Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/31(土)郷古 廉 ヴァイオリン・リサイタル/市川市/繊細にして端正な演奏に豊かな将来性を見る

2012年04月01日 01時40分37秒 | クラシックコンサート
郷古 廉 ヴァイオリン・リサイタル

2012年3月31日(土)14:00~ 市川市文化会館・小ホール 指定 1階 4列 13番 2,500円
ヴァイオリン: 郷古 廉(ごうこすなお)
ピアノ: 加藤洋之(かとうひろし)
【曲目】
ドヴォルザーク: 4つのロマンティックな小品 作品75
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 作品100
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 作品27-1
ルクー: ヴァイオリン・ソナタ ト長調
《アンコール》
 イザイ: 子供の夢

 今日はちょっとローカル、市川市文化振興財団の主催公演で、郷古 廉さんのヴァイオリン・リサイタルにやって来た。会場はJR総武線/都営地下鉄新宿線の終点「本八幡駅」から徒歩10分くらいのところにある市川市文化会館だが、今日はあいにくの強風と雨の影響で電車は遅れるし、たどり着くまでが一苦労という感じだった。ただ、この会場では魅力的なコンサートが催されることがあるので時々訪れている。都心からほんの30分離れただけで、いわば地方公演の料金になってしまうので、聴く側の私たちにとっては素直に嬉しいものである。

 さて、ヴァイオリンの郷古さんは1993年生まれの18歳。現在は桐朋学園大学のソリストディプロマコースに籍をのこしたままウィーンに留学中とか。どうりで最近国内の音楽界であまり名前を耳にしなくなっていたはずだ。注目の若手ヴァイオリニストであり、過去に一度、2010年12月の「Violin Festa Tokyo 2010」でベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第6番を聴いたことがある

 ドヴォルザークの「4つのロマンティックな小品」は親しみやすい旋律が美しい可憐な曲集だが、ヴァイオリンの演奏としては特別に技巧的な要素はなく、美しい曲をいかに美しく演奏するか、というところが課題かもしれない。郷古さんのヴァイオリンは、繊細で美しい音色が持ち味。第1曲は優雅な旋律をサラリと演奏していた。第2曲は短調の強い曲想だが、持ち味通りで、あまり強くは押し出さず、マイルドな仕上がり。第3曲は憧れに満ちたロマンティックな曲想。彼のヴァイオリンはやや線が細い感じがするが、このような曲には会っている。第4曲は、重音がとくに綺麗な音色だった。
 そもそも4曲とも、ひとつの主題を繰り返すだけ(変奏というほどでもなく)なので、ちょっと飽きやすい。郷古さんの演奏は、端正で真面目な印象で、おそらくこの曲に合わせてだと思うが、あまり感情を押し出すという風でもなく、淡泊な感じがした。もちろん、その分だけ繊細な音色が強調されていたようでもあった。

 2曲目のブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」は、ブラームスの3つのソナタの中でも一番地味な曲であろうか。ロマンティックで、強さを描く部分も垣間見えるが基本的には内省的である。第1楽章は第2主題の旋律がことのほか美しい。第2楽章は緩徐楽章で、主部は憧れを乗せて美しい旋律が、トリオ部は感情の乱れが強い曲想を描く。第3楽章は激しい感情が押し出されてくるロンド。コーダの重音が力強い。郷古さんの演奏は、ここでも全体的に淡泊な印象で、強い感情の表現は控えている。端正で、しっかりとした造形を感じさせる演奏であった。妙な思い入れをせずに、純音楽としての構造を描き出したところはブラームスというよりはベートーヴェンのよう(?)。正確に音程、繊細な音色、明確な構造を保っていた点は素晴らしいが、個人的にはもう少しネットリと、感情のヒダを描くような部分があっても良かったのではないかとも思った(ロマン派なんだから…)。

 後半は、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番」から。この曲だけ暗譜で演奏された。それだけに前半の2曲よりも、音楽の造形がひとまわり大きくなったように感じられた。伴奏がないことも、演奏に自由度を増す働きをしていたのかもしれない。格段に高度な技巧を要求されるにもかかわらず、複雑な重音や早いパーセージでも安定した音程、また豊かに鳴り出した楽器とその音色、弱音から滲み出てくる繊細で優美な旋律、深みのある低音部など、いずれも素晴らしい演奏だった。一方、異なる声部を弾き分けなければならない無伴奏ソナタでは、リズム感を崩しがちになりかねない。郷古さんは、この点については、部分的にややギクシャクした印象を残した。低音部を十分に鳴らすとリズムが崩れるし、かといってリズムをしっかりと刻むと低音がプツプツと途切れて豊かさがなくなってしまう。その両者の狭間で、バランス感覚が大切なのだと思う。全体の曲作りは相変わらず端正で、振れ幅の少ない演奏だが、目指している方向性が見えるような気がした。留学先がウィーンというのも、なるほどという感じである。

 最後はルクーの「ヴァイオリン・ソナタ ト長調」。ギヨーム・ルクーは24歳で夭折したベルギーの作曲家(1870~1894)で、時代からいえばロマン派後期。フランクに師事し、イザイの委嘱でこの曲を作曲した。あまり聴く機会がないと思うが、ベルギー=フランス系の自由な感性と豊かな色彩感を持った曲である。フランクのヴァイオリン・ソナタを彷彿とさせるところもある。
 郷古さんの演奏は、この曲が一番ノリが良く、伸び伸びした演奏で、楽器も豊かで流麗な音(とくに明瞭で明るい感じがする)を聴かせていた。他の曲と比べれば、第1楽章では、明らかに音量も大きいし、表現にも自由な躍動感のようなものを感じさせていた。第2楽章の緩徐楽章では、細やかな表情を加えた旋律の歌わせ方で、夢想的な浮遊感をうまく表現していた。第3楽章では、行き先がはっきりしないような不安感を伴う躍動感が、青春の屈託を感じさせて、なかなか素敵だ。フィニッシュはドラマティックで、息を止めて聴き入るような緊張感があって素晴らしかった。これはBravo!である。

 アンコールはイザイの「子供の夢」。ピアノの不思議な分散和音に、雲間を漂うような不安定感のある旋律が頼りなげに乗る。夢幻的な世界を綺麗に伸びるヴァイオリンの音がうまく描き出していた。

 郷古さんのヴァイオリンは、やはり繊細でやや華奢なイメージを伴う。若さ故の奔放さは微塵もなく、あくまで端正で上品である。押し出しが強くないのはマイナスなのではなくて、彼の持ち味なのだと思う。他人の評価を勝ち取ろうとする演奏ではなく、自身の目指す音楽をいかに追求するか、表現できるか、そのような志が演奏の中に感じられた。やはり将来性豊かな逸材であることは間違いない。

 まったくの余談だが、会場でロンドン留学から一時帰国中の青木尚佳さんにお会いした。郷古さんとは桐朋でも一緒だったし仲良しなのだという。若い演奏家の皆さんが積極的な海外に出て行って、様々な苦労を厭わずに研鑽に励んでおられるのは、音楽ファンとしては嬉しい限りだ。国内での演奏機会が減ってしまうのは残念だが、これは聴く側の私たちが我慢すればすむことだ。現代の日本の若者たちはあまり元気ないようだが、音楽界に関する限り、世界で活躍できる優秀な人材がいっぱいいる。もっと多くの若い演奏家の皆さんに海外で活躍していただいて、音楽の世界だけであっても日本の力を国際的に示すことができれば、それはとても嬉しいことだし、私たちの誇りでもある。

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