Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/30(日)第13回東京音楽コンクール/本選会・弦楽部門/優勝・水野優也/2位・藤原秀章/3位・白井菜々子

2015年08月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第13回 東京音楽コンクール 本選会 弦楽部門

2015年8月30日(日)17:00~ 東京文化会館・大ホール 自由席 1階 1列 18番 2,000円
指 揮: 大井剛史
管弦楽: 東京交響楽団
【演奏者と曲目】
石原悠企(ヴァイオリン)★サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61
白井菜々子(コントラバス)★ボッテジーニ: コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調
森 朱理(ヴィオラ)★バルトーク: ヴィオラ協奏曲(シェルイ補筆版)
藤原秀章(チェロ)★ショスタコーヴィチ: チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107
水野優也(チェロ)★エルガー: チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
野見山玲奈(ヴァイオリン)★チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35

 「第13回 東京音楽コンクール 弦楽部門 本選会」を聴く。6日前の8月24日に開催された第2次予選を通過した6名のファイナリストが、本選会ではオーケストラとの共演でそれぞれ課題曲の中から選択した「協奏曲」を演奏する。
 今年から開催内容が大幅にリニューアルされた(詳細は前回8/24の記事参照)。そのために今年はピアノ部門がなく、そういう意味ではやや盛り上がりに欠ける感じになったが、各部門の本選出場者が6名に増やされたので、協奏曲を6曲演奏する本選会自体が長時間に及ぶコンサートになった。弦楽部門では、従来の「ヴァイオリン」「ヴィオラ」「チェロ」に加えて「コントラバス」部門も加わった。それにより、弦楽部門の応募総数122名のうち、本選まで進んだのはヴァイオリン2名(応募79名)、ヴィオラ1名(応募16名)、チェロ2名(応募16名)、コントラバス1名(応募11名)の6名となり、ヴァイオリンの皆さんにとってはやや狭き門となってしまったようだ。
 本選に進んだ6名の演奏は、第2時予選で聴かせていただいたので、その時点では私なりに何となくの順位は決まっているのだが、今回は敢えて書かないことにした。実際問題として楽器が4種類もあり、有名な曲も初めて聴いた曲もあるのでは、素人の私たちとしてはなかなか判断しにくく、ついつい私情に走ってしまいがち。それでは、演奏家の方たちに失礼に当たると思い、敢えて避けたのである。今日の本選会では演奏曲目は見事にバラけたので、6曲の協奏曲をまるまる楽しませていただけるわけだが、協奏曲というまた違ったフィールドに立ったとき、皆さんの演奏がどうなるのか見当も付かないのも事実だ。それでは演奏順に概観してみよう。

●石原悠企さん(ヴァイオリン)1993年生まれ
【曲目】サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61
 石原さんの演奏は、どちらかといえば二次予選の延長線上にあるような気がした。二次予選の7名のヴァイオリニストの中でも最も発揮度があり、男性的で骨太な音色とクセのない自然な演奏である。協奏曲はサン=サーンスということもあり、ロマン派の、しかもちょっと派手目でロマンティックな曲には、彼の演奏は向いているように思えた。第1奏者ということの緊張も多少はあったと思うが、おそらく彼の性格から来るところだろうと思われるが、大らかで豊かな、スケール感のある演奏には、期待度=大、である。ただ、惜しむらくは大ホールでの協奏曲ということで、大きく音を出そうとしたためか、全体的に押し出しは強いもののメリハリに乏しく、一本調子になってしまっていたようだ。第2楽章の緩徐楽章も比較的淡泊にスイスイと行ってしまった。もう少しじっくりと歌わせれば、抒情的な表現に奥行きが出てくると思う。技術的には上手いので、解釈や表現力の方にもう一工夫ほしてところだ。

●白井菜々子さん(コントラバス)1990年生まれ
【曲目】ボッテジーニ: コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調
 コンクールはコンクールとして、まったく別の意味からも、白井さんの演奏するこの曲を楽しみにしていた。というのも、コントラバス協奏曲なんて絶対数が少ないし、ましてオーケストラの演奏会でプログラムに載ることも滅多にないからだ。実際に私もコントラバス協奏曲をナマで聴いたことは一度もない。誠に得難い体験なのである。ボッテジーニの「コントラバス協奏曲 第2番」は15分強ほどのコンパクトな曲だが、3楽章形式で、第1楽章後半には超絶技巧のカデンツァがあり、第2楽章の緩徐楽章は美しい旋律が歌う。ボッテジーニは「コントラバスのパガニーニ」と呼ばれただけあって、技巧の難易度が高いだけでなく、イタリア風の大らかな旋律が美しい。
 今回、期待度ナンバーワンと捉えていた白井さんであるが、・・・・登場したところから表情がちょっと強ばっていて、やはり緊張からは逃れられないらしい。その辺りが演奏にもちょっと表れてしまい、第1楽章では硬さが見られ、速いパッセージなどにぎごちなさが見えたり、超高音域での音程のわずかな乱れなどが気になった。カデンツァあたりから落ち着きを採りも取り戻し、超絶技巧で会場を魅了した。第2楽章の緩徐楽章では、穏やかでロマン的な主題が柔らかくまろやかな音色で大きく歌い出し、これは素晴らしい。ほとんどがチェロの音域に重なるものの、楽器が大きな分だけチェロよりも音が深みがあり豊かに響きをもっている。繊細なディテールを持ち、人の呼吸のような生命感があり、それでいて落ち着いた気持ちにさせてくれる音色である。第3楽章のウキウキとした弾むような曲想に対して、白井さんのコントラバスの音色は明るい。コントラバスがこれほど明快で鮮やかな色彩で弾かれるのをこれまで聴いたことがない。演奏我終わると早くもBravo!!が飛んだが、その内の一人は私である。

●森 朱理さん(ヴィオラ)1987年生まれ
【曲目】バルトーク: ヴィオラ協奏曲(シェルイ補筆版)
 この曲もなかなか聴く機会のない曲だと思う。2年前の第11回東京音楽コンクール/弦楽部門の本選会でヴィオラの田原綾子さんが演奏したのもこの曲だった。彼女はそのまま優勝したので翌年1月の「優勝者コンサート」でも結局同じ曲を弾いた。ヴィオラも本格的な協奏曲が少ないのである。
 森さんのヴィオラは、二次予選の時に比べるとやや精彩を欠いていたように思う。あるいは曲のせいかもしれない。きちんと弾いているには違いないのだが、音楽に乗り切れていないというか、どこかしっくり来ないのである。オーケストラとの相性も決して良いとは言えないようだ。つまり、ソロ楽器であるヴィオラが輝いてこないのである。音量もあまり大きくないし、全体に平板なイメージ。音色に関しても、ヴィオラの持つ豊かな響き、ヴァイオリンとは違ったまろやかさや穏やかさがあまり感じられなかった。

●藤原秀章さん(チェロ)1994年生まれ
【曲目】ショスタコーヴィチ: チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107
 藤原さんの演奏は、総合力でかなりいいセン行っていたと思う。難解な楽曲の解釈に始まり、演奏する上での高度な技巧と難しい楽曲ならではの表現力、それにひとつひとつの音の音色と質感・・・・。色々な角度から見ても、なかなか隙のない演奏のように思える。
 そして、彼の演奏で最も良いと思われたのは、演奏がオーケストラと一体となって、音楽的に豊かな表情を持っていることだ。ハンガリー音楽の持つリズム感、予測が難しい旋律の展開、複雑な和声。それらを自分のものとして吸収し、豊かな音楽として外に発しているのである。短いリハーサルとゲネプロだけで、この難曲をよくもここまで仕上げたものだと思う。ここでも曲が終わるとBravo!!が飛んだ。

●水野優也さん(チェロ)1998年生まれ
【曲目】エルガー: チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
 水野さんの演奏は、とにかく音楽が歌っていた。もともとこの曲自体が大らかな旋律がいっぱい詰まったもので、超絶技巧を売り物にするような協奏曲ではないが、その分だけ表現力が求められることになる。水野さんのチェロは、まず楽器が良く鳴っていた。単なる大きな音が出ているというのではなくて、豊潤な響きが大らかで、おそらく遠くまで届く音であろう。二次予選の時は音が小さくて聞こえなかったノが不思議なくらい、人が違ったような豊かな音量であった。その音量に支えられて、朗々たる旋律の歌わせ方、ディテールまで磨き上げられたようなフレージングである。しかもそれをまったく憶することなく、自由で、伸び伸びと演奏していたように感じられた。その点は他の誰よりも伸び伸びしていたようである。自身の描きたい音楽世界がハッキリと見えていて、それを具体化する技巧をもっていて、それを実践する精神力を持っている。そんな感じの堂々たる演奏だったと言える。彼は終演後の表彰式で、「協奏曲をオーケストラと弾きたくてコンクールに応募した」と語っていたが、恐らく彼の中では、予選で演奏したソロやデュオの曲よりも、今日のエルガーの協奏曲の方に照準を合わせていたのであろう。予選の時とは全然違う、スケールの大きな演奏であった。

●野見山玲奈さん(ヴァイオリン)1993年生まれ
【曲目】チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
 野見山さんの演奏は、第1楽章の初めの方はなかなか良い感じで始まったと思ったのだが、徐々に荒っぽさが目立つようになってきた。彼女も協奏曲のために大きな音を出そうとしているのか、音質そのものが荒い。絹を引くような繊細さもなければ、魂を揺さぶるような情熱でもなく、低音部のガリガリした音はまだ良いとしても高音部の引きつるよう音は、とても神経質に聞こえて心がささくれ立ってくるような気がした。音楽に癒しを求めているわけでは決してないが、神経を逆なでするような音色というのはあまりいただけない。聴いていて辛くなってくるのである。一所懸命演奏しているのは分かるが、強く何かを押し出せば聴く者が感動するわけではない。聴く者の立場になってというのは簡単だが、実際に自分の演奏を客席で聴くことはできないわけだから、意外に難しいことなのかも。あるいは世界の一流演奏家など他の人の演奏を客席でじっくり聴いてみるのも良いかも知れない。私たち聴く方が専門なので、演奏家による違いは痛いほどよく分かるのである。

 さて、すべての演奏が終わったのは午後8時30分過ぎであった。審査結果の発表と表彰式は9時15分くらいからという。今日は最後まで付き合うことにした。一旦はロビーで友人たちと歓談し、またホール内の戻っての表彰式である。審査の結果は以下の通りとなった。

第13回東京音楽コンクール 本選 弦楽部門 審査結果

 第1位 水野優也さん(チェロ)
 第2位 藤原秀章さん(チェロ)
 第3位 白井菜々子さん(コントラバス)
 入 選 石原悠企さん(ヴァイオリン)
     森 朱理さん(ヴィオラ)
     野見山玲奈さん(ヴァイオリン)
     
 聴衆賞 水野優也さん(チェロ)

 審査の結果は厳粛に受け止めるとして・・・・。大雑把に言ってしまえば、今回の「弦楽部門」は大きい楽器の勝ち。小さい方、とくにヴァイオリンが応募人数も多いのに全体的に低迷していたようで、ちょっと心配だ。来年は「弦楽部門」は開催されないそうなので、弦楽の人たちにとっては、このひとつの大きなコンクールが来年はないことになる。それだけに今年はもっとハイレベルな競争を期待したのだが、結果的には残念なことになった。その代わりに、チェロの水野さん、藤原さんと、コントラバスの白井さんという新しいスター誕生に注目していきたい。
 やはり個人的な思い入れになってしまうが、白井さんの今後が気になるところだ。コントラバスというあまり注目されない楽器にスポットライトが当てられることが増えて来そう。ソロでの演奏の機会が増えれば、音楽界の注目も集まる。コントラバスの隠れた名曲(?)も演奏されるようになる。白井さんにはその役割を担っていってほしいものである。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 8/25(火)小林沙羅/日本声楽家... | トップ | 9/4(金)日本フィル東京定期/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事