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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/30(月)チョン・ミョンフン/フランス国立放送フィル/アリス=紗良のラヴェルと最上級の「オルガン付」

2013年10月03日 01時08分49秒 | クラシックコンサート
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団 2013年日本公演
Orchestre Phillharmonique de Radio France / Japan Tour 2013


2013年9月30(月)19:00~ サントリーホール S席 1階 1列 20番 21,000円(夢倶楽部会員)
指 揮: チョン・ミョンフン
ピアノ: アリス=紗良・オット*
オルガン: クリストフ・アンリ**
管弦楽: フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベルリオーズ: 序曲「ローマの謝肉祭」 作品9 → ラヴェル: 組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル: ピアノ協奏曲 ト長調*
《アンコール》
 シューマン: ロマンス 第2番*
サン=サーンス: 交響曲第3番 ハ短調 作品78「オルガン付」**
《アンコール》
 ストラヴィンスキー: 組曲『火の鳥』から 子守唄~終曲
 ビゼー: カルメン組曲から「前奏曲」

 6年ぶりの来日公演ツアーとなるフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団は、昨日の横浜に始まり、全国5都市で6つの公演を行う。指揮をするのは、2000年から音楽監督を務めているチョン・ミョンフンさん。もちろん世界中の一流オーケストラを指揮してきた国際派マエストロだが、1989年から1994年までパリ・オペラ座バスティーユの音楽監督を務めていたこともあり、とくにフランスとの関わりは強い。今回の来日ツアーでは、幅広いレパートリーの中からとくに厳選したプログラムは、オール・フレンチ。メイン曲として持ってきたのは、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付」とベルリオーズの「幻想交響曲」だ。他にも、ビゼー、ベルリオーズ、ラヴェルを揃え、唯一フランスものでないのがストラヴィンスキーの「火の鳥」だが、こちらも準フランス音楽といっていいだろう。
 また今回のツアーにソリストとして参加して、東京と大阪でラヴェルのピアノ協奏曲を演奏するのは、アリス=紗良・オットさん。初共演ということだが、聴く前からワクワクする組み合わせである。というわけで、いつもの通り、最前列の鍵盤下の席を確保。「裸足の天使」アリスさんの目の前、というわけだ。
 このオーケストラは、ステージに三々五々と集まってきて、各自ウォーミングアップに余念がない。全員揃うと開演時刻となり、コンサートマスターが登場してご挨拶、チューニングとなる。オーボエの奏者が立ち上がって、管楽器、コントラバス、残りの弦楽器、という順に丁寧に音合わせする。こういうオーケストラは、大抵、上手いものだ。

 1曲目はラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」。これは当初はベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」が予定されていたが、いつの間にか変更になっていた。マエストロ、チョンさんがゆったりと登場して、曲が始まる。
 この演奏が素晴らしい。童話を題材にした音楽に相応しく、オーケストラの音量は控え目に抑えられているが、その自然で優しい音色には、まさにフランスのオーケストラならではの色彩感。さわさわ、そよそよ、とした弦楽の美しいアンサンブルや、木管群が素晴らしく、とくにオーボエの首席の女性が優しげでしなやかな音色を聴かせてくれた。弱音が美しいのは高い技術があってのこと。抑制された音量の中で、実に豊かさを感じさせるアンサンブルは、さすがに見事なものである。さりげなく、大人しく演奏されているが、質感は高い。

 2曲目はラヴェルのピアノ協奏曲。アリスさんの登場である。今日はプラチナ色のセクシーなドレスで、もちろん裸足。いつもの通り、弾むような独特の軽やかなステップでステージに登場する。
 今日のアリスさんは、とてもノリの良い演奏だった。オーケストラのカラフルな音色に触発されてか、あるいは曲も持つイメージを膨らませたのかは分からないが、ピアノの音もキラキラと眩しいばかりに輝いている。もともと鍵盤下の席では、ピアノの音自体は決して良くないので、いつもはビジュアル重視(汗)なのだが、今日に限って言えば、その席で聴いていてもピアノの輝かしい音色がグングン伝わってくる。ひとつひとつの音はキリッと引き締まっているが決して強すぎることはない。強い打鍵ではなく速い打鍵のイメージ。もちろん良く回る指と高く跳ねる大きな両手から繰り出される抜群のリズム感が、鮮やかな音色を生み出しているのだ。
 またオーケストラの方もチョンさんがメリハリの効いたキレ味の鋭いリズム感で、ピアノを盛り立てるようにサポートしている。この曲のオーケストラは小編成だとはいえ、意外に音量も抑制されていたような気がする。そうすることで、ピアノもあまり大きな音を出さずに済むから、音が澄んでキラキラ輝いていたのだろう。第2楽章前半のピアノのソロの部分などは、弱音の繊細さがことのほか美しく、会場の皆が息を潜めて聴き入ってしまう。対して、第1楽章と第3楽章の華やかさは、若い女性ピアニストならではのもの。溌剌としてしなやかで、明るくて葛藤がない。それでも繊細な感受性が満ちている。男性やベテランのピアニストには決して出せない味わいといったところだ。
 これまで、アリスさんのピアノ協奏曲は、リスト、チャイコフスキー、グリーグなどを聴いて来た。そして今日はラヴェルである。よくよく考えてみると、極端に個性的なピアニストというわけでもないし、なぜ彼女のピアノが私たちを魅了するのかが、良く分からなかったのも事実。もちろん、いつも聴いている限り素晴らしい演奏を聴かせてくれているのも確かなのだが、「裸足だから」だとか「美人過ぎるから」だとか「人懐っこい笑顔がかわいいから」などという理由だけで、毎回聴きに行っているわけではない(そういう要素も否定はできないが・・・)。その魅力の源泉のようなものに、今日、気がついたことがある。
 アリスさんは曲のもつ全体像を描き出すのがとてもうまいのだと思う。それは、技巧とか、表現力とか、解釈とか・・・それらももちろん素晴らしいのだが・・・の先にある、曲の持っている「本質」のようなものと同期するといったイメージだ。例えば、リストなら超絶技巧を思う存分に発揮してみせるし、チャイコフスキーなら大きなスケール感を描き出す。グリーグなら凛とした自然の風景描写を見せる。そして今日のラヴェルでは、目映いばかりの色彩感だ。毎回違った魅力を聴かせてくれる、これがアリスさんの「本質」ではないだろうか。

 後半は、サン=サーンスの「オルガン付」。この曲はつい1週間ほど前の9月22日に、東京交響楽団のオペラシティシリーズで聴いたばかり(指揮は飯森範親さん)。続けて聴くとどうしても比べてしまうし、とくにこの曲の場合は、ホールのパイプオルガンの違いもあるので、対比が面白いのだ。正直に言えば、この曲に一番合うのは、ここサントリーホールのパイプオルガンに違いないと思っている。
 そして結論から言えば、マエストロ、チョンさんとフランス国立放送フィルによる演奏は、これはもう、途方もなくモノスゴイ、あっけにとられるほどの素晴らしいものだった。今年聴いた数々のコンサート、多くの曲の中で、まず一番といって良い。
 やはり曲が始まる前に、入念にチューニングする。音色を大切にしている証拠だ。チョンさんが穏やかな微笑みを浮かべて指揮台に立ち、ゆっくりと曲が始まる・・・。ステージ一般に拡がったフル編成のオーケストラが、前半とはまったく違った演奏を聴かせてくる。第1楽章前半(通常の4楽章形式なら第1楽章に相当する)の第1主題(循環主題となって最後まで曲全体を支配する)を弦楽がガリっと引き締まった音で強めに提示する。アンサンブルはピタリと合い、次から次へと荒波が押し寄せるような、力強い主題が、ただならぬ気配を醸し出していく。すこし穏やかにる第2主題を経て展開部はさらに荒々しくなり、クライマックスのフォルテで再現部へとなだれ込んでいく。そう、まさになだれ込んでいくイメージで、荒々しく再現される第1主題は、切れ味も鋭くリズムを刻み、何かに突き動かされているような気迫さえ感じさせる迫力。第2主題もフォルテで再現され、経過部を第1楽章の後半(通常の第2楽章/緩徐楽章)へ。
 テンポが落ちて緩やかにパイプオルガンが鳴り出す。床からかすかに伝わってくるような低周波の重低音が、ゾクゾクするような快感をもたらすようだ。オルガンの和音に乗って歌い出す弦による主題は、クラシック音楽史上でもかなり上位に位置する美しく抒情的な旋律。これをチョンさんが非常にしなやかで柔らかい両腕の動きで、より美しく音楽を紡いでいく。深く厚みのあるオルガンの伴奏とオーケストラは絶妙のバランスに保たれている。オルガンがなくても非常に美しい音楽だと思うが、オルガンが加わることによって生まれる天国的な美しさに身も心も洗われるような感覚になってくる。
 第2楽章の前半は、いわばスケルツォ楽章であり、さらに荒々しいスケルツォ主題が、強烈なリズム感で刻まれて行く。この鋭く突っ込んで行く推進力が、オーケストラの一体感のある抜群のアンサンブル能力により、音楽に力強い生命力を与えた。トリオ部では曲想が変わるが、全休止の後、スケルツォ主題が強烈に回帰してくる。そしてフィナーレへ。
 第2楽章の後半は、オルガンの壮麗な響きから始まり、循環主題をはじめ各楽章の主題の断片などを融合して、フーガなどの様々な構造が錯綜して複雑に展開する。チョンさんの指揮は、スケール感が雄大で、倍音をたくさん含んだ分厚いパイプオルガンの地響きがするような音をベースに、揺るぎない構造物を創り出していくようだ。ダイナミックレンジも広く、全合奏の音力も爆発的。フランスのオーケストラが持つ色彩感豊かな、というイメージとはかなり違う。純音楽を音のエネルギーに変えていく力を持っている。テンポがグンと速まりコーダに突入すると、圧倒的な推進力で突き進み、最後はティンパニがクレシェンドしながらテンポを落として行き壮大な主和音がオルガンとオーケストラの全合奏で鳴り響いた。
 この演奏の圧倒的な質感は、そこにいた人なら誰でも感じたに違いない。そもそもパイプオルガンの音は人間の魂を揺さぶるような効果がある。そこに分厚い、生命力強い、そして非常に技術の高いオーケストラの音が重なったことにより、聴いたことのないような相乗効果を生み出していた。チョンさんの心に秘められている熱い気性が創り出した名演だと思う。曲が終わった瞬間に、会場は大喝采に包まれた。文句なしの、Braaaavo!!!

 これだけの名演奏を聴かせてくれた後でのアンコールは、何とストラヴィンスキーの『火の鳥』の最後の部分。それで終わるかと思ったら、『カルメン』の前奏曲まで。来日オーケストラは気前が良く、サービス精神も旺盛である。
 大喝采のうちにコンサートは終了したが、拍手はいつになっても鳴り止まず、一旦引っ込んだオーケストラのメンバーたちをチョンさんが呼び戻し、全員揃ったところで客席に向かって深々と一礼。海外のオーケストラには珍しいステージ・マナーだ。その後も拍手は鳴り止まず、いわゆるチョンさんの「一般参賀」。ステージ前に詰めかけた人々と握手をかわす。私も最前列の特権を活かして、チョンさんに握手していただいた。意外にひんやりとした手であった。

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1 コメント

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素晴らしいコンサートでした。 (shun)
2014-07-04 00:31:24
超遅いコメントで申し訳ありません。実に鋭く的確なレビューを書かれていたので、ついコメントさせていただきました。私も、このコンサートは昨年1年間に聴いた中でベストと感じました。特にオルガン付は凄かったですね。
そして、アリスさんの演奏はこのときはじめて実演を聴きましたが、実に繊細な演奏で、これ以来すっかりファンになりました。チョンさんは演奏中にアリスさんの方を一切振り返らないので、最初不安に思いましたが、ピアノとオケはぴったりあっていたので、十分に事前打合せができていたということなのでしょうか。
私も最前列だったのでチョンさんに握手していただきたかったですが、アリスさんのサイン会の方に並んでしまいました^^;
これからもブログを楽しみにしています。
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