイン編曲):ノクターン 嬰ハ短調 KK IV a-16
リスト(ミルシテイン編曲):コンソレーション第3番 変ニ長調
パガニーニ:カンタービレ ニ長調 op.17
 今回の「ラ・フォル・ジュルネ」のテーマであるショパンにはヴァイオリンの曲がない。そのため、出演するヴァイオリニストの方々は、ショパンと親交のあったメンデルスゾーンとシューマンの曲が取り上げられることになる。そしてこの二人にもヴァイオリン曲が沢山あるわけではないので、多くの出演者の間で、同じ曲が演奏されることになったようだ。プログラム全体を見渡してみると、メンデルスゾーンのヘ長調のヴァイオリン・ソナタは竹澤さんのコンサートだけのようだ。
 竹澤さんのヴァイオリンは「大人の演奏」とでもいうべきか。芳醇な音色がロマンティックな旋律を大きく歌わせていた。江口さんのサポートも相変わらずお見事。この曲はたいへん美しく叙情的。小さな部屋で、小粋な室内楽を堪能させていただいた、そんな気分だった。ショパンのヴァイオリン編曲版は、まあこういうお祭りだから聴ける曲だと言うことで。(-。-;)

【公演番号:342(11:45~12:30)/ホールC】S席 1階 6列 33番 3,000円
イェウン・チェ [ヴァイオリン]
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス [指揮]
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64
 ウラル・フィルは予想していたよりも緻密なアンサンブルが美しく、とくに弦がキレイだ。「フィンガルの洞窟」は5月2日にオーケストラ・アンサンブル金沢で聴いたのとはまったく違う曲のように思えた。
 おなじみのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は今回の「ラ・フォル・ジュルネ」でみあちこちで演奏されていたようだが、聴いたのは本公演のみ。イエウン・チェさんを聴くのも初めてだったのだが、こちらも期待以上に素晴らしかった。緊張感の高い演奏だが、力みもなく、音色にも艶がある。時折、指揮者を見るときのキッとした視線の熱さ(オペラグラスで顔アップを見ていた)など、若い頃のキョン=ファ・チョンを彷彿とさせた。また演奏後のステージ上の仕草などはサラ・チャンによく似ていた(けっこう意識しているのかも)。今後の活躍が期待できる若手の逸材だ。

【公演番号:333(13:00~13:45)/ホールB5】指定 2列 25番 2,500円
“福袋コンサート”
マルチン・コジャク [ピアノ]
ショパン:バラード 第4番 ヘ短調 op.52
ショパン:ポロネーズ 変イ長調 op.53「英雄」
ブルーノ・リグット[ピアノ]
ショパン:ワルツ 嬰ハ短調 op.64-2
ショパン:ワルツ 変ホ長調 op.18「華麗なる大円舞曲」
アンドレイ・コロベイニコフ[ピアノ]
ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ長調 op.35『葬送」
 友人のNさんが早朝から並んでくれたおかげで、『福袋コンサート」を聴くことができた。当日発売後10分で売り切れてしまうような、超レアなコンサートだ。お目当てはもちろんブルーノ・リグットさん。実は、リグットさんの出演は公演番号357の1ワクしかなく、それが368の河村尚子さんとカブっていたために諦めていた。それが小さな部屋で、ピアノの目の前で聴けるのだ。まさに福袋になった。
 最初のマルチン・コジャックさんは少々音が濁っていてスッキリしないショパンだった。「英雄」ポロネーズのような名曲だっただけに、ちょっと残念。
 続いて登場したリグットさん。椅子に座るなり、とくに構えるでもなく、おもむろに弾き始める。実に粋で「洒脱」といった言葉がピッタリ。音色は丸く、柔らかく、そして明るく輝いてもいる。ごく自然にテンポが揺れるのも、「楽譜の解釈をこのように表現しているのだ」的な力みが全く感じられない。数少ないサンソン・フランソワの弟子だそうで、師匠に似た「これぞショパン!!」というBravo!!な演奏だった。
 最後のアンドレイ・コロベイニコフさんはリグットさんとは正反対のかなり個性的な人。ロボットのようにギクシャクとお辞儀をして、椅子の高さを低めに調節して、弾き始めたピアノ・ソナタの重いこと!! 第1・2楽章の重々しかったが、第3楽章の「葬送行進曲」は重厚の極み。なかなか前に進まないくらい遅く、重い。中間部の天国的な調べも…遅く、重い(-。-;) いつ終わるんだこの曲…。ご本人はというと、すっかり自分の世界に入り込んで、鍵盤にしがみつくような姿勢で弾き続けている。とはいえ、技術水準は極めて高く、演奏はある意味で完璧でもあった。後で思い出すたびに笑いがこみ上げてくる(失礼)。ものすごく印象に残る演奏だった。
 こんな楽しい『福袋コンサート」を聴くことができて本当に幸福だ。Nさん、ありがとうございました。

【公演番号:324(15:45~16:30)/ホールB7】S席 15列 31番 2,500円
河村尚子 [ピアノ]
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
ショパン:ノクターン 変ニ長調 op.27-2
ショパン:バラード第3番 変イ長調 op.47
ショパン:ノクターン 嬰ハ短調 KK IV a-16 [遺作]
ショパン:ワルツ 変イ長調 op.42
ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49
 河村尚子さんは、最近もっとも注目していたピアニスト。ナマで聴くのは初めてなので、期待していた。しかし会場が会場だし、席も後ろの方しか取れなかったので(15列目なのにS席とは!)、本公演だけではなく公演番号368の小部屋の方もチケットを確保しておいた。曲目は同じである。
 河村さんの演奏は、期待通りの素晴らしさ。遠くで聴いていても、音の粒が揃っていてキラキラしていることや、甘美な旋律の歌わせ方などに、大物の片鱗を感じさせた。詳しくは368のレビューに書くことにする。というのも、次の公演に間に合わなくなるので、最後の幻想曲をパスして抜け出してしまったからだ。

【公演番号:314(16:30~17:50)/ホールA】S席 1階 6列 41番 4,000円
ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール(ハート直撃コンサート)
ルネ・マルタン[ナビゲーター]
オルガ・ペレチャツコ [ソプラノ]*
レジス・パスキエ [ヴァイオリン]**
ヤン・ルヴィノワ [チェロ]***
アダム・ラルーム [ピアノ]***
ボリス・ベレゾフスキー [ピアノ]****
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス [指揮]
ロッシーニ:ああ!ふさわしい花婿に(オペラ「ブルスキーノ氏」より)*
ドニゼッティ:あたりは沈黙にとざされ(オペラ「ランメルモールのルチア」より)*
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ロ短調 op.7「ラ・カンパネラ」より第3楽章**
ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65よりアダージョ***
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 op.11より第2楽章・第3楽章****
《アンコール》チャイコフスキー:ララバイ* ****
 ルネ・マルタン自身が案内する〈ショパンの宇宙〉というこのコンサートは、いわば今回の「ラ・フォル・ジュルネ」のガラ・コンサートのような位置づけのもの。この公演だけ、80分のロング・ヴァージョンだ。
 ここでの期待は、前評判の高かったペレチャツコさんのソプラノ。それにしても5000人のホールで声楽というのも…。当然音響は入っているでしょうが。ロシア人のペレチャツコさんはベル・カントが得意だそうで、今回はロッシーニとドニゼッティのアリアを歌う。ベル・カントの絶対条件(だと思う)は声がキレイなこと。彼女の声は、クセのない柔らかな声質で、アンナ・ネトレプコによく似ている。ベル・カントの技巧も見事なもので、正確な音程、装飾的な歌唱も巧い。高音部も無理矢理絞り出すような感じではなく、自然に歌えている。もちろん声量も十分。立ち姿も美しく、新たなスター誕生の瞬間を見た気がする。「あたりは沈黙にとざされ」がとくに良かった。この次は、ぜひオペラ公演に来日してほしい。ルチアを観て(聴いて)みたい。
 続くレジス・パスキエさんは第ベテランの貫禄で、パガニーニをさらりと聴かせてくれた。
 次はチェロ・ソナタ。ヤン・ルヴィノワさんとアダム・ラルームさんによる緩徐楽章アダージョ。
 曲目が発表されていたのはここまでで、以降は未定だった。ただ、ベレゾフスキーさんが出演者に名を連ねていたので、何かやってくれるとは思っていたが、期待通りにショパンのビアノ協奏曲第1番。ただし第2・3楽章のみだったのが残念。まあ、全曲は時間的に無理だろうが…。前日のBS-Hiでの放送でも観たが、実際に聴くと、ものすごいヴィルトゥオーソぶりがわかる。とにかく技巧が完璧でどんな早さでも正確無比に弾きまくるだけでなく、打鍵が強いから音が硬質。体育会系のショパンである(見た目もスポーツ選手みたい)。好みの別れる所かもしれないが、私はこういうピアノは嫌いではない。気分爽快で、いいではないか。
 アンコールにはちょっとしたサプライズ。ペレチャツコさんの歌に、伴奏が贅沢なことにベレゾフスキーさん(!)。もしかしたら、今回の「ラ・フォル・ジュルネ」で唯一のチャイコフスキーだったかもしれない。

【公演番号:381(19:00~19:45)/相田みつを美術館】指定 3列 18番 2,000円
梁 美沙 [ヴァイオリン]
松本 望 [ピアノ]
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調 op.121
 この公演は衝撃的なものだった。梁 美沙(ヤン・ミサ)さんは23歳、コンヴァトに留学中のため、あまり日本では聴く機会がないが、近い将来ブレイクしそうな若手の逸材である。過去に一度だけ、メンデルスゾーンの協奏曲を聴いたことがあるが、その時の印象とはかなり違う、過激な演奏を披露してくれた。会場の相田みつを美術館の1室はかなり狭く、私の席からは演奏者までわずか3メートルほど。マホガニーだかウォルナットだかわからないが木目調のスタインウェイがやたら大きく見えるほど、近い。この距離感でガンガン弾かれるとものすごい音量だ。こんな効き方が出来る機会も滅多にない。「ラ・フォル・ジュルネ」ならではである。
 さて肝心の演奏の方だが、選曲がシューマンということもあってか、秘められた情念を解放してしまったかのごとき、パッションを全面に押し出した演奏。とくに2番は「激情」的だった。その激しさの余り、少々雑な音も混ざってしまっていたが、些細なことには拘らない、突き抜けた演奏だったといえる。もちろん技巧的にはかなりしっかりしたものを持っているので、多少のことには目をつぶって、曲の持つ情念を描きたかったのだろう。小柄でかわいらしい外見からは想像が付かない、衝撃的な音楽だった。でも、ちょっとやり過ぎだと思うけど…。

【公演番号:368(20:30~21:15)/G402】指定 2列 32番 1,500円
河村尚子 [ピアノ]
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
ショパン:ノクターン 変ニ長調 op.27-2
ショパン:バラード第3番 変イ長調 op.47
ショパン:ノクターン 嬰ハ短調 KK IV a-16 [遺作]
ショパン:ワルツ 変イ長調 op.42
ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49
《アンコール》プロコフィエフ:前奏曲 op.12より「ハープ」
       ショパン:ワルツ 嬰ハ短調 op.64-2

 本日2度目の河村尚子さんだが、今回は小部屋でじっくり聴くことができた。ちょうど演奏中の顔が正面から見える位置。ピアノの音もダイレクトに響く、こんな贅沢なコンサートで河村さんを聴くことができて、本当にラッキーだったといえる(たったの103席/「ラ・フォル・ジュルネ」で一番小さな会場!)。
 河村さんの最大の特徴は、多彩な音色にあると思う。とくに幻想即興曲にはその多彩な音色がピッタリ。冒頭の和音、駆け巡るパッセージ、中間部の甘美な旋律、トリル、左手の伴奏など、次々と現れる曲想に、これしかないというような音色が響く。それでいて、ひとつひとつの音がハッキリしていて、細かな装飾音でも音の粒がキレイに揃っている。濁りもまったくない。腕が跳ね上がる時の軽快な弾む音も出色。一音たりとも気を抜いていない。ディテールも見事だが、もっと素晴らしいのは、曲全体を貫く「流麗」さだ。演奏自体にはキレの良いリズム感があって、ねちっこさのない、むしろ瑞々しいさっぱりした演奏なのだが、旋律、リズム,和声が一体となって非常に美しく流れていくのだ。それらの解釈や表現が実に自然に聞こえるところに、彼女の一級の才能が現れている。
 最近人気のノクターン「遺作」は、彼女の国内デビューCDにも収められているが、誰が弾いてもそれなりに美しく聞こえるこの曲だが、ゆったりとした間の取り方や、主題旋律の細かなニュアンスの違いなど、細部に至るまで自然な情感が込められているものの、過度に気持ちを入れ込まない押さえが効いていて見事である。続けて演奏された変イ長調のワルツになると、踊るように弾むように、あるいは優雅に、時にダイナミックにというように、明快な明るさを保ちつつ、非常に多彩な音色が流麗に輝く。河村さんは、若い女性らしい瑞々しさと、完成された音楽表現を併せ持つ、希有な逸材である。今回の「ラ・フォル・ジュルネ」で間違いなくBestのコンサートだった。彼女に最高のBrava!!を送ろう。
 余談だが、河村さんは国内では昨年(2009年)CDデビューしたばかりだが、過去にヨーロッパでは2枚の単独アルバムをリリースしており、これらが手に入らなかった。ところが今回の「ラ・フォル・ジュルネ」に合わせて急遽輸入されたらしく、会場内のショップで2枚とも入手することができたのも嬉しかった。
 6月1日にはファビオ・ルイジ指揮のウィーン交響楽団の来日公演で、ベートーヴェンの『皇帝」を弾く。彼女のベートーヴェンは聴いたことがないので、どんな演奏を聴かせてくれるのか、楽しみでならない。


フランスとドイツでリリースされたCD


【公演番号:369(22:00~22:45)/G402】指定 2列 31番 1,500円
カティア・ブニアティシヴィリ[ピアノ]
ショパン:バラード 第4番 ヘ短調 op.52
ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 op.20
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 op.31
ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op.39
リスト:メフィスト・ワルツ 第1番
《アンコール》ショパン:前奏曲 第4番 ホ短調 op.28-4
 河村尚子さんのコンサートと同じ会場、ほぼ同じ位置でカティア・ブニアティシヴィリさんを聴く。今回注目の一人である。スラリと背が高く、背中の大きくあいたドレスで登場、とてもエレガントなたたずまいだ。ところが弾き始めるとこれがビックリ。超ヴィルトゥオーソである(女性だからヴィルトゥオーサか)。さしずめ女ベレゾフスキーといったところか。
 最初のバラードからしてガンガン弾きまくって、まるで違う曲のよう。2曲目以降は、スケルツォ1~3番という選曲もモノスゴイが、その弾きっぷりはfffffからpppくらいまで、ダイナミックレンジがとてつもなく広い。最大音量なんか河村さんの倍くらいあるんじゃないか(・O・; とほうもない演奏である。よりによって一番小さい部屋でこの演奏に出会うとは。とはいうものの音に濁りはないし、リズム感にも破綻はまったくない。どんなに早いパッセージも完璧に弾きこなす。技巧的には完璧といっても良い。どうしてここまで攻撃的な演奏を求めるのだろうか。いくらなんでもやり過ぎ以上、今日8ワク目のコンサートだというのに、眠気も吹っ飛んでしまった。とにかく強烈に印象に残ったコンサートだった。

 長い1日が終わった。一度にいろいろな音楽を聴くと、それぞれの演奏家の個性が直接比較できてとてもおもしろかった。来年は…たぶん3日間通うことになりそうだ。

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