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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/21(木)N響Bプロ定期/トゥガン・ソヒエフ+諏訪内晶子の息のあったショスタコーヴィチVn協奏曲第2番

2013年11月24日 02時19分13秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1768回定期公演 Bプログラム《2日目》

2013年11月21日(木)19:00~ サントリーホール B席 2階 LA4列 18番 4,666円(定期会員券)
指 揮: トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
リャードフ: 交響詩「魔の湖」作品62
ショスタコーヴィチ: ヴァイオリン協奏曲 第2番 嬰ハ短調 作品129*
チャイコフスキー: 交響曲 第5番 ホ短調 作品64

 日本で唯一、チラシのない定期コンサートであるNHK交響楽団の定期公演Bプログラム。サントリーホールで開かれるBプロは、各回個別のチラシが作られていない。つまり定期会員がかなりの席を占め、単券も発売早々に売り切れてしまうため、チラシを配布して宣伝する必要がないのである。定期会員になるのも大変だし、会員も更新時に席替えしようとするとかなり面倒な手続きを踏まなければならないらしく、一頃は会員になりたかったが、最近では諦めている。という訳なので、友人の持っている会員席をシェアしたり譲り受けたりして、これはと思う公演だけは聴くことにしている。チラシがないので見出しの画像は、同プログラムの横浜公演(11月24日予定)のものを載せてみた。

 今回のお目当てはもちろん、諏訪内晶子さんによるショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番。曲自体もあまり演奏機会の多いものではないが、諏訪内さんも最近になってレパートリーに加えたという。いわばお披露目公演という位置づけで、今後、諏訪内さんの重要なレパートリーのひとつになっていく曲ということらしい。
 指揮のトゥガン・ソヒエフさんは、今月のN響のBプロとCプロを受け持ち、Cプロではポリス・ベレゾフスキーさんとラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏した(11月15日・16日/NHKホール)。コチラの方もかなり盛況だったようだ。
 ソヒエフさんといえば、思い出すのはトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団との2回の来日公演だ。2回とも諏訪内さんがソリストとして同行した。もう4年も前になる2009年11月の来日公演では、サントリーホールでブラームスのヴァイオリン協奏曲と「展覧会の絵」などを、都民劇場の公演ではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と交響曲第5番などを聴いた。また昨年2012年12月にはサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲とベルリオーズの「幻想交響曲」などを聴いている。いずれもフランスのオーケストラらしい色彩感に溢れた音色が印象的であった。
 ソヒエフさんは現在、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団とベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督を務めている。1977年生まれの36歳という若手だが、いま最も活きの良いこの年代の指揮者として注目度も高い。つい先日聴いたバーミンガム市交響楽団の音楽監督を務めるアンドリス・ネルソンスさんなどは同世代の良きライバルといったところだろう。フランスとドイツで音楽監督を務めているソヒエフさんだが、生まれは北オセチア共和国、つまりはロシアである。今回のN響のふたつのプログラムでは、全曲をロシアものにした。日本における地位を不動のものにするために、勝負に出たといったところか。

 1曲目はリャードフの交響詩「魔の湖」。リャードフを聴くこと自体が珍しいし「魔の湖」も初めて聴く曲である。この曲はソヒエフさんのお気に入りらしく、ここぞというコンサートで採り上げる勝負曲(?)らしい。標題は「魔の湖」だが、曲自体は決して恐ろしげでもなければ陰鬱なものではない。ここでいう「魔」は幻想的というような意味で捉えた方がよく、全体に漂うのは朝靄に煙る早朝の静かな湖の風景である。漣(さざなみ)のような音形が終始背景に置かれていて、その上に乗る旋律も和声も美しい。ソヒエフさんの演奏は、むしろ控え目な印象で、美しい風景描写を塗り重ねていくように、淡々としている。その中で、主旋律を静から浮かび上がらせたりして、緻密なアンサンブルを組み立てている。まあ、初めて聴く曲なので、良いも悪いも判断しようがない。

 2曲目は諏訪内さんが登場して、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番である。曲自体もあまり演奏機会は多くない。直近では、今年2013年7月、読売日本交響楽団の定期演奏会で、ジュリアン・ラクリンさんのヴァイオリン、ヒュー・ウルフさんの指揮で聴いている。第1番の方は名曲=人気曲に含まれるところだろうが、第2番は演奏の難易度もかなり高いらしく(ダヴィッド・オイストラフのために書かれた=オイストラフが演奏することを前提としている)、ヴァイオリニストにとっても敷居の高い曲なのだろう。
 第1楽章の陰鬱な雰囲気で始まるオーケストラにソロ・ヴァイオリンが落ち着かない主題を乗せていく。主調は嬰ハ短調で、ヴァイオリンの曲にはあまり適さない調性だ。聴いていても難解な感じはよく分かる。1967年の作品だが現代的な曲想を採りつつもソナタ形式になっていて、構造的には意外に保守的(?)なのである。諏訪内さんは、一応譜面台を用意してして、楽譜を見ながらの演奏であったが、演奏自体はかなり練り込まれていて、自信を持って弾いているようだった。艶やかで豊かな音量の「ドルフィン」は今日もよく鳴っていて、ほぼ背中側からきいているにも関わらず、クッキリと明瞭に聞こえてくるのはさすがだ。暗く曖昧な第1主題と軽妙な第2主題の音色の変化なども見事な対比を作っている。展開部からカデンツァに現れる重音が連続する部分などは、かなり高度な技巧を要求されているようだが、諏訪内さんの演奏は淀みなく、とても豊かな印象を受けた。
 第2楽章も陰鬱な雰囲気に包まれている。ヴァイオリンのソロによる主題の提示は、暗い色調の曲に乗る艶っぽい音色が鮮やかで、薄暗がりの中に真っ赤な糸がうねりながら光って見えるようである。唐突に始まる過激なカデンツァ(トリオ部分)は超絶的な技巧を伴う。重音の早いパッセージの連続など、高度に論理的な技巧である。諏訪内さんの冷徹な技巧が冴えていた。朗々たるホルンのソロ(福川伸陽さん)も素晴らしく響いていた。
 アタッカで演奏される第3楽章は、諧謔的で光と影がギラギラと入り乱れるような曲想だが、ソロ・ヴァイオリンも音質を落とすことなく、まったく異なる次元の技巧性を発揮していく。形式的にはロンドになっているので、中間部の2回目にカデンツァが配置されている。このカデンツァも相当に超絶的である。かなり長めのカデンツァは、諏訪内さんの一人舞台となり、その過激な演奏にホール全体が息を詰めて聴き入っていた。終盤は打楽器とヴァイオリンが掛け合うという面白い展開になるが、ヴァイオリンは終始、過激なまでの超絶技巧をノン・ストップで引き続ける。諏訪内さんの演奏は、やはり超一流だと思う。この過激な曲を極度の緊張感を維持しつつ、見事に抑え込んだ、といった印象である。曲に負けない力感が漲っていた。Brava!!

 後半は、今度は誰でも知っているチャイコフスキーの交響曲第5番。活きの良い指揮者のソヒエフさんは、本来お得意のはずのこの曲で、どのような新機軸を打ち出してくるのだろうか。
 第1楽章は、かなり遅めのテンポで「運命の動機」を提示、ゆったりと曲が運ばれていく。主題提示部からはテンポが上がってきたが、それでもどちらかといえば遅めで、各パートのフレーズを明瞭に描き出している。ダイナミックレンジも広く採り、けっこう音量も出させている。フレーズの切れ目には微妙なタメを作って、音楽にアクセントを付けるのが巧い。展開部辺りからテンポが微妙に揺れ出し、フレーズ毎に曲想に合わせて自在にテンポを揺らすようになってきた。かなりメリハリを効かせた演奏を作り出している。N響の方も本気モードでソヒエフさんに食らいついていきダイナミックに聴かせる。なかなかスリリングな展開だ。
 第2楽章は何といってもホルンのソロが出色の出来。福川さんのホルンはアタマからまろやかな弱音を聴かせ、旋律の歌わせ方も素晴らしい。ホルンが巧くて安定していると、オーケストラの実力が2ランクくらい上がって聞こえるから不思議なものである。今日のN響は素晴らしい。
 第3楽章のワルツは、弦が何よりも美しいアンサンブルを聴かせていた。瞬間的な厚みがグッと増すようなクレッシェンドが劇的な効果を上げている。この辺はソヒエフさんの采配が、なかなか微に入り細に入り行き届いているようだ。一見して優雅なワルツの中に、熱い血潮を感じさせる音楽作りである。
 第4楽章は、序奏は再び遅めのテンポに戻り、ゆったりとした流れの中で強弱をハッキリさせ、ドラマティックに演出していく。ソナタ形式の提示部に入るとテンポが上がり、そこからはリズム感良く、推進力のある演奏に変わっていく。フレーズのつなぎの部分ではテンポを極端に落とし、主題が出てくるとテンポを上げて急速に追い込んでいく。最後まで高揚感を煽るような演奏が続き、フィニッシュに向けて加速して行く。コーダに入る前の全休止は短く(もっと長く止める方が劇的になると思うが・・・)、一気に突っ走っていった。
 
 ソヒエフさんの指揮は、けっこうアクの強い演奏だが、泥臭い感じがまったくなく、スマートでしなやかである。テンポはかなり揺さぶるのだが、緊張感を高めていく効果があり、理にかなっているとも思えるので素直に受け入れることができた。ただし、この辺りの評価は人によって分かれるかもしれない。要するに好き嫌いの問題だ。
 一方、響のN響はかなり本気モードの素晴らしい演奏を聴かせてくれた。「魔の湖」があまりピンと来なかった所を見ると、諏訪内さんとのショスタコーヴィチで極度の緊張感を強いられたことに触発され、チャイコフスキーでは若いソヒエフさんにかなり煽られた結果、持てるポテンシャルを十二分に発揮することになったのではないだろうか。今日のN響は、久しぶりにパッションを感じさせる素晴らしい演奏だったと思う。いつもこうなら良いのだが・・・・。

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