
サントリー芸術財団/サマーフェスティバル2011<MUSIC TODAY21>
第41回サントリー音楽賞記念コンサート〈大野和士〉
2011年8月29日(月)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 1階 2列 18番 6,000円
指 揮: 大野和士
ソプラノ: 並河寿美
アルト: 坂本 朱
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 国立音楽大学・東京オペラシンガーズ
【曲目】
マーラー: 交響曲 第2番 ハ短調「復活」
先日に引き続いて、サントリー芸術財団によるサマーフェスティバル2011<MUSIC TODAY21>に足を運ぶ。今日は「第41回サントリー音楽賞記念コンサート」で受賞者は指揮者の大野和士さん。曲は、彼が何か大きな機会があるたびに演奏してきたという、マーラーの交響曲第2番「復活」。何しろ大編成を必要とする曲だけに、そうたびたび聴ける機会があるわけではない。最近お気に入りの東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会ということもあって、あまり得意ではないが、マーラーを聴くことにしたのである。
さすがにマーラーの「復活」だけあって、サントリーホールのステージがオーケストラの団員で溢れんばかり。4管編成+16型弦楽5部+多彩な打楽器群。舞台の外にもいる。独唱のソプラノとアルトは指揮台の両サイド、混声合唱はサントリーホールのP席全域に収まっていた。総勢300名弱というところか。
結論から先に言えば、今日の演奏はそれはそれは素晴らしいものだった。会場には、皇太子様のご臨席もあり、始まる前から緊張感が漂っていた。まず、大野和士さんの指揮が素晴らしい。相変わらず緻密でキレの鋭いオーケストラ・ドライブと推進力抜群のリズム感、旋律を雄大に歌わせるスケール感など、まったくスキのない音楽作りだ。そして東京フィルの演奏もスゴイ。90分に及ぶ大曲に、120名のオーケストラが一糸乱れず、集中力の高いアンサンブルを聴かせ、最後まで瞬発力を持続させた力強いものだった。そして合唱も、清らかな歌声から立ち上がりの鋭い爆発的な大合唱まで、文句なし。もちろん2人の独唱も堂々たるものだ。また、オーケストラ、合唱、独唱のすべてがひとつになった一体感のある演奏で、ホール全体が豊かな音楽に満たされたような充実感いっぱいの演奏だった。とにかく聴き終えて大満足、言って良かったなァ、とつくづく思えるコンサートだった。

第1楽章は、冒頭の低弦の動機が地響きを立てるように力強く、始めから名演の予感が。第1主題からの進行は力強く堂々たる演奏。そして第2主題では、ヴァイオリンが非常に美しいアンサンブルを聴かせた。展開部の牧歌的な曲想は、木管群の自然な空気感が印象的だった。全体を貫く不安な要素は、オーケストラの濁りのない音と程良い対比で描かれている。そしてフル・スケールのオーケストラは音の厚みが違う。全合奏では圧倒的な音量になるが、大野さんはオーケストラをバランス良く抑制して、均整の取れた演奏を聴かせていた。第1楽章が終わると大野さんは指揮台の横に置いてあって椅子に腰掛けて一休み。マーラーの書いたスコアにはここで最低5分間は休むこと、という指示があるわけだが、さすがに5分間は休まなかったが、2~3分くらい間を開けた。
第2楽章のメヌエットのような主題は、第1ヴァイオリン16名をはじめ、弦楽5部がピタリと合って、とびきり美しいアンサンブルを聴かせてくれた。終盤の主題の再現、弦楽のピチカートも、優雅で美しい。この楽章は、美しくロマン的な旋律をゆったりと歌わせ、音楽が優しさに満ちていた。第2楽章が終わると、二人のソリスト、ソプラノの並河寿美さんとアルトの坂本 朱さんが入場、指揮台の両サイドの席に着く。
第3楽章のスケルツォは、リズム感が軽やかな演奏だ。どこかエキゾチックで懐かしさを覚える主題を、ヴァイオリン、木管、チェロと異なる色彩で繰り返してゆく。大野さんの音楽は、実に緻密であると同時に、流れのキレイな曲づくりだと思う。上品で優雅でもあるし、一方でダイナミックで躍動的でもあった。
続けて演奏される第4楽章はしっとりとしたドイツ・リートの趣き。「ひっそりと咲く小さな赤い薔薇よ!」坂本 朱さんのアルトの声が地を這うように、静かだがよく通る声で響いてきた。アルトの声は人の声の自然の音域で、いわば人肌の歌唱ともいえる。暖かみのある声が心地よい。絡み合うオーボエも絶品。
第5楽章はいよいよクライマックス、この曲のすべてがこの楽章に向かって集約してくる。冒頭を除けば静かに進行する主題提示部(第2主題は「怒りの日」が主要動機となり、曲のベースになっている)は色々な楽器が交替して登場してくるが、今日の東京フィルは集中力を途切れさせることなく、極めて上質の演奏だった。ホルンもトランペットも巧い。…ステージ裏からのホルンとトランペットはちょっと聞こえ方がハッキリしすぎていたかも。申し越し遠い感じの方が効果的だったような気もするが、席がステージ間近だったからかもしれない。
ソナタ形式が一回りしてからが、この曲のもっとも主要名部分だ。「よみがえる、そう、よみがえるだろう」合唱団は椅子に腰掛けたまま、歌い始めだ。ppのハーモニーはまさに天上の音楽。ホルンが美しく被さってくる。「おお信じるのだわが心よ!」とアルトの独唱に代わり、力強い男声合唱が一瞬顔を見せ、ソプラノ独唱の並河寿美さんの力強く、凛とした歌声がホールに響き渡る。いつの間にか合唱団も立ち上がっていて、やがて合唱とオーケストラとともに、徐々に盛り上がって、クライマックスへと導かれてゆく。
「復活だ! そう、復活の時が来る! わが心よ! おまえは一週の内によみがえる。かつて刻んだ命の脈動が、おまえを神のみもとに運んでくれるだろう!」
フィナーレの大合唱、全合奏の音量、音圧を強く感じるほどのものすごいパワーで音楽が私たちに迫ってくる。大野さんが、300名をひとつにまとめて劇的な盛り上がりを聴かせた。まさに感動的なフィナーレ。音楽の持つ力が魂を揺さぶる。しびれるような快感が全身を貫いてゆく。
東京フィルも底力を見せつけるカタチとなった。圧倒的なパワー、それでもまったくバランスを崩さないアンサンブル能力、創立100年のオーケストラの本気を出したときのポテンシャルの凄さを見せつけられたような気がする。
というわけで、本当に素晴らしい「復活」であった。サントリーホール全体が感動の渦に飲まれたよう。東日本大震災から5ヵ月以上の時を経て、皆が復興を願う時、今日の「復活」はより前向きな、音楽的な「力」を示してくれたように思う。上手く演奏すれば良いというのとは違った、魂の燃焼するような演奏。これこそ音楽の本質のように思える。演奏家たちと聴く側の私たちとがひとつの時間と空間を共有することができた、その喜びを会場にいた多くの方が感じたに違いない。拍手はいつになっても鳴り止まず、オーケストラの団員がステージを去った後にも、大野さんは2度もコールに応じてくれた。最後はスタンディング・オペーション。そしてすべての拍手が終わるまで待ってから、皇太子様も席を立たれた。ちなみに皇太子様のお席はいつも、2階 RB2列 9番である。
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第41回サントリー音楽賞記念コンサート〈大野和士〉
2011年8月29日(月)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 1階 2列 18番 6,000円
指 揮: 大野和士
ソプラノ: 並河寿美
アルト: 坂本 朱
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 国立音楽大学・東京オペラシンガーズ
【曲目】
マーラー: 交響曲 第2番 ハ短調「復活」
先日に引き続いて、サントリー芸術財団によるサマーフェスティバル2011<MUSIC TODAY21>に足を運ぶ。今日は「第41回サントリー音楽賞記念コンサート」で受賞者は指揮者の大野和士さん。曲は、彼が何か大きな機会があるたびに演奏してきたという、マーラーの交響曲第2番「復活」。何しろ大編成を必要とする曲だけに、そうたびたび聴ける機会があるわけではない。最近お気に入りの東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会ということもあって、あまり得意ではないが、マーラーを聴くことにしたのである。
さすがにマーラーの「復活」だけあって、サントリーホールのステージがオーケストラの団員で溢れんばかり。4管編成+16型弦楽5部+多彩な打楽器群。舞台の外にもいる。独唱のソプラノとアルトは指揮台の両サイド、混声合唱はサントリーホールのP席全域に収まっていた。総勢300名弱というところか。
結論から先に言えば、今日の演奏はそれはそれは素晴らしいものだった。会場には、皇太子様のご臨席もあり、始まる前から緊張感が漂っていた。まず、大野和士さんの指揮が素晴らしい。相変わらず緻密でキレの鋭いオーケストラ・ドライブと推進力抜群のリズム感、旋律を雄大に歌わせるスケール感など、まったくスキのない音楽作りだ。そして東京フィルの演奏もスゴイ。90分に及ぶ大曲に、120名のオーケストラが一糸乱れず、集中力の高いアンサンブルを聴かせ、最後まで瞬発力を持続させた力強いものだった。そして合唱も、清らかな歌声から立ち上がりの鋭い爆発的な大合唱まで、文句なし。もちろん2人の独唱も堂々たるものだ。また、オーケストラ、合唱、独唱のすべてがひとつになった一体感のある演奏で、ホール全体が豊かな音楽に満たされたような充実感いっぱいの演奏だった。とにかく聴き終えて大満足、言って良かったなァ、とつくづく思えるコンサートだった。

第1楽章は、冒頭の低弦の動機が地響きを立てるように力強く、始めから名演の予感が。第1主題からの進行は力強く堂々たる演奏。そして第2主題では、ヴァイオリンが非常に美しいアンサンブルを聴かせた。展開部の牧歌的な曲想は、木管群の自然な空気感が印象的だった。全体を貫く不安な要素は、オーケストラの濁りのない音と程良い対比で描かれている。そしてフル・スケールのオーケストラは音の厚みが違う。全合奏では圧倒的な音量になるが、大野さんはオーケストラをバランス良く抑制して、均整の取れた演奏を聴かせていた。第1楽章が終わると大野さんは指揮台の横に置いてあって椅子に腰掛けて一休み。マーラーの書いたスコアにはここで最低5分間は休むこと、という指示があるわけだが、さすがに5分間は休まなかったが、2~3分くらい間を開けた。
第2楽章のメヌエットのような主題は、第1ヴァイオリン16名をはじめ、弦楽5部がピタリと合って、とびきり美しいアンサンブルを聴かせてくれた。終盤の主題の再現、弦楽のピチカートも、優雅で美しい。この楽章は、美しくロマン的な旋律をゆったりと歌わせ、音楽が優しさに満ちていた。第2楽章が終わると、二人のソリスト、ソプラノの並河寿美さんとアルトの坂本 朱さんが入場、指揮台の両サイドの席に着く。
第3楽章のスケルツォは、リズム感が軽やかな演奏だ。どこかエキゾチックで懐かしさを覚える主題を、ヴァイオリン、木管、チェロと異なる色彩で繰り返してゆく。大野さんの音楽は、実に緻密であると同時に、流れのキレイな曲づくりだと思う。上品で優雅でもあるし、一方でダイナミックで躍動的でもあった。
続けて演奏される第4楽章はしっとりとしたドイツ・リートの趣き。「ひっそりと咲く小さな赤い薔薇よ!」坂本 朱さんのアルトの声が地を這うように、静かだがよく通る声で響いてきた。アルトの声は人の声の自然の音域で、いわば人肌の歌唱ともいえる。暖かみのある声が心地よい。絡み合うオーボエも絶品。
第5楽章はいよいよクライマックス、この曲のすべてがこの楽章に向かって集約してくる。冒頭を除けば静かに進行する主題提示部(第2主題は「怒りの日」が主要動機となり、曲のベースになっている)は色々な楽器が交替して登場してくるが、今日の東京フィルは集中力を途切れさせることなく、極めて上質の演奏だった。ホルンもトランペットも巧い。…ステージ裏からのホルンとトランペットはちょっと聞こえ方がハッキリしすぎていたかも。申し越し遠い感じの方が効果的だったような気もするが、席がステージ間近だったからかもしれない。
ソナタ形式が一回りしてからが、この曲のもっとも主要名部分だ。「よみがえる、そう、よみがえるだろう」合唱団は椅子に腰掛けたまま、歌い始めだ。ppのハーモニーはまさに天上の音楽。ホルンが美しく被さってくる。「おお信じるのだわが心よ!」とアルトの独唱に代わり、力強い男声合唱が一瞬顔を見せ、ソプラノ独唱の並河寿美さんの力強く、凛とした歌声がホールに響き渡る。いつの間にか合唱団も立ち上がっていて、やがて合唱とオーケストラとともに、徐々に盛り上がって、クライマックスへと導かれてゆく。
「復活だ! そう、復活の時が来る! わが心よ! おまえは一週の内によみがえる。かつて刻んだ命の脈動が、おまえを神のみもとに運んでくれるだろう!」
フィナーレの大合唱、全合奏の音量、音圧を強く感じるほどのものすごいパワーで音楽が私たちに迫ってくる。大野さんが、300名をひとつにまとめて劇的な盛り上がりを聴かせた。まさに感動的なフィナーレ。音楽の持つ力が魂を揺さぶる。しびれるような快感が全身を貫いてゆく。
東京フィルも底力を見せつけるカタチとなった。圧倒的なパワー、それでもまったくバランスを崩さないアンサンブル能力、創立100年のオーケストラの本気を出したときのポテンシャルの凄さを見せつけられたような気がする。
というわけで、本当に素晴らしい「復活」であった。サントリーホール全体が感動の渦に飲まれたよう。東日本大震災から5ヵ月以上の時を経て、皆が復興を願う時、今日の「復活」はより前向きな、音楽的な「力」を示してくれたように思う。上手く演奏すれば良いというのとは違った、魂の燃焼するような演奏。これこそ音楽の本質のように思える。演奏家たちと聴く側の私たちとがひとつの時間と空間を共有することができた、その喜びを会場にいた多くの方が感じたに違いない。拍手はいつになっても鳴り止まず、オーケストラの団員がステージを去った後にも、大野さんは2度もコールに応じてくれた。最後はスタンディング・オペーション。そしてすべての拍手が終わるまで待ってから、皇太子様も席を立たれた。ちなみに皇太子様のお席はいつも、2階 RB2列 9番である。

記憶に残る素晴らしいコンサートだったのですね。
コメントをお寄せいただきありがとうございます。
「復活」は曲自体が、とくに終楽章は感動的に書かれているのに、あれだけ熱のこもった演奏をされたら、もうたまりません。
記録にも残せるといいのですが…。
いつもありがとうございます。
「復活」がお好きとは、ちょっと意外かも。
とにかく300人近い演奏の音圧がスゴイ…。
また機会があれば、聴きたいものです。