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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/12(水)オスロ・フィル日本公演/「明晰」なヴァシリー・ペトレンコと「クリスタル」なアリス=紗良・オット

2014年03月15日 02時22分13秒 | クラシックコンサート
東芝グランドコンサート2014
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演ツアー


2014年3月12日(水)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 13,000円
指 揮: ヴァシリー・ペトレンコ
ピアノ: アリス=紗良・オット*
管弦楽: オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ニールセン: 歌劇『仮面舞踏会』序曲
グリーグ: ピアノ協奏曲 イ短調*
《アンコール》
 シューマン:「3つのロマンス」より第2曲*
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第5番 ニ短調 作品47
《アンコール》
 ショスタコーヴィチ編: タヒチ・トロット(V.ユーマンズ:「二人でお茶を」)

「東芝グランドコンサート2014」はオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演ツアーで、本日が初日。この後、名古屋、広島、兵庫、福岡、金沢、川崎、仙台でコンサートを行う。ツアーを率いるのは昨年8月に首席指揮者に就任したヴァシリー・ペトレンコさん。今、世界中に注目されている若手指揮者のホープのひとりである。1976年生まれというから、30代の後半。確かに若いが、その評判通りに、どのような音楽を展開するのか、非常に楽しみであった。
 今回のツアーに同行するソリストは、ピアノのアリス=紗良・オットさんとヴァイオリンの諏訪内晶子さん。東京での公演は本日だけだが、3月21日に行われる川崎での公演は、諏訪内さんがソリストで別プログラム。そちらにも行く予定になっている。
 さて、今日の席も最前列で、協奏曲の際のソリストの正面の位置。協奏曲好きの身としては、ダイレクトに音を感じ取りたいがために選ぶ席ではあり、多少の音のバランスの悪さは我慢して・・・・。とはいうものの、大体いつも同じような席で聴いているのに、今日は特別にバランスが良くなかった。あるいはそう感じた。何故だか理由は分からないが、目の前にいる弦楽セクションの壁に遮られて、木管と金管が異様に小さく聞こえるのだ。今日はステージ背後のパイプオルガンも覆い隠す反響板(東京文化会館のようなタイプ)を設置していたこととか、非常に残響の長いこのホールの音響とか、様々な要素が重なっていたのかもしれない。北欧のオーケストラらしい澄んだ音色の木管が弱音の最よく聞こえなかったのがとても残念であった。

 1曲目はニールセンの歌劇『仮面舞踏会』序曲。日本ではあまり馴染みのないオペラだが、プログラム・ノートによれば、ニールセンの故国であるデンマークでは比較的ポピュラーな作品なのだそうだ。序曲だけなら多少の演奏機会はあるものの、いつかどこかで聴いたことがあるかなァ、という程度で、記憶も定かではない曲である。楽曲はハッピーエンドの喜劇らしく、陽気で楽しい。オスロ・フィルの音は、予想通りの北欧系。つまり、澄んだ弦楽アンサンブルと透明な空気感の漂う木管群、金管は線が細めで晴れやかな音色といったところだ。初めて聴くペトレンコさんの指揮は、非常にスッキリとしていて、音楽に不自然な誇張がない。オーケストラの特性を見事に活かして、明快でダイナミックな曲作りであった。

 2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。「裸足の天使」(と勝手に名付けた)ことアリス=紗良・オットさんの登場だ。キレイな黒髪を長めのボブに揃えて、踊るような足どりでステージへ。もちろん裸足である。アリスさんの協奏曲のレパートリーは意外に少なく、これまでに聴いたことがあるのは、リストの1番、ベートーヴェンの「皇帝」、チャイコフスキーの1番、グリーグ、ラヴェルのト長調くらいで、それぞれ複数回聴いている。グリーグは一昨年2012年のNHK音楽祭でロリン・マゼールさんの指揮、NHK交響楽団との共演で聴いたのが鮮明に記憶に残っている。実際にはレパートリーが少ないのではなくて、来日するときには海外のオーケストラにツアーに同行することが多く、どうしてもこの人の得意な曲・・・・・という風に選曲されてしまうのだろう。ショパンとか、シューマンとか、ブラームスとか、ラフマニノフとか、聴いてみたい曲は沢山ある。そう思う人も多いことだろう。
 さて第1楽章は、冒頭のカデンツァをかなりゆっくりとしたテンポでたっぷり間を取って聴かせた後、ソナタ形式の主部に入っても、どちらかといえば遅めのテンポ設定で、装飾的なピアノの細かなフレーズを明瞭に聴かせていく。アリスさんのピアノは、体重の乗せた強奏の部分は硬質な金属音を響かせるが、弱音や緩徐部分の音色は透明感がある。それもキラキラ煌めくようなイメージではなく、カタチのクッキリとしたクリスタルのような澄んだ響きだ。抒情的なフレーズであっても、甘ったるい感傷を排除して、クール・ビューティである。もちろんその根底にあるのは、女性的な繊細さと大陸的なスケール感を併せ持つ、アリスさんならではの音楽性がある。ペトレンコさんは美しい音色でオーケストラを鳴らしつつも完全に裏方に回ってしまい、アリスさんの一人舞台の様相を呈したようだ(席の位置が目の前だからそう感じただけかも)。
 第2楽章は、まず冒頭の弱音器を付けた弦楽のアンサンブルが、いかにも北欧系の清涼感を伝えて美しい。グリーグは何といってもノルウェーのオーケストラにはかなわない。上手い下手の問題ではない、オーケストラの持つ固有のサウンドが違うようである。ペトレンコさんの指揮も自然体で力みがない。この抒情性たっぷりの緩徐楽章であっても、オーケストラのかなり鳴らしているし、ピアノもダイナミックレンジを広く採って、力感のこもった演奏をしていた。
 第3楽章も、出だしはテンポはやや遅めか。若い指揮者と若いソリストだからもっと突っ走るかと思いきや、意外とじっくり聴かせてくれる。そして曲が進むにつれて、曲想の変化に伴いテンポの抑揚が激しく揺れ出す。ペトレンコさんとアリスさんの相性は良さそうだ。二人で音楽をしなやかに描き分けていく。中間部の弱音の美しさも絶品だし、主題部分のオーケストラとの掛け合いも力感が漲っていて素晴らしい。カデンツァからコーダにかけて、全開になるオーケストラと縦横に駆け巡るピアノの明瞭さも見事。最後はドラマティックな盛り上がりを見せ、曲を締めくくった。これは滅多にない名演と言って良いのではないだろうか。少なくとも、N響との共演の時よりは、遥かに良かった。なによりも、音楽に生命力が溢れているように感じたものである。アリスさんにBrava!!を送ろう。
 アリスさんのソロ・アンコールは、シューマンの「3つのロマンス」より第2曲。ヒートアップした聴衆の熱を冷ます、小粋な選曲である。

 後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。今回のオスロ・フィルが日本公演ツアーに持ってきたメインとなる管弦楽曲は、このショスタコーヴィチとマーラーの交響曲第1番「巨人」の2曲である。ノルウェーのオーケストラとしては、グリーグ以外には、日本では通用する名曲がないのであろうか、直接的には関係の薄いプログラムだ。逆の言い方をすれば、オスロ・フィルが国際的なレベルのオーケストラとしての地位を確立しているということであろう。
 第1楽章が始まって感じたのは、まずオーケストラが技術的に上手いこと。そして音がとてもキレイだということだ。ロシア=ソ連の豪壮で野太いイメージとは違って、透明で美しいのである。そうなるとショスタコーヴィチの音楽の持つ極限性や二面性、逆説的な諧謔性が、また違ったものに聞こえてくるから不思議だ。ソ連の葛藤がそこに描かれていたかというとやや疑問であるが、むしろ純音楽としての面白さや優位性が、すっきりとした音の向こうに見えてくるような気がした。ただ、冒頭にも断ったように、聴いている席の位置のせいもあってか、木管や金管の弱音がよく聞こえなかったということも何らかの影響を及ぼしているかもしれない。
 ペトレンコさんの指揮は、非常に「明晰」な印象で、感情的にならずに冷静に音楽の構造を明確に組み立てているが、剛直にならずに非常に柔軟性があり、全体の印象は、「ダイナミックなのにしなやか」といった感じだ。
 第2楽章のスケルツォでもその傾向は強く発揮されていた。ダイナミックレンジが広く、メリハリはかなり効いているし、オーケストラもダイナミックに鳴っているが、どこかクールで、理知的な印象を与える。
 第3楽章の緩徐楽章は、人や社会の負の要素が語られているのだが、これをこの無色透明のような音色で聴くと、社会学的ではなく哲学的に思えてくるから不思議だ。いずれにしても、ショスタコーヴィチのイメージに新しい解釈が加わったような印象すら受ける。
 第4楽章は、オーケストラのダイナミックな機能性が十分に発揮されていた。ペトレンコさんがここぞとばかりの推進力を持って、テンポを上げて駆け巡っていく。それでも楽曲の構造は明瞭に描かれているようだった。中間部に登場するホルンのソロなども純粋に上手い。終盤の背合奏の分厚いアンサンブルと圧倒的な音量を轟かしてのクライマックスは、豪快そのものであった。ペトレンコさんのオーケストラ・コントロールはなかなか素晴らしいものがある。
 アンコールは、ショスタコーヴィチの「タヒチ・トロット」。要はテレビ番組「サワコの朝」の主題曲である。なかなかエスプリの効いた選曲。これでペトレンコさんの好感度急上昇間違いなし。

 今回の「東芝グランドコンサート2014」は、素晴らしい指揮者とオーケストラを招聘したようだ。グリーグはお国ものなのでそのものズバリという感じであったし、ショスタコーヴィチは明晰な解釈で新しいイメージを生み出した。次回は3月21日にミューザ川崎で、「フィガロの結婚」序曲、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(ソリストは諏訪内晶子さん)、そしてマーラーの「巨人」。ロシア人の指揮者とノルウェーのオーケストラが演奏する独墺系の音楽に、またまた新しい解釈がなされるのであろうか。これは楽しみだ。

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1 コメント

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Unknown (shun)
2014-07-04 00:52:49
私は2階席でした。グリーグよかったですね。実に的確なレビューを書かれているので特に追加することはありませんが、、、。
同じ演目を仙台まで聴きに行きましたが、ツアー最終日だったせいか、あるいは田舎だったせいか(?)、東京公演よりリラックスして演奏しているように聴こえました。
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