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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/5(土)気まぐれ(?)ユジャ・ワンのピアノ・リサイタルは「珠玉」の音の氾濫

2011年03月07日 01時37分58秒 | クラシックコンサート
ユジャ・ワン ピアノ・リサイタル

2011年3月5日(土)18:00~ 紀尾井ホール 全席指定 1階 BR1列 6番 7,000円
ピアノ: ユジャ・ワン(Yuja Wang)
【曲目】
ラフマニノフ: コレルリの主題による変奏曲 作品42
シューベルト: ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D958(遺作)
スクリャービン: 前奏曲 ロ長調 op.11-11
        前奏曲 ロ短調 作品13-6
        前奏曲 嬰ト短調 作品11-12
        練習曲 嬰ト短調 作品8-9
        詩曲 第1番 嬰ヘ長調 作品32-1
メンデルスゾーン(S.ラフマノニフ編):「夏の夜の夢」から“スケルツォ”
サン=サーンス(V.ホロヴィッツ編):「死の舞踏」作品40
ビゼー(V.ホロヴィッツ編):「カルメンの主題による変奏曲」
《アンコール》ラフマニノフ: ヴォカリーズ
       モシュコフスキ: 火花 作品36-6
       グルック: 精霊の踊り
       モーツァルト(ヴォロドス編): トルコ行進曲

 ユジャ・ワンさんは気まぐれ?? 彼女の初来日リサイタルは、チケット発売時点で発表されていたプログラムはシューマン、スクリャービン(曲目未定)、ショパンだった。その後、主催のKAJIMOTOから曲目変更を知らせるハガキが届いた。それが本日の公演プログラムに印刷されているラフマニノフ、シューベルト、スクリャービン、ムソルグスキー、メンデルゾーン、サン=サーンスだった。ところが今日会場に来ると「曲順・曲目変更のお知らせ」が張り出してあり、プログラムと一緒に配布されてもいた。前半は同じラフマニノフの「コルレリの主題による変奏曲とシューベルトの「ピアノ・ソナタ第19番」。後半のスクリャービンに一部曲目変更があった。ところが後半が始まる前にアナウンスがあり、予定されていたムソルグスキーの「はげ山の一夜」は中止、代わりに「カルメンの主題による変奏曲」となった。これによってプログラムがかなり短くなってしまった結果が、アンコール4曲も演奏することに。最終的には上記の曲目が演奏された。曲目を観ればわかるように、選曲にはこれといったテーマのようなものは見あたらないが、いずれもかなり技巧派の曲ばかり。いわゆる「名曲」を排し、超絶技巧の指使いから表現力を求められる曲まで多彩に盛り込まれており、彼女ならではの渾身のプログラムとなった。

 ユジャ・ワンさんは1987年、北京生まれの23歳。中国の表記では、〈王 羽佳〉と書く。名前の通りに羽ばたくような自由さと宝石のような輝きを持つ、素晴らしい音色の演奏を聴かせてくれた。アメリカを中心に世界中で活躍しているのは、テレビで放送されたのを何回か観て知っていたので、とりあえずデビューCD「ソナタ&エチュード」は聴いていた。卓越した技巧の持ち主であることは聴けばすぐにわかるが、ロシア系やヨーロッパ系のピアニストと違う点は、お国訛りのないことだろうか。いわばアメリカ系の、すっきりとした明快な演奏スタイルは、妙な思い入れや、独りよがりの芸術観にこだわるようなところがなく、非常に素直な印象さえ感じられる。明るく、歯切れが良くて、わかりやすい。同じ中国系というところでは、先日聴いたラン・ラン(郎朗)を少し女性的にしっとりさせた感じというところか。
 18時を10分近く過ぎて、客席の照明が落とされ、予想した通りに真っ赤なドレスでユジャ・ワンさんが登場。スタスタと歩いてきてペコリ。深々とお辞儀をしてピアノの前に座り、そこからは自分の間合いでおもむろにラフマニノフを弾き始めた。
「コレルリの主題による変奏曲」は主題は単純だが、多彩な変奏が20も続く難曲でもある。ユジャ・ワンさんの演奏は、音色やリズムの変化に天才的なヒラメキが感じられ、20分近い長い曲なのにだらけさせない。その割りには、聴衆に媚びを売るようなわざとらしさがなく素直で聴きやすいのである。変奏曲にふさわしく、多彩な音色を繰り出してくるのだが、フランス人のような色彩的な感じではなく、無色透明だが煌めく量が変化し、音に濃淡が描かれるといった印象だ。
 シューベルトのピアノ・ソナタ第19番は、第1楽章は短調と長調が目まぐるしく入れ替わる気むずかしげな曲想がシューベルトらしい。今日の演奏でも、そのあたりの対比が巧く、メリハリの効いた多彩な表現となって飽きさせない。全体としては明るい華やかさが勝っていた。第2楽章はAdagioの旋律を繊細なタッチで歌わせている。超絶技巧派のピアニストの抑制が見事に効いた緩徐楽章は緊張感があってなかなか良いものだ。第3楽章はメヌエット。古典派の優雅なメヌエットとは違い、抒情的かつ煌びやかな演奏だった。第4楽章はロンド。ここでは「流れ」が良く、リズミカルで、弾むようなキレの良い演奏が若々しさを感じさせた。

 後半のスクリャービンは、小品を5曲。1曲が変更となり曲順も変わった。練習曲を1曲減らして代わりに2つの詩曲がら第1番が加わった。練習曲と前奏曲はいずれも19世紀末の作品、詩曲が20世紀初頭だ。現代音楽の先駆者として知られるスクリャービンだが、今日のプログラムは調性が明瞭でロマン派後期の曲想の抒情的な曲ばかりである(詩曲は印象派風)。キラキラと眩しげな分散和音の中からくっきりと浮かび上がる主旋律がロマンティックに響く、女性らしい美しい演奏であった。音の透明感が曲のイメージを際立たせていて、うっとりするような美しさだった。
 メンデルスゾーン/ラフマニノフ編の「スケルツォ」は、音の粒立ちがキレイで、細かなガラス玉を沢山転がすような音の粒が、全体としては流麗な流れを作り、爽やかささえ感じられる演奏だった。
 サン=サーンス/ホロヴィッツ編の「死の舞踏」は、重低音の力強さが絶妙のバランスで、ユジャ・ワンさんの構成力の素晴らしさを発揮していた。透明な音色が曲全体が重くなりすぎるのを留める働きをしていたように思う。
 急遽変更されたらしい、「カルメンの主題による変奏曲」もホロヴィッツの編曲によるもので、『カルメン』第2幕冒頭の「ジプシーの歌」を主題とした変奏曲である。お馴染みの旋律をカデンツァ風の華麗なピアノが目まぐるしく駆け巡る、かなり技巧派の曲だ。ユジャ・ワンさんは、超絶技巧もサラリとこなし、後半、徐々に盛り上げていくのも見事。平然と弾ききった。彼女のピアノは、小柄な女性らしく、ffの音量がそれほど大きくなく、従ってダイナミックレンジも広くはない。その代わりに、ppからffまでのバランスが良く、まとまりが良いという印象を持った。
 アンコールの4曲は、またまた不思議な選曲だ。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」はしっとり抒情的な演奏だったか、少々メリハリを効かせて、なかなか良い。モシュコフスキの「火花」は、とにかく音符の数の多い曲だが、弱音で淀みなくキラキラ弾くのはお見事。グルックの「精霊の踊り」は一転してロマンティックなスローな曲。ここは情感をこめて映画音楽のような美しさ。最後の「トルコ行進曲」はモーツァルトっぽく素朴に始まるのに、最後には音の奔流となって押し寄せてくるスゴイ編曲。技巧的にも超難曲と思われる。コンサートの最後を締めくくるにふさわしく、ここは豪快にフィニッシュを迎えた。

 今日のプログラムは、テーマはよくわからなかったが、キーワードはラフマニノフとホロヴィッツではないだろうか。ラフマニノフの作曲した曲と編曲した曲に加え、ホロヴィッツが編曲した曲と得意にしていた曲…。ユジャ・ワンさんは偉大に二人のピアニスト挑んだのだろうか。実際に聴いた印象では、「共感」したのではないかと思われた。超絶技巧の連続でありながら、力みがなく、清々しくさえ感じられる音の奔流だった。

 終演後は恒例のサイン会。初来日ということもあってか、今日紀尾井ホールに来たほとんどの人がならんだのでは? と思えるほどの長蛇の列。ホールの1階ロビーが人が通れないほどいっぱいになっていた。新譜の「ラフマニノフのピアノ協奏曲とパガニーニの主題による狂詩曲」のCDを購入して、サインしていただいた。ご本人いわく、写真の顔の部分にサインがかぶってしまうのがイヤなのだそうだ。そして名前のYujaのところにかかってしまったのもご本人が気にして指でぬぐってしまった。うう…。でもよく見ると人差し指の指紋がくっきりと。これは貴重なサインになったのか。ともかく、ニッコリ笑った笑顔がとてもチャーミングなユジャ・ワンさんでした。

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