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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/9(金)「カルミナ・ブラーナ」東京・春・音楽祭でムーティ指揮の世俗カンタータ

2010年04月09日 23時53分39秒 | クラシックコンサート
「カルミナ・ブラーナ」東京・春・音楽祭~東京のオペラの森2010~

2010年4月9日(金)19:00~ 東京文化会館・大ホール S席 1階 12列 21番 26,000円
指揮: リッカルド・ムーティ
ソプラノ: デジレ・ランカトーレ
カウンター・タナー: マックス・エマヌエル・ツェンチッチ
バリトン: リュドヴィク・テジエ
管弦楽: 東京春祭特別オーケストラ
合唱: 東京オペラシンガーズ
自動合唱: 東京少年少女合唱隊
合唱指揮: ロベルト・ガッビアーニ
自動合唱指揮: 長谷川久恵
【曲目】
モーツァルト: 交響曲 第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」
オルフ: 世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」

 「東京のオペラの森」が「東京・春・音楽祭」と名前を変えてリニューアル。今年は小澤征爾さんがお休みしているので、今ひとつ盛り上がらず…かどうかは知らないが、いずれにしても今年はオペラの上演が無くなってしまった。演目としてはワーグナーの「パルジファル」があったが、こちらは演奏会形式。この音楽祭に、毎年のように来日してコンサートを指揮していた巨匠リッカルド・ムーティさんが、今年もメイン・イベントに登場。カール・オルフの世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」の演奏会だ。
 カンタータといわれる音楽のカテゴリーは、少々ピンと来ないものがあるが、要するに、声楽・合唱を伴う管弦楽曲ということだ。時に宗教的なもの、牧歌的なもの、祝典的なもの、世俗的なものと、その内容は様々。古くは17世紀くらいからは音楽の形式として一般化したようだが、楽曲として残っているのはバッハ以降だろう。今日の演目「カルミナ・ブラーナ」は、11世紀~13世紀に書かれた詩歌集で19世紀になってドイツで発見されたものだという。カール・オルフがその一部の詩に曲を付けてカンタータに仕上げたもので、1937年、フランクフルトで初演。時代からすれば完全に現代曲ということになるが、音楽的には単純な和声とリズムのくりかえしが多く、また旋律も美しく劇的で、非常に分かりやすい。ロマン派の延長上にあるといって良いのだろう。
 大編成のオーケストラに加えて、混声四部合唱、児童合唱、さらにソプラノ、テノール、バリトンのソリストが加わる。ステージ上に、ざっと見積もっても250人以上という、非常に大規模な演奏スタイルとなる(本来はこれにバレエも加わるのだとか)。東京文化会館・大ホールのステージが人でいっぱいだった。
 ちなみに今日のオーケストラは、音楽祭のための臨時の編成のものだが、N響や都響など、在京のオーケストラから主席クラスの方が多く参加していて、素晴らしい機能性を発揮していた(コンサートマスターはN響の堀正文さん)。

 さて、今日のコンサートは、前半はぐっと小編成でモーツァルトの「ハフナー」交響曲。ムーティさん得意のモーツァルトだけあって、きびきびして明快である。この人も不思議にもので、イタリア・オペラを演奏するときは思いっきりイタリア的になるのは当然としても、ドイツものだとどうしても感性が合っていないような演奏になってしまう。ところがモーツァルトだけは、オペラも交響曲であっても実にすっきりしてウィーン風の優雅な演奏をする。2008年のウィーン国立歌劇場の来日公演で「コジ・ファン・トゥッテ」を聴いたが、これぞモーツァルトといえるような演奏だったと記憶している。その時と同じ会場ではあるが、さすがにオーケストラの音色ではウィーン国立歌劇場管弦楽団にはかなわないものの、日本のトップクラスの奏者を集めたオーケストラだけあって、本質的にはムーティさんの描き出すモーツァルトが表現されていたと思う。素晴らしい演奏だった。

 20分の休憩をはさんで、いよいよ「カルミナ・ブラーナ」だ。なにせ人数が多いものだから、合唱団とオーケストラが全員そろうのにも時間がかかる。3人のソリストも登場し、やっと曲が始まる。冒頭、序奏にあたる部分の有名な合唱曲「おお、運の女神よ」から、ものすごいエネルギーを感じる演奏。とくに合唱が素晴らしい。小合唱(小編成)から大合唱(全員)まで、一糸乱れず、微妙なニュアンスまで揺るがずに歌い上げている。今日の合唱はかなりクオリティが高かったと思う。
 一方、オーケストラの方はというと、日本のオーケストラにしては(といってしまっては申し訳ないが)金管楽器が素晴らしかった。今日の席は12列目のセンターだったので、聴く位置としては最高のポジション。その位置で聴いていて、金管のバランスが絶妙だったのだから、申し分ない。もちろん弦楽器も、とくに第1ヴァイオリンなどコンマスあるいは主席クラスの人を集めているだけ合って、音色に濁りが全くなかったことと、アンサンブルが極めて緻密だったことなどが特筆すべき。またフル編成のオーケストラと様々な楽器、大合唱団までも加えて、バランス良くまとめることができているのは、さすがに巨匠(あるいは帝王?)さんだけのことはある。
 3人のソリストについても触れておこう。まずソプラノのデジレ・ランカトーレさん。彼女の来日公演はこれでまた皆勤賞を継続。今回は、「カルミナ・ブラーナ」の公演2回(今日と明日)のためだけに来日したらしい。後半に短い曲が5曲くらいあるだけなのに…なんて贅沢なキャスティングなのだろう。この曲でのソプラノは愛の歌を歌う役回りなので、声がキレイでないと勤まらない。しかもかなり高い声を要求されるのだ。ランカトーレさんが起用された理由は、実際に聴いて、納得させられた。オペラでのチャーミングで陽気な舞台さばきと違って、今日は大人しくしていたが(曲の後半まで出番がないので座って待っているだけ)、相変わらず気持ちよく抜ける高音が素晴らしい。とくに最後の曲「とても。いとしい方」はオペラのアリアのように、ミュートを付けた弦楽の伴奏に乗せて、天国的な、天使のような歌声で、しっとりとせつせつと愛の歌を奏でた。オペラだったら、間違いなくBrava!!が飛ぶところだ。
 カウンター・テナーのマックス・エマヌエル・ツェンチッチさんは出番が少なくてかわいそうだった(2曲しかない)。しかも、さすがにカウンター・テナーでは声量が他の二人に比べて著しく足らないため、ややバランスを欠いてしまったのが残念であった。
 バリトンのリュドヴィク・テジエさんは、最近はMET等でも活躍しているトップ・クラスのオペラ歌手である。「カルミナ・ブラーナ」では、バリトンとはいえ、ファルセットの高音まで要求されるので、かなり難しそうである。テジエさんはやはり巨匠が連れてきただけのことはあって、この難曲を見事に歌いこなしていた。今度はぜひオペラの公演で来日して欲しいものだ。

 今日の「カルミナ・ブラーナ」は大成功だったと思う。やはりムーティさんのエネルギーはスゴイものがある。プログラムに書かれているエピソードによれば、作曲者のカール・オルフ氏の85歳の誕生日を祝うコンサートでこの曲を指揮したのがムーティさんその人。大成功に終わり、オルフ氏は感激して「二度目の世界初演だ」と言い、その日の演奏に合わせてスコアの速度指示を書き換えたとか(演奏はベルリン・フィル)。作曲者自身に認められた指揮者の実力である。その日からすでに30年も経っているが、ムーティさんの指揮はこの曲の真実を伝えているに違いない。今日の演奏は、そのことを十分に感じさせてくれた、名演であった。
 余談になるが、編成が大きいこともあってか、あまり演奏される機会のない曲である。偶然にも今年は6月に神奈川県民ホールでも演奏会があるが、こちらの方はソプラノが幸田浩子さん。やっぱり…。この曲に合う歌手は限られているようだ。

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