Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/2(金)南 紫音Vnリサイタル/アグレッシブな面と繊細なニュアンスで大らかに歌う演奏が伸び盛り

2016年12月02日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
南 紫音 ヴァイオリン・リサイタル

2016年12月2日(金)19:00〜 紀尾井ホール 指定席 1階 1列 10番 4,000円
ヴァイオリン:南 紫音
ピアノ:ボリス・クズネゾフ
【曲目】
ショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編:4つの前奏曲 〜24の前奏曲 作品34より
ストラヴィンスキー:イタリア組曲(ヴァイオリンとピアノ版)
メシアン:主題と変奏
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
《アンコール》
 パラディス:シチリアーノ

 ヴァイオリニストの南 紫音さんが紀尾井ホールでリサイタルを開くのは2014年7月以来で、2年5ヶ月ぶりのことになる。彼女がロン=ティボー国際音楽コンクールで第2位に入賞したのが2005年のことで、当時まだ16歳ということもあって注目を集めた。2008年にはCDデビューを果たしたが、前年に録音したのもここ紀尾井ホールでのことだ。その後ひと頃は毎年このホールでリサイタルを行っていた時期があり、私もその頃からずっと聴き続けているので、随分長いお付き合いということになる。
 もちろん彼女にとっても紀尾井ホールは大きな位置を占めているものと思われる。これまでリリースした3枚のCDをはじめとして、紀尾井ホールでのリサイタルでは、いつも江口玲さんがピアノで共演していたが、今回はじめて(?)外国人ピアニストとのデュオ・リサイタルとなった。共演するのはボリス・クズネゾフさんという方で、演奏活動の他、ドイツのハノーファー音楽大学で後進の指導にあたっているとのことで、ハノーファー在住で研鑽中の紫音さんとは現地での交流によるものだろう。いずれにしても、今までとは違った新鮮な演奏になるかもしれないと、期待は膨らむ。


 ということで、実際の演奏についてレビューしたいところなのだが、このところ身の回りが何かと忙しくバタバタしていて、じっくりとプログを書く時間がないので困っている。それでかなりコンサートの数を減らそうと絞り込んではいるものの、相変わらず月10回のペースは保たれてしまっている。そこで大変残念ではあるが、今回の紫音さんのリサイタルに関しては、ごくごく概略を述べるに留めたい。

 全体的な印象は、ますます進化しているというよりは、自らの演奏スタイルが固まってきているように思う。上記の曲目を見ても分かるように、今回のリサイタルはかなりバラエティに富んだプログラムになっている。前半は若い頃のショスタコーヴィチ、新古典主義時代のストラヴィンスキー、結婚したばたりの若いメシアンの作品。後半はベートーヴェンの名曲「クロイツェル・ソナタ」。
 この、一見しただけでは脈絡のないプログラムに見えるが、よくよく考えてみるとひとつの共通する要素が浮かび上がって来る。それはどの曲も作曲家が20歳代〜30歳代の頃の作品だということだ。つまり、それぞれが新進気鋭の作曲家として世間に認められつつある頃であり、当時に創作活動が充実している時期だということ、そしてそれでも年齢的にはまだ若く、生命力の溢れた作品を生み出しているのである。さらにいうなら、紫音さんもいつまでも美少女ヴァイオリニストでいるわけでもなく、1989年生まれというからもう27歳になる。つまり今日の作品群の作曲家達と同じ年代に近づいて来たということになる。ちなみにショスタコーヴィチの「24の前奏曲」(原曲)は27〜28歳、ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」(原曲)は37歳、メシアンの「主題と変奏」は24歳、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」は33歳の時の作品である。作曲家達の作曲年齢に近づくことで、10歳代〜20歳代前半の頃とは、楽曲の解釈や分析力が違ってくるはず。より作曲家たちの心情に踏み込んでいけるはずである。
 そんなことを考えながら聴いていると、紫音さんのヴァイオリンは一段と落ち着いた雰囲気を身に纏ってきている。技巧的な面を前面に出すことはなく、表現力に重きを置いている。もちろん技巧的には何も問題はなく、極めて正確な音程と、広いダイナミックレンジ、豊かな音量、そして艶やかな音色。曲によって色彩が変わるような多彩な音色を持つ。時にはアグレッシブに挑みかかり、時には少女のように優しく微笑む。そのバランス感覚が、南紫音流。強烈な押し出しの部分と繊細なニュアンスの表現力を合わせ持ちながら、全体的には大らかで豊かな音楽。そういった「自分自身の音」が固まってきているように思えるのである。

 ショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編の「4つの前奏曲」は諧謔的な皮肉なニュアンスの表現が面白く、ストラヴィンスキーの「イタリア組曲」はバロック的な造形と地中海的な明るい音色が秀逸。メシアンの「主題と変奏」は感情を捨てたよう現代的な無機質な雰囲気が素晴らしい。
 ベートーヴェンのヴ「クロイツェル・ソナタ」は、感情がむき出しになったようなアグレッシブな第1楽章と、ロマンティックな情感でしっとりと歌わせる第2楽章、躍動的で前のめりの推進力を感じさせる第3楽章など、なかなか隙のない演奏で、素晴らしい。
 アンコールはパラディス「シチリアーノ(シシリエンヌ)」。ここでまた地中海風の明るい音色に戻り、カンタービレを効かせてよく歌っていた。

 簡単にざっと概観してしまったが、紫音さんのヴァイオリンは、若手と呼ぶには相応しくないと思えるほどに深みを増している一方で、まだまだ伸び白がいっぱいあるようなスケールの大きさも感じられる。彼女の演奏を追いかけるようになって7〜8年経つが、まだ当分は目が離せない存在だ。
 終演後は恒例のサイン会。CDは3枚ともサイン入りで持っているので、プログラムにクズネゾフさんとともにサインをいただいた。




← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 11/30(水)服部百音ヴァイオリ... | トップ | 12/6(火)紀尾井・明日への扉/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事