
読売日本交響楽団 第22回読響メトロポリタン・シリーズ
2016年3月4日(木)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 4,312円
指 揮:ユージン・ツィガーン
ギター:朴 葵姫(パク・キュヒ)*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:小森谷 巧
【曲目】
ビゼー:『カルメン』組曲から 「闘牛士」「ハバネラ」「間奏曲」
「アラゴネーズ」「闘牛士の歌」「夜想曲」「ジプシーの踊り」
ファリャ:『三角帽子』第2組曲
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲*
《アンコール》
タレガ:アルハンブラの思い出*
ラヴェル:ボレロ
読売日本交響楽団の「第22回 読響メトロポリタン・シリーズ」を聴く。読響の定期シリーズは、2016年4月以降の来期(2016/2017シーズン)から大幅に改変されることになり、この「読響メトロポリタン・シリーズ」は今回をもって終了することになった。東京芸術劇場コンサートホールで開催される読響の定期シリーズは、もうひとつ「東京芸術劇場マチネーシリーズ」というのがあり(私はほとんど行ったことがない)、来期からはこの2つの定期シリーズが合体して、新たに「土曜マチネーシリーズ」と「日曜マチネーシリーズ」に生まれ変わる。要するに土日の2日連続でマチネー開催され、完全に同プログラムになるのである。「読響メトロポリタン・シリーズ」の会員は「土曜マチネーシリーズ」へと同席で更新されたので、次回からも同じ席で聴くことができるが、土曜日の午後に固定されてしまうので、他団体の定期シリーズや様々なコンサートとバッティングすることが多くなりそう。そちらの方が心配である。ちなみにチケット料金もさりげなく値上げされている。消費税率が上がるのは来年2017年4月からだからそれが理由ではないので、来年もまた値上がりするのかと思うと頭が痛い。
さて今日のコンサートは、アメリカから若き俊英、ユージン・ツィガーンさんを招いて、スペイン情緒の名曲を並べた魅力的なプログラムになっている。ツィガーンさんは読響には2度目の登場だが、2年前の客演の時はあいにく聴いていないので、今回が初対面だ。アメリカ人の父と日本人の母のもと、1981年生まれの34歳。何だかやたらにカッコ良く、超イケメンで颯爽としていて、ハリウッドの映画スターのような感じだ。
そしてもう一つの目玉は、ギターの朴 葵姫(パク・キュヒ)さんがゲストで客演することだ。1985年生まれというので30歳を過ぎているのだが、どうみても20歳くらいにしか見えない、小柄で可愛らしいアイドルのような女性である。生まれは韓国だが、1歳から5歳までを日本で暮らし、また東京音楽大学に学んだこともあり、日本との関わりは深い。すでに6枚のCDをリリースするなど、人気、実力ともに高く評価されている存在だ。私はどういうわけかこれまで聴いたことがなく、彼女も初対面。このシリーズは最前列のソリスト正面の席なので、ギターのナマ音が楽しみである。

1曲目はビゼーの『カルメン』組曲から。ビゼーの死後、大ヒットとなったオペラ『カルメン』から、フリッツ・ホフマンが編纂した第1組曲と第2組曲からの抜粋で演奏された。颯爽と登場したツィガーンさんだが、詳しい経歴は知らないが、こうしたフランス~スペインものが得意なのか・・・。通常、この手の名曲ものであれば、オーケストラは手慣れたものなので、普通に演奏すればうまくいくと思うのだが。聴いた感じでは、全体が何となくドタバタしたイメージで、落ち着かないのである。どうやら全体的に早めのテンポで、ぐいぐいと進めていきたいようなのだが、ツィガーンさんの突っ込み気味のテンポ感に合っているのは弦楽器くらいで、木管はわずかに遅れ、金管は、とくにトランペットが主題を吹くと半テンポ遅れて着いてくるような感じ。金管がリズムを刻む場合も立ち上がりが遅いために弦とずれる。打楽器も遅れ気味。一方で「夜想曲」(ミカエラのアリア)での小森谷巧さんのヴァイオリンのソロは甘美な音色が素晴らしい。そんな感じだから、スペイン風の情熱的な「熱い」感じがなかなか伝わってこないのである。名曲オンパレードの『カルメン』組曲だけに、リズム感のキレ味が悪いと、なんだかモヤモヤして完全燃焼になってしまうのだ。
2曲目はファリャの『三角帽子』第2組曲。これは元はバレエ音楽で、第2組曲はバレエの第2幕からの抜粋になっている。「隣人たちの踊り(セギディーリヤ)」「粉屋の踊り(ファルーカ)」「終幕の踊り」の3曲から成っている。バレエ音楽だといっても、スペインの民族舞曲風の曲ばかりなので、ここもリズム感とキレ味が重要になってくる。
演奏の方は、先ほどよりもぐっと良くなって、縦の線が並ぶようになってきた。リズムに乗ってしまえば、読響ならではの強烈なダイナミックレンジが活きてくるので、金管楽器からは陽性で眩しい色彩感が溢れ出し、弦楽は前のめりでエッジを効かせたアンサンブルが弾む。打楽器群もラテン系のリズムに乗ってきた。というわけで、コチラの方はまずまずの快演だったといえる。やっとエンジンが暖まって来たという感じだ。
後半はまず、朴 葵姫さんを迎えての「アランフェス協奏曲」。オーケストラは2管編成だが、弦楽5部は室内オーケストラクラスの小編成に落とす(10-8-6-4-2くらいだったと思う)。そして独奏ギターの前には拡声ようのマイクが立ち、指揮者の前あたりに球形のスピーカーが用意された。ギターという楽器はその大きさの割りには極端に音量が小さく、ナマのままではとてもギター協奏曲のソロを演奏して2000人も入るホールに音を響かせることはできない。だから大ホールでの協奏曲の時はこうして拡声装置を使うことが多いのである。ところが、私の席は最前列のソリストの正面で、朴 葵姫さんのギターから3メートルくらいしか離れていない。だからナマの音がよく聞こえ、かえってスピーカーからの音が感じられなかった。もう少し後ろの方の席で聴いていた友人によれば、スピーカーを通した音がよく聞こえていたということである。
第1楽章。ギターのソロが和音を掻き鳴らす。朴 葵姫さんのギターは、音色がとても柔らかく澄んでいて、そういった意味ではあまりスペイン風の情熱的な印象は薄く、むしろ都会的というか、繊細で可憐な印象だ。音量も小さめ、だと思う。オーケストラ側が小編成になった分だけ一層引き締まり、鋭さを増して来たのに対して、朴 葵姫さんのギターはむしろ爽やかな風がそよりと吹き抜ける感じで、優しい対比を生み出している。スペイン音楽の持つエキゾチックで熱っぽい雰囲気が薄れ、洗練された、都会的な印象であった。
第2楽章は緩徐楽章。誰でも聴いたことがあるはずの有名な主題で始まる。コールアングレの牧歌的な旋律がスペインの王宮から臨む田園風景を思い描かせる。ギターが主題を繰り返すと細かな装飾音符が加わる変奏となり、協奏曲風の展開になっていく。聴かせ所だ。中盤では低弦による主題と不協和音が情感をそそる。カデンツァでは、華やかな技巧を見せるが、朴 葵姫さんのギターはあくまで、繊細で気品がある。狭いレンジの中で、細やかな表情が意外なくらいの豊かに描かれているのは、さすがだ。
第3楽章はロンド。ギターの軽快で透明感のある音色が、爽やかな主題を描いていく。朴 葵姫さんはリズム感も上品でなかなか素敵だ。オーケストラとの対話もリズミカルに展開する。オーケストラ側は弦楽がピツィカートを中心にギターとテンポ良く対話していくのに対して、金管がリズムを刻むと立ち上がりが遅く重くなってしまっていたのが残念だった。朴 葵姫さんのギターは、終始安定した技巧を煌めかせ、早いパッセージもテンポ感良くサッと流れる。それでいてひとつひとつの音符が丁寧に弾かれているのが、見ていてもよく分かるし、音楽も表情豊かに流れていく。爽やかな印象を最後まで保ち、繊細で上品な「アランフェス協奏曲」であった。
朴 葵姫さんのソロ・アンコールは、誰もが期待していた通りに「アルハンブラの想い出」。早めのテンポで、トレモロ奏法がムラなくとても美しく流れている。中間部では固い音色に変えて鮮やかに描き出す。あまりテンポを揺らさず、クールで端正な造形の中に秘めたる情熱を感じさせる、そんなタイプの演奏であった。
最後は、大編成に戻って「ボレロ」。耳を澄まさないと聞こえないくらいの小音量で、スネアドラムがボレロのリズムを刻み始める。フルートをはじめとして、木管の各パートが交替で2種類の主題を吹いていく。弦楽はまだピツィカートでリズムを刻んでいる。全体は徐々にクレシェンドしていきやがて金管も加わり・・・・。お馴染みの「ボレロ」の光景である。木管群の競演は、エキゾチックなイメージのスペイン舞曲である「ボレロ」にフランス風の鮮やかな色彩感をもたらすもの。ところが、今日の演奏では各パートの楽器の音が生々しく聞こえ、洒脱な色彩感のようなものはあまり感じられなかった。つまり演奏としてはうまくまとまっているのだが、何か煌めくものが足りない、そんか感じなのである。終盤は音量がどこまでもどこまでも大きくなっていき、最後に転調して耳をつんざくような爆音が轟くまでになるのは、いかにも読響らしいパワフルさである。終わり良ければ、すべて良し・・・・。で、良いのかなぁ。

結局、アメリカ生まれのツィガーンさんの音楽は、良く言えばインターナショナルなクセのない演奏であり、素直で聴きやすい。だが一方で、それではわざわざスペイン情緒の曲を集めた意味が薄れてしまう。スペインから指揮者を招いて、暑苦しくも情熱的な、色濃い演奏を聴かせて欲しい気もするし、また一方では純音楽としての洗練された演奏も聴いてみたい。今日は・・・・どちらともつかない、どこか中途半端な印象を残してしまったようだ。
終演後は、朴 葵姫さんのサイン会があった。せっかくの機会なので、「Sueño(スエーニョ/夢)」というデビューCDを購入してそれほど長くはない列に並ぶ。ジャケットと写真にサインをいただいた。どうみてもアイドルのサイン会にオジさんたちが並んでいるようにしか見えない・・・・。

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【お勧めCDのご紹介】
私が購入したCDとは違いますが、朴 葵姫さんの一番新しいCD「FAVORITE SELECTION」です。いわゆるベスト盤で、過去の5枚のCDからの抜粋と、新録音も加えています。今日アンコールで弾いてくれた「アルハンブラの思い出」も収録されています。しかもDVD付き。朴 葵姫さんというギタリストを知るのには最適なアルバムになっています。
2016年3月4日(木)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 4,312円
指 揮:ユージン・ツィガーン
ギター:朴 葵姫(パク・キュヒ)*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:小森谷 巧
【曲目】
ビゼー:『カルメン』組曲から 「闘牛士」「ハバネラ」「間奏曲」
「アラゴネーズ」「闘牛士の歌」「夜想曲」「ジプシーの踊り」
ファリャ:『三角帽子』第2組曲
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲*
《アンコール》
タレガ:アルハンブラの思い出*
ラヴェル:ボレロ
読売日本交響楽団の「第22回 読響メトロポリタン・シリーズ」を聴く。読響の定期シリーズは、2016年4月以降の来期(2016/2017シーズン)から大幅に改変されることになり、この「読響メトロポリタン・シリーズ」は今回をもって終了することになった。東京芸術劇場コンサートホールで開催される読響の定期シリーズは、もうひとつ「東京芸術劇場マチネーシリーズ」というのがあり(私はほとんど行ったことがない)、来期からはこの2つの定期シリーズが合体して、新たに「土曜マチネーシリーズ」と「日曜マチネーシリーズ」に生まれ変わる。要するに土日の2日連続でマチネー開催され、完全に同プログラムになるのである。「読響メトロポリタン・シリーズ」の会員は「土曜マチネーシリーズ」へと同席で更新されたので、次回からも同じ席で聴くことができるが、土曜日の午後に固定されてしまうので、他団体の定期シリーズや様々なコンサートとバッティングすることが多くなりそう。そちらの方が心配である。ちなみにチケット料金もさりげなく値上げされている。消費税率が上がるのは来年2017年4月からだからそれが理由ではないので、来年もまた値上がりするのかと思うと頭が痛い。
さて今日のコンサートは、アメリカから若き俊英、ユージン・ツィガーンさんを招いて、スペイン情緒の名曲を並べた魅力的なプログラムになっている。ツィガーンさんは読響には2度目の登場だが、2年前の客演の時はあいにく聴いていないので、今回が初対面だ。アメリカ人の父と日本人の母のもと、1981年生まれの34歳。何だかやたらにカッコ良く、超イケメンで颯爽としていて、ハリウッドの映画スターのような感じだ。
そしてもう一つの目玉は、ギターの朴 葵姫(パク・キュヒ)さんがゲストで客演することだ。1985年生まれというので30歳を過ぎているのだが、どうみても20歳くらいにしか見えない、小柄で可愛らしいアイドルのような女性である。生まれは韓国だが、1歳から5歳までを日本で暮らし、また東京音楽大学に学んだこともあり、日本との関わりは深い。すでに6枚のCDをリリースするなど、人気、実力ともに高く評価されている存在だ。私はどういうわけかこれまで聴いたことがなく、彼女も初対面。このシリーズは最前列のソリスト正面の席なので、ギターのナマ音が楽しみである。

1曲目はビゼーの『カルメン』組曲から。ビゼーの死後、大ヒットとなったオペラ『カルメン』から、フリッツ・ホフマンが編纂した第1組曲と第2組曲からの抜粋で演奏された。颯爽と登場したツィガーンさんだが、詳しい経歴は知らないが、こうしたフランス~スペインものが得意なのか・・・。通常、この手の名曲ものであれば、オーケストラは手慣れたものなので、普通に演奏すればうまくいくと思うのだが。聴いた感じでは、全体が何となくドタバタしたイメージで、落ち着かないのである。どうやら全体的に早めのテンポで、ぐいぐいと進めていきたいようなのだが、ツィガーンさんの突っ込み気味のテンポ感に合っているのは弦楽器くらいで、木管はわずかに遅れ、金管は、とくにトランペットが主題を吹くと半テンポ遅れて着いてくるような感じ。金管がリズムを刻む場合も立ち上がりが遅いために弦とずれる。打楽器も遅れ気味。一方で「夜想曲」(ミカエラのアリア)での小森谷巧さんのヴァイオリンのソロは甘美な音色が素晴らしい。そんな感じだから、スペイン風の情熱的な「熱い」感じがなかなか伝わってこないのである。名曲オンパレードの『カルメン』組曲だけに、リズム感のキレ味が悪いと、なんだかモヤモヤして完全燃焼になってしまうのだ。
2曲目はファリャの『三角帽子』第2組曲。これは元はバレエ音楽で、第2組曲はバレエの第2幕からの抜粋になっている。「隣人たちの踊り(セギディーリヤ)」「粉屋の踊り(ファルーカ)」「終幕の踊り」の3曲から成っている。バレエ音楽だといっても、スペインの民族舞曲風の曲ばかりなので、ここもリズム感とキレ味が重要になってくる。
演奏の方は、先ほどよりもぐっと良くなって、縦の線が並ぶようになってきた。リズムに乗ってしまえば、読響ならではの強烈なダイナミックレンジが活きてくるので、金管楽器からは陽性で眩しい色彩感が溢れ出し、弦楽は前のめりでエッジを効かせたアンサンブルが弾む。打楽器群もラテン系のリズムに乗ってきた。というわけで、コチラの方はまずまずの快演だったといえる。やっとエンジンが暖まって来たという感じだ。
後半はまず、朴 葵姫さんを迎えての「アランフェス協奏曲」。オーケストラは2管編成だが、弦楽5部は室内オーケストラクラスの小編成に落とす(10-8-6-4-2くらいだったと思う)。そして独奏ギターの前には拡声ようのマイクが立ち、指揮者の前あたりに球形のスピーカーが用意された。ギターという楽器はその大きさの割りには極端に音量が小さく、ナマのままではとてもギター協奏曲のソロを演奏して2000人も入るホールに音を響かせることはできない。だから大ホールでの協奏曲の時はこうして拡声装置を使うことが多いのである。ところが、私の席は最前列のソリストの正面で、朴 葵姫さんのギターから3メートルくらいしか離れていない。だからナマの音がよく聞こえ、かえってスピーカーからの音が感じられなかった。もう少し後ろの方の席で聴いていた友人によれば、スピーカーを通した音がよく聞こえていたということである。
第1楽章。ギターのソロが和音を掻き鳴らす。朴 葵姫さんのギターは、音色がとても柔らかく澄んでいて、そういった意味ではあまりスペイン風の情熱的な印象は薄く、むしろ都会的というか、繊細で可憐な印象だ。音量も小さめ、だと思う。オーケストラ側が小編成になった分だけ一層引き締まり、鋭さを増して来たのに対して、朴 葵姫さんのギターはむしろ爽やかな風がそよりと吹き抜ける感じで、優しい対比を生み出している。スペイン音楽の持つエキゾチックで熱っぽい雰囲気が薄れ、洗練された、都会的な印象であった。
第2楽章は緩徐楽章。誰でも聴いたことがあるはずの有名な主題で始まる。コールアングレの牧歌的な旋律がスペインの王宮から臨む田園風景を思い描かせる。ギターが主題を繰り返すと細かな装飾音符が加わる変奏となり、協奏曲風の展開になっていく。聴かせ所だ。中盤では低弦による主題と不協和音が情感をそそる。カデンツァでは、華やかな技巧を見せるが、朴 葵姫さんのギターはあくまで、繊細で気品がある。狭いレンジの中で、細やかな表情が意外なくらいの豊かに描かれているのは、さすがだ。
第3楽章はロンド。ギターの軽快で透明感のある音色が、爽やかな主題を描いていく。朴 葵姫さんはリズム感も上品でなかなか素敵だ。オーケストラとの対話もリズミカルに展開する。オーケストラ側は弦楽がピツィカートを中心にギターとテンポ良く対話していくのに対して、金管がリズムを刻むと立ち上がりが遅く重くなってしまっていたのが残念だった。朴 葵姫さんのギターは、終始安定した技巧を煌めかせ、早いパッセージもテンポ感良くサッと流れる。それでいてひとつひとつの音符が丁寧に弾かれているのが、見ていてもよく分かるし、音楽も表情豊かに流れていく。爽やかな印象を最後まで保ち、繊細で上品な「アランフェス協奏曲」であった。
朴 葵姫さんのソロ・アンコールは、誰もが期待していた通りに「アルハンブラの想い出」。早めのテンポで、トレモロ奏法がムラなくとても美しく流れている。中間部では固い音色に変えて鮮やかに描き出す。あまりテンポを揺らさず、クールで端正な造形の中に秘めたる情熱を感じさせる、そんなタイプの演奏であった。
最後は、大編成に戻って「ボレロ」。耳を澄まさないと聞こえないくらいの小音量で、スネアドラムがボレロのリズムを刻み始める。フルートをはじめとして、木管の各パートが交替で2種類の主題を吹いていく。弦楽はまだピツィカートでリズムを刻んでいる。全体は徐々にクレシェンドしていきやがて金管も加わり・・・・。お馴染みの「ボレロ」の光景である。木管群の競演は、エキゾチックなイメージのスペイン舞曲である「ボレロ」にフランス風の鮮やかな色彩感をもたらすもの。ところが、今日の演奏では各パートの楽器の音が生々しく聞こえ、洒脱な色彩感のようなものはあまり感じられなかった。つまり演奏としてはうまくまとまっているのだが、何か煌めくものが足りない、そんか感じなのである。終盤は音量がどこまでもどこまでも大きくなっていき、最後に転調して耳をつんざくような爆音が轟くまでになるのは、いかにも読響らしいパワフルさである。終わり良ければ、すべて良し・・・・。で、良いのかなぁ。

結局、アメリカ生まれのツィガーンさんの音楽は、良く言えばインターナショナルなクセのない演奏であり、素直で聴きやすい。だが一方で、それではわざわざスペイン情緒の曲を集めた意味が薄れてしまう。スペインから指揮者を招いて、暑苦しくも情熱的な、色濃い演奏を聴かせて欲しい気もするし、また一方では純音楽としての洗練された演奏も聴いてみたい。今日は・・・・どちらともつかない、どこか中途半端な印象を残してしまったようだ。
終演後は、朴 葵姫さんのサイン会があった。せっかくの機会なので、「Sueño(スエーニョ/夢)」というデビューCDを購入してそれほど長くはない列に並ぶ。ジャケットと写真にサインをいただいた。どうみてもアイドルのサイン会にオジさんたちが並んでいるようにしか見えない・・・・。


【お勧めCDのご紹介】
私が購入したCDとは違いますが、朴 葵姫さんの一番新しいCD「FAVORITE SELECTION」です。いわゆるベスト盤で、過去の5枚のCDからの抜粋と、新録音も加えています。今日アンコールで弾いてくれた「アルハンブラの思い出」も収録されています。しかもDVD付き。朴 葵姫さんというギタリストを知るのには最適なアルバムになっています。
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