Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/29(月)『迸るドイツ魂』「ティーレマン&ミュンヘン・フィル」

2010年03月29日 23時58分45秒 | クラシックコンサート
「クリスティアン・ティーレマン指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団」

2010年3月29日(月)19:00~ サントリーホール・大ホール C席 2階 P2列 11番 14,000円
指 揮: クリスティアン・ティーレマン
ヴァイオリン: ワディム・レーピン*
管弦楽: ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ワーグナー: 歌劇「タンホイザー」より序曲
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77*
《アンコール》バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「サラバンド」*

ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作雛67「運命」
《アンコール》ワーグナー: 歌劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲

 BMWが特別協賛する今日のミュンヘン・フィルのコンサートは、サントリーホール前のカラヤン広場にもBMWのクルマの展示があったり、会場内にも関係者がいっぱいいたりと、普通のコンサートとはちょっと違う雰囲気が漂っていた。そんな中、2階に上がって、P席へ。実はさんざん通ったサントリーホールだが、P席は初めての体験だ。今日は、ティーレマンさんの指揮ぶりをたっぷり見せていただこうと、オペラグラスまで持ち込んだ。

 拍手に迎えられてミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーの方たちがステージ上へ。意外にメンバーは若い人が多い。オーケストラの配置にも特徴を出す。第1ヴァイオリンの対向に第2ヴァイオリンを置き、その後ろにヴィオラ、第1ヴァイオリンの後ろにチェロ、その奥にコントラバス。木管は左からフルート(ピッコロ)、クラリネット、オーボエ、ファゴット、コントラファゴット。その右にホルン。後列は左からハープ2台、トランペット、トロンボン、テューバ。最後列にティンパニと打楽器。私の席位置は、テレビで右側から指揮者を映すあたりだから、指揮者を見るには絶好のポジションなのだが、何しろホルンとテューバの真後ろ。さすがに音のバランスは最悪(!!)だった。

 ティーレマンさんは大柄な体も軽々と、颯爽と登場。まずは「タンホイザー」の序曲。ファゴットとホルンで主題が静かに始まり、弦が加わり…。いかにも、確かに重厚な響き。だが、燻し銀という風でもなく、各楽器の音色が極めて繊細でキレイだ。金管の間から聞こえてくる弦楽のアンサンブルの美しさは格別。確かにこれはドイツ的な音だ。ベルリン・フィルのようなインターナショナルな凄味とは違う、洗練されたドイツ音楽の本流という感じ。シュターツカペレ・ドレスデンよりも骨太な印象だ。オーケストラの後ろ側で聴いているので、音のバランスなどさっぱり分からないが、いい音が鳴っているのは体に伝わる振動でよくわかった。「タンホイザー」序曲は静かに始まり徐々にパワーアップしていく曲だが、最後は金管楽器の咆哮が、オーケストラの分厚い音の波に乗って、正面の客席の方に向かって飛んでいくのが「見えた」。これは素晴らしい演奏だ。

 2曲目のコンチェルトはワディム・レーピンさんを迎えてのブラームス。この人のヴァイオリンが聴けるというだけで素晴らしいことなのに、ティーレマン&ミュンヘン・フィルとの競演なんて、夢のような出来事だ。ソロ・ヴァイオリン付きの交響曲といわれるだけあって、主題提示部のシンフォニックな響きがこれまたドイツ的で泣かせる。ソロ・ヴァイオリンが入ってくる。レーピンさんの音は予想していたよりもずっと繊細でキッチリした印象。この上なく内省的なブラームスに、よくあっている。もちろん、そういう弾き方をしているのだろう。第1楽章終盤の長いカデンツァでは、会場に咳払い一つなく、サントリーホールの広い空間に、研ぎ澄まされたヴァイオリンの音が飛び交っていた。
 第2楽章では、オーボエによる主題提示が美しく(ソロを吹いた主席は若い女性だった)、ヴァイオリンとの掛け合いも見事。いかにもドイツ・ロマン派の緩徐楽章楽章だ。この美しい旋律の歌わせ方は、この曲の聴かせどころだ。レーピンさんの繊細かつ正確な演奏が素晴らしい。第3楽章は一転して力強いヴァイオリンによる主題提示。ガツガツ弾いたりはせず、ある意味冷静に、オーケストラと対話しながら、曲を構成していく。
 今日のブラームスは、ティーレマン&ミュンヘン・フィルという超ド級のオーケストラと、今をときめく一級のワディム・レーピンとががっぷり四つに組んだ演奏だ。対決したり挑発し合うようなスリリングな演奏ではなく、オーケストラとヴァイオリンが対等で、しかも融合的に音楽を作っている。極めて完成度の高い演奏。それでいて教科書的・博物館的にならずに「熱情」に溢れていたのは、ティーレマンさんの人柄(意外に熱い人だ)によるところがその理由ではないだろうか。
 熱烈な拍手に応えてのアンコールは「サラバンド」。お馴染みのアンコール風景でした。

 休憩をはさんで、今日のメイン・プログラムは「運命」。この、あまりにもドイツ的な指揮者とオーケストラでは、多分こうなるだろうと予測せざるを得なかったのだが、実際は…とんでもない演奏だった。
 ティーレマンさんが指揮台に飛び乗り、客席に挨拶、拍手が鳴り止まないうちに、振り向きざまタクト一閃。ダダダダーン、ときた。このスリリングな緊張感は、かつてのカルロス・クライバーを思い起こす(やっぱりカリスマと呼ばれる人はスゴイ)。この「運命」の動機だが、第1楽章の提示部はかなり早めのテンポで躍動感に満ちている。リピートした2度目の動機はややテンポを落としフェルマータを長く。展開部を駆け抜けて、再現部冒頭での動機はより遅く重厚にフォルテ!! そしてコーダに入って終盤、最後の動機提示はさらに遅く、オーケストラ全体が地響きのように鳴る。動機の部分だけ重厚に変わっていくのだが、曲の流れは圧倒的な推進力を失わない。独特の構成、構造感だが、いかにも自然に曲を盛り上げてしまう、ティーレマンさんに脱帽だ。
 第2楽章も早めのテンポではじまり、フォルテに向かって行くに従ってテンポが遅くなっていく。同時に、主旋律はゆったりめに大きく歌わせるルバート、つなぎの部分は早めに緊張感が高まる。意図的にこのような構造を創り出しているようだ。
 第3楽章も基本的には同じ。冒頭のホルンの主旋律はやや遅めにはっきりと歌わせるが、中間部のコントラバスのは速度が上がり怒濤のごとき推進力を生み出している。
 第3楽章から続く第4楽章。「苦悩から歓喜へ」というベートーヴェンのテーマを最も明確に表す、冒頭のハ長調の主題だ。トランペットに3本のトロンボンを加え、高らかに歌い上げるのだが、ここで構造が逆転。提示部の第1主題は遅いテンポでフォルテッシモ!! 直後、急にテンポアップして推進力を増して、第2主題も飲み込んでしまう勢い。そして(ある種の予感はあったのだが)驚くべきことに、提示部のリピート!! だが、2度目はテンポが速くなっている。さらに増した推進力をたもち、緊張を高めつつ展開部を突き抜ける。第3楽章への回帰から急激なクレッシェンド、再現部での第1主題はもうテンポは落とさない。勢いを増したままコーダに流れ込み、あまりにも「熱い」奔流となって、一気にフィナーレを突き進む。圧倒的な迫力。迸る熱情。ティーレマンさんを見ていると、ほとんど変わらない表情と、縦方向への体の動き、あまり動かさない独特な指揮棒の持ち方…。オペラグラスで見ると、無表情な中にらんらんと燃える瞳が…。やはりこの人は相当に熱い人だ。ただそれをオモテに出さず、内に秘めて、燃え上がっているに違いない。それがオーケストラに伝わるから、このような燃えるような演奏ができるのだと思う。それでいて、4つの楽章を通して思い返してみると、テンポの取り方が第1楽章と第4楽章とで対称となっていることや、旋律を大きく歌わせているのに全体の推進力は損なわれないなど、かなり堅牢な構造を打ち立てている。冷静沈着にして秘めたる熱情。「ドイツ音楽の伝統を正統に受け継ぐ」といわれるティーレマンさんの「ドイツ魂」に大Bravo!!を送ろう。

 アンコールは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲という、超豪華版。この人のマイスタージンガーを射以前からぜひ聴きたかったのだ。涙が出るほど嬉しかった。この曲も「運命」と同じだった。拍手が鳴り止まないうちに、予告なく曲が始まる。聴衆はみんなビックリ。私はといえば、実はP席の特権で、コンサートが始まる前からオペラグラスで奏者の譜面台に「マイスタージンガー」の楽譜があるのを見つけていたので、期待通り(^^)。早めのテンポで始まり、終盤テンポを落として、オーケストラ全体がこれでもかとばかりに爆発、2発のシンバルで最高潮を迎える。いくらアンコールとはいえ、序曲(前奏曲)で、これほど力の入った演奏というのは!! 至福の時でした。

 ティーレマンさんという人は、その経歴からみても、昔ながらの伝統的な音楽家の育ち方をしている。つまり若いときにオペラハウスに入ってコレペティトゥーア(ドイツ語だとコレペティトール)から叩き上げた人だ。カラヤン、ベーム、ショルティたちと同じだ。最近の指揮者のように、コンクールで優勝してデビューし、オーケストラで経験を積んでからオペラに進出するのとは趣が違う。ティーレマンさんは基本的にオペラの人なのだ。51歳という若さ(?)で、バイロイトのカリスマとなったくらい。今日はワーグナー2曲と「運命」が、とくにオペラ的な演奏なのだと思う。旋律を大きく歌わせること、そしてダラダラしないで緊張感を保ち続け、聴衆を飽きさせない。ミュンヘンを去ることになり、この組み合わせで聴ける機会はほとんどないだろう。今日は、本当に素晴らしい演奏、素晴らしい体験だった。
 コンサートが終わり、オーケストラのメンバーがステージを去っても拍手が鳴り止まない。ひとりステージに戻ってきて挨拶するティーレマンさんの事を成し遂げた後の、晴れやかな笑顔が印象的だった。最後はスタンディング・オベーション。

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