Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/15(日)千葉交響楽団/定期演奏会はブラームス・プログラム/河村尚子のピアノ協奏曲第2番と山下一史渾身の交響曲第2番

2017年10月15日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
千葉交響楽団 第102回 定期演奏会
「あふれる抒情への誘い」

2017年10月15日(日)14:00〜 千葉県文化会館・大ホール A席 1階 3列 19番 3,000円
指 揮:山下一史
ピアノ:河村尚子*
管弦楽:千葉交響楽団
コンサートマスター:神谷美穂
【曲目】
ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83*
《アンコール》
 ショパン:24の前奏曲 作品28 より第15番 変ニ長調「雨だれ」*
ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 作品73

 千葉交響楽団の「第102回 定期演奏会」を聴く。会場はホームグラウンドである千葉県文化会館の大ホールである。千葉響は2016年4月から山下一史さんが音楽監督を務め、今年で2年目のシーズンとなる。とはいっても、主催公演は、年2回の定期演奏会とニューイヤーコンサートの3回しかないのだが、2年目はマエストロ自らの意向を反映させたプログラム構成やソリストの選定などを行っているという。
 山下さんの得意の演目、演奏したかった曲目ということで、今回はオール・ブラームス・プログラムということになった。ゲストのソリストに呼ばれたのは、河村尚子さん。山下さんが7〜8年前に共演して以来のお気に入りピアニストとしてラブコールを送り、今回の共演が実現した。曲目は、本格派であるが故に比較的演奏機会の少ない、「ピアノ協奏曲 第2番」である。山下さんとしてはドイツに留学して以来、重要なレパートリーとなっているブラームスであり、河村さんは幼少期よりドイツで育ちドイツから世界に羽ばたいたピアニストである。この二人の共演で曲目がブラームスであるなら、あまり派手なパフォーマンスにはならないと思われるが、その分だけ本格派の味わいが期待できるし、心の内側をじっと見つめるようなブラームスに相応しい演奏を聴かせてくれるに違いない。そう思って、私もちょっと宗旨替えをし、いつものような最前列の真ん中ではなく、3列目まで下がって左側ブロックの通路側の席を取った。いわゆる鍵盤側だが、別に手の動きを見たいからではなく、ピアノ協奏曲の場合、弦楽器と管楽器とピアノの音量のバランスが、右側よりも良いと考えてのことである。まあ、多目的ホール故の散漫な音響のホールと、コンディションの悪いこのホールの古いスタインウェイでは「音」の面からはあまり期待できないので、演奏の全体像を把握するにはこの辺りが良いだろうという判断である。

 プログラムの前半は「ピアノ協奏曲 第2番」。河村さんがにこやかに登場する。もうすっかりご自身の世界が出来上がっていて、登場するだけで場の空気感がほんのりと温かいものに変わるようだ。


 第1楽章は冒頭、緊張感の高いホルンのソロが響き渡り、ビアノが階段を登るように絡みつく。その時点で、音楽の方向性は決まってしまう。河村さんのピアノは、やや控え目に、自我を包み隠すような抑制的な調子で始まり、曲が進むにつれて徐々にヴェールが取り除かれていくよう。ごく自然にすうーっとブラームスの内省的な世界が描かれているのが、いつの間にか河村さんのピアノの瑞々しい世界に置き換えられていくのだ。見ればいつものように、曲を口ずさみながら、曲想の変化そのままに顔の表情も変わる。心が躍っている。歌っている。悩んでいる。そしてピアノが踊り、歌い、悩む。ちょっと抑制的で、優しく押し出して来る河村さんのビアノは、シンフォニックな響きを持つオーケストラに、あるときは溶け込んで、あるときは飛び出すような、適度な距離感を持っている。そのことで互いに刺激を交換するのであろう。
 第2楽章はスケルツォ。やや強いタッチのピアノが踊る。あまり音量は出していないようなのに、ダイナミックレンジが広く感じられるのは、単に強弱だけではなく、表情が豊かに変化するからだろう。ただし私の席では、低音域が妙にあまり聞こえてこない。弾き手の問題とは考えられないので、席位置が悪いのか、ホールの音響が悪いのか、ピアノの状態が悪いのか・・・・。まあ、後者だとは思うが・・・・。
 第3楽章は緩徐楽章。ロマン派の緩徐楽章は叙情性豊かな美しい主題の曲が多いが、この曲もご多分に漏れず、非常に美しい曲想。ピアノが揺れ動く心の葛藤と憧れを情感豊かに歌わせる。途中、オーボエがねっとりと質感たっぷりに聴かせてくれる。
 第4楽章はロンド。控え目にビアノのソロによるロンド主題の提示である。この辺りを聴くと、ブラームスがこのピアノ協奏曲をヴィルトゥオーゾのために書いていないことが分かる。それまでの協奏曲の価値観を否定的に捉え、ピアノとオーケストラがシンフォニックに統合された音楽を目指していたことが分かるのである。河村さんのピアノは、出しゃばりすぎることなく、やや控え目に、それでも鮮やかな色彩感を紡ぎ出していく。この曲は全体的に明るい曲想を持っているが、光には必ず影があるところを踏まえて、その陰影をうまく描き出すことによって、内省的な憂愁の情感が美しいピアノの中に見え隠れする。実に、懐が深いというか、奥行きを感じさせる演奏だと思う。もはやベテランの味わい。見事な演奏であった。

 河村さんのソロ・アンコールは、ブラームス・・・・ではなくて、ショパンの「雨だれ」の前奏曲。今日は日本列島が広範囲にわたって雨模様だった。肌寒く、冷たい雨のイメージで、切なげな情感がいっぱいの演奏であった。

 後半は「交響曲 第2番」。私個人はブラームスの4つの交響曲の中で、この2番が一番苦手なのである。もう40年以上も聴いているが、なかなか好きになれない曲なのである。まあ、良い曲だとは思うのだが・・・・。
 マエストロ山下さんの音楽作りは、比較的スタンダードだといえそうだ。特別に際立った新しい解釈などを持ち込むことなく、楽曲に対して真正面から取り組み、スコアに沿って分かりやすい表現を組立てていく。
 第1楽章。テンポ設定も最近の標準から比べればやや遅めかもしれない。しかし主題や動機のフレージングが流れるようで造形がシッカリしているので、ダラダラした感じは全くない。むしろ生き生きとした生命力さえ感じさせる、そんなスタンダードさなのである。主題を歌うヴァイオリンが美しい。
 第2楽章は緩徐楽章。ここでもロマン派ならではの、心の内側を描くように、様々な楽器が様々な思いを語り合うように絡み合う。千葉響の管楽器群は基本的に上手いと思う。かなり質感の高い音色で表情の豊かだ。この楽章はなかなか聴き応えがあった。
 第3楽章はスケルツォ。しかし荒々しさや諧謔性はなく、穏やかで伸びやかである。オーボエによる主題が田園風の長閑さを感じさせ素敵だ。
 第4楽章はソナタ形式のフィナーレ。山下さんはここではやや速めのテンポを採り、推進力のある音楽作りで、しなやかに主題を歌わせつつ、曲の流れをスムースに、勢いを途切れさせないようにうまく進めていく。主題や動機にとらわれてしまうと、曲がプツプツと切れるようになってしまう曲想(そういうところが好きになれない理由かも)なのだが、今日の演奏は流れと推進力を重視したもので、実にノリが良い。聴いている方にも演奏自体の持つ高揚感が伝わってきて、最後はエネルギーが爆発的に高まり、感動的なフィナーレとなった。私としては珍しいことで、ブラームスの2番で、これほど痺れることは滅多にない。Bravo!!な演奏であった。

 ただし問題点がなかったわけではない。悲しいかな、弦楽奏者が少ないため、エキストラが半数以上を占めているという現実がある。今日はコンサートマスターの神谷美穂さんが久し振りに定期に登場し、かなり頑張っていたので演奏自体にはまったく問題はなく十分に上手かったとは思うが、オーケストラ固有の音色・・・・あるいは個性のようなものが感じられないことが惜しいところ。地方オーケストラの課題のひとつだろう。東京の大部分のプロ・オーケストラの弦楽は固定メンバーなので、上手い下手は別として個性があることだけは確かなので・・・・。

 終演後には、ホワイエにて交流会が開催された。山下さんをはじめ、ゲスト・ソリストの河村さんやコンサートマスターの神谷さんほか、楽団のメンバーの方々が参加され、楽しい一時であった。千葉響のメンバーは、お馴染みとなった「山下組」のグリーンのTシャツを着ている。河村さんが「私も欲しい」と言うと、山下さんが「今度来たときにあげるよ」と、またいつか客演してもらうと約束する場面もあった。スポンサー企業から飲み物やらお土産なども配られて、なかなかの盛況ぶりであった。





 このような地道な努力の甲斐もあって、今日の定期演奏会も大入り札止めであったとの由。このところ完売続きでオーケストラの方の順調に推移しているようなので、できるなら定期演奏会を増やして欲しいところだ。地元でもあることだし、応援し甲斐のあるオーケストラだと思うからだ。年に2回の定期演奏会だけでは、その日に都合が悪かったらもうほとんど聴くことが出来ないのと同じになってしまう。少ない弦楽のメンバーだけでも出来る室内オーケストラのようなカタチでも良いから、回数を増やして欲しいと切に願うものである。

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