Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/4(金)ラ・フォル・ジュルネ2012〈第2日〉川久保賜紀:松山冴花:イェウン・チェ:庄司紗矢香+長尾春花

2012年05月05日 02時54分59秒 | クラシックコンサート
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2012(「熱狂の日」音楽祭 2012)
~Le Sacre Russe/サクル・リュス~


2012年5月4日(金・祝)東京国際フォーラム

 「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012」の2日目、今日は4つの有料公演(+無料公演1つ)をすべてヴァイオリン系にした。名付けて「華麗なる女性ヴァイオリニストの響演」。天気予報では晴れるはずだったのに、結局今日も雨模様だった。

■公演番号251 11:00~12:00 ホールD7 指定席 X1列 12番 2,500円
ヴァイオリン: 川久保賜紀
ピアノ: エマニュエル・シュトロッセ
【曲目】
ストラヴィンスキー: イタリア組曲
ハチャトゥリアン: 詩曲
ショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編: 4つの前奏曲(24の前奏曲 作品34から第10・15・16・24番)
プロコフィエフ: ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ長調 作品94bis

 大好きな川久保賜紀さんが初めて「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」に登場することになり、何が何でもの思いで最前列を確保。目の前で、しかもステージの段差がない距離感で聴くのは初めて(?)かもしれない。そしてどういう理由か、この公演番号251は60分枠となっていて、ファンとしては嬉しい限りの充実したプログラムとなった。
 「イタリア組曲」はストラヴィンスキーの新古典主義時代の作品で18世紀イタリアの素材が使われている。古典的な優雅さを持つ明瞭な曲想で、多くのヴァイオリニストが採り上げる人気曲だ。川久保さんのヴァイオリンは相変わらず流麗でエレガント。潤いのある音色がこの曲によく似合っていた。ハチャトゥリアンの「詩曲」は現代曲で、一度聞いたくらいでは…コメント不可能(?)。4つの前奏曲はショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編の「4つの前奏曲」は川久保さんのCD「リサイタル!」にも収録されているお馴染みの曲。かなり以前から弾き込まれているので、安定した演奏で、表現の幅も豊かになり、表情も細やかに描かれていた。メインとなるプロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」も、最新のCD「ライヴ・イン・ワシントン」にライブ録音が収録されている。人気曲だけに多くの演奏家が様々なアプローチをしているが、川久保さんは美しいレガートで旋律を優雅に歌わせる。今日は近くで聴いたせいもあるのか、しっとりした音色で、艶やかに楽器がよく鳴っていた。音に張りがあるため、か細い感じはしないが、ガツンと来るべき低音部などでも上品さを失わないのが川久保流である。どうしてもひいき目になってしまうが、やはりBrava!!

■公演番号273 13:30~14:15 G409 指定席 3列 19番 2,000円
ヴァイオリン: 松山冴花
ピアノ: アルフォンス・スマン
【曲目】
シュニトケ: 古い様式による組曲
チャイコフスキー: 憂うつなセレナード 作品26(ヴァイオリン&ピアノ版)
ストラヴィンスキー: イタリア組曲

 続けて、もうひとりの大好きなヴァイオリニスト、松山冴花さんの演奏を聴けるのは嬉しい限り。昨日と同じG409の会議室である。シュニトケは現代の作曲家であるが、「古い様式による組曲」は主にバロック時代の音楽の様式を模して書かれている。ある意味で様式が崩壊した現代音楽から見た「古い様式」へのオマージュということだろうか。松山さんの演奏は、例によって濃厚な音色で大らかに演奏していたが、バロック風の曲を現代的に演奏するという意味では、的を射ていたのかも知れない。曲順を変えてチャイコフスキーの「憂うつなセレナード」を先にしたのは正解。この曲で終わるのではコンサートが尻すぼみ(?)になってしまいそう。結局メイン曲は「イタリア組曲」ということになった。川久保さんに続いて同じ曲だが、ふたりのアプローチはやはり違う。松山さんは、スケール感たっぷりに演奏し、明瞭で伸びやかな(ある時は弾むような)音色と旋律の歌わせ方。彼女の魅力となっている大らかな押し出しの強さは、この曲に瑞々しい生命力を与えていた。


 ここで閑話休題。昨年と同様に、まったく偶然なことに会場内で公演の終わった松山さんを発見。少しお話しすることができた。実はこんなこともあろうかと、密かに(?)プレゼントまで用意していたので、コチラの方もビックリである。用意していたのは、今年2012年の1月に東京オペラシティコンサートホールで行われた東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートのライブ録音CD。といっても海賊ものなどではなく、NHK-FMで放送されたものを録音して、私がオリジナル・デザインのジャケット付きCDに加工したものだ。曲は外山雄三作曲ヴァイオリン協奏曲第2番。独奏ヴァイオリンはもちろん松山冴花さんである(個人で楽しむ分には問題ないでしょう)。ご本人もFMで放送されたとは知らなかったご様子で、プレゼントに大変喜んでいただけた。今のところ世界にたった2枚しかないCDの1枚は松山さんに、もう1枚はサインしていただいてわが手元に残ったわけである(画像参照~ジャケットの写真も以前私が撮影したもの)。その後ツーショットの記念写真を撮ったりしたが、コチラは非公開ということで。


■無料コンサート 15:00~15:30 丸ビル1階「MARUCUBE」
ヴァイオリン: 長尾春花
ピアノ: 大伏啓太
【曲目】
チャイコフスキー: ワルツ・スケルツォ 作品34
モンティ: チャールダーシュ
マスネ: タイスの瞑想曲
ラヴェル: ツィガーヌ
ラフマニノフ:「パガニーニの主題による狂詩曲」から第18変奏(ヴァイオリン&ピアノ版)

 次の公演まで時間が空いていたので、配布されている「エリアコンサート&イベントガイド」(タイトル画像)を見ていたら、本日のページに長尾春花さんの名を発見。時間もちょうどピッタリだったので、雨の中を急遽丸ビルへと移動し、無料のコンサートを聴かせていただいた。東京駅前の丸ビルの1階ロビー(5階くらいまでが吹き抜けになっている)に特設ステージが設けられ、PA装置付きではあるが、客席も作ってのコンサート・イベントである。PAを通した音はエレキ・ヴァイオリンのようでいささか嘆かわしくもあったが、ロシアものに拘らない名曲プログラムを楽しませていただいた。長尾さんは正確で安定した技巧をベースに、表現力も豊かで、とても素敵な人だ。一見するとお嬢様風のキャラだが、パッション溢れる演奏を聴かせてくれる。最後の「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏のヴァイオリン演奏は初めて聴いたが、ヴァイオリンでの演奏もなかなか乙なものであった。

■公演番号265 16:45~17:30 G402 指定席 1列 22番 2,000円
ヴァイオリン: イェウン・チェ
ピアノ: クレール・デゼール
【曲目】
シュニトケ: パガニーニのために
プロコフィエフ: ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80
チャイコフスキー: ワルツ・スケルツォ 作品34

 今回の「ラ・フォル・ジュルネ2012」の有料公演では最も小さな会場であるG402は定員103名。この小部屋(会議室)で聴けるのは本公演のみだった。イェウン・チェさんは2年前の2010年の開催の時に、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いたのが初めてで、それ以来注目している人。熱い音楽を聴かせてくれる。シュニトケの「パガニーニのために」は難解な現代曲で、演奏にも高度な集中が必要なようだ。チェさんは、まず音程が正確で音がハッキリしていて曖昧さがない。立ち上がりが鋭く、かなり尖っている(または硬い音色)。ハッキリした演奏だから、難解な曲も解りやすくなる。プロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」は人気の第2番とは違って、曲そのものがゴツゴツした造形で人を寄せ付けないような雰囲気がある。生ぬるいロマンティシズムを否定しているようだ。演奏技術もかなり高度なものが求められるようである。チェさんの演奏は、まさに本領発揮したよう。かなりエキセントリックで、アグレッシブである。硬質な音色と攻撃的なアプローチで、曲の本質に鋭く迫って行く、そんな雰囲気の演奏であった。まるで硬い岩山の中に熱い溶岩がたぎっていて、時折、隙間をついて吹き出してくる。油断していると熱い炎に飲まれてしまいかねない、そんな印象の強烈な演奏であった。それはもちろん良い意味であり、とても素晴らしい、パッション溢れる演奏であった。その流れでチャイコフスキーの「ワルツ・スケルツォ」も演奏されたので、こちらの方は甘い感傷も吹っ飛んでしまい、ちょっとやり過ぎでは??

■公演番号215 19:45~20:30 ホールA S席 1階 2列 43番 3,000円
指 揮: ドミトリー・リス
ヴァイオリン: 庄司紗矢香
管弦楽: ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ショスタコーヴィチ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77

 今日の最後の公演は、5000名入るホールAに移動、庄司紗矢香さんによるショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番」である。「ラ・フォル・ジュルネ」ではお馴染みのミトリー・リスさんの指揮でウラル・フィルがサポートを務める。最近の庄司さんは、楽器が変わって以来、色々な音作りで苦労していたのか、演奏にバラつきがあったように思える。今日はそれが良い方に大きく振れたようで、5000名の大ホールに堂々たる音楽を響かせていた。この曲は人間社会の負の要素をすべて飲み込んで、それをまともにオモテに出したら命に関わるような状況の中で、半分はシニカルに横から眺めているようなところがあり、笑えない諧謔性に満ちている。この曲に対してどのようにアプローチしていくべきか、演奏家たちを悩ませるところだろう。庄司さんの演奏は、キーンと張りつめた緊張感の強い演奏によって、このギリギリの諧謔を描いていた。純粋に曲だけを見れば半分ふざけたような曲想に対しても、張りつめた演奏で笑いを封じ込め、曲の陰に隠れてる本質に迫ろうとしているように感じられた。演奏そのものは、一切の妥協はしないぞ、という気概に満ちていて、研ぎ澄まされたひとつひとつの音で精緻な造形を作っているようにも聞こえるし、また熱い魂を覆い隠すようなクールさも感じられ、極めてクオリティの高い演奏となった。

 2日目はヴァイオリン三昧であった。今や日本で最大の音楽祭となった「ラ・フォル・ジュルネ」だが、世界で活躍する一流のアーティストがこれだけ集まってくれることは嬉しい限りである。会場で顔を合わしたクラシック音楽好きの知人たちも、毎日たくさんの公演を聴いているのに、嗜好が少し違えば、ホール内では顔を合わせない。つまり、同じクラシック音楽ファンであっても、それぞれの好みに応じた数多くのプログラムが用意されているということだ。
 私の好きなヴァイオリンの分野だけでも、たった一日で、川久保賜紀さん、松山冴花さん、イェウン・チェさん、庄司紗矢香さん、そして長尾春花さんまで聴けるなんて、なんて幸せなんだろうとつくづく思う。

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