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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/28(日)カルテット・アルパ/瑞々しくフレッシュな感性で描く短調の弦楽四重奏曲/ヤナーチェクが出色

2016年02月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第23回マツオコンサート
~次代の音楽界をになう若手弦楽四重奏団~ カルテット・アルパ


2016年2月28日(日)14:00~ よみうり大手町ホール 自由席 1列 8番 入場無料
カルテット・アルパ
 第1ヴァイオリン:小川響子
 第2ヴァイオリン:戸原 直
 ヴィオラ:古賀郁音
 チェロ:伊藤 祐
【曲目】
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品33, 第2番「冗談」
シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D.703「四重奏断章」
ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番 ホ短調「クロイツェル・ソナタ」
ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 作品51
《アンコール》
 ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品33, 第2番「冗談」より第2楽章

 友人のKさんが誘ってくださったので、珍しく弦楽四重奏のコンサートに出かけた。公益財団法人松尾学術振興団の主催による「マツオコンサート」というもので、同財団の音楽助成により、優れた弦楽四重奏団の育成を目的にしているというもの。音楽大学等から推薦されたカルテットに対して「松尾音楽助成金」が贈呈される。コンサート自体も入場無料の自由席。もちろん事前の申し込みが必要で、音楽ファンの間では知れ渡っている存在らしい。私は室内楽はあまり聴かない方なので、まったく知らなかった。会場は501席の「よみうり大手町ホール」である。

 折しも今日は東京マラソンが開催されているので、下手に地上には出ない方が良いかなと、地下鉄から地下道を通って読売新聞社本社ビルに入る。Kさんがかなり早い時間帯から並んでいてくれたので、例によって最前列で聴くことができたのには感謝である。中央よりやや左寄り、第1ヴァイオリン側なので、チェロも正面になり、ちょうど良いポジションだ。
 カルテット・アルパは、東京藝術大学の音楽研究科修士課程在学中の皆さんで、実際に聴いたことがあるのはチェロの伊藤裕さんだけだが、皆さんこの世界では名が知られているようで、若手の実力派カルテットといったところだ。


左から戸原 直さん(2nd Vn)、古賀郁音さん(Va)、小川響子さん(1st Vn)、伊藤 祐さん(Vc)

 1曲目は、ハイドンの「弦楽四重奏曲『冗談』」。「ロシア四重奏曲第2番」とも呼ばれている。造形的にも美しく、非常に洗練された曲である。演奏を聴いてまず感じることは、4名の息がピッタリと合っていること。ところが、キチンとまとまっているのに、決して平板でないところが、素晴らしい。私が思い描いているよりは、遥かにメリハリが効いてダイナミックレンジが広く、奥行きのある表現力を持っている。小さなサロン会場などとは違う本格的な中ホールの豊かな音響も味方に付け、実にスケールの大きな演奏をしているように感じられた。第1楽章は伸び伸びとして明るく、第2楽章は陽気なスケルツォ、第3楽章は抒情性を豊かに描く緩徐楽章、第4楽章は、軽快で弾むような明るさに加えて・・・・最後は「冗談」のように終わる。

 2曲目は、シューベルトの「弦楽四重奏曲 第12番」。シューベルトの得意な(?)未完成作品で、第1楽章のみが完成し、第2楽章はスケッチが少々残されるのみ。ゆえに「四重奏断章」と呼ばれる。しかし、曲想はいかにもシューベルトの器楽曲らしさに溢れている。一応はソナタ形式を採るが、自由な発想で展開し、古典的な形式美にとらわれないところは、ロマン派なのである。演奏は、ハイドンよりもさらにダイナミックレンジが広がり、たった4名とは思えない程の音の広がりを見せる。第1ヴァイオリンの小川響子さんのはマイルドで艶やか。豊かな抒情性を描き出す。第2ヴァイオリンの戸原 直さんは硬質な音色で鮮やかな対比を見せる。ヴィオラの古賀郁音さんは強くあまり押し出して来ることはなく内声部を厚くしていく。チェロの伊藤さんはとても柔らかい音色で抜群の安定感を見せる。そして4名が合わさると、表現の幅が一層広がり、哀しみや焦り、喜びや憧れなど、様々な感情が交錯するような、いかにもロマン派的な情緒的な演奏になる。

 3曲目は、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲「クロイツェル・ソナタ」。このタイトルはベートーヴェンのソナタとは直接的な関係はなく、トルストイの小説の方をモチーフにしていることに由来する。不倫をした妻を嫉妬と怒りのために殺害してしまう男の物語をモチーフにしているのだ。第1楽章は焦燥と嫉妬にさいなまれるような主題が暗く、重くのしかかってくる。第2楽章はさらに焦燥感が増していく。イライラして落ち着かない。感情が爆発してしまいそうだ。第3楽章は諦めと苛立ちが交錯して心が千々に乱れる。第4楽章は様々な思いが複雑に交錯して、精神的に追い詰められ、悲劇に向かって突き進んでしまう。若いカルテットが演奏するには少々テーマが重いかも、とも思ったが、このような陰鬱なイメージがかなりリアルに表現される演奏であった。感情表現・・・・といっても、自分ではなく、物語の主人公の心理描写的な、ある意味でクールで客観的な面も併せ持つ感じがなかなか見事に表現されていたように思う。譜面の解釈だけではない、背景を踏まえた解釈の結果であろう。

 後半は、ブラームスの「弦楽四重奏曲 第2番」。35分に及ぶ大曲である。まさに小さなシンフォニーといった感じで、古典的な造型の中に内に秘めた激情と抒情性が押し込められていて、繊細で奥深い。このような感情表現こそはロマン派たる所以であろう。ただし、先ほどのヤナーチェクと比べると、こちらは明らかに純音楽であり、感情表現と言ってもあくまでそれは作曲者ブラームスの人格の現れということになる。
 演奏の方も曲想に従って、内向的なイメージが強くなる。第1楽章はイ短調の長大なソナタ形式。陰気な第1主題と抒情的な第2主題が対比を作るが、全体のトーンは暗い。第2楽章はイ長調の緩徐楽章。明るめの感情と暗めの感情が交互に入り乱れる。ゆったりとした旋律で4声による和声が豊かに表現されている。伊藤さんのチェロがしっかりと下支えをしているので、上に乗るヴァイオリンが浮遊感を描いても実に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。第3楽章はメヌエット。といってもイ短調なのでほの暗いイメージである。第4楽章はロンド・フィナーレ。こちらもイ短調で、華やかさはないが、時折見せる明るめの表情がホッとさせる。小川さんのヴァイオリンの艶やかで柔らかい音色が、多少は暗さを消してくれている。
 この曲では、やはり短調のせいか、あるいは内省的なブラームスの人格によるものか、演奏自体も内向的な表現になり、前半の3曲のようなダイナミックスは影を潜めている。その分だけ、重厚感が増し、狭い幅の中に多彩な色彩と表現を詰め込み、奥行きの深い造型となっていた。

 アンコールは、最初に演奏した、ハイドンの弦楽四重奏曲「冗談」より第2楽章。シューベルト、ヤナーチェク、ブラームスと、短調で暗いイメージの曲が続いただけに、このアンコールは若さが溢れて、パッと花が咲いたようであった。

 そもそも室内楽はあまり聴かないし、弦楽四重奏に関してもほとんど知識もないので、何も語る資格はないと思うが、カルテット・アルパの演奏は、やはり若さが溢れていて、その音色も基本的には明るく瑞々しい。リズム感も躍動的だ。演奏していること自体が楽しいからであろう。そうした中で今日のプログラムでは短調の曲が多かったわけだが、それらの曲が暗くなりきらなかったところがかえって良かったと思う。とはいうものの、一番印象に残ったのはヤナーチェクだったのだが・・・・。

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