Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/25(火)小林沙羅/日本声楽家協会・独演コンサート/100名のサロンでシューマンと日本の歌曲を爽やかに

2015年08月25日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
日本声楽家協会《日暮里びぶらアート劇場》
独演コンサート2015/第86回 小林沙羅


2015年8月25日(火)19:00~ 日暮里サニーホールコンサートサロン 自由席 2列5番 2,600円
ソプラノ: 小林沙羅
ピアノ: 森島英子
【曲目】
シューマン: 1. 紳士の皆様 O ihr Herren(「愛の春」作品37-3)
      2. ズライカの歌 Lied der Suleika(「ミルテの花」作品25-9)
      3. 花嫁の歌 Lied der Braut (「ミルテの花」作品25-11)
      4. 花嫁の歌 Lied der Braut (「ミルテの花」作品25-12)
      5. ジャスミンの茂み Jasminenstrauch(歌曲と歌 第1集 作品27-4)
      6. 私の庭 Mein Garten(歌曲と歌 第3集 作品77-2)
      7. ミニョン Mignon(ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」にもとづくリートと歌 作品98a-3)
      8. 牛飼いの娘 Die Sennin(レーナウの6つの詩とレクイエム 作品90-4)
      9. 森への郷愁 Sehnsucht nach der Waldgegend(ケルナーの詩による12の歌曲 作品35-5)
      10. 捨てられた娘 Das Verlassenes Mägdlein(ロマンスとバラード第4集 作品64-2)
      11. バラよ! バラよ! Röselein(6つの詩 作品89-6)
      12. ことづて Aufträge(歌曲と歌 第3集 作品77-5)
團 伊玖磨/北山冬一郎作詞: 歌曲集「わがうた」作品8
      . 序のうた
      . 孤独とは
      . ひぐらし
      . 追悼歌
      . 紫陽花

橋本國彦/西條八十作詞: お菓子と娘
橋本國彦/林柳波作詞: 田植え歌
橋本國彦/林柳波作詞: お六娘
橋本國彦/深尾須磨子作詞: 舞
《アンコール》
 シューマン: 献呈(「ミルテの花」作品25-1)
 小林沙羅/作曲・作詞: えがおの花

 日本声楽家協会が主催する「独演コンサート2015」シリーズで、ソプラノの小林沙羅さんを聴く。「独演コンサート」という名称はいささか古めかしいが、要するに日本声楽家協会の正会員になっている歌手の皆さんが出演するリサイタルを毎月開催しているシリーズだ。
 沙羅さんについては今さら説明の必要もないだろう。クラシック音楽界・オペラ界のアイドル的存在(?)で、クラシックおじさんたちの超人気者。あまり知られていないこのシリーズでも、今日の公演も早々に完売になったとか。全席自由席だが、私も発売日に早々とチケットを確保しておいて良かった。やはり沙羅さんのリサイタルが定員100名のサロンで聴けるというのは大変ありがたい企画だ。「ラ・フォル・ジュルネ」などよりも落ち着いて聴くことができるし、音響面でもはるかに条件が良いのが嬉しい。
 会場はJR日暮里駅のすぐ近くにある「日暮里サニーホール」。多目的のホールだが今日はコンサートサロンとして使用する。ホテルの建物の4階にあり、椅子を並べて100席ほどの長方形でフラットな部屋だが、5階部分まで使用しているので天井が6mと高く照明設備も整っている。50cmほどのステージも設えてあり、スタインウェイのD型コンサート・ピアノと本格的である。少人数のサロンの割りには空間が大きいため、音響も良い。

 プログラムの前半は、シューマンの歌曲を集めての12曲。いろいろな歌曲集の中から選び出したものだ。実はこの曲目、今年の5月3日の「ラ・フォル・ジュルネ2015」で相田みつを美術館で1回だけ開かれたリサイタルと同じである。その時も定員110名の会場だった。
シューマンの歌曲はロマン派の音楽そのもの。人への愛や自然への賛歌が書き綴られた詩に、自由な精神に彩られた音楽が付けられている。喜びや悲しみさえも美しい旋律で切々と歌われる。そこではオペラのアリアのように激情的に声を張る必要がなく、より自然な発生の中で、感情表現が豊かになるのである。小さなサロンでのリサイタルは、歌曲の本来の表現手法であろう。
 「紳士の皆様」は明るく伸びやかな声質が、上品で爽やかな印象を与えてくれる。「ズライカの歌」は愛する気持ちを切々と歌い、ロマンティックで情感に満ちていて語りかけるような歌唱に説得力があった。「花嫁の歌 」は花嫁が母親に向けての心情を歌ったもので、彼を好きになって! という情感が滲み出ている。「花嫁の歌 」も同様に、彼への気持ちを母への言葉に託している。優しい歌声だ、「ジャスミンの茂み」は早春の情景を歌ったものだろうか。自然の変化への戸惑いが歌に表れ、揺れる気持ちを描くようなちょっと翳りのある歌唱だった。「私の庭」は庭の花々に自らの幸せが見つからないことを託した歌。悲しげな歌の表情が複雑な心情をうまく表していた。「ミニョン」は心情の表現に優れた歌唱で、内に秘めた思いを訴えかけるような、悲しげで切なげな歌唱が心に響く。「牛飼いの娘」自然が清らかな羊飼いの娘を称える歌で、抒情的な歌唱が素敵だ。「森への郷愁」は森の自然を称える歌で、森を離れてしまった悲しさが綴られる。単なる感傷に過ぎないだけの情感の深さが表れていた。「捨てられた娘」は男に去られた娘の心情が歌われるが、日がな悲しみに暮れる、涙を堪えるような切なさが歌に乗って伝わってくる。「バラよ! バラよ!」は棘のないバラの夢を見たが現実にはバラには棘があるものだという意味深な歌。ストレートな心情表現ではなく、ちょっと幻想的な佇まい。「ことづて」は彼への愛する気持ちを自然に託して伝えたいという娘の心情を歌う。華やぐ気持ちと、憧れを乗せて、沙羅さんの歌唱が輝きを増す。
 シューマンの歌曲は、若い娘の心を優しく歌い上げる曲ばかり。沙羅さんの声質は明るく伸びやかで、若々しさを感じさせる張りがある。コロラトゥーラ系のオペラ・アリアなどとは違った、ロマンティックな心情表現が自然で、豊かで、おそらく聴いている多くの人の共感を呼ぶ優しさがある。やはり沙羅さんの歌は素敵だ。


 後半はガラリと変わって日本の歌曲。沙羅さんはちょっとシックなドレスに衣替え。
 團 伊玖磨作曲、北山冬一郎作詞の歌曲集「わがうた」は戦後間もなくの1947年の作。日本的な風情と西洋音楽のロマン性に近代的な和声も加わり、奥深い曲である。「序のうた」は抒情的な表現の中にちょっと強めの発声で押す部分もあり、表現の幅が広い。「孤独とは」は印象主義のようなピアノの伴奏が美しく、日本旋法のような歌唱が乗る。詩の語りのような表現手法の歌唱だ。「ひぐらし」は詩情性豊かなピアノとしっとりとした歌唱が見事に咬み合い、自然描写の日本的な表現が素晴らしい。「追悼歌」はその名の通り、重く悲しげな曲ではあるが、音楽が近代的であるため暗くなり過ぎない。沙羅さんの歌唱は悲しさの表現の中にも張りのある強さが感じられるものであった。「紫陽花」はフランス音楽のような洒脱なピアノが印象的で、朗々と大らかに歌う歌唱はとても劇的なものであった。

 続いては、橋本國彦(1904~1949)の作曲による歌曲を4曲。橋本は先ほどの團伊玖磨の師匠に当たる作曲家・指揮者・ヴァイオリニスト・教育者であり、日本の西洋クラシック音楽における近代・現代音楽の礎になった人。
 「お菓子と娘」は橋本の代表的な歌曲である。親しみやすい旋律と西條八十のほほえましい詩が素敵なとても可憐な曲だが、1928年の作ということを考えると、豊かな才能が窺える。沙羅さんの歌唱は、パリ娘がお菓子を楽しそうに食べているような、明るく透き通った声で、陽気に歌う。
 「田植え歌」は1930年の作で、日本旋法の曲。祭り囃子のようなピアノのリズムに乗せて、ハギレの良い発声で歌う。日本的な旋律や和声を西洋音楽の手法で表現。音楽の普遍性が感じられて興味深いところだ。
 「お六娘」は1929年の作で、こちらも日本旋法の曲だが、伴奏ピアノは近代音楽の雰囲気で、不協和音も含まれていてるなど、当時としては先進性に溢れていたことだろう。今聴いても古くささを感じない。沙羅さんの歌唱も素晴らしく、やはり日本の歌曲の日本語による歌唱にはネイティブならではの緻密で豊かな表現が可能になるし、また同時に聴いている私たちにも素直に理解できるところが良い。ドイツ人が聴くシューマンの歌曲も、同じような感覚なのだろう。
 ちょっと間を取って、最後は「舞」。1929年の作。なぜ間を取ったかというと、沙羅さんはいったんステージから下がって、振り袖の着物を羽織って再登場、この曲では歌と同時に「舞い」を披露した。これまでもオペレッタなどで踊ったりはしていたが、「舞い」は初めてだという。曲は日本旋法風だが、ピアノ伴奏は現代音楽に近く、深尾須磨子の詩には、歌唱だけでなく「語り」の部分もあり、前衛的な舞踊曲のような部分もある。「語り」も沙羅さんの活動領域内なので、よく通る声で、「謡い」のような「語り」と朗々としたものからオペラ・アリアのような声を張った「歌唱」まで、さらに「舞い」まで含めて、実に多彩で幅広い技量と表現力を披露してくれた。他の人にはできない独自の世界を生み出していたと思う。その意味では、新境地が切り開かれて行きつつあるのかもしれない。いずれにしても、沙羅さんの表現者としての多彩な才能にBrava!!

 アンコールは2曲。まず、シューマンの「献呈」。最近はリスト編曲のピアノ曲としてはやたらに聴く回数が多いが、オリジナルの歌曲は久し振り。この曲は何度聴いても良い。とくに清冽に沙羅さんの歌唱で聴いたら泣けてきてしまう。
 最後は、沙羅さんのオリジナル曲「えがおの花」。やはり沙羅さんのリサイタルはこの曲で締めくくるのが良い。心が洗われ、誰もが優しい気持ちになれるから。

 今日の小林沙羅さんのリサイタルは、かなり充実した内容であった。前半のシューマンは、美しいドイツ語の発音で情感たっぷりに謡い、後半は日本語による日本の歌曲。まったく異なる世界観を見事に描き分けている。今年は『フィガロの結婚』のスザンナを全国で歌っているし、先日は千住明さんのオペラ『万葉集~二上挽歌編』の初演にも参加している(2015年7月30日・サントリーホール/チケットは取っていたのに家庭の事情で行けなかった。残念!!)。西洋音楽の手法による日本的な表現、というのが沙羅さんの音楽世界を大きく広げて来ている。素晴らしいことだと思う。

 終演後、沙羅さんがロビーにお出ましになるのを多くのファンが待っていた。お疲れのところを一人一人としっかりご挨拶していただき、嬉しいと同時に恐縮してしまう。まあ今日は、小さなサロンならではの距離感で、ほのぼのとした時間であった。いつものように記念写真を・・・・。
 この後の沙羅さんは、10月6日に第一生命ホールでのリサイタル(ランチタイム)、そして『フィガロの結婚』がいよいよ東京公演(10月24日・25日/東京芸術劇場)が予定されているので行く予定だ。他にも公演はあるがスケジュールの都合がつかないものもあって残念至極。来年2016年には2月20日の東京文化会館・小ホールで行われるプラチナ・シリーズの荘村清志さんの回にゲスト出演される。こちらはチケットは確保している。・・・・う~む。完全な「追っかけ」になっているなぁ。

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【お勧めCDのご紹介】
 小林沙羅さんのデビューCDアルバムです。初回限定盤は本日のアンコールでも歌われた「えがおの花」の朗読が収められた「特典CD」と「豪華36Pブックレット」付きでBOX入りです。アルバム・タイトルは「花のしらべ」。花をテーマにした古今東西の歌曲の数々が収録されています。ピアノ伴奏は本日と同じ森島英子さんです。

花のしらべ(初回限定盤)
日本コロムビア
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